天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

イエローキャブ - 2003年03月30日(日)

昨日もまた Dr. チェンと出掛けた。
「明日は踊りに行こうよ」っておととい Dr. チェンが言った。ジェニーはファミリーディナーに出掛けるから来られなかった。Dr. チェンの従兄弟もアーカンソーに帰っちゃったし、「ふたりで踊りに行くってマズイかな」って Dr. チェンが言う。

わたしは全然平気なのに。そういうのっておかしいのかな。
お寿司とかラーメン食べに行くのとどう違うんだろって思うけど。うちまでひとりで遊びにだって行ってるし。

でも Dr. チェンがマズイって思うなら悪いから、やめたほうがいいって思った。だから「だったらやめようよ」って言ったのに、「いや、なんか遊びたい気分だから、行こ」って、結局行くことになった。

一番行きたかったクラブはカバーが高いからやめにした。ふたりとも行ったことないけどいいって評判のとこに行った。地下のダンスフロアはミッドナイトにならなきゃ始まらないから、バーでおしゃべりする。

ここでもジャズのライブがあった。
おとといのとこもライブがすごいって思ったけど、ここはもっとすごかった。キーボードとドラムの人はブナヴェスタ・ソーシャルクラブみたいなおじいさんで、もう体まるごとジャズだった。それもすごいと思ったけど、サキソフォンが、涙が出そうなほどすごかった。

「The girl from Ipanema」が始まって、心臓に羽根が生えたみたいになる。
別に思い出の曲とかそういうんじゃないけど、大好きで大好きで大好きなナンバー。いつ聴いても誰が演っててもどういうアレンジでも、素敵すぎて頭がパーになるくらい。サキソフォンは最高だった。ヒューって言いたくなるほど感動した。器用に動くおにいさんの長い指も最高にセクシーだった。指。わたしが一番男の色気を感じるところ。

隣りでほんとにヒューって言ってる Dr. チェンの指は、丸くて太くて色気なし。
だから全然マズクなんかないのにさ、って思う。

ソファから身を乗り出した体が自然に動く。
「そんな楽しんでくれて嬉しいよ」って、まるで自分のお手柄みたいに Dr. チェンが言う。おとといのジャズ・バーといい、こんな素敵なとこ知ったのは Dr. チェンのおかげかな。あの人絶対連れて来てあげよう。そう思ってた。


地下のダンスフロアはハードウッドで、かかとが上手い具合に滑っていつもより上手に踊れるような気がした。ダンスはやっぱりマジェッドとがいいなって思ったけど、ハイパーになってる Dr. チェンが可笑しくて大笑いしながら踊りまくった。バーもダンスフロアも黒人ばっかで、あまり背の高くない Dr. チェンと4インチのヒール履いてもまだチビのわたしが大きな黒人の人たちに囲まれて、怖いよりなんか安心だった。


おととい Dr. チェンの従兄弟に、アーカンソーに日本人の女の子の知り合いがたくさんいるんだけどみんな黒人のボーイフレンドがいるんだ、なんでだろ? って聞かれた。わざとそういうこと聞くと思ったから、「大きいからでしょ」って答えてやった。日本人の女の子って、ロクなこと言われない。イエローキャブとか。

そのうち、黒人の男とアジア人の若い女の子のカップルを何組か見つけた。日本人かどうかわかんなかったけど、「アーカンソーから来たのかな」って言ったら Dr. チェンがウケてた。


Modjo の「Lady」がかかって、すっごくなつかしかった。あの人に送ってあげた CD。
Dr.チェンが、マジェッドと踊るときみたいにくっついて踊ろうとするから、「No!」って笑って離れる。でもくっついてくる。キスされそうになる。「No!」って、両手で思いっきりガードする。何考えてんの? 酔った勢いったって結婚してるんだよ? マズイって、そういうことだったの? わたしってやっぱりケアレスなのかなって思った。


今日もわたしは仕事だったから、2時にはお店を出る。
夜のシティを運転するのにも慣れて来た。めちゃくちゃに走るイエローキャブの合間を抜けるのも、もう怖くない。あの人をいろんなとこに連れてってあげたい。お昼は地下鉄で、夜は車がいい。

このところ、Dr. チェンと出掛けすぎかもしれない。休暇に行ってた奥さんが今日には帰って来るから、ちょうどいい。避けなきゃなんないようなことになるのはイヤだ。わたしはイエローキャブじゃないよ。まさかわたしのことそんなふうに思ってないとは思うけど。


