「おかあさん」が帰った - 2008年01月29日(火) 今朝は5時起きで7時の出勤。「おかあさん」が朝早く退院して、お昼の飛行機で日本の病院に移ることになってたから。 だから夕べは、わたしの人生にはほとんどあり得ない11時の就寝。ベッドに入って無理矢理目をつむっていると、日本のインスタントラーメンの匂いが漂ってきた。すっごいいい匂い。いい匂いはだんだん強くなってきて、わたしの脳は「ラーメン食す」をシミュレーションし出したからたまらない。お隣のアーキテクトのお兄さんに違いない。最近ときどき夜中になるとラーメンの匂いがする。お隣のアーキテクトのお兄さんは、仕事のパートナーが日本人の女の子だって前に言ってた。きっとその子からインスタントラーメンを1ダースくらいもらったんだ。「日本の母がたくさん送ってくれたから」って。とかいろいろ考えてると、インスタントラーメンが食べたて食べたくてしかたなくなって、もう眠れなくなってしまった。 飛び起きてキッチンのキャビネットの奥を探す。ずうっと前に父がインスタントラーメンをたくさん送ってきて、「日本の父がたくさん送ってくれたから」ってジェニーとかに分けてあげた。少しだけ自分用に取っておいたけど、ほとんど食べてなかった。もう2年くらい前。 あった。見つけた。「出前一丁しょうゆラーメン」。イタリアン・ミックスベジタブルとカリフォルニアン・ミックスベジタブルを使って、卵もひとつ入れて作る。 作ったけど、お隣から漂って来る匂いに比べるとちっともいい匂いじゃなかった。でも食べた。 美味しくなかった。古くなった麺のステイルな味がして、はっきり言ってめちゃくちゃ不味かった。でも食べた。 そしてますます眠れなくなった。 例の小説の翻訳をすると眠たくなるかなと思ったのに、力が入って結局朝5時まで翻訳をしてしまう。 6時過ぎにうちを出たら外はまだ暗かった。地下鉄を降りたら明るくなってた。早足で病院に向かって自分のオフィスで白衣を着てメインオフィスでサイン・インして急いで「おかあさん」のいる病棟に行ったら、まだえみ子さんは来てなくて「おかあさん」は眠ってた。 「おかあさん」にあげるために持ってきた臙脂色とグレーのリバーシブルのショールを自分のオフィスに忘れてきたことに気づいて取りに行く。戻って来たらえみ子さんがいた。飛行機の中で「おかあさん」の世話をする日本人のナースの人も来てた。 「おかあさん」は先週トレイクが取れた。でもまだ口からごはんは食べられなくて、PEGで非経口栄養を続ける。日本の病院に渡すその処方箋を作って注意書きをいっぱい並べてプリントアウトして、一番最近の血液検査の結果をプリントアウトして、病室に行ったら「おかあさん」が「こんにちわ」って笑顔いっぱいに言ってくれた。トレイクを取ってからもう随分喋れるようになった。 「おかあさんがいなくなったら淋しくなるなあ、あたし」って、ベッドから抱き起こして「おかあさん」を両腕に支たまま言ったら、なんだか涙が出そうになった。 バタバタと退院の準備をして、酸素ボンベやウォーカーやその他の必要な医療器具とおむつとかガーゼとか非経口栄養の缶11個とか、その他もろもろものすごい荷物をトランスポーターとえみ子さんと手分けして運び出す。えみ子さんはだんなさんの車で、ナースと大荷物が「おかあさん」と一緒に救急車に乗って空港に行く。 わたしは救急車の中に入れてもらって、「おかあさん」に最後のごあいさつ。「がんばってね、おかあさん。応援してるからね。うんと頑張って早く元気になって、鎌倉のお家に退院したら遊びに行くからね」。「はい、がんばるよ」っておかあさんは言った。運転手さんに「もう出ますよ」って言われて救急車を降りる。「バイバイ、おかあさん」って毎日言ってたみたいに言う。でも「また明日ね」はなかった。 夕べ寝てないから、うちに帰ったらぐったりして眠ってしまった。