桜は七分咲きくらい。雲ひとつない青空で太陽がきらきら眩しかった。 ああ春なんだなあって。こころがほこほこしてくる。いい気持ちだなあって。
彼と家業の手作業をしながら。ふと懐かしむようにいつかの春のことを話した。 息子君がすごく駄々をこねて。どうしても行きたいと泣き止まなかったことを。 お山の公園へ行きたいのだと言う。ちいさな動物園があってお猿さんのところへ。
何かを買って欲しいとか。どこかへ連れて行って欲しいとか。言ったことがない。 そんな子が初めて見せた泣き顔だったから。なんとかしてあげたいと思う親心だった。
「そうね。お花見に行こう!お猿さんにも会えるよ」そう言って急いでお弁当を作った。
まだ赤ちゃんだったサチコをおんぶして家族四人でお山の公園に行く。 桜が満開でとても綺麗だった。息子君はよほど嬉しかったのかずっとはしゃいで。 おにぎりを頬ばる笑顔。おどけて加藤茶の真似をしたりして笑わせてくれたり。
なんだか昨日のことのようね。語り合っていると目頭がふっと熱くなるのだった。
いくつもの春が。それから何度巡って来たのだろう。それぞれの春を遥かに想った。
作業を終えて帰宅すると。お休みで家に居るはずの息子君が出掛けていた。 いつもゲームばかりしているのに珍しいなって。ちょっと不思議に思っていたところ。
「今日は花見だったんだ!」と帰って来たのでびっくり。でも私は咄嗟に応える。 「やっぱりね。お花見に違いないと思ってたんだよ」言いながらすごく可笑しくなって。 昼間。ふと懐かしく思い出したことが。偶然ではなかったような気がしたのだ。
あの公園は今のままじゃいけないな。手すりも殆どないし、車椅子も押せない。 福祉車両の駐車場もないんだぜ。あんまりだ市長に抗議してやらんといかんな。
ぶつぶつ怒りながらビールをあおっている。今日のお花見は仕事だったのだ。 自分はお休みの日なのに。同僚達の手助けに行っていたらしいのだ・・。
父さんも。母さんも。きみに脱帽です。
あの日泣きじゃくっていたきみは。こんなにおとなになったんだね。
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