朝、くたびれてギリギリに起きた。
いつもの場所に指輪がないことに気がついた。ときどき、なんでもない時にスポッと抜けることがあって、何度も失くしかけたやつ。急いでてちゃんと探せなかったから、帰って来てから丁寧に探したけど、見つかんない。ゆうべ踊ってるうちに、スポッと抜けて飛んでったのかもしれない。

悲しい。
悲しくて、カダーに聞いて欲しくなる。


-

にせもののほんとの愛 - 2003年03月28日(金)

お休みだった。
何日か前に車のタイヤがまたパンクしてて、慌てて病院の帰り道にあるガス・ステーションで空気を入れてそのままにしてたのを、修理屋さんに持ってった。側面に穴があいてるから修理してももたないって言われて、新しいタイヤを買うハメになっちゃった。

ニューヨークの道路はひどいって人がよく言うけど、わたしひとりで証明してるような気がする。ついでにオイルチェンジもして、ちょっとした出費になってしまった。

ディーナのところに行った。
何もかも上手く行ってて、わたしはもうすぐ true love とコネクトするってディーナは言う。それがカダーのことならまだ信じられなくて、聞いてみる。

「このあいだあたしのことは愛情の対象じゃないって意味のことまた言われたの。あたし、彼があたしのことを愛するようになるなんて絶対思えない」。

そう言ったら、ディーナは笑いながら「Stupid girl」って言った。
「好きなこと言わせておきなさい。彼が今何を言おうと、あなたが彼に何を言おうと、それからあなたが誰とデートしようと、彼があなたのその人なのよ。そう言ったでしょ?」。

だけどディーナはカダーのことなんか何も知らない。名前さえわたしは言ってない。
それに、誰にも言えないあの人のことはディーナにだって言ってない。愛してるのはあの人なのに、ディーナは知らない。でもあの人のことだけは絶対に言えない。あの人のことは誰にも知られたくないし、誰からも何も言われたくない。

神さまには何もかもわかってるんだろうけど、いいことも悪いこともあの人とのことは何も聞きたくない。わたしが自分だけの力で信じていたい。ずっとこのまま。

もしもカダーがわたしの true love だとしたら、それはそれで素敵だと思う。
true love がどういうことを意味してるのかよくわからないけど、もしも今度はほんとに愛してくれて、たとえほんの少しの間だったとしてもそれが100パーセントの愛だというのなら。

あの人が天使でわたしが天使を愛してること以外、この世界はわたしにとって何もかもにせものなのだから、にせもののほんとの愛があったっておかしくない。


最近 FM でかかり始めた「Ti amo」がいい。
イタリアの古い歌がアップテンポにリミックスされた曲らしい。インターネットで探したら、それが入ってるアルバムを見つけた。イタリアのダンスアルバム。イタリアのだからスペシャルオーダーになってる。電話して聞いてもよかったけど、車に乗って、前のアパートの近くのタワーレコードに探しに行った。フランチェスカがシングルが出てるはずだよって言ってたから。

なかった。

近くに来たから電話してみようかなって思ったけど、金曜日の夜は多分あの3人で飲みに行ってる。だからやめた。

高速の途中で携帯がなる。
Dr. チェンだった。アーカンソーにいる従兄弟が遊びに来てるから、ジェニーと一緒においでよって。バーにでも出掛けようって。

ジェニーに電話したらデート中だった。「行け行け行け。行っておいで」ってジェニーはおもしろそうに言う。「Dr. チェンの従兄弟チェックしに?」「そうそう」。


ソーホーのジャズ・バーに行った。
窓際のテーブルが空いてたけど、ジャズ演奏を近くで見たくて、前のテーブルが空くまで待つことにした。ああいう演奏は近くで見るのがいい。演奏してる人たちの顔を見たい。

エレクトリック・ギターやザイラフォンまで入った、10人のバンドだった。サキソフォンの人たちがフルートも間に吹いてた。昔からフルートが習いたかったんだ、って、この間 Dr. チェンに話してたばかりだった。何の楽器が出来るかって話をしてたとき。「ほらね、ほらね、ジャズのフルートって絶対いいでしょ? あれが習いたいの」って思わず興奮する。ソロのアドリブが入るたびに、バンドの仲間たちが嬉しそうに顔を見合わせて笑ってる。いいなあそういうの、ってこっちまで嬉しくなる。