10時頃、携帯のリングトーンで目が覚める。ジョスだった。土曜日のタンゴに誘ってくれた。 - Save the last dance for me - 2008年01月25日(金) 着いたらライブ演奏のバンドが準備をしていて、みんなフロアに立っておしゃべりしてた。急いでコートとセーターを脱いでコートラックに掛けて、ブーツと靴下を脱いで椅子に座ってダンスシューズに履き替える。靴のベルトを締めながら、ジョスの姿を見つけた。ジョスもわたしを見つけてくれて、わたしのところにやって来て「ハイ」ってほっぺたにキスしてくれた。ライブバンドの演奏が始まったのに、まだわたしは片足につき3本のベルトを合計6本締めている途中で、ジョスは話していた女の人と踊り始めた。 やっと靴を履き終えて立ち上がったらジョーおじさんがわたしに手を差し出した。曲の途中から入って、ジョーおじさんは相変わらずジョークばっか飛ばすからわたしはゲラゲラ笑いながら踊る。ジョスの居場所を気にしながら。2曲目が終わったとき、ジョスはうんと遠くにいた。ジョーおじさんに「またあとで踊ってね」ってフロアを降りた。隣にフランクがいた。フランクに手を取られてフロアに戻る。わたしはまたいつかのように足を踏まれないように、思いっきりステップを大きく踏みながら踊る。びっくりした。フランクはやっぱり上手い。フロアを大胆に横切りながらパワフルにリードされて、ああ、わたしこの踊り方が好きだったんだ、って夢中になった。また続けて2曲フランクと踊り終えたら、そばにジョスがいた。手を伸ばしてくれるジョスのところに行きたかったのに、「もう一曲彼女と踊っていいかな?」ってフランクは図々しくジョスに聞いた。「もちろん、どうぞ」ってジョスは微笑んで行っちゃった。フランクと踊り始めたわたしはジョスの背中に向かって言う。「ジョス、この次ね」。 いつになったらジョスと踊れるのかなあ今日は、って、わたしの頭にタンゴの音楽とちぐはぐに歌が流れ出す。 So darling, save the last dance for me. So darling, save the last dance for me.... 曲が終わるとすぐに「ありがとう」ってフランクの腕から離れて、わたしは待っているジョスに走り寄って首に飛びつく。「やっとだ!」って言ったらジョスは笑って両腕をわざと大げさにスタートのポジションに挙げた。 こんなに早くダンスに誘ってくれると思わなかった。今週末は娘たちが来る週だからって昨日言ってたばっかりなのに。初めて行ったダンスホールは天井と柱がすごくエキゾティックにデザインされた素敵なところだった。たくさんジョスと踊って、たくさんほかの人とも踊って、朝4時までのパーティだったけどふたりとも明日仕事だから1時には出る。 ジョスはうちまで車で送ってくれて、「ちょっとだけあがってっていいかな」って言った。カモミールのお茶をいれてあげて、アラビックの音楽をかけてふざけて踊る。少しイズラエリが入ってるジョスはアラビックの音楽も好きでベリーダンスも踊れるんだ。途中でアラビックの音楽でタンゴを踊ったりもした。 わたしのアパートはずっと探してたハイシーリングとハードウッドフロアで、ずっとそれを探してたのはうちでダンスを練習したかったから。こんなふうに誰かとここで踊ることなんか予想してなかった。ダンスシューズを履いてないわたしは小さくて、6フィートの背の高いジョスにうんと背伸びして抱きつく。ジョスの腕の中で踊るのが好きだ。ジョスの大きな手が好きだ。ジョスが抱き締めてくれるのが好きだ。ジョスと踊るのが大好きだ。それから。 