天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

求めない愛 - 2003年06月30日(月)

うちに帰って一番にメールをチェックする。
コンピューターがランするあいだももどかしかった。
来てた。

「なんで僕がきみのこと怒らなきゃいけないの?」
って件名見ただけで、涙が出そうになった。

「おい。いったい何言ってるんだよ、おバカさん。
 忙しくて、その上携帯の電池が切れたまんまで、
 昨日は一日携帯を使えなかったんだよ。
 もう完全に充電出来たから」

だっておうちの電話にもかけたけど取ってくれなかったじゃん、ってちょっと思ったけど、ベッドの上にスライディングして飛び込んで、嬉しくてひとりでクスクス笑った。

ベリーダンシングのクラスに遅れそうだったから、慌てて着替えて返事を送らないでコンピューターをオフにした。

地下鉄の駅まで急いで歩いてる途中で携帯が鳴った。
デイビッドだった。
自転車に乗って河沿いの道を、今日初めてうんと北に向かって走ってるとこって言った。「気持ちがいいよ、ものすごく。それできみに電話した」。いつものように楽しいおしゃべりたくさんくれたけど、自転車に乗ってるせいか、声がときどき風にかき消させてるみたいで聞き取りにくかった。メールを読んだことは言わなかった。「あたしはベリーダンスのクラスに行く途中なの。これから地下鉄に乗るところ」。そう言ったら「頑張っておいで」って言ってくれて、「夜電話するね」って言って切った。

そんな時間に電話をくれたのは初めてだった。わたしの仕事が終わる時間をデイビッドは知ってるから、それに合わせてかけてくれたんだって思った。


夜、電話しなかった。なんとなく、しなかった。
わたしのことを怒ってると思った理由を、忙しいのにしょうもないことお願いしちゃったからって書いて、今日は電話ありがとうって書いて、バカな子でごめんなさいって謝ってメールを送った。返事は来なかった。

デイビッドがメールも電話もくれたこと、カダーに電話して言おうと思ったけど、それもなんとなくしなかった。

あの人に電話した。
相変わらず時間がなくて、あんまり話せない。
「明日もかけて。明日はデュランデュランの CD のこと話してあげる」。
あの人はそう言って電話越しのキスをくれる。


天使の愛。永遠の友だちの愛。
求めなければ愛はこんなにも穏やかで優しくてあたたかくて、

だからデイビッドにも求めない愛をあげよう。
求めないで、愛を素直に受け止めよう。

そうすればきっと苦しい愛にはならない。
苦しい愛はもういらない。





-

赤い嘘と白い嘘 - 2003年06月29日(日)

何度かけてもデイビッドは電話を取ってくれなかった。
メールであることをお願いして、それだけやってくれて送り返してくれたけど、メッセージはなかったしやっぱり電話は取ってくれなかった。怒ってるのかなって思った。土曜日にカダーんちにいたこと。それともメールでめんどうなお願いしちゃったこと。

「なんで電話取ってくれないの?
 なんでかけてくれないの?
 わたしのこと怒ってるの?
 ねえ、話したいよ」

そう書いてメールを送ったけど、やっぱり電話はかかって来なかった。

すごく不安になってカダーに電話した。
「大丈夫だよ。ちょっと待っててごらん。かけてくれるから」。
そう言ってくれてから、
「男はすぐ嫉妬するからさ。ほかの男の前でベリーダンス踊って見せただけで簡単に妬くんだよ」って言う。「もしあなたのガールフレンドがほかの男のアパートにいてベリーダンシングしたら、怒る?」って聞いたら「めちゃくちゃ頭に来てお尻蹴飛ばしてやるな」って言った。それから、「なんで嘘つかなかったんだよ」って言った。

「ねえ、話してて」。切りたくなくてそう言ったら、「何言ってんのさ。話してるじゃん」って笑う。「切らないでって意味だよ」「切らないよ」。

あの頃はこんなふうに優しくなかった気がする。携帯の電池が切れるまで、たくさんおしゃべりしてくれた。「デイビッドがもうあたしのこと嫌いになったら、あなたがあたしをガールフレンドにしてくれる?」ってふざけて聞いたら、「僕は今ゲイになりたい。女の子はもういいよ」ってカダーは笑った。カダーの携帯の電池が切れそうになって、カダーは「マジェッドに話し相手してもらいな」って言った。それからわたしはマジェッドに電話した。

マジェッドは今、カダーのアパートに住んでる。ルームメイトが自分の国に帰ったあと、マジェッドがそこに引っ越して来た。

ものすごく久しぶりだった。
「カダーがさ、きみにデートの相手が出来たって話してくれたよ。上手く行ってるんじゃん」。マジェッドがデイビッドのことをカダーより先に知ってたことは、カダーは知らない。カダーとおしゃべりしてたの聞いてたマジェッドは、「平気だよ。明日になれば電話くれるって」って言ってくれた。


マジェッドの病気のことを、カダーはとても心配してる。悲しんでる。怯えてる。
わたしは先週、MS の患者さんを診た。マジェッドより20歳年が上のその女の人は、もう笑えないでしゃべられないで食べられないで、経管栄養で生きてる。メディカルレコードには彼女が MS を診断された年が20年前になってた。今のマジェッドと同じ歳のときだ。それを見たとき、彼女を診たとき、頭がクラクラした。心臓がドキドキして胸が苦しかった。

土曜日にカダーは、マジェッドに今を思いっきり楽しんで欲しいって言ってた。
「女の子を片っ端からファックしまくれよって言ってやってるんだ」って。
「それが人生を楽しむ方法なの? あなたってほんっとそれしかない」ってわたしはわざと呆れた顔して見せて、カダーは大笑いしたけど、マジェッドに幸せな今を生きて欲しいってわたしもほんとにそう思う。

それから、マジェッドのためにももっとたくさんお祈りしようと思った。


「ねえ、カダーが前より電話をくれて、ときどき会ってくれるの知ってた?」。
そう聞いたらマジェッドは「知ってたよ」って笑った。「あたし、デイビッドを今とても好きなんだ。でもカダーのこともやっぱり大好き。もう大事な友だちでいられるんだよ」。ガールフレンドになれなくてもずっとカダーの大事な友だちでいたいっていつもマジェッドに言ってたから。「うん、友だちが一番だよ」ってマジェッドは言った。

「You will always be my good friend」
マジェッドがバースデーにくれたカードを、わたしはまだちゃんと机の上に飾ってる。


去年の夏のビーチのことをマジェッドはとてもなつかしんでて、カダーはわたしに今年もプランしろって言った。「だめだよ。デイビッドがまた妬くじゃん」って言ったら「バカ、黙ってろよ。きみが嘘が嫌いなのは知ってるけどさ、嘘にはね、赤い嘘と白い嘘があるんだよ」って言われた。


わたしは上手に嘘がつけない。っていうより、赤い嘘と白い嘘がわからない。
明日になったら、デイビッドは電話をくれますように。
どうか突然消えたりしないで。


-

グリーンカード - 2003年06月28日(土)

カダーが電話をくれた。
貸してあげてたベリーダンスに使うアラビックの CD を返してもらいに取りに行った。
このあいだのクラスで、音楽に合わせて練習してくるようにって宿題が出たから。


今日は教会で「sexuality」のセミナーが一日あって、めちゃくちゃくたびれてた。
ゲスト・レクチャラーのパスター・サイはものすごく悲惨な過去の持ち主で、でも今はとても幸せに生きている。

昨日からわたしの中で何かがクラッシュしたような気分だった。今日、それはもとには戻らなかったけど、クラッシュの残骸がきれいに掃き出されて真新しい別のものがリプレイスされたと思えた。

セミナーはまる一日で、明日もミサが終わってから続きがある。
お話にのめり込んでめちゃくちゃくたびれてたけど、カダーが電話をくれて、CD がどうしても要ったし、そのままうちでぼーっとするのがヤだから行った。


10時半頃デイビッドが電話をくれた。
「どこにいるの?」って聞くから、前に住んでたところの友だちのとこって答えた。
「友だち」の名前を聞かれた。デイビッドはいつも名前を聞く。男か女か知りたいからかなって思う。わたしは正直にカダーの名前を言って、貸してあげてたベリーダンスの CD が要るから返してもらいに来たこと話した。「カダー」が英語じゃない名前だから、どこの国の人なのかなんて聞く。それも正直に答えた。木曜日に会ったとき、名前は言わないけどカダーのことを話してた。「Am I your girl for sex?」って聞いたときに「なんでそんなこと聞くの?」って言われたから。だから一緒にいるのが、ex-ボーイフレンドとも呼べないその相手だって、きっとデイビッドはわかった。

「何してるの?」
「その CD 一緒に聴いてる」
「もしかしてベリーダンス踊って見せてる?」
「ちょっとだけね」
「ベリーダンスのコスチューム着てたりして」
「そんなもん着てないよう。ミドルイースタンの人でしょ、本物のベリーダンシング知ってるからチェックされてるの」。

