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diary
2005年07月26日(火) トランジスタ(デカダン)
「 ど こ へ い っ た ん で す か 」
砂嵐の中、ぼんやりとことばが浮かび上がっている。
「どこへいったんだろう」
ため息をつくように、おなじことばを吐き出してみる。
どこへ―――正直な気持ちだ。僕の気持ち。テレビの気持ち。
そのテレビは、まさにブラウン管と呼ぶに相応しく、旧型の、14インチくらいのそれだった。いつからここにあるのか知らない。誰が置いたのかもわからない。ただ、テレビはそこにあって、僕はそこに居座った。時折砂嵐を映しながら、モノクロの画面を揺らす。歪ませる。少し重たいだろうダイヤルを回せばチャンネルが変えられるはずだが、僕はいまだに、そこに手を触れたことがない。
僕はいまだに、テレビに触れたことがない。
この場所に来てから一ヶ月か、二ヶ月か、三ヶ月、もっと少なかったのかもしれないけど、もっと長く居るかもしれない。わからないけれど、その間中ずっと、僕はその、床に直接置かれたテレビに触れなかった。だから床との間に作られた、立派な蜘蛛の巣も、壊すつもりもない。テレビは揺れながら映り続け、ときに気まぐれに、疲れたように、ぷっつり消える。そうして気がつくとまた、映っている。映し出す人物や風景の奥に薄ぼんやりとしたことばを沈ませる。
「 ど こ へ い っ た ん で す か 」
テレビがだれを、なにを捜しているのかわからない。だれを、なにを待っているのかわからない。ただ、映されすぎたサブリミナルのように、画面に焼きついている。
どこへいったんですか―――わからない。
どこへいったんですか―――答えは出ない。
どこへいったんですか―――だれも答えてくれない。
どこへいったんですか―――僕も答えられない。
どこへいったんですか―――テレビも答えてくれない。
錆びた床、剥がれた天井、僕は誰を待ち、彼は誰を思う。僕は膝を抱えて、ただここで待っている。
「どこへいったんですか。はやく、はやく迎えにきて」
ど こ へ い っ た ん で す か
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デカダンスキーに五十のお題No.03「どこへいったんですか」
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サキ
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