You can dance every dance with the guy who gave you the eye, let him hold you tight. You can smile every smile for the man who held your hand ’neath the pale moon light. But don't forget who's taking you home and in whose arms you're gonna be So darling, save the last dance for me. 今、この歌がとても好き。 - Thank you for calling - 2008年01月24日(木) 週末出勤の代休。今朝4時まで小説の翻訳して5時にベッドに入ったら、夕方の5時に目が覚めた。12時間寝ちゃったよ。 ポスターのバキュームフォームしに行こうと思ってたのに出来なかったな。足のお医者さん探そうと思ってたのに出来なかったな。新しいダンス・シューズ見に行こうと思ってたのにそれも出来なかったな。と思いながらなんとなくぼーっと過ごして、シャワーを浴びて掃除をして車を動かしに行ってから、何も食べてないことを思い出す。 冷蔵庫開けたら、このあいだジェイソンに作ってあげたホールウィートのパスタの茹でたのが残ってた。どうやって食べようかしばらく考えて、とりあえずプラムトマトを切る。小さいフライパンにオリーブオイルを熱してトマトを炒めて、ベイビークラム缶があったからそれを入れる。一缶全部入れたらなんかクラムの匂いが強すぎて、白ワインとバジルとパセリと黒胡椒をたくさん足した。黄色いディナー皿にホールウィートのパスタをのっけてトマトとベイビークラムのソースをかける。色合いが綺麗。って自己満足しながら、一人の夕食。ひとりで食べるのは味気ないけど、パスタはおいしかった。 ジョズはほんとに電話をくれない人らしい。月曜日の別れ際に「Talk to you soon」って言うから「電話してね」って言ったのにな。どうしようかなあと思いながら、ミス・ロスの言葉を思い出してかけてみた。 新しい仕事が入って2月いっぱい朝8時から夜8時まで毎日仕事なんだって。土日も半日仕事なんだって。あ〜あ。忙しい人キライ。でも、この土日は娘たちが来る週だけど時間が空いたら会えるかもしれないって。電話するよ、ってほんとかな。それから「Thank you for calling」って。 ほら、電話で話しただけでこんなに気分が違う。ふふふな気分でペパーミント・ティーを入れて飲む。ピアノも弾きたい気分だけど、こんな時間じゃもう無理だ。 電話かけてくれたら、今度はわたしの番。「Thank you for calling」って。ココロヲコメテ。 - この場所でゆらゆら - 2008年01月22日(火) 土曜日の朝、昔の恋人に電話する。「だから俺は言っただろ? 3ヶ月も会わないで放っておくなんてのは論外だってさ。彼氏がいるのに淋しい思いをするようなのは健康に悪い。よくない」。ジェイソンのことをそう言った昔の恋人は、新しい出会いが13歳年上ってのに笑ったけど、「俺はそれ賛成。自分をさらけ出してつきあえ」って応援してくれた。 土曜日の夜ジェイソンがやっとコンピュターのメインテナンスに来てくれた。前から欲しかったタンゴのポスターをくれた。バキュームフォームってのをフレームショップで頼んで、フレームなしでベッドの上にの壁に張ることにジェイソンが決めてくれた。あと、ニューヨーク・シティ・バレーの、バスストップのライトボックス・ポスター。これもバキュームフォームにして、これはドレッサーの上の壁に張る。バレーにはあんまり興味はないけど、ニューヨーク・シティ・バレーはアメリカ一のバレー団だって前に観に連れてってくれたデイビッドが言ってた。綺麗なポスターだし、きっと貴重なんだろうな。それから、なんだっけ、チャイニーズのあのエロティックな映画。あのポスターをジェニーにってくれた。