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me note diary

2008年03月13日(木) 赤い糸

「運命の赤い糸、って言うでしょう。あれって、どういう仕組みになっていると思う?」
「またおかしなことを言い出したね。仕組みってなにさ?」
「仕組み。つまりはメカニズムのことだね」


 妙なことを言い出すものだ。メカニズムもなにもない。運命だとか赤い糸だとか、そんなロマンチックな言葉が一気に血も涙もない一本のアルミ線のように聞こえてきた。そうじゃなければ電極につながった赤い導線。あれも考えてみれば不思議なものだな。大抵のドラマの時限爆弾やなんかは、時間のなくなった主人公が焦りと緊張で汗だくになりながら、なんだかわからないけれど赤い方を切って爆発を免れるんだ。赤はなんだっけ?プラス極につながっている?動脈の色。うーん、そう考えれば赤い糸ってのもまんざら当てはまらないわけでもないか。いや、糸と言うには太すぎるか。


「そっちこそおかしな方向に考えているでしょう?わかるんだから。メカニズムと言うのは違和感あるね。でも、仕組み。どう思うの」
「どう思うもこう思うも。つまり、見えもしない比喩の糸で、誰かとつながっているというのが嫌だということ?」
「そうじゃない。そういうことじゃない」
「どうやって赤い糸がつながるのかってこと?」
「どこからその糸は伸びているのかしら?」
「どこから?」
「そう。ねぇ、きみのどこからその糸は伸びて誰かにつながれているのさ」
「そうだねぇ。指切りげんまんの約束の小指。左の小指からじゃないか」


 ぼくにしては精一杯ロマンチックなことを言ったつもり。そういえば、指切りげんまんなんてことば、口にしたのは小学生以来なんじゃないだろうか。かわいらしいことばだ。指切りげんまん、うそ吐いたら針千本飲ます。うーん、かわいらしくもないか。大体げんまんってなんだ。前になにかのテレビでやってた気がする。へぇと思った気がするけれど、忘れてしまった。意味なんてわからなくても指切りはできる。まぁ、しないけど。


「違うな」
「違うの?てか、正解ってあるの?」
「赤い糸に締り殺された恋人たちの話をしっている?」
「なんの話さ?」


 彼女の話はこうだった。


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 昔々、まで遡っても、幸せだった恋人たちというのは、実はアダムとイブしかいませんでした。なぜなら、彼らこそ最初のひとたち。楽園には他のひとなどおらず、楽園の外にも、他の人たちはいませんでした。いるのは神様たちと、神様のつくった動物たち。彼らはふたりだったから、自分のパートナーを見失うことも、間違えることもなかったのです。
 ところが、ご存じ原罪により、人々は増え始めました。男も、女も。彼らはたくさんの人たちの中で、自分のパートナーを見つけなければなりませんでした。それは大変骨の折れること。でも、骨を折ったのは人々ではなく、彼らを統治しようとする神様でした。神様は楽園を廃止してからも、ひとを統治しようとしていたので、たとえば、この人の子供と、この人の子供を掛け合わせて、こういう人を作ってやろう、などと考えていたのです。ちょうどわたしたちがサラブレッドを作り出すような心持ちでいたのです。そのためには、しるしが必要だと感じるようになりました。ちょうどわたしたちが、伝書鳩の足にしるしを巻き付けるように。
 試行錯誤した結果、神様はひとの首に糸を巻き付けて、どこからでもその糸を手繰っていけば、相手のひとに出会えるようにしました。神様にだけ見える糸です。いわば神様の怠惰の結果。けれど、神様も、ひとたちの繁殖力がこんなにも強いとは思っていなかったのでした。
 ひとは増え続け、あふれる人波の中、糸は複雑に絡まり、こごって、パートナーを見つける前に切れてしまうことも、絡まった糸に身動きが出来なくなり、首を絞められて死ぬひとが続出したのです。


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「これで世界の人口が急に減ったのね。世界史的にはペストの流行とつながります」
「・・・・・・うそだろ」
「ほんとうだよ。だから赤い糸は首に巻き付いているの」
「え、おしまい?」
「おしまい」
「締り殺された恋人たちの話は?」
「だから、糸が絡まって」
「じゃなくて、もっと個人的なドラマがあるんじゃ」
「そこんところは想像して」
「丸投げかよ?」
「資料がないもんで」
「そこまで捏造したんなら、その先も作れよ」
「そこは資料が」
「どこに書いてあるのさ?」
「ヒエログリフに」
「ペスト時代は?」
「堅いこと言わないで」


 女の子は大概において、メルヘンチックだけれども、決してロマンチックではないんだってこと。男の子たちは覚えておいた方がいい。


2008年03月10日(月) そのままのきみでいて【セリフ連】

「そのままでいいよ」
 思えばあのころ、そんなことを言ってしまった。わたしはそれを、今更のように後悔する。後悔してしまっている。


 そのままでいいよ。
 きみはきみだから。
 そのままでいいよ。
 きみのそのままをわたしは愛すから。
 そのままでいいよ。
 きみが変わってしまったら、わたしはわたしも変えなきゃならない。
 そのままでいいよ。
 きみがそのままなら、わたしはそれでかまわないから。
 そのままでいいよ。


 結局わたしは怠惰だった。今から思えば結論はそこだ。適応するのが苦手だから、きみを適応させようとするのは愚かだと思っていた。そのままで愛せるなら。そのままで問題が起こらないなら。そのままできみがわたしを受け入れてくれるなら。それ以上は求められない。でないときみはきっと、わたしから去ってしまうから。・・・・・・結局わたしはしくじったのだ。きみをどこにも連れていけず、自分をどうにも解放できず、ふたりで成長するなんて、どこか先に行くなんて、これで未来があるなんて、言えるはずがなかった。でも、それが求められる十分なんだと、本気で信じていた。


 きみが現れたのは、外に出るには少し寒い夜。季節はそこで一年以上止まってしまった。ふたりとも、暖かい場所に留まりたがった。それはふたりとも同じ。正当化するために、そのままでいいのだと、繰り返した。外ではたくさんの不幸なひとたちが、出会って、別れた。季節があった。窓くらい開ければ幸福だったかも。でも、結局不幸だ。わたしが開けた窓から幸福は流れ込み、結局ふたりは不幸を知ってしまったのだから。知ってしまうのだから。


 そのままでいいの?
 もうどこにも行けなくて。
 そのままでいいの?
 ほら、そこに笑っているひとがいるのに。
 そのままでいいの?
 後悔っていつするの?
 そのままでいいの?
 このままじゃイヤだ。


 終わりがないものなんてないって知っていた。でも、この場所がなくなるなんて思わなかった。このままでいられなくなるのなら、わたしは死ぬだろうと思っていた。結局、例外はなかった。それだけだ。このままじゃだめなのだ。
 シェルターなんて、存在しなかった。


 そして誰もいなくなった。片方だけが残るなんて、あり得なかった。



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セリフから連想 No.21「そのままでいいよ」


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管理人:サキ
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