そこまで言ったら突然「バイ」って切られた。びっくりしてかけ直したけど取ってくれなくて、「どうしよ。取ってくれないの」ってカダーに言う。「妬いたんだよ。も一度かけな、早く」って言われた。あわててかけたら今度は取ってくれた。ごめん、ナターシャによその犬が近づいて来て慌てたから、ってデイビッドは言った。ほっとした。それから普通におしゃべりして、「友だちに失礼だよ、切ったほうがいいよ」って言うから「いいのいいの」っておしゃべり続けてた。切るとき「また明日ね」って言ってくれた。「うん。明日はあたしがかける」って切った。嬉しかった。


カダーに、木曜日にデイビッドと話したことを話したら、「きみにやりたいことをやってて欲しいなんて、自分がそうしたいからだよ」とか「ほかに女がいるんじゃないの」とか「セックスだけの相手だよ、多分」とか言われた。なのに「彼はきみのことが好きなんだと思うよ」って言ってみたり、わかんない。わたしがデイビッドが好きでデートの相手が出来たことをカダーは嬉しいって言ってくれたりもした。

「ボーイフレンドになって欲しいの?」
「なって欲しい。あたし、普通のボーイフレンドが欲しい」
「じゃあなんで浮気するのさ。僕とこんなふうに会っちゃいけないじゃん」。

そんなまともなこと言うから、驚いた。
カダーはやっぱりほんとは愛情の深い人で、愛する人が出来たらその人をとても大切にするんだと思った。「結婚したら僕は浮気なんか絶対しない」ってカダーは言った。「奥さんをひとりだけずっと愛す?」「愛すよ。もちろん」。すごく真面目な顔して答える。なんだか嬉しかった。


カダーは見せたいものがあるって見せてくれた。
カダーったら、グリーンカードのロッテリー当たっちゃった。
嬉しくて嬉しくて、飛びついて喜んだ。
会ったときに一番に話してくれないで、「なんで言ってくれなかったの?」って言ったら「今言ってるじゃん」って相変わらずそんなで、でも嬉しそうだった。
もうこれでカダーは心配しなくていい。この国にずっといられる。

「きみがお祈りしてくれてるおかげだよ」
「そうだよ。あなたの将来のこと、一番たくさんお祈りしてるの。ね、お祈りすれば叶うんだよ」
「知ってるよ」
「ほかにも叶ったことがあるんだよ。あたしね、あなたと永遠の友だちでいられることずっとお祈りしてたの。ねえ、あたしたち永遠に友だち? 違う?」
「永遠に友だちだよ」。

それから「『友だち』を祈ったの?」ってカダーは聞いた。「そう」って答えた。
ほんとは愛も祈った。永遠の友だちの愛。でもそれは言わなかった。カダーはそんな愛の意味を知らない。だけどいつかそれを知ってくれる。

わたしは今日、いつもよりまだおしゃべりで、カダーが「しゃべりすぎ」ってわたしの口を塞いだほど。

嬉しかった。いろんなこと。
嬉しかった。カダーにわたしのデイビッドへの気持ちを話せたこと。
嬉しかった。永遠の友だちの愛を確かめられたこと。
嬉しかった。カダーのグリーンカード。

嬉しかった。カダーのグリーンカード。



-

少しだけ cracked - 2003年06月27日(金)

泣きそうな一日だった。
仕事が大変でお昼ごはんも食べられないで、ミーティングでラヒラとケンカして頭に来て頭に来て、泣きそうだった。夕方ロジャーが心配してフロアに見に来てくれたけど、あの病院辞めたいって初めて思った。初めて・・・じゃないか。でも今日はほんとにそう思った。

終わってからデイビッドに電話した。
元気出そうと思ったのにダメで、デイビッドは心配してくれた。

アンナんちのバイブルの勉強会もさぼっちゃった。
うちに帰って少し眠って、頑張ってサンドイッチ作って食べて、
サーモのマグにコーヒー入れて携帯持って公園に行った。

ひとりベンチに座って大好きな橋の灯りと河を見ながら、熱いコーヒー飲んで風に吹かれてた。
「あとでまた電話しておいで」ってデイビッドが言ってくれてたから、かけた。
いっぱい笑わせてくれた。
「さっきはごめんね」って謝ったら、ごめんなんて言わなくていい、言うんじゃない、って。
今夜は風が涼しくて、「きみが住んでた街みたいだろ?」ってデイビッドが言った。
なつかしくなった。少しだけ帰りたくなった。違う。行きたくなった。

カダーにも電話した。
ディーナにも電話したくなった。ID が似てるから間違えてディディーにかけちゃった。
「間違えちゃった」って大笑いしたら、「僕にかけてくれたんじゃないの?」ってディディーも笑って、ちょっとおしゃべりしてから「じゃあ、正しい相手にかけるから」って切った。
ディーナはいなかった。ずっとディーナに会ってない。ボイスメールの声聞いたら、なつかしくてほっとした。メッセージ残したけど、でもまだ今は怖くて会いたくない。

ベンチに座ったまま、神さまを呼んだ。神さまに話した。神さまに聞いた。神さまにお願いした。お祈りした。公園のトラックの灯りが消えるまで。

うちに帰ったら、また携帯が鳴る。
いつもみたいにわたしはたくさんおしゃべり出来なかったけど、いつもみたいにデイビッドのおしゃべりにたくさん笑った。「元気になったね」って言ってくれた。


昨日。
ふたりのことをちゃんと話せるかもしれないって思ってたのに、デイビッドはなにも言わなかったし聞かなかった。デイビッドに、わたしもやっぱり聞かなかった。
聞けないで、でも恋愛関係みたいなことについて話してた。
なんでそんな話になったんだっけ。肝心なところをいつも覚えてない。

少し悲しかった言葉だけ断片的に覚えてる。
「シリアスな関係よりこういうほうがリスクが少なくてよくない?」とか
「きみは3人目の旦那を探してるの?」とか
「きみにもし3人ボーイフレンドがいたって、僕はいやじゃないよ」とか。
「いやじゃないの?」って聞いたら、「いやだけど、きみがそうしたいのならそうすればいい。僕はきみにきみがしたいことをしていて欲しいから」って言ってた。

「僕といて楽しい?」
「楽しいよ」
「じゃあ、それでいい。きみが楽しければ。僕は楽しいよ、とても」。

「Am I your girl only for sex?」
聞きたいことをはっきり聞けずに、バカなこと聞いた。

そんなことあり得ないってデイビッドは言った。
そう。そんなことあり得ない。わたしにだって。だけどカダーがそういうこと言ってから、バカみたいにそればっかり気にしてる。

「Am I your boy only for sex?」。

聞き返された。「違うよ。だってあなたは boy じゃないもん」ってふざけたら、man に直してもう一度デイビッドは聞いた。

そんなことあるわけない。あるわけない。あるわけないのに。
わたしがバカなこと聞いちゃったから。

わたしはただ、いったいふたりが何なのか知りたかっただけ。
「Do you have a boyfriend?」って聞かれたら、デイビッドのことを「Yes」って答えたいだけ。ハンサム・ドクターのときもカダーのこともそう答えられなくて、そういうのがもう悲しいから。何て答えたらいいのかわかんないのが淋しいから。

でもやっぱりわからないまんま。


白いカプリをとても素敵だって言ってくれた。
嫌いにならずにすんだ。だからもういい。

もう一度、神さまに話してみよう。
明日になったら忘れられる。


-

白いカプリ - 2003年06月25日(水)

明日は97°F まで上がるらしい。
マンハッタンは100°F を越えるらしい。

何着てこうかなって、さっきから考えてる。
白いカプリはわたしには少しだけ丈が長くて、なんだかカプリじゃないみたい。


明日は特別な日になりそうな、そんな気がする。


デイビッドが、
「ガールフレンドが欲しくなったな。きみはボーイフレンドがいるの?」
なんてメールを送って来た。それはジョークのやり取りの合間に届いたメールだったけど、わたしは真面目に返事を送ってしまった。

「わたしにボーイフレンドがいるかって?????
 ?????
 いないよ、もちろん。あなたがボーイフレンドじゃないのなら」。

ああ、バカなこと書いちゃった、って後悔したけど、
そっからまたジョークに戻った。だからかき消されてしまったかもしれない。
それでいいやって思いながら、でもちょっとドキドキしてる。
怖くてドキドキしてる。


悲しい日になっても、嬉しい日になっても、
特別な日になりそうだからブランニューのお洋服を着てこうなんて思ってる。
出来れば、白いカプリを嫌いになりたくない。そう思ってる。


それとも
やっぱりまだお預けですか? 神さま。



-

永遠の命 - 2003年06月23日(月)

ブルースと一緒にわたしの車を病院の駐車場までピックしに行く。
ブルースは自分のメカニックにいいボディショップを紹介してもらってくれてて、それからそこへ連れてってくれた。

昨日までのお天気が嘘みたいに、今日は快晴。空はあの街みたいに青く抜けてないけど、ここではこれが快晴。ネチネチの夏がやって来た。

ボディショップのおじさんは、外に反り曲がってるドアを手でバンッて内側に叩くように引っ張る。3回それをやったら、ドアはもとに戻った。わたしは口をあんぐり開けて、ブルースはおもしろそうに笑った。

ドアのロックは壊されてないけど、窓の下の部分が壊されて大きなギャップが出来てる。おじさんはそれをちゃんと直すためにはドアを付け替えなきゃいけないって言った。このままじゃいくらでもブレイクインされる。中古のドアを使っても500ドルかかるって。わたしのオンボロ車にドアを付け替える価値なんかない。ブルースも「今決めなくていいよ」って言ってくれて、取りあえず部品やさんでグルーを買って応急処置をすることにした。