ジェニーはチャイニーズが入ってるからチャイニーズ映画のポスター喜びそうだけど、エロティックなのはどうかなって思う。 日曜日の朝、セシリアからの電話で起きる。ジミー・アントンのサルサ・パーティの確認電話。それからまだ眠っているジェイソンの様子を気にしながら、キッチンの窓辺に立ってジョズに電話する。「セシリアをサルサに連れてってあげる約束してたの忘れてたの。9時までだけど、多分最後まではいない。そのあとタンゴに行ける?」「もちろん。じゃあ8時半頃電話してよ。どこで会うかそのとき決めよう」。 迎えに来てくれたセシリアの車にジェイソンも乗ってけてうちまで送る。送り届けたあとセシリアが言った。「ジェイソン、いい人じゃん」。そうだよ。いい人なんだよ。だけど。 ジョズと踊るタンゴはいつでも素敵だ。ほかの人とも踊ればいいのに、ジョズはずっとわたしと踊ってくれてた。パーティが終わる12時少しまえに出て、ジョズのおうちに向かう。「明日は映画観に行こう。観たいのがあるんだ」。映画好きのくせに映画なんてジェイソンは一度も連れてってくれたことない。ふつうのデートっぽいこと、なんにもない。だからジョズのプランが嬉しかった。 ベッドの中でジョズが言う。「僕はきみ以外の子とは寝ない。もしもほかの誰かとセックスするようなことがあったらちゃんときみに言う」「そういう可能性があるの?」「今はないさ」。どういう意味? 変なの。と思ったけど黙ってた。「きみはほかの男と寝てる?」「ううん」「もしそういうことがあったらきみもちゃんと僕に言ってくれよ」「うん」。わたし、ジェイソンと寝たばっか。だって映画には連れてってくれないけど、セックスは会ったときのルーティーンなんだもん。「わたしの新しい友だち、ほんとにタンゴが上手なんだ。すっごく嬉しい」ってジェイソンには言ったけど、ジョズのことほかに何も言ってない。たくさんキスしてくれることもハグしてくれることも。ジョズはわたしをガールフレンドだと思ってくれてるのかな。それもよくわからない。「ねえ、あたしの声大きかった?」ってなんとなく話をそらす。 翌日の月曜日の祝日は、お昼過ぎに起きた。わたしがシャワーを浴びてるあいだにジョズがベーグルとコーヒーを買って来てくれて一緒に食べる。それから改装したばかりの一階のリビングにジョズが使いたい日本風のインテリアをふたりでオンラインでサーチしてたり、ジョズが観たい映画のショータイムを調べたり。映画には一緒に住んでるジョズの息子のジュリアンも連れてくことにした。「映画に行く前にサンドイッチ作ってあげるよ。ターキーとツナ、どっちにする? 夕べターキー食べたから、ツナがいいね」。聞いておきながら自分で決めてるジョズ。「あたしお手伝いするよ」って、ふたりで一緒に作った。 「カイト・ラナー」。ものすごい映画だった。ジョズは泣いてた。「泣いてるの?」って聞くと照れたジョズのほっぺたに、思わずキスした。DVD買いたいくらい、すごくいい映画だった。映画好きのジェイソンに話そうと思った。それからもう一本「アトーンメント」も観た。イギリス映画はいつも絵がきれいだ。これも凄いストーリーでよかったけど、「カイト・ラナー」ほどの凄さには欠けた。 ジュリアンとジョズと3人で並んで、ポップコーンとトティーア・チーズとコークの映画鑑賞必須ジャンクアイテムをほおばりながら、それがすごく楽しかった。ジュリアンは相変わらずシャイだけど、ドアを開けて待っててくれたりコートを持ってくれたり席に座るときも必ず先に行かせてくれたりの紳士ぶりはパパゆずりだなって思う。シャイなのに、わたしが帰るときには「グンナイ」って大きなハグをくれた。そしてジョズはうちまで車で送ってくれた。 素敵なロング・ウイークエンド。 なんとなく、これでいいのかなとか思ってしまったけど。 今日仕事中メールをチェックしたら、バネッサから短いメールが来てた。 