その町はアンパンマンの町だった。 酒屋さんの店先に彼はいつも笑顔で立っている。 それからすぐ斜め前のタクシー会社の扉の横に。 仲間のカツドンマンがいるのだ。小さな田舎町。 そこが彼らの生まれ故郷なのを。知っているだろうか?
愛ちゃんは。ついこのまえ88歳になったばかり。 夏風邪をこじらせて。今は病院で点滴の毎日なのだ。
広くんは。9月になったら92歳になる。 愛ちゃんが老人ホームへ入居してからも。 ずっと一人でご飯を作って。頑張っていたけれど。 転んで腰を痛めてしまって。とうとう老人ホームへ。
4年前に会ったきりだった。 その日。愛ちゃんはいっぱい泣いたのだった。 「すぐに帰るのやったら、もう来んとって」と言って。
その言葉を真に受けてなどいなかったはずなのに。 私は。それ以来会いに行くことをしなかった。
愛ちゃんは。すごくちっちゃくなって。か弱くて。 でも。ちゃんと私を覚えていてくれたから。とても嬉しかった。 手を握って。いろんな話しをした。子供の頃の夏休みのこととか。 一緒に寝ていたら。愛ちゃんの入れ歯が外れて、私の手を噛んでしまった。 こととか。愛ちゃんも思い出してくれて。懐かしそうにケラケラと笑った。
それから。急に愛ちゃんが歌をうたいはじめて。 「お〜て〜てつないで の〜みちをいけば み〜んなか〜わい こ〜とりぃ になって う〜たをう〜たえば く〜つがなる」
咳き込んで苦しそうになって。止めたのに最後まで歌い続けるのだった。
私はいっぱいいっぱい反省した。もっとたくさん会いに来てあげるべきだった。 私の4年と。愛ちゃんの4年は。決しておなじ長さではなかったと思う。
老いることは。すごく勇敢に命と向かいあっていくことではないか。 終わることを知りながら。ただただ進んでいく勇気そのものではないか。
愛ちゃんは泣かなかった。
私は ちょっと 泣いた。
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