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2005年04月22日(金) レイヴン   嵬

逢いたいな・・・・・・

ふたりで頬ばった、あの夜明けの中華まんから2週間が過ぎた。
自宅の書斎にこもりっきりになって、わたしは再三催促されている次クールの新ドラのストーリーを練っていた。

今度はどんな話にしよう?
微妙な年齢に達したキャリアウーマンが、年下のカッコイイ男の子に言い寄られて・・・
ああ、ダメダメ!
どっかで見たことあるわ、こんなドラマ。
ってゆうか、前に自分で書いたじゃない『女の膝頭』で。
自分で自分の二番煎じをするようじゃオシマイだわ。

主演は、出れば必ず高視聴率をマークする、あのアイドル俳優。
ワンパターンの演技しかできないけど、カッコよけりゃ何でもいいのよね―――なんてコト、本人の前ではもちろん、誰の前でも言えやしないけど。
ま、わたしの脚本の力じゃないってことくらい、わきまえてますとも。
それにしても、世間はなぜ彼に飽きないのかしら。
世の中にはもっとずーっと素敵な・・・そうよ、ロミオみたいなコだっているのに。
そう、ロミオみたいな・・・。

あれからずーっとロミオのことばかり考えて、ついでにジェニーとのことも考えて、わたしの思考はグルグルと同じところばかり巡っていた。

ああ、もうダメ。
仕事になんて、ちっとも身が入らない。
イライラして落ち着かなくて・・・この妙に浮き足立った気分を静めるには、
どうすればいいかってこと、わたしの本能は知っている。
・・・やっぱり行ってみよう・・・。

一度は捨てかけたロミオの名刺を取り出して、うっとりと眺めた。
あの優しさが、あのとき限りのものだったとしても、どうしても忘れられない。
ロミオの微笑みが。
あったかかった中華まんが。

別にいいよね、お客として行くんだし。
ロミオだって障りがないから名刺をくれたんだろうし?
それに、わたしがドコへ遊びに行こうと、誰に逢おうと、いちいちジェニーに申し上げする必要なんかない訳だし。

何を着ようかな?
ドレスじゃ大仰よね。スーツじゃ堅すぎるかしら・・・う〜ん、ほんとにどうしよう?
連日煮詰まって、ろくにお肌の手入れをしてなかったから、化粧のノリがちょっと悪い。
店に寄る前にネイルサロンへ行って、せめてマニキュアくらいは綺麗に塗っていこう。
あっ、あと美容院でセットもしてもらわなきゃ。
ああ、こんなふうに色めきたった気分になるのは久しぶりだわ。

夜も更け始めた頃、ロミオの勤める店の前にタクシーを横付けした。
ネオンライトのまたたきに、寝不足の眼をしばたたかせながら、料金を払って降り立った時、目の前に長身の男が、まるでナントカ姉妹みたいにゴージャスな出で立ちの女性と抱擁を交わしていた。
「じゃあね、斗矢(とうや)」
風が起きそうなくらいの睫毛をバサバサさせ、赤く染めた悪魔のように長い爪にラインストーンを散りばめた意外にゴツイ指が、斗矢と呼ばれた男にしなを送った。
「気をつけて、マキコさん。また近いうちに」
ハスキーボイス! なんて魅惑的な声色なの。
声だけなら、わたしのロミオよりずっと素敵ね。ロミオ、声はイマイチだから・・・と思っていたところで、その男の顔をまともに見た。

うそぉ――――――――っ!!
すっっっっっっごいカッコイイんですけどっ!
前にテレビで見たホストは、ナンバーワンはそこそこでも、それ以外は「コレのドコがそんなにイイのかしら」と思うくらい勘違い入ってる風貌ばかりで・・・。
だからロミオを見た時もビックリしたけど、この人、なんだかもう別次元から
送られてくるツクリモノというか、CGのようだわ。
ロミオがナルキッソスなら、この男はアポロン。
うしろに数人のイケメンを従えて立つ姿は神々しいほどに美しい。
ここのホストなの?
だとしたら、これがナンバーワンの男?

「いらっしゃいませ」
わたしの視線に気づいたアポロンが、とろけそうなほどの甘い低音で声をかけてきた。
長めの髪は漆黒で、象牙のような額にはらりと落ちている。
その前髪からのぞく切れ長の眼が、ぞくっとするほど色っぽい。
整った顔立ちは綺麗というだけじゃなく、そこはかとない鋭さみたいなものも漂わせ、美しいのに男らしさが際立っている感じだった。

「あ・・・あの・・・」
年甲斐もなく躊躇していると、
「初めての方ですね? どうぞ、こちらです」
とエスコートしてくれた。
あ、この感じ・・・ロミオに似てる。
ううん、きっとロミオがこの人を真似てるのね。
店内に入る途中で、ホストたちの写真が並べられたボードを横目でチェックした。
いた! ナンバー2にロミオ。
でも・・・???
ナンバーワンの写真、この人じゃない。
じゃあいったい何番なの、この人これで?
すると、わたしの疑問を察したかのようにアポロンは微笑んで自己紹介してくれた。

「ようこそ『レイヴン』へ。僕はここのオーナーで、斗矢と申します」


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