wise words: Do not ask the Lord to guide your footsteps, if you are not willing to move your feet. -Anonymous- もしも自分が前に進む気持ちになれないのなら、あえてそうすることを神に導いてくれるように求めないこと。 この場所で少しゆらゆらしていよう。ジェイソンには何も言わずに、ジョズの心地いい腕の中で甘えていよう、今は。 ...I think I deserve it now. - move on, be still - 2008年01月18日(金) 「おかあさん」の帰国は29日に延びた。ちょっと嬉しかったりして。だって、帰っちゃうとなんだか淋しくなりそうだから。えみ子さんはまだずっと体調悪いみたいで、昨日と今日はだんなさんが病院に来てた。「おかあさん」は順調に経過が進んでて、月曜日にはトレイクがはずせそう。週末の間、サクションしないで自分の力で痰を吐き出すのをやってみる。上手く出来るようになれば、トレイクがはずせる。そしたらもう一度嚥下テストをして、もしかしたら経口栄養も出来るようになるかもしれない。帰国するまでにそうなればいい。インターネットでチェックした限り、日本の嚥下治療はかなり遅れているみたいだったから。リハビリもこっちみたいにちゃんとしてないって聞いたけど、いい病院が見つかってものすごく無理して受け入れてもらったみたいで、よかった。 ジョズは、明日一番下の娘のバーミツヴァ。女の子だからバッミツヴァか。女の子には違う言葉を使うって知らなかった。準備に大忙しで、今週は一緒にタンゴ踊りに行けなかった。「まるで結婚式の準備だよ。」って、今日電話したら言ってた。自分からかけたのは、ナースのミス・ロスに言われたから。「電話くれないの」「だったら自分からかけなよ」「だって忙しいなら邪魔したくないもん」。多分ジョズは毎日電話したりするような人じゃないみたいで、わたしは毎日電話かけて欲しいのになって思ってた。まだそういう時期じゃないの? とか、高校生みたいなこと思ったり。「かけなって。あんたが思ってるってこと示してあげなきゃ」。 で、かけた。ヴォイスメールになってたら、「どうしてるかなと思って。明日のバッミツヴァ、上手く行きますように。それからいい週末過ごしてね」ってだけメッセージ残そうと思ってた。そしたら「ハロー」って生の声が聞こえた。 「月曜日、オフ?」って聞いてくれた。月曜日は祝日でお休み。何の日だっけ。マーティン・ルーサー・キング・デーだっけ。ジョズもオフだって。だから日曜日のタンゴに誘ってくれた。日曜日はジミー・アントンのサルサパーティに連れてってってセシリアに頼まれてたことすっかり忘れて、OKしてしまった。ジミー・アントンは9時までだし、タンゴは多分遅い時間までやってるからいいか。「電話くれてありがとう」って言ってくれた。かけてよかったよ、ミス・ロス。 それからジェイソンに電話する。コンピューターの修理。明日の夜か日曜日の夜にこのわりと近くのクライアントのところに行くから、もしかしたらその帰りに行けるかもしれないってジェイソンは言った。日曜日はダメだよ。でも言わなかった。「電話しようと思ってたんだよ」って、そればっか。明日のお昼に電話するって言ってたけど、またどうせわかんない。 「move on, be still」。いつかの教会の、パスター・ピートの言葉。そんな難しいこと、出来るのかなって思いながら聞いてた。出来るのかな。まだわからない。でもなんとなく分かりかけてる。 包むように大事にしてくれて、歩くときに肩を抱いてくれて手をつないでくれて、たくさんハグしてくれてキスしてくれて、「僕たちは友だちだよ」なんて言わないでいてくれるジョズ。それだけで still になれる。