部品やさんに行く前に、ブルースは自分の車のオイルチェンジをしたいからって、ブルースのメカニックに寄る。そこでブルースがわたしの車のドアを見せたら、ブルースのメカニックはギャップの出来た2枚のドアを力ずくでぎゅうっと手で合わせたと思ったら、剥がれたゴムを合わせたところに伸ばしてくっつけた。ギャップはなくなった。ドアを閉めてもどこにも隙間がなくなった。今度はブルースがあんぐり口を開けて、わたしは「すごい」」って笑った。

修理おしまい。修理代ゼロ。完ぺきじゃないけど、そんなの取りあえず、いい。
わたしはステアリングに付けるクラブを買うことにして、ブルースはそのまま車をメカニックに置いて、おなかが空いたって言うブルースとお昼ごはんを食べにわたしの車で行った。

お天気がよくて気持ちよかった。車が直って嬉しかった。
「あなたのおかげだから」って、いいって言うブルースにお昼ごはんをごちそうした。
「神さまが助けてくれたんだよ」ってブルースがブルースらしいことを言った。

ほら。なんでもなかった。お箸でウィッシュ・ボーンの真似をしたら、わたしが勝った。「今日はきみのラッキーデーだ」ってブルースが言った。



ゆうべ、11頃半にカダーが電話して来て、うちに来るって言った。
今日は疲れててもう寝るからやだって何度も言ったのに、「僕が会いたいって言ってるのにきみは冷たい」ってカダーは怒る。どんなに言ったって、カダーは聞くような人じゃない。「あと5分で着くからね」って来ちゃった。

カダーは前よりよく笑うようになった。
前よりたくさんキスをくれて、前よりたくさんハグをくれて、前よりハッピーなカダーが嬉しかった。だけど抱かれたくなかった。「なんで?」ってカダーは聞く。「あなたはここにあたしをファックしたくて来るんでしょ? あたしをファックしたいだけなんてやだ」。そう言ったら、「もう一回言ってよ。きみがそれ言うとセクシーだからさ」って笑う。

「触ってよ」って言うから「だめ。あなたってほんとにわがままなんだから」って言ったら、「僕がわがまま? あれもいや、これもいやって言ってるのはきみだろ?」ってカダーは笑う。

「なんでよ。もう寝たいって言ってるのにあなたは来るって言って、うちに入れてあげたじゃない。それになんにもしないでよって言ったのに抱きたいって言うじゃない。それに」「Shut up」「shut up ってなによ、そんな言い方」。口をぎゅっと結んでふくれたら、「そうそう。そうやって口結んで黙ってな」って笑う。

可笑しくて大笑いした。

「抱きたいのは愛だよ」
「うそよ。あなたは誰も愛してない」
「そんなこと誰が言った?」
「あなたがそう言った」

カダーは少しだけ悲しそうな顔をした。悲しそうな顔に見えただけかもしれない。


ジーザスを信じて愛してる人だけが永遠の命を与えられる。John の章にはそればかり出てくる。
それなら、もしもジーザスを信じない人と愛し合って結婚して死ぬまで一緒にいたとしても、死んじゃったら一緒に天国に行けないの? 一緒に天国で永遠に生きられないで、この世で死んだときに離ればなれになっちゃうの?

わたしは疑問だったことをカダーに聞いてみる。

そんなことない。そんなこと、ジーザスは言ってないよ。きみは新約聖書だけ読んでるんだろ? 旧約聖書を読みな。どんな faith を持ってても、みんなおなじだよ。神さまはひとつなんだから。クリスティアニティもジューダイズムもイズラムも、おんなじ神さまなんだ。天国はそのたったひとつの神さまの国なんだよ。

「だけどモズリムの神さまはアラーじゃない?」「みんなそこを理解してないんだよ」。アラーは「神さま」の意味で、イズラムの聖典がほかの言語に訳されることを禁じられてるから神さまって言葉が使われないだけだって教えてくれた。

よかったって思った。
やっぱりみんな天国に行ける。どんな人も天国に行って、永遠に幸せに生きられる。
どんな人と愛し合っても、死んでからも天国で一緒に永遠の命を与えられる。

教会に行かなくてもお祈りをしなくても、カダーはやっぱり神さまを誰よりも理解してる人なんだって思った。カダーが大好き。大好き。だけどわたし、一番欲しい答えをまだ見つけられないでいる。


-

ブレイクインされた - 2003年06月22日(日)

昨日の朝、仕事に出掛けようとしたら車がブレイクインされてた。
デイビッドんちから帰って来たときうちの前の通りにどこもスポットが空いてなくて、ふたつ向こうの通りに車を停めてたら。

窓を割られたんじゃなくて、ドアを壊して開けられた。ちゃんと閉めたはずなのにドアが浮いてるからおかしいなって思ったら、車の中が荒らされてる。気づくのに2分くらいかかった。盗るものなんか何もない。グラブ・コンパートメントの中からたばこだけが盗まれてた。わざわざシガレットケースから出して。

よく見たら、イグニションのケーブルボックスのカバーがはずれてた。
車を盗もうとしたらしい。あんな古くてボロくて小さくて汚くて、まるで高級じゃない車なのに。でも、盗まれる車種のトップ100くらいが全部日本車だったのをなんかのリストで見たことある。

フードも壊れてた。開けることも閉めることも出来ないで、中途半端に開いたまま。
ドアはなんかで無理矢理引っ張り出したみたいで、外側にぐにゃっと反って上2インチほど隙間が出来てて閉まらない。ロックを壊されていなのが救いだった。

動かしてみたらエンジンはかかった。怖かったけど、そのまま運転して仕事に行った。
週末だからコールインして休むわけに行かなかった。小雨だったのも救いだった。どしゃ降りだったら中が水浸しになってしまう。

病院からデイビッドに電話したら、「今メール読んで返事送ったとこ」って明るい声だった。「もしもすぐ近くにスポットが見つかんなかったら、気をつけてうちまで帰るんだよ。大丈夫? 大丈夫だよね? きみの住んでる辺りは安全だよね?」って、なぜか昨日に限ってものすごく心配してくれてた。だから、帰ってすぐにメールした。「報告。スポットはわりと近くに見つかって、無事うちに着いて、今チビたちにたくさんごはんをやりました。Have a good weekend!」って。なのに。ブレイクインのこと話したら、びっくりしてた。またすごく心配してくれた。

仕事が終わる時間にはどしゃ降りになってた。教会のミーティングに行く予定だったから、わたしは車を病院の駐車場に置いて、ジェニーが乗っけてってくれた。


今日は地下鉄で仕事に行った。
そんなことがあったのに、なぜだか今日は仕事中とっても気分がよかった。クラークのカティが A2 のフロアにいて、久しぶりにおしゃべりした。カティはスパニッシュだから「サルサの CD のおすすめ教えて」って聞いたら、彼女の大好きなバンドとシンガーの名前をふたつ教えてくれた。最近車の中で、FM のスパニッシュのステーションをよく聴いてる。DJ もスパニッシュだから曲名も歌手の名前もわからないでいた。カティが教えてくれた CD を車を直したら買おうって、なんだか暢気に思ってた。

うちに帰ったとたんに携帯が鳴った。
デイビッドだった。気にかけてくれてるのが嬉しかった。昨日デイビッドは警察にリポートして保険を使ったほうがいいって言ったけど、今日ホスピタル・ポリスのオフィサーにどこのポリス・デパートメントのオフィスに行けばいいのか聞きに行ったら、次の保険料が跳ね上がるからリポートしないほうがいいって言われた。そう話したら修理代次第だってデイビッドが言って、とりあえず修理屋さんに見積もり出してもらいに行くことにした。

この辺のボディショップを知らないから、ブルースに電話して聞く。
ブルースは明日オフだから、つき合ってくれるって言った。女の子がひとりでボディショップに行ったらふっかけられるからって。せっかくのオフをそんなことに使わせちゃうのは悪いって思ったけど、すごく安心もした。「必要なときにはいつだってきみの助けになるって、そう言っただろ?」って言ってくれた。

ラヒラに電話して、明日お休みすることを言った。

この間またパンクしたばっかなのに、ブレイクインされちゃうなんて。
それもデイビッドんちから帰って来た日の朝だなんて。

わたし、やっぱり間違ってるのかな。
間違ってるなら、どこ間違ってるの?
そう思ったりしたけど、そんなことない。そんなことない。
明日になれば、答えがわかる。
きっと大丈夫。なんでもない。
またお金かかっちゃうけど、それだけのことだから。
今、一生懸命思ってる。



-

手 - 2003年06月21日(土)

デイビッドが車を動かしに行ってるあいだにシャワーを浴びる。
それから一緒に出掛けた。街は人で溢れててカフェも人でいっぱいだった。ほんとに久しぶりの青空で、そのせいか金曜日の朝のせいか、誰もみんなごきげんだった。知らない人たちとちっちゃいおしゃべり交わしながら窓際のカウンターに席を取って、外を見ながらクロワッサンとコーヒーの朝ごはんを食べた。

