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diary
2007年04月16日(月) 僕の空間
僕は空間を持っている。
誰かの名字を名前に持つビルと、どこかのメーカーの名前を持つビルと、横文字の、門がくるくるした形の鉄でできてるマンションとで囲まれた、一平方メートルくらいの空間だ。ここは誰も知らなくて、僕だけしか知らないところ。だから誰にも教えない。
ここは縦に長い。何十メートルも上に薄青色の空がある。これも僕の空だ。
小さなキンモクセイの木があって、その匂いも僕のものだ。
僕はここに宝物を隠したりする。これももちろん僕のもの。キンモクセイの木の影に置いてある、赤いスコップは僕の宝物だから、誰にも知られない。
そこに小さな白い花が咲いているのを見つけたのはでも、残念ながら僕じゃなくて、僕の家来のてぶくろだ。てぶくろは黒猫で、前足だけ、手袋をはめたみたいに白いんだ。ここは僕とてぶくろの秘密の場所だけど、てぶくろは僕の家来だから、僕だけのものなんだ。
やっとあったかくなってきた三月に、てぶくろがその白い足でぺしぺしして遊んでいた白い花を見つけたのは僕だ。僕は白い花を守ってやった。てぶくろは不満そうだったけど、すぐに忘れて、僕が投げたボールと遊び始めた。白い花は小さくて、丸い花びらで、緑の葉っぱも丸かった。僕はその花の名前を知らなかったから、名前をつけてやった。白雪丸というんだ。
しばらくすると、白雪丸は枯れてしまった。花が散ってしまって、あとには丸くて黄緑色の雌しべだけになってしまった。だから僕は白雪丸を忘れてしまった。だから、白雪丸がそのあと赤く色づいた甘い匂いのする苺の実になって、カラスに食べられてしまったのは僕のせいだ。僕が忘れてしまったから、白雪丸を守れなかった。
カラスが赤い実を見つけたのと、僕が白雪丸を見つけたのは同じタイミングで、でもカラスは飛べるから、僕より先に、白雪丸を食べてしまった。僕は初めて、僕の空間で、僕のものを奪われた。とても悲しかった。
ねぇわかっていると思うけど、このお話はとても悲しいお話なんだ。だからきみは大声を出して泣かなきゃいけないんだ。おとなはにこにこして僕の話を聞くけれど、僕はとても悲しいんだ。なんできみは泣かないんだい?
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サキ
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