もう少し電話くれたらいいのになって思うけど。 わたしはひとりで move on 出来ない。だからジーザスにお願いしよう。今夜はバッミツヴァの前日で、ジョズはシナゴーグに行くって言ってた。だからわたしもお祈りしよう。神さまはひとつ。ただ信じる方法が違うだけ。そう言ってくれた人。わたしとおんなじ考え方に安心した。もうジューイッシュの人はこりごりって思ってたけど。 ジェイソンにジョズのことは何にも言ってない。ニューイヤーズ・パーティですごくタンゴの上手な人と出会ったことと、その人とならフランクとより上手に踊れたことと、三日後にタンゴに誘ってくれて一緒にごはん食べたことは話した。それだけ。そのあとジェイソンには会ってないし、「何か変わったことあった?」って電話で聞かれても「何も」って淡々と答えてる。でも、話したってきっと全然気にしないんだろうな。そう思う。 - 「おかあさん」 - 2008年01月14日(月) 「おかあさん」が、来週の火曜日に日本の病院に移ることになった。ICUで患者さん診てるわたしの携帯に、えみ子さんから電話がかかった。 「おかあさん」はニューヨークに住む娘のえみ子さんに会いに日本から訪れて、くも膜下出血で倒れて手術を受けて入院している。手術が9月。10月にうちのTBI病棟に移って来た。それはたまたまわたしの担当の病棟で、日本人のわたしがそこにいることにえみ子さんはとても安心してくれ、喜んでくれた。毎日欠かさずえみ子さんはおかあさんの看病をしに病院に来ている。来たときにはおかあさんは意識も反応も殆どなかった。今でもトレイクはつけたままでPEGチューブで非経口栄養を採ってるけれども、少しずつ声を出せるようになった。反応がほとんどないときからわたしはえみ子さんのおかあさんを「おかあさん」と呼んで話しかけ、そのうち病棟のスタッフたちも日本語で「オカーサン」と呼ぶようになった。そのおかあさんが、やっと日本の病院に移れることになったのだ。 「おかあさん」のことをずっと日記に書きたかった。おかあさんの毎日の変化をえみ子さんのために書き留めたかった。出来なかったのが今でも残念だけど、毎日泣いたり笑ったりしたえみ子さんのことは今でもひとつずつわたしの頭に記憶されている。 クリスマスが終わったある日、「おかあさん、おかあさんが元気になって鎌倉に戻ったら、あたしおかあさんい会いに鎌倉に行きたい」って、まだちゃんと声を出せないおかあさんにそう言ったら、トレイクをつけた喉からおかあさんが嬉しそうに「いらっしゃいよ」って大きな声を出してびっくりした。涙が出るほど嬉しかった。 ほんとにおかあさんに会いに鎌倉に行きたい。いつか。うん、もうすぐ。 えみ子さんはおかあさんの帰国の準備で大忙しだ。今までの疲れがどっと出て、ごはんも食べられないって言ってた。えみ子さんはおかあさんと一緒に日本に行って、2週間日本で過ごすことになっている。まだまだ大変だよ、えみ子さん。でも頑張ってほしい。おかあさん、きっと元に戻るから。 わたしは嚥下障害の日本語サイトを探して、資料をダウンロードしてコピーした。明日えみ子さんに渡すために。このところICUが超忙しくてTBI病棟になかなか行けず、えみ子さんにしばらく会っていない。 今日は雪が積もるはずだったけど、雨になった。明日は雪が降るみたい。タンゴ踊りに行きたいな。ジョズに電話してみようかな、夕方。 - 恋愛のルール - 2008年01月13日(日) 恋に落ちたなんて、ジェニーに言えなかった。 今日の教会のお話はなんと「sex & intimacy」。教会が終わってチャイニーズのディムサムでお昼を食べながら、ジェニーが言った。「あんた今日遅刻しなかった? 最初からいた? 今日のお話はあんたのためのようなもんだってあたしずっと思ってたよ」。 恋愛のルール。1.知る 2.信用する 3.信頼する 4.献身する 5.