ステイプラーズで要るものを買って、ランチ用にローストビーフとディジョーマスタードを買って、デイビッドが修理に出してた靴を取りに寄る。道路は全部ジェイウォークして、中央分離帯まで登って横切って、降りるときにはデイビッドが手を取ってくれる。デイビッドは早足でおしゃべりで、わたしは一生懸命追いかけながらおしゃべりを返して、あの人とあの人の街を歩いたときみたいだった。

デイビッドの仕事のお手伝いをすることになってた。
日本人のクライアントの書類とインタビュー記事の翻訳。インタビュー記事は日本の音楽の専門誌の切り抜きで、その雑誌をきっとあの人は知ってると思った。でも名前を覚えてない。意味不明のところがあって、そう言ったらデイビッドはそのミュージシャンに電話をかけてわたしに代わらせた。「日本語で聞くの?」「日本語で聞かなきゃ」。そりゃそうだ。日本語の意味がわかんないんだから。またものすごく緊張して上手くしゃべられなかった。バカ丸出しで、デイビッドが日本語わからなくてよかったと思った。

お昼はデイビッドがローストビーフのサンドイッチを作ってくれた。ディジョーマスタードは「両側にたっぷり」ってリクエストした。ヨーグルトのコールスローもビーツのサラダもおいしかった。

後片づけはわたしがして、散乱したクライアントの書類を項目ごとにきちんとファイルするとこまでやったら夕方になった。一緒に仕事するのは楽しかった。ほんとに楽しかった。

夜になってまた雨が降り出したけど、河沿いの公園にある大きなバーに連れてってくれた。そこはリーシュをつければナターシャも入れてもらえる、半分が屋根の付いたテラスになってるバーだった。オレンジとグリーンにライトアップされたジョージワシントン・ブリッジが遠くに見えた。水と公園と橋。水の向こうに見えるニュージャージーの街灯り。あの街とおなじ。わたしはまたあの街のことを夢中になって話す。

デイビッドはお金を払うって言った。それはわたしにとっては大きすぎる金額だった。わたしは要らないって答えた。「きみが手伝ってくれなかったら僕は翻訳のエージェンシーに頼むとこだったんだよ。だからおなじことだよ」「あたしはプロじゃないからいいんだってば」「きみはプロより早く上手く訳してくれた」「内容が音楽のことだったからよ。それに知らない機材の名前はあなたがスペルを教えてくれたじゃない」。そんなやり取りを繰り返してた。

それからデイビッドが言った。「だめだよ。きちんとするべきなんだよ、ガールフレンドとか奥さんに手伝ってもらったってのじゃなければ」。「え?」って聞き返したら、今度はガールフレンドのとこを省いて「奥さんが夫の仕事を手伝ったってのじゃないんだから」ってデイビッドはもう一度言った。

なんだか胸がずきっとした。
「あたしはガールフレンドじゃないの?」って聞けばよかったってあとから思った。
「あたしが手伝うって言ったんだよ。『友だち』のそういう厚意をありがたく受け取ることのどこがいけないの?」ってわたしは言った。デイビッドは黙ってた。バカ言ったって、もっとあとになってから思った。

胸がずきっとしたままだった。アパートに帰って、デイビッドがわたしにバイオリンを弾かせてくれて、わたしは適当にバイオリンを抱えて音を探しながら「きらきら星」ならなんとなく弾けた。デイビッドはギターを弾いてまた歌ってくれた。それからわたしは、「こっちに来て」ってデイビッドを呼んで、無理矢理渡されてたお金を「これ、やっぱり要らないの」って返した。

笑って言ったのに泣きそうになったから、デイビッドが慌てて言った。「きみの自尊心を傷つけた? そういうつもりじゃなかったんだ。聞いてよ。僕はね、きみが手伝ってくれてほんとに助かった。嬉しかったし楽しかった。日本語が分からない上にややこしいクライアントだし、正直困ってたから。きみが今日はオフで、それだけじゃなくてオフの日をまる一日僕のために使ってくれて、昨日からずっと一緒にいられて、僕は神さまのプレゼントだと思ったよ。ほんとにそう思ったよ。だけど仕事をしてくれたんだから、お金を払いたかったのはそれだけなんだ」。

「神さまのプレゼント」なんて言うから笑顔になれた。
でもまだ「ずきっ」は少し残ってた。


デイビッドはたくさん手を繋いでくれる。

わたしの手は大きくてごつごつホネホネしてて、「女らしい柔らかい手」からかけ離れてる。子どものときからそんなかわいくない手で、母は妹のぽっちゃりかわいい手ばっかり握ってわたしとは手を繋いでくれなかった。いつか妹のふりして後ろからこっそり手を母の手の中に忍ばせたら、すぐにバレて離されちゃった。それ以来自分の手が嫌いになった。ちょっと前に、手を見せながらそんな話を笑いながらしたのに、デイビッドは笑わずにわたしの手を取ってずっと握ってくれてた。それからたくさん手を繋いでくれるようになった。テレビを見てても、わたしに手を差し出してくれる。繋いだ手にキスもしてくれる。わたしのコンプレックスを言葉じゃなくて取り除こうとしてくれる。

そんなデイビッドの思いやりを、わたしがどれほど大切に思ってるか知って欲しい。
何気なく見せてくれるけど、それがデイビッドのどんなに大きな思いやりかをわたしも知ってるから。

だから、「ガールフレンドじゃない」って今はまだ言わないでいて欲しい。
わたしもまだ聞かないから。ずっと手を繋いでて欲しいから。


-

毎日がいっぱい - 2003年06月18日(水)

朝、車のタイヤがパンクした。
パタパタ音がしてたのはソレだったんだ。アンナが「タイヤじゃない?」って言ってたとおりだった。AAA のメンバーシップを更新したばっかりで助かった。修理屋さんに持ってって、新しいタイヤを買って、また予定外の出費。穴ボコだらけのバンプだらけの工事だらけのこの街の道路を、みんなどうやってパンクを回避しながら運転してるんだろって思う。


今日のサルサは素敵なステップたくさん習った。
「早くああいうのやりたいなあ」って、スタジオに通い始めた頃に上のクラスの人たちの踊るのを見て思ってたのとおんなじだった。くるくるくるくるくるくるくるくる、ターンのオンパレード。目が回ったりしないのかなってあの時思ってたけど、回らないから不思議だ。

終わってから、水曜日がラテン・デーのクラブにみんなで踊りに行く。
昨日も別んとこに行ったばっかりなのに、前に Dr. チェンと行ったお気に入りのクラブだったから行っちゃった。

ID 見せるときに「誰にも内緒にしてよ」ってドライバーズ・ライセスをお兄さんに渡したら、お兄さんは「これほんと? Amazing!」って大声で言った。それから後ろに並んでた男の子3人、みんな ID なしでパスしてくれた。「彼女がきみたちの分まで証明してくれたよ」って。そんなこと言ったら見かけがバカ若いのバレちゃうじゃん。

バーニーは27歳なのに18くらいにしか見えなくて、なのにちゃんとした ID 持って来てなくて心配してたから、きょとんとしてた。

バーニーはスタジオで踊るときより緊張してて、「違う違う、こうじゃん」って笑いながらわたしがときどきリードしてた。反則だけど。ネルソンはスタジオの練習のときよりうんと上手で、一番若くてかわいいパトリシアとものすごく綺麗に踊ってた。とてもお似合いだった。

たくさん踊った。知らない人ともたくさん踊った。
くるくるくるくるくるくるくるくるを、ライブのサルサで踊るのが「本番」みたいで嬉しかった。


帰ってから一番にメールをチェックする。
「明日は9時半頃でいい?」って、デイビッドからちゃんと来てた。
「もちろん。タンゴが終わってから電話するね」。そう返事した。


教会と教会の友だち、ダンスとダンスのクラスの仲間。いつのまにか、わたしのソーシャルライフは急に忙しくなった。カダーに負けないくらい、毎日がいっぱい。でも木曜日が一番いっぱいで、一番好き。


-

faith - 2003年06月17日(火)

なんでカダーじゃなかったんだろうって思う。


ゆうべも電話をくれた。
車のこと、心配してくれてた。
うちにいなくてごめんよって言ってくれた。

わたしはこのあいだデイビッドのうちで見たニュースの、カダーの国で起こった悲しい出来事の話をした。20人の子どもたちが殺された。カダーは「毎日がそんなだよ」って笑った。「なんで子どもたちが巻き込まれなくちゃいけないの? 悲しすぎるよ」「悲しいよ。だけど毎日そうなんだ」「いつになったら終わるの?」「永遠に終わらないよ」。悲しかった。なんでもないみたいに言うカダーの言い方が、返って悲しかった。でもなんでもないみたいに聞こえるのは、それはカダーがほんとは自分の国の幸せを信じ切ってるからなのかもしれない。

デイビッドは、小さな子どもたちに自殺を教えるモズリムたちを許せないって言ってた。


「ほかにニュースはないの?」って聞くからベリーダンスを誉められたことを話したら、いいニュースだねえってものすごく嬉しそうに言ってくれた。声がひっくり返るくらい喜んでくれた。