アルト・サキソフォンを聴くとホーニーな気分になるって Dr. チェンが笑う。
「そうなんだよね。女のオーガズムがどういうのか聞かれると、『アルト・サキソフォン』って答えるの」ってわたしも笑う。

「あなたの曲にサキソフォン使って欲しいな。サキソフォンってエッチだから好きなの」って、ずうーっと前にあの人に言ったことがある。急になつかしくなってグローバー・ワシントン Jr. の新しいアルバムを買ったとき。突然死んじゃったこと知らずにいてそれが最後のアルバムだった。


明日仕事なのに、2時までジャズ聴いてた。楽しかったし、満たされた。


ディーナに会うと、いつもいいことがある。


-

嬉しくて - 2003年03月27日(木)

あの人とたくさん話せた。

携帯代は払ったけど、家の電話の国際電話代を払ってなくて、
うちからかけられなかったって。
仕事場の電話からかけてくれたから、慌てて携帯にかけ直した。

ふつか声聞いてないってだけなのに
嬉しくて嬉しくて、
あの人の声に抱きついた。






-

ダンス・スタジオ - 2003年03月26日(水)

ミッドタウンは車停めるとこに困るよって言ったのに、フランチェスカは自分が運転するからって聞かないで、フランチェスカの車でシティを南に下る。

ラッシュのピークタイムは車と人で溢れてて、おまけに雨が降り出したから全然前に進まない。目的地の周りはやっぱりメーターパーキングなんか空いてやしない。ぐるぐる回って、通りをひとつ外れた2ブロック手前にやっとスポットを見つけた。パーキングアワーは7時まで。そのあとはフリーだけど7時までまだ20分ある。パーキングチケット切りやさんが来ないことにかけることにして、雨の中走った。

お腹が空いて死にそうなフランチェスカのために、目に入ったちょっとおしゃれなチャイニーズレストランに飛び込む。お腹空いてないわたしのほうがたくさん食べた。フランチェスカはいつも小鳥みたいにしか食べないで、そういうのかわいいなあって思う。

雨はひどくなるばかりだったけど、仕方なくお店を出て、また走る。


ダンス・スタジオは、お店と一緒にごちゃごちゃ立ち並ぶ雑居ビルのひとつの3階だった。
ダンス教室に誘ったらフランチェスカは乗ってくれて、今日見学に行ってみることにした。

ふたつあるスタジオの片方で、ラテン・テクニークのクラスをやってた。奥のもうひとつのスタジオはスウィングダンスをやってるっていうから、見に行かなかった。

女の子ばっかだろうなって思ってたのに、10人くらいのラテン・テクニークのクラスは女の子がふたりで、あとはみんな男だった。ラテンのステップとターンの練習を、鏡張りの壁に向かって1列に並んで、みんなすこしも笑わずに真剣な顔してやってる。ひとりの男の子がすっごい下手で、下手なのにリズムだけはちゃんと合ってるのがなんかおもしろかった。

このあいだ電話で聞いたときに、「クラスは週に一回で、70ドル」って言うから1回70ドルだと思ってたら、1ヶ月70ドルだった。週にふたつクラスを取ると1ヶ月110ドル。クラス毎に払うと1回20ドル。これなら安い。1回毎に払うならクラスをスキップしても平気だし。

ラテン・テクニークのクラス見てて、絶対コレはやりたくないって思った。
フランチェスカも「あんなたいくつそうなのヤダ。初めから踊りたい」って言ってくれてほっとした。

水曜日にサルサとメレンゲのクラスがあって、来週から行くことに決めた。
あと、土曜日にベリーダンシングがある。
お尻がなけりゃ踊れないってカダーに笑われたけど、ベリーダンシングやっぱりやりたい。
フランチェスカはブラジリアン・サンバがいいって言ってるけど。


「アンタいつのまにかダンスチームに入ってて『来週の日曜日パフォーマンスに出るから見に来てよ』とか言って、あたし見に行ってたりして」って昨日ジェニーが笑ってた。
「違うよ。ストリップ・ダンサーになってストリップ・バーで踊るから見に来てよ」
「ナイト・ジョブかあ。いいなあ。ソレ本気でしょ。だからベリーダンス習いたいんでしょ」。

