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me note diary

2008年07月02日(水) クールダウン

「理性を戻す方法を教えてくれないか」
 それが彼の依頼。
「夢見心地、というのとはまるきり違うんだ。ただ、夢みたいに自分が安定していないのを感じるんだ。身体が熱くなって、ずっと火照ってる。変な考えにとりつかれてそれから逃れられない。なにか口走ってしまい、自分ではっと気づく。そんなときに理性をどうやって取り戻したらいいんだ?」
「ねぇそれは、恋というのではないの?」
 わたしはきわめて冷静に彼に突っ込みを入れてやる。どうもこの友達は、そういうことに疎いような印象を与える。
「恋、なんかじゃないさ。だって誰かのことを考えているわけじゃないんだ。もしもこれが恋なら、ぼくは幻に恋しているっていうのかい。そんなんじゃないよ。誰かを思って夜も眠れない。そんな女子中学生みたいな気分に僕がなっているとでも?」
「まぁそういうことがないとは言えないからね。それに、女子中学生だったころ、わたしはそんな恋をしている気分になることもなく恋をしていたものだったけれどね」
「それは残念だな。僕は男子中学生だったころ、そんな恋をしたことがあるよ」
「え、本当に?」
「本当さ」
 彼は大まじめな顔をしていたので、笑うに笑えず、でも、なんというか、不思議な感じだった。この男がそんなんになったなんて、考えられない。キリンが寝そべって本を読んでいる姿を想像するより難しい。大体キリンが寝そべって本を読んでたら、顔の位置にあるページをめくるのはかなり難しいんじゃないのかな。いや、なんの話だっけ?
「ねぇ僕は理由を聞いてるんじゃない。解消法を聞いているんだけどね」
「酷い死に方を想像するんだよ」
「?」
「ニュースでさ、バラバラ殺人の事件をやっていたりするとさ、すぅっと血が引いていく感じがするんだよ。真夏なのに身震いするくらい寒くなってさ。それと同じ」
「きみはいつもそんなことを考えているの?」
「そんな気分になったときはね。仕方ないじゃないの」
「きみもそんな気分になるの?」
「なるよ。たまにね」
「恋をして?」
「いや、もっと、こう、テンパった感じで」
「ほらね」
「そうだね」
「で、酷い死に方なんて考える」
「一瞬さ」
「病んでるな」
「まぁそういう風に取られかねないか」


「死にたくはないんだよな」
 そう思う。
「でも、死んでもいいやって」
 そう思うこともある。それは別に罰当たりなことじゃなくて、生きているから、仕方ないことなんだと思う。
「それでも、まぁ、酷い死に方はしたくないんだよな」
 同じように辛くても、なぜかそうなんだ。
「なぜだろうね」
「そう難しいことじゃない」
「?」
「酷い死に方をしたひとのことを、ひとが思い出すのは辛いことだからね」
 舞い上がっていたときでも、一気に鳥肌が立ったりするような感情。
「考えないで生きたいよな」
「考えないで生きてるよね」
 冷静になるってことが、そう大切なことじゃないんだと思う。


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管理人:サキ
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