バイブルを読むたびに、カダーのことを想う。
わたしはもう少しのところで、まだジーザスに手が届かない。
人はときどき自分の中にジーザスがいることを忘れて、だからバイブルを読み、教会に行き、ジーザスへの愛とジーザスの愛を確認して満たされるのかもしれない。わたしはいつもいつもジーザスの存在を考えているけど、まだ神さまとジーザスは完全に結びつかない。もう少しのところなのに、頭がまだ邪魔をする。

カダーはバイブルを読まなくても教会に行かなくても、何も意識することなしにジーザスとひとつになれてる人だと思う。真面目にジーザスのことを話したりしないから、よけいにそれがわかる。


なんでカダーじゃなかったんだろう。



サルサのクラスの友だち数人で、ミッドタウンのクラブにサルサを踊りに行く予定だった。
ディディーって言う男の人がアンナのうちからわりと近いところに住んでて、今日のプライベート・バイブルスタディが終わってから、アンナんちから3ブロック離れたとこにあるドラッグストアの前まで車で迎えに来てくれた。モニカから行けなくなったってディディーに電話があったらしくて、クラブで落ち合う筈だったあとの人も来なかった。結局ディディーとふたりで1時まで踊った。

クラスでもいつもそうだけど、ディディーはよくわたしの足を踏む。今日も何度も踏まれた。それより、クラブはとても混んでて、よそのカップルの男の人に思いっきり足をぶつけられたのが痛かった。ほんとにものすごい勢いでふくらはぎを蹴られて、しばらく踊れなくて椅子に座ってた休んでたほどだった。

ダンスは楽しかった。ディディーはとても上手だし、ライブの音楽もとてもよかった。
だけどディディーは自慢話ばかりするから、踊ってるとき以外はたいくつだった。仕事の自慢話ほどたいくつでつまらない話はない。帰りの車の中で、わたしはあくびばっかりしてた。

デイビッドに会いたいなあって思ってた。
デイビッドは絶対にわたしをたいくつになんかさせない。
デイビッドも、どんなに疲れててもわたしのおしゃべりを聞くと元気になるって言ってくれる。わたしの笑い声を聞くとものすごく安らいだ気分になるって言ってくれる。「みんながそう言わない?」って言うから「言わない」って答えた。

カダーはわたしの笑う声が大好きだっていつも言ってくれた。でも安らぐとは言わなかった。


なんでカダーじゃなかったんだろうって思う。
ジーザスの愛を、言葉じゃなくてこころで教えてくれる人なのに。
バイブルよりも教会よりも、ジーザスの愛を教えてくれるのはカダーなのに。


デイビッドの包み込んでくれるような愛情に、わたしは飛び込もうとしている。
だけどひとつだけ、気になることがある。

それがほんの小さなことなのか、とても大きなことなのか、わからないでいる。
デイビッドにとってはとても小さなことみたいで、そういうデイビッドがとても大きくて暖かいと思うのに。



-

夢を追い続けて - 2003年06月16日(月)

ベリーダンス、今日誉められちゃった。
「すごくよくなった」って。
思わずくるっと振り向いて、後ろで踊ってる一番長いことやってる一番上手な女の子に「聞いた? すごくよくなったって!」って言ったら、「だからあたしが言ったでしょ? すごく上達したんだってば」って、両手をわたしの両手にパンってして「イェーイ!」って言ってくれた。

嬉しかった。まだまだ下手なんだけどさ。


嬉しくて帰ってからデイビッドにメールした。
「ベリーダンシング: 聞いて! 先生に上手くなったって誉められた」

そしたらすぐに返事が来た。
「Cool! :  僕がショウをやるときに、きみに踊ってもらえるね」

ショウは、デイビッドがセカンド・ジョブでやってる仕事のこと。

「Re: Cool! :  あなたのショウは見たいけど、あたしはまだ踊れないよ。6ヶ月待ってくれる?」

「Re: Cool! :  僕はショウの仕事は生涯やるつもりだよ」

「Cool!!!!! :  あたし踊る! それやりたい!!!」


嬉しかった。
わたしがデイビッドのショウで踊れるわけなんかないけど。
嬉しかった。
生涯の仕事にわたしをつき合わせてくれるだなんて。たとえいつものジョークだったって。

嬉しかった。
一番嬉しかったのは、デイビッドがショウの仕事を一生やりたいって思ってること。

わたし、夢を追いかける人が好き。夢を追い続ける人が好き。好きなことを諦めないで、自分の道を信じてて、いつも進行形で輝いて生きてる人が好き。あの人とおんなじだ。

応援したい。応援しよう。また応援する人が増えちゃった。

それから、わたしも頑張って続けよう。
デイビッドのショウとベリーダンスなんて、ほんとにジョークみたいな組み合わせだけど、デイビッドらしくていいかもしれないなんてちょっと本気で思ったりして。


約束なんかいらないけどね、ほんの少し先のことでいいから安心して思い描けること、
わたし、きっとそういうのが欲しかった。

わかってるよ。なくなるときにはなくなる。ちゃんとそう思ってるから。
それでも今、なんか安心していられるのが嬉しい。
安心して、デイビッドを応援できるって思えるのが嬉しい。

夢を追い続けて。あの人みたいに、いつも輝いてて。



-

fragile - 2003年06月15日(日)

いったい何時間眠ったかわかんない、昨日のお昼。数えるのもコワイほど。
だから夕べは眠られなくて、3時半頃デイビッドにメールした。
「眠りたいのに寝られない〜」。

返事は来るはずもなく、日本が父の日の夕方だって思い出して、3分の2義理で父に電話する。相変わらずまるで話が噛み合わない。「よく父の日なんか覚えてたな」とか言う。こっちだって父の日なんだって。「へえ。アメリカにもあるのか」って。こっちから日本に入ったんでしょ。休暇を取って帰って来いって言うけど、お母さんに会いに行くって言っただけでめちゃくちゃ怒ったじゃん、前帰ったとき。だから嘘ついて会いに行ったけど、コドモじゃあるまいし、そういうの疲れるからやなんだって。だからもう、帰りたくない。日本に行ってもあの人にだって会えないのに。

一生懸命押さえて押さえて、電話切ったらへとへとだった。それでいつのまにか眠ってて、あの人の電話で目が覚める。久しぶりだった。一週間以上経ってる。あの人また体調崩して、そうメールに書いて来てたから、「元気になった? 元気になってたら電話ちょうだいね」ってメール送ったとこだった。

元気になってた。仕事中だったからあんまり話せなかったけど、たくさん笑った。
次の電話の約束もちゃんと出来た。ねえ、3年前の今日、会ってたんだよ。昨日もおとといも明日も。


今日、教会から帰って来てメールをチェックしたら、デイビッドが朝返事をくれてた。
「Hey, I went to bed at 4:00 AM!」だって。


今日は父の日だから、みんな急いでおうちに帰ってった。ジェニーもお父さんを連れ出すことになってるって、急いで帰った。ジェニーは明日から休暇でラスベガスに行くから、行ってらっしゃいのハグをして見送った。

父の日なんか関係ないわたしは予定もなくて、前のアパートの近くまで買い物に行く。今日は珍しくお天気がよくて、高速はすごい渋滞だったけど、それでもあのなつかしい道を走るのが好き。チビたちの缶詰ごはんを買いだめして、ナターシャにクッキーを選ぶ。犬用のベーグルを見つけた。かわいい箱に入ってて、人間のベーグルよりうんと高かったけど、計り売りのクッキーと両方買っちゃった。デイビッドまで喜んでくれる顔を想像すると嬉しくなって、木曜日が待ちきれなくなる。


この間から車がおかしなノイズを出す。パタパタパタパタっていうあれ。それがだんだんひどくなってきて、近くまで来たからカダーに見てもらおうと思って電話した。うちにいなかった。「修理やに持ってきなよ」って言われた。「わかってるけどさ、その前に何が悪いのかあなたなら分かると思ったんじゃん」って言ったけど、うちにいないんじゃしょうがない。

帰ってから久しぶりにお料理した。たくさん買い物したから。
デイビッドがまめにお料理するのにインスパイアされたのかもしれない。


夜携帯を充電するときに、カダーから missed call が入ってるのに気がついた。時間が 6:17 になってて、ちょうどうちに着いてバッグを置いて、車のトランクから買い物したものせっせと運んでた時だ。心配してくれたのかな。

もう12時を回ってたけど、電話してみた。今度は携帯は切られてた。
よかったってちょっと思った。来るって言われたらやだなって、また思ってたから。
昨日電話をくれたときに、そういうこと言ってたから。

カダーの腕の中は好きだけど、大好きだけど、


今はわたし、デイビッドへの気持ちもデイビッドの気持ちも、とても大切にしたい。
赤ちゃんみたいに頼りなげで、まだ簡単に壊れてしまいそうだから。

またどっか間違ってるのかもしれないけど。


-

天使の真似 - 2003年06月13日(金)

デイビッドのアパートから一緒に歩いてごはんを食べに行く予定だったのに、突然サンダーストーム。雷がバリバリ音を立てて、その音さえ消しそうな勢いで雨が降り出す。やだなあって思って中庭の雨を見てたら、「おいで」ってデイビッドがわたしとナターシャをアパートのビルの玄関に連れてく。「ほら、こっちの雨の方がもっとすごいだろ? 気持ちいいなあ」ってデイビッドが言い出す。

