これも春の兆しなのか。ずいぶんと日が長くなったことを感じる。
たとえば夕暮れ間近にふっと空を仰いだ時など。一番星見いつけたっと。 思わず童心に返ってなんだか嬉しくなって。その時はまだ夕焼けの紅い雲が。 ひと筋もふた筋も重なっていたりしては。そのくせキラキラと夜が始まる時。
落ちていくものをせつなく想いながら。その光る仕草に胸がときめくような。
そうして一日が。そうして何か言葉に出来ないものまでが黄昏ていくのだった。
昨夜寝静まった頃に突然彼が声をあげて驚く。わっと声をあげて私も目を覚ました。 西の窓の障子の向こうがやけに明るくて。なんだか誰かが明かりを照らしているかのよう。 一瞬ふたり身構えてしまう。足音が聞こえてきそうでとても不安な気持ちになった。
「月かな・・」っと彼が言う。「かもね・・」っと応えたもののとても落ち着かなくて。 「おしっこ・・」って彼が言うので。「わたしも・・」っと一緒にトイレに行った。
その間ほんの数分。部屋へ戻ると何ということだろう。障子には不気味なシルエットが。 まるで悪魔の手のような。おっきな毒蜘蛛が窓にへばりついているような恐ろしさで。 とても正視できない有り様。ぶるぶるっと身震いをしながら布団をすっぽり被った。
あれはきっと裏の柿の木。なんでもないただの柿の木を月が照らしているのだから。 そしたら時計が。よして欲しいのに時を知らせて。なんと草木も眠る丑三つ時である。
とにかくなんとしても眠らなくては。楽しいことをいっぱい思い出そうと躍起になる。 それなのに目を閉じると得体の知れない物が。ぶつかるようにして向かってくるのだ。
彼はといえばもう寝息をたてている。一緒に呼吸を整えてみたりしてみたが眠れない。 そうだ牧場の子羊達を呼ぼうと。可愛いのが柵をぴょんと乗り越える場面にしてみたり。 それも100匹ともなるとさすがに疲れて。ああもうめんどくさいって思ったりもする。
そうしてうとうとしながら夢をみていた。何処だろうここは何処だろうと思っていたら。 もう朝だった。かったるくて頭はずしんと重いけれども。さすがに朝は嬉しいものだ。
ふたりで朝食をとりながら「ねえ・・あれ見た?」って恐る恐る訊いてみる。 「柿の木だろ」「月がちょっと動いたからさ」「だから朝が来るんだろうが」
ああうんやっぱそうか。だよねってすごくほっとしたのもつかも間。
満月はいつ?っとついつい調べてしまった私だった。 満月まであと4日あるらしい。だとすると今夜も柿の木お化けが出そうでならない。
月はおぼろで春とする。ならばまだまだ冬らしさかな・・・。
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