Jさんへ。あのね。もうあたりは真っ暗になったけれど。蝉が鳴いているよ。 はんぶんこなんだ。風も空もみんな誰も決め付けたりしないよ。はんぶんこで。
いまはそれがちょうどいいのかもしれないね。
三連休というのを。私もしてみることにした。雨ちょっと降っては曇りな日。
宮尾登美子の『仁淀川』を読み終えて。むしょうにむしょうに書きたいと思う。 自分のこと。だけど10年前にはあった勇気が。いまはくすぼっていて。怖い。 いつかきっとって思うことは容易いけれど。そのいつかがある日突然なくなる。
そんなどうしようもできないことにとらわれては胸がきゅっと締め付けられて。 不安ばかりが襲って来る。わからないこのさき。生きてみなければなにひとつ。
決めることなんて出来ない。いかなくちゃ。とにかく行かなくちゃ。

ゆで卵して。大根を湯掻いて。おっきな土鍋に昆布結んだのを入れて。 おでんを作った。ことこと煮ながらいちばん好きなハンペンを味見しながら。 はあはあもう我慢できなくなって。「ねえ、今日ってなんかの日じゃない?」 彼にそう訊くのは。お盆だとか正月だとか誕生日だとか。そういう特別な日。 私がどうしたいのかすっかりわきまえている彼は。「敬老の日の前祝だろう」
やったあっと私は台所ではしゃいでいる。まだ5時前だというのに晩酌をする。 そして早くお風呂に入りなさいと彼をせかす。はいはいと彼が動き始めると嬉しい。
「どうも、どうもお待たせしましたね」って彼がテーブルにつくと。妻さんは。 もうかなりハイテンションなものだから。土鍋の蓋を開けてにこにこ笑っている。
大相撲を観ながら。あれこれ解説してくれるのは彼の得意とするところで。 へえ、そう、すごいねとか言って。餅巾着を食べる。玉子と蒟蒻を食べる。
まあるい平穏。まあるくすぎて。この身には過分ではないかと思うことさえある。
責めもせず詰りもせず。このひとはどうしてこんなにも私を赦してくれるのだろう。
私の過ちを忘れてはいないだろうに。どんなにか深く傷つけたことだろ・・・。 それなのに。こうして私の居場所をずっとここだと認め続けてくれたというのか。
込みあげてくるものをそっとそっと押し込めながら。 いつだって手を合わせている。拝んでも拝んでもおがみきれない。
彼は。わたしの観音様のようなひとだ。
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