コンクリートに打ちつける滝みたいな雨の洪水へナターシャが飛び出して、デイビッドが追いかける。飛び出したナターシャが大雨に驚いて慌てて戻って来ると、デイビッドも走って戻って来る。デイビッドがおもしろがって飛び出すと、ナターシャがデイビッドを追いかける。ドアマンのおじさんとわたしはそれを眺めて大笑いする。

ホールに冷たい風がぴゅうぴゅう吹き込んで来て気持ちがいい。

4月からこっち、ずっと雨だ。「僕は雨は嫌いじゃないよ。とりわけこんな大雨は好きだよ。みんな文句言ってるけどね、この天候」。びしょびしょになったデイビッドが嬉しそうにそう言うから、大嫌いだったこの街の重たい雨が、わたしまで心地よくなる。

外にごはんを食べに行くのは諦めて、ヴィエトナミーズのデリバリーを注文した。お料理が来るのを待つあいだ、デイビッドが楽譜を持って来た。「きみ、楽譜読める?」「読めるよ」。わたしは旋律を口ずさんで、デイビッドがそれに合わせて歌を歌う。それはフランス語の歌詞だった。天使が窓から入って来て人間の女の子の姿になったって、そういう意味の歌だってデイビッドが教えてくれた。「それ、あたし」って言ったら「そうそう、きみ」ってデイビッドが笑った。

ストリング・ビーンズとブラウン・ライス。大きなテーブルの端と端に向かい合わせに座って、綺麗なガラスのお皿に乗せてくれたお料理を食べる。ブルックリン・ブルーワリーのビールの、わたしはエールを飲んでデイビッドはラガーを飲みながら。ガーリックの効いたストリング・ビーンズのソテーが香ばしくておいしくて、わたしは口に含んで塩分を取ったビーンズをナターシャに分けてあげる。ナターシャはわたしの横にぴったりくっついて、わたしのストリング・ビーンズを待ってる。

Jack Johnson の CD、やっぱり気に入ってくれた。プライベート・スタジオで録った音だ、ってデイビッドがカバーを確かめる。そのとおりだった。わたしは知らなかった。大きなテーブル。豪華じゃないけど趣味のいいお料理。おいしいビール。大好きな音楽。窓の外は雨。デイビッドとナターシャとわたし。弟からの電話を取ったデイビッドが、「今一緒に食事してるところ」ってわたしの名前を入れて言った。幸せな時間だと思った。



シャツの衿がネックレスのチェーンの留め金に引っかかって取れなくなる。
鏡に映すと、背中にぶら下がった白いレースのシャツが天使の翼みたいだった。
「ほら見て。天使の翼」。わたしは両腕を広げて、天使のあの人の真似をしてひらひら舞った。「うん。天使の翼だ。天使の翼だけど、取ってあげるからこっちにおいで」。デイビッドが笑う。それから、「木曜日の夜が大好きだよ」ってデイビッドは言った。

「木曜日だけ?」。そう聞いたら「ほかの日の夜なんかみんなサックス」ってデイビッドは答えた。「そうじゃなくて、ほかの曜日は会えないの?」「何曜日でも大歓迎だよ。でもきみが木曜日が都合いいんだろ?」。でもわたしも木曜日の夜が好き。心配しなくても木曜日の夜には絶対会えるなら、木曜日の夜だけわたしも天使になれる。


車のとこまでいつものように、ナターシャと送ってくれる。「Thank you for visiting me」「You are very welcome. Thank you for having me」。バイのハグをしながらちょっと丁寧な挨拶を交わして笑った。

「今度は来週の木曜日?」
「多分ね」
「なんで多分なの?」
「きみに予定が入るかもしれないだろ?」
「入らないよ」
「なんでわかるの?」
「木曜日の夜はあなたのために取ってあるから」
「ほんと? 僕も木曜日の夜はきみのために取ってある」。

雨は小降りになってた。窓を開けて手を振る。そのまま車を走らせた。窓から入る冷たい雨のシャワーが気持ちよかった。


「会いたかったよ」って言わなかった。
でもいい。少しずつ気持ちを確認し合ってる。そんなふうに思えたから。



-

明日 - 2003年06月11日(水)

ダンスのクラスの帰り、地下鉄の駅を降りてからデイビッドに電話した。
携帯はオフになってて、「電話してね」ってメッセージを残す。
うちに帰ってもかかって来ないから心配してた。
明日は木曜日だけど会えるのかなって心配してた。
なんだか長いこと会ってないような気がして、会いたかった。

12時半頃に充電中の携帯が鳴った。


明日、デイビッドに会える。
よかった。嬉しい。

それだけ。
それだけでいい。
それだけがいい。
それだけがいいのに、

なんでわたしは自分の気持ちをいつもややこしくばっかりしてるんだろね。
なんでいろんなことで、いつもぎゅうぎゅうなんだろうね。
なんで?


最近お気に入りの Jack Johnson の CD 持ってって、明日聴かせてあげよう。
アコースティックのギターをきっとデイビッドも気に入ってくれる。

それから、会いたかったよって言ってみようかな、明日。
そんな簡単なことを、もう躊躇ったりしないで。
そしたらどうなるのかなとか、ややこしいこと考えないで。
素直に気持ちを伝えたいよ。会えるのが嬉しいから。嬉しいから。

明日はまた雨だって。
でも平気。着て行く洋服だってもう決めちゃった。
傘ももう決めちゃった。


-

自信 - 2003年06月09日(月)

腰に巻くスカーフを買ったから、今日からわたしは自分のスカーフしゃんしゃん鳴らしてベリーダンシング。嬉しい。そのわりにいっこうに上手くならない。難しい。おうちで練習してきなさいってステップを3つ宿題に出された。ステップが出来ても、肩とか腕の動きが上手く出来ない。手の表情もさっぱりついてかない。

うちの中をベリーダンシング・ステップで歩き回る。キッチンに行くのも、チビたちのごはんを入れに行くのも。楽しくて、病院でもやりたいくらい。鏡の前に立って、肩の動きを練習してたら、電話が鳴った。

ベリーダンシング・スタイルのままぽんとベッドに乗っかって、ベッドサイドテーブルの電話を取る。あの人だと思ったのに、カダーだった。あの人は土曜日に短いメールをくれてから、返事を出してももうメールをくれない。電話もない。

カダーは友だちのところで、また生活費稼ぎのためだけの一時的な仕事を始めた。マスター取った大学院の姉妹校でもコンピューター・ラボの仕事を始めた。生活しなきゃいけないからしょうがない。でもそんなこと全然平気でいるとこが「自信があって好き」なのに、女の子の気持ちを絶対自分に向かせられる自信があるとこがバカって思う。

仕事が終わってから久しぶりにジムに行って、うちに帰る途中って言ってかけてきた。
「何してた?」って聞くからちょっとためらってたら「ひとりなの?」ってカダーは聞いた。ためらったのは、ベリーダンスの練習してたなんて恥ずかしかったから。「ひとりだよ」って答えてから、来るって言ったらどうしようってちょっと思った。カダーのことは好きだけど、「セックスだけがしたい」はもうたくさん。わたしをいつだってその気にさせる自信があるみたいなとこもバカって思う。

でもそうじゃなかった。
ベリーダンスの練習も笑わなかった。難しいから毎日頑張って練習しなって言ってくれた。「僕に踊って見せてよ」って、前の電話で言ってた。見せてあげたい。でもカダーに見せるならちゃんと上手になってからじゃなきゃ。本物のベリーダンシングを知ってる人だから。

たくさんたくさん、いろんなことおしゃべりして大笑いして、嬉しかった。
先週の日曜日に会って、そのあとの水曜日に電話くれて、今日もまた電話くれて、デイビッドのこと話したときに「好きなら最低週に2回くらいは電話をくれるはずだよ」なんて言ってたけど、カダーの方がそうやってちゃんと電話くれてるじゃんって思った。


明日またアンナのとこに行くから、バイブルの宿題をする。
アンナが抜粋したバースの箇所を自分で探して読むこと。赤線をていねいに定規で引いて、ポーストイットを貼って、そんなこと言われてないけどノートに綺麗に書き写す。自分で書くと、それだけ意味がよく理解出来る。中学生の宿題みたいで、なんか嬉しくなる。昔大学の化学の実験のクラスで使った黒くて硬い表紙の実験ノートがとても綺麗で、使ったページをちぎって大事に取っておいたのが役に立った。バイブルの勉強に似合ってる。

カダーに見てもらいたい。
意味がよくわからないとこを、カダーに聞きたい。
いつかクロスのネックレスをしてたら「クリスチャンでもないくせに」ってからかわれたけど、バイブルの勉強もカダーは誉めてくれた。バースの抜粋を書き写して並べたノートもきっと誉めてくれる。ジェニーに言ったらまた呆れられちゃうけど。


教会はカダーに言われて行き始めたわけじゃなかった。クリスチャンのカダーに影響されたわけでもなかった。ベリーダンスも、ミドルイースタンのダンスだからやりたかったわけじゃなかった。カダーに見てほしくて始めたわけでもなかった。

だけど、カダーに結びついてるのが嬉しい。


カダーは、わたしの気持ちがカダーから離れないって自信があるんだろうな。デイビッドのこと話したのに。その自信は好きかもしれない。


-

ハッピーアニバーサリー - 2003年06月08日(日)