触れ合う その順番でひとつずつ進めていくんだってさ。それでそれぞれの割合は1から5に向かって小さいんだってさ。つまり棒グラフにすると1が一番高くて5が一番低い。「え? いっぺんにじゃないの?」「バカ、いっぺんにじゃないよ。まず相手をよく知って、知った上で信用して、それが信頼に変わって、信頼出来た上で献身するの。セックスはそれから。あんた自分の都合のいいように解釈するんじゃないよ」。ジェニーはあきれ顔で笑う。そうだっけ。 「ほら、あたし言ったでしょ、昨日? よく知らなきゃだめってさ。あたし正しいこと言ったんじゃん」。 うん。でもさ、知るって難しい。私の棒グラフは1から順番に高くなってるみたいだ。それで順番はバラバラ。しかも順番がころころ変わる。だめだ。 昨日のタンゴパーティーは最高だった。ジョズは弟と息子のジュリアンを連れて来てわたしを紹介してくれて、友だちのバースデーパーティに行ってた一番上の娘のジョーディスもあとから現れた。18とは思えない大人びた女の子だった。 ジョズはわたしより13歳も年上で、離婚歴2回。それぞれの結婚から合計4人の子供がいる。ジョズの弟はなんて名前だっけ? クロードだっけ? とてもおもしろくていい人だった。シャイなジュリアンもジョズに強制されて習い始めたばっかのタンゴをわたしと踊った。ふたりともわたしにとても好意を持ってくれたと思う。ジョーディスはわかんない。あの年頃の女の子は難しいし、大好きなパパの彼女として値踏みされてるような気がした。ものすごく美人だからなおさらこわかった。 ジョズはずっとわたしを、とても優しく、いつものように極上に扱ってくれた。タンゴを踊るときも弟や子供たちの前でも。タンゴ友だちにもわたしを紹介してくれた。わたしは、あのなつかしいロシア系さんにも会ったし、最近タンゴ始めたサルサ友だちのリーもいたし、ほかにもタンゴ友だちが何人かいて踊ったのに、なんか照れてジョズを紹介出来なかった。 まだあんまりたくさん知らない。当たり前だ。ニューイヤーズ・イヴ・パーティで会ったばっかだもの。だけどそれから3回会って、たくさん話をして、深く知り得たこともある。そしてケミストリーを感じてる。そういえば今日の教会のお話の中にケミストリーなんか出て来なかったな。ルールに入ってないのかな。わたしとしては、「0.ケミストリー」を「1.知る」の前に入れたいけど。 昨日は恋に落ちたと思った。 今は落ち着いてる。もっと知りたいと思ってる。ちょっとこわい気もする。13歳も年上の人とも、子供がいる人とも、つき合ったことなんかないから。 ジェイソンは週末のうちにコンピューターのメインテナンスをしに来てくれることにいなってたのに、電話もかかって来なかった。 壊したのはわたし。多分。そしてジェイソンはわたしのことをもうどうでもいいと思ってる。多分。もうずっと前に壊れかかってた。多分。 クリスマスにあんなに素敵なプレゼントをくれたのに、それが悲しい。 - 恋に落ちて - 2008年01月12日(土) どうしよう。恋に落ちたみたいだ、わたし。こんなふうに胸が苦しくなるなんて。 明日ジェニーに話そう。 今日出掛ける前にジェニーと電話で話したんだ。 「いい? 急いじゃだめだよ」 「うん」 「よく相手のことを知らなくちゃ」 「うん」 「あんたはすぐに突っ走るんだからさ」 「うん」 「ちゃんと愛してくれて、極上に扱ってくれて、寂しい思いなんかさせないでいてくれる人でなきゃ」 「うん」 「うんと大事にしてくれて、あんたを本当に幸せにしてくれる人じゃなきゃ、だめ」 「うん」 「うん、うん、ってさ、ただ言ってるだけじゃないの? わかってんのかなあ」。 わかってる。 わかってるけどさ、 もう幸せかもしれない。 -
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