ダンスパーティがあちこちである季節になって、嬉しい。
昨日はブルックリンの美術館でサルサとメレンゲのパーティがあった。
うちのダンス・スタジオでもサルサパーティがあったけど、教会の仲間たちの誘いでブルックリンの方に行く。どしゃ降りの雨だったからもうひとつ楽しみにしてた美術館屋外のワールドミュージック・コンサートは中止になっちゃって、それが残念だったけど。

パーティが始まる時間までのあいだ、美術館を見て回る。MoMA に行って以来だ、美術館なんて。 ジェニーとジェニーが連れて来たレネと3人で大騒ぎしながら展示品見てたら、いつのまにかセキュリティー・ガードの人がわたしたちの後ろをずっとついて来てた。

ミドルイースタンのところがとても気に入って、「カダー連れて来てあげたい」って言ったら「カダー、カダー、カダー。アンタ、カダーばっかり」ってジェニーに言われる。「デイビッドはどうなのよ。連れて来てあげたくないの?」だって。

だからね、こういうときに「連れて来てあげたい」って思うのはカダーか、あの人なの。でもあの人は実現不可能に近いから。一番連れて来てあげたいけど。

デイビッドは自分ちのちかくにあの世界的に有名な大きな美術館があるし、ブルックリンの美術館なんかどうでもいいかもしれない。それよりデイビッドは、わたしをいろんなとこに連れてってくれる。ときどきひとりで登って朝ごはん食べるっていうあの大きな岩の山とか、全然目立たないけど入ったらとても素敵なあのカフェとか、チーズの種類がどこよりも一番豊富に揃ってるスーパーマーケットとか。ああ、そうだ。タンゴ・クラブもデイビッドが教えてくれたんだった。車もバスも走ってない、小さなボートで渡るしか交通機関のない島の話もしてくれた。そんなとこがこの近くにあるんだって。夏になったらビーチに行こうって言ってくれた。

ほんとに、わたしはデイビッドとどうなって行くんだろ。


この間のジャイブは、すごく上手なリックがわたしに教えてくれた。昨日のサルサはわたしがリックに教えてあげた。ブルースはメレンゲさえ上手く踊れないで、サルサなんかいくら教えてあげてもちゃんとステップが踏めない。それなのにライブ演奏の前のダンスフロアにわたしを引っ張ってく。

すっごく汗かいた。「クラブのダンスなら結構踊るんだけどな」ってブルースが言うから、なんかクラブが恋しくなった。久しぶりにクラブでがんがん踊りまくりたくなった。



今日の教会はゲストスピーカーのパスターのお話で、全然わかんなかった。わけわかんない日本語のレクチャー聞いてるみたいだった。小難しそうなことだらだら並べてなんかエラそうにしゃべってるけどちっとも要領得ないで、「何しゃべってんだかわかんないよ」って隣りのジェニーにこっそり言ったら「あたしも」ってジェニーが笑った。途中でめちゃくちゃ眠たくなって、あくびをかみ殺して涙ばっかり拭いていた。

でもやっぱりゴスペル・ソング歌うと涙が出そうになる。あくびのせいなんかじゃなくて。
スピリチュアルとラビングは似てると思う。スピリチュアルな気持ちって、愛で胸がいっぱいになるときに涙が出そうになるのとおなじだから。


夜、ボニーに電話した。わたしの声がわかったとたんに、ボニーは「ハッピーアニバーサリー!」って言ってから「あ・・・」って言った。大笑いして「もうハッピーアニバーサリーじゃないよ」って言ったら、ボニーも笑って「ごめんなさい」って言った。いいんだよ、まだ覚えててくれて嬉しい。そう言ってからボニーにハッピーバースデーを言う。ボニーのバースデーとわたしの結婚記念日は同じ日だから。

別れた夫にメールした。
元気にしてますか? 今日が何の日か覚えてる? 日本はもう昨日になっちゃったけど。
わたしにとってはいつまでも記念日です。

携帯からすぐに返事が来た。
僕にとってもずっと記念日です。忘れてないよ。

それから、「最近の僕」って、写真を2枚送ってくれた。ちょっと痩せたみたいだけど相変わらず若く見えて、元気そうで安心した。そして、ずっと離れてた前の仕事をまた始めるって。「今度は世界一を目指して」って。「世界一」は大流行だ。可笑しかった。嬉しかった。


-

聞けなかった - 2003年06月06日(金)

昨日のタンゴはものすごく楽しかった。
20歳少しくらいのスパニッシュの女の子たちが5、6人グループで来てて、みんな初めてだからベーシックのステップ教わってて、太った大きなあのおじさんは今日も来てないし、いつもべったりくっついて踊るカップルが「ふたりの世界」やってるし、あとは「女の子探しに来てます」丸出しのときどき来る男の子しかいないし、つまんないなあって思ってひとりクッキーとナチョスかりかり食べてたら、いつも来るロシア系の男の子、男の人かな、が現れた。

そんなだから、そのロシア系さんが今日はずっと一緒に踊ってくれた。どこかのスタジオで週2回レッスン受けてるらしくて、来るたびに上手くなってる。それでわたしにいろいろ教えてくれる。1曲終わるたびに、「このステップが急ぎすぎ」とか「このあとはきっちり両足合わせて止めて」とか注意してくれるのも嬉しい。「目をとじて」って言われてずっと目をつぶって踊ってた。ロシア系さんはものすごく背が高くて、顔を見て踊ろうとすると首が痛くなるから、目をつぶるのがちょうどいい。それに目をつぶる方が上手く踊れる。不思議と相手のステップの幅とかも感覚でわかって、自分で動きが滑らかになってるのがわかる。曲が終わって目を開ける前に「クイズ:今わたしはどこにいるでしょう?」を自分にするのもおもしろい。

このロシア系さんが比較的パーキング・スポットが見つけやすい通りを教えてくれたおかげで、メーター・パーキングに車を停める必要がなくなって一時間置きにコインを入れに行く心配もしなくて済むようになった。


「10時頃になるけどいい?」って、デイビッドは電話をくれてた。「今日中にどうしても終わらせなきゃいけない仕事がひとつあるから」って。ロシア系さんと車を停めてるとこまで一緒に歩いて、ゆっくりデイビッドのアパートまで運転して、パーキングのスポット見つけるのに時間かかるからちょうど10時頃になるかなって思ってたのに、昨日に限ってスポットはすぐに見つかった。10時までまだ20分あった。車の中で待ってたら携帯が鳴る。ふたつ向こうの通りのカフェで待っててって言われた。

雨は降ってなかったけどパティオに座るのはまだ寒くて、中の席に案内してもらう。10時過ぎになってもデイビッドは来ないで、「まだ待ってるの?」ってウェイターのお兄さんにからかわれた。「絶対来てくれるんだから」って言ったのに、やっとやって来たデイビッドにウェイターのお兄さんは「彼女ものすごく心配してたよ」って笑いながら言った。ごはんを食べて、グローサリーストアでアイスクリームを買って帰る。

途中でデイビッドがベースボールハットをお店に置いてきたっていうから、「戻ろうよ」って言って一緒に戻る。交差点の真ん中で急に早足になるデイビッドについてけなくて、ふたつの道路を隔てた植え込みの前のベンチで座って待ってた。隣りにいた男の人が時間を聞いてきた。ベースボールハットを被って戻って来たデイビッドがわたしに向かって言う。
「Hi!  きみ、どっかで会ったことあるね。一緒に来ない?」
「オーケー。でもあたしあなたに会ったことあったっけ?」。
そう言って立ち上がったら、隣りの男の人がびっくりした顔して見てた。

わたしがビートルズの CD をかけたら、Your Mother Should Know の曲のところでいきなりデイビッドがバイオリンを取り出して、ビオラみたいな音を鳴らす。すごく綺麗な音色。ビートルズがこんなふうにバイオリンと合うなんて驚いた。Hello Goodbye も Strawberry Fields Forever も Penny Lane も、それから All You Need Is Love まで、デイビッドはバイオリンを合わせて弾いた。「初めての試み」って笑ってた。All You Need Is Love を、わたしは歌いながら踊ってた。

それからデイビッドはアラビック風の曲を勝手に作って弾きだした。「ベリーダンシングだ」って、わたしはデイビッドのバイオリンに合わせて踊って見せる。デイビッドの即興のアラビック風の曲はとても適当で、でもとてもアラビックで、先生がいないからわたしのベリーダンシングも適当で、でもそれなりにベリーダンシングで、ふたりで大笑いした。

それから今度はギターを弾いて歌を歌ってくれた。18のときに自分が創って友だちが詞を書いた曲とか、デイビッドの住んでるあたりのことを歌った歌とか。「それもあなたが創った曲でしょ?」って言ったら「なんでわかったの?」ってデイビッドは聞いた。だってわかった。曲も歌詞もとてもデイビッドらしかった。とても素敵な歌だった。そういうのたくさん弾いて歌ってくれた。前にくれたデイビッドの CD の中でわたしが一番好きって言った曲も。

楽しかった。わたしはキッチンに行ってふたり分のお茶を入れる。「カフェインの入ってるのはだめだよ、こんな時間に」ってデイビッドが言う。「入ってないよ」「なんでわかるの? どのお茶使ったの?」「入ってないってば」「だからどれ?」。デイビッドったら本気で心配してる。「ミントティ」って言ったら「サンキュー」ってほっぺたにキスしてくれた。誉められた子どもみたいに嬉しかった。


わたしはデイビッドのベッドで眠ってしまった。
デイビッドはわたし用に目覚ましを6時に合わせてくれてて、わたしはひとりで起きて、眠ってるデイビッドのほっぺに「バイ」ってキスして慌てて帰った。

聞けなかった。
聞こうと思ってたけど。
聞けなかった。
わたしがデイビッドのいったい何なのかなんて。


-

友だち - 2003年06月03日(火)

仕事が終わってからアンナのところにバイブル・スタディに行く。今日までにJohn のゴスペルのこのあいだの続きを自分で読んどくことになってたのに、ほんの少ししか進んでなかった。約束の時間よりちょっと早く着いたから、車の中で読む。「聖書は物語みたいだからおもしろいよ」って別れた夫がよく言ってたけど、それがわかった。夢中で読んでた。3章くらい一気に読んだのに、アンナのところで今日はバイブルを読まないで、たくさん話をした。

ジーザスのことがだんだん理解出来てきた。
やっぱり頭で理解することじゃなくて、こころで分かることなんだと思う。
神さまを愛したい。ジーザスをもっと知りたい。


ゆうべ、ブルースから電話があった。
日曜日のことをしきりに謝ってた。「あんなに遅くまできみのアパートにいて、きみに不快な思いさせたんじゃないかと思って」って。それから、「僕はきみの友だちでいたい」って。なんでそんなこと謝るのかも、なんでそんなこと突然言うのかも、全然わかんなかった。わたしのことをとてもかわいいだとかとてもいい子だと思うとか、なんでそう思うかとか、時々わたしの肩抱いたりしてそういうこと言ってたけど、それでわたしが誤解して「友だち以上」を期待するんじゃないかって思ったのかもしれない。そんなことないのに。

それから、教会に来てる人間のみんながみんないい人じゃないんだから気をつけなきゃいけないよ、って、男についてそういうことも言ってた。わたしは「それ、自分のこと言ってるの?」って笑いながら言った。でも確かに、そういうふうに思ってたのは本当だ。教会の人たちはみんなとてもいい人で一番安全だ、って。よく考えれば「いい人の仮面」を一番被りやすい人たちのはずだ。

なんだかよくわかんないけど、そのままおしゃべりしてて、わたしは少しだけデイビッドのことを話してみた。ブルースはカダーとおなじように、彼に聞きなよって言った。「その人のことが好きなのなら、傷つくまえに聞きなよ」って。

ブルースはもう一度、わたしと友だちでいたいって言って、近くに住んでていつでも会えるし、なんかあったり落ち込んだり淋しかったりしたらいつでも電話してくれればいい、僕はきみのことをとても気にかけてるから、いつでもきみのためにいるから、ってそう言った。

ほんとによくわかんなかったけど、なんだか恋人の別れの言葉みたいで条件反射的に少し悲しかった。「友だちでいたい」。似てる。3年前のあの最後の日のあの人の「ずっと友だちでいてくれるでしょう?」にも、カダーの「僕たちはずっと友だちでいられるから」にも、ハンサム・ドクターの「友だちでいよう」にも。いつもとても辛い言葉だった。でももう、友だちでいられることがどんなに大きなことかってわかったのに。

「晩ごはん、またいつでも一緒に食べに行けるでしょう?」。慌ててそう聞いたら「Cool! この次はジャパニーズ・フードだね」ってブルースは言った。


今日帰り際にジェニーに聞いてみたら、ブルースはアンタのことホント好きなんだよって ジェニーは言った。わたしが不快な思いをして自分を避けることを心配してて、だから友だちでいて欲しいって言って、ほかの男のこと警告して。って。ほんとにそうだとしたら、わたしってなんてニブイんだろ。

わたしは避けたりしない。友だちの意味を知ってる。そして、とても気にかけてくれる人がいること、いつでもそこに誰かがいてくれること、それがどんなにたくさんを意味するか知ってる。






-

それならそれで仕方ない - 2003年06月02日(月)

忙しい週末だった。
金曜日はバイブル・スタディに行ったあと、ジェニーと真夜中までお茶飲みに行って、
土曜日はクリエイティブ・メモリーのクラスに行ったあと、教会の仲間とモダン・ジャイブのダンスパーティに行った。全然スウィングっぽくなくて、気に入った。
昨日は教会に行って、夜にブルースが晩ご飯に誘ってくれた。レベッカが住んでるとこの近くで、一度みんなで行ったことあるレストランだった。もうレベッカとずっと会ってない。どうしてるかな。インターン仲間とはもう誰とも会ってないや、最近。

うちまで送ってくれたブルースが、チビたちを見たいって言った。お兄ちゃんチビは男の人が大好きだからブルースにくっつき回る。シャイな妹チビまでなついてる。CD ラックからブルースが好きな CD を自分で選んでかけて、たった一枚持ってる DVD を見つけたブルースがそれを観たいって言った。大好きなオードリーの映画。あの街からここに来るときに、記念に自分に買った映画。

うちの電話が鳴る。カダーがこの近くに来てるってかけてきた。よく行くって言ってたバーにいた。「今友だちが来てて映画一緒に観てるの。まだそこにいるのなら、あとでかける」。そう言って切ったけど、映画が長くてかけ直せずにいて、1時間経ってまたかけてきた。わたしはブルースに、友だちが近くに来てるから出てこいってウルサイのって、どうしてだか he じゃなくて she を使って言った。「いいの、いいの」って言いながら、映画観ておしゃべりしてた。

ブルースは、天使の衣装を着せたらカダーのルームメイトよりずっと似合うと思う。天使の衣装を着た人の学校があったなら、ブルースが生徒会長だと思う。生徒会選挙でだんとつ一位に選ばれたような。そういう人だからか、ほかの人にはあんまり言わない頭の奥のほうで考えては溜めてるるようなことをわたしはいつもブルースに話してる。マジェッドの存在に似てるけど、ブルースはおにいちゃんみたいじゃない。

おしゃべりに夢中で映画はなんとなく観てるだけだった。
カダーはその間も何回か電話をかけてきて、「あとでかけるから」って言うわたしに「いったい何やってんのさ」って訝しげだった。

ブルースが帰る直前にまた電話が鳴る。「2分後にかけるから、絶対」って切ったら、ブルースが「出掛けるなら乗っけてこうか?」って言った。she って言い続けてたけど、絶対 he ってバレてる。別にいいんだけど、なんとなく「生徒会長」には知られたくなかった。


ブルースが帰ってったあとすぐにカダーに電話したら、カダーはうちのすぐ近くまで来てるって言った。ブルースが出てったすぐあとにカダーが入ってくるなんて、人が見てたら何て思うだろうって思った。

「男だろ?」
「そうだよ。教会の友だち。見たの?」
「見てない。こんな時間までいて、寝たの?」
「まさか。友だちだってば。すっごくいい人なの。ときどきごはん食べに行くんだ。」
「好きなの?」
「そういう好きじゃない。」

全部ほんとのことで、だから全然平気で、「このキルト素敵でしょ?」って、絶対カダーは素敵だって言ってくれると思って言って、やっぱりカダーの腕の中は心地よくて、たくさん抱き締めてくれて、いろんなこと話してるうちになんとなく何ももう怖くなくなってきて、そしてわたしはデイビッドのこと話してみた。

好きだけど、どういう好きなのか自分の気持ちも彼の気持ちもわかんないし、いったいどういう関係なのかが一番わかんなくて、どういうつもりでどうなって行くのかもわかんなくて、またセックスしたいだけとかだったら、そういうの、もうイヤなんだ。って。

カダーは真面目に聞いてくれてた。いつからどれくらい会ってるのかとか、電話はくれるのかとか、どのくらいの割合でくれるのかとか、なんかそんなこともわたしに聞いてた。それから言った。ちゃんと話しろよ。彼に聞けよ。きみをガールフレンドにしたいのかどうか、聞きなよ。もしそれで返事が曖昧だったら・・・。その先はわかってた。

「なんで誰もわたしを愛してくれないんだろね」って言ったら泣きそうになった。「そんなこと言うなよ」。カダーはわたしを肩に抱き寄せた。それから、自分は今まで多分誰のことも愛したことがないって言った。

今度会ったときに、カダーに言われた通りにデイビッドに聞いてみようかなって思った。そういうこと聞くともう会えなくさえなりそうな気がして聞けなかったけど、もしも会えなくさえなったってそれならそれで仕方ないやって、なんかそう思った。


そしたらもう、カダーもデイビッドもわたしに true love をくれる人なんかじゃなくて、それならそれで、それも仕方ないやって思った。

ディーナは神さまじゃないから。わたしが自分で神さまの声を待つ。

「聞いてみる。それであなたに話すから聞いてね。返事が曖昧だったら、もう会わないことになったりしたら、泣きに行っていい?」。うちの前でそう言ったら、「ディーラ」ってカダーは笑って手を振って、車を停めてるところに向かってった。教えてくれたばっかりの、「OK」の意味のカダーの国の言葉だった。もう空が明るかった。


-




My追加

 

 

 

 

INDEX
past  will

Mail