フランチェスカに言ったら、ソレいいかもねって真面目に言うからびっくりした。


また雨の中走って、スターバックスでコーヒー買ってから車に戻る。
駐車違反チケットは切られなかったけど、地下鉄で行ったほうがいいことにフランチェスカは納得してくれた。「習い事」なんかうんと昔のヨガ教室以来で、嬉しくなる。



ID は今日も出て来なかった。
明日新しいの作ってもらうしかない。
罰金たったの5ドルだから、そうしよう。


-

ID - 2003年03月25日(火)

病院の ID 失くしちゃった。
昨日の帰り、駐車場で首からぶらさげてる ID ケースの中からパーキング・カードを取り出そうとしたときに気がついた。オフィスに戻って探したけど見つかんなくて、B5 と B4 のフロアのクラークに電話して聞いたけどどこにもないって言われて、「明日になったら出てくるよ」って思ってたのに出て来なかった。

ケースが破れちゃってるのに新しいの買わないでそのまま使ってた。

困った。
悪用される? 悪用しようがないか。あるのかな。
ホスピタル・ポリスのセキュリティに今日リポートしてきたけど。


昨日はジャスティンの CD がつまんないと思った。
失敗かもしれないかなって思いながら注文したけど、期待もしてたのに。
ジャスティン、カッコつけすぎ。頑張りすぎ。背伸びしてる。Rock Your Body も埋もれちゃってるし。*NSYNC の方が思いっきり楽しんでて伸び伸びしてて、生き生きしてる。Dr. チェンは、バックストリート・ボーイズなんかと一緒にしてボーイバンドひっくるめてバカにするけど、*NSYNC はわたしは上手いと思うし好きだから。

そう思ってたけど、今日聴いたら昨日よりよかった。


オーシャン・ブリーズのボディジェルがヤな匂いだった。
買うまえにキャップ開けて匂ってみた時はいい匂いだったのに。
なんかの香水に似てる。ちょっと前に流行って、誰かがつけてるのが匂うたびに鼻つまみたくなってたヤツ。ああ、これも失敗、って今朝シャワー浴びたとき思ってた。

さっきお風呂に入って使ったら、そんなに悪くもなかった。

でもまた途中でお湯がぬるくなっちゃって、寒くて出れずにあわあわの中にいつまでも沈んでた。


今日はロジャーのトレーニングしてて、時間通りに終われなかった。新しく採用された人。4年半もロングターム・ケアで働いてたらしいのに、インターンのスティーブンの方がずっと出来る。忍耐強く教えたけど、ほんとにインターンだったときのわたしくらいにトロい。それは失礼か。でも、ロングターム・ケアはのんびりしてるのかなあって思った。

時間通りに終われなかったからディーナのところに行けなかった。

あの人の携帯も繋がらないまま。


まあいいかな。
ジャスティンも昨日より今日はよかったし、
オーシャン・ブリーズも今朝より今夜はよかったし、
明日は今日よりいいかもしれない。

キョーレツに不味いお料理が、食べてるうちになんか不思議な味で美味しいじゃんって思えてくるときみたいに。

ちょっと違うかな。そこまで悪い日でもなかったかな。


ID、明日は出て来い。


-

SOS - 2003年03月24日(月)

今日から週に3日、仕事の時間が早くなった。
朝の回診がスケジュールに入ったから。
いつもより早く帰れて、ドラッグストアに寄ってボディジェルを買う。いつものラヴェンダーがなくて「オーシャン・ブリーズ」ってのにする。

ラヴェンダーのボディジェルをカダーは好きだった。あのときは、それまでずっと使ってたバラのがお店になくて、それでラヴェンダーにしたんだった。カダーが子どもみたいに「これ、いいね。すっごくいい匂いだね」って何度も言ってて、だからそれからずっとラヴェンダーにしてた。

車を停める場所を見つけるのに時間かかったし、ちょっとその辺りウロウロしてるとすぐいつもの時間になった。早く帰れるのは嬉しいけど、朝がきつくなった分の埋め合わせにはなんないなあって思った。


タワーレコードから CD が届いた。
久しぶりの CD まとめ買い。11枚も買っちゃった。
オンラインで買うとお店で買うより安い。税金もかかんないし、一定の金額越えたら送料フリーになって UPI でセカンドビジネスデイに届く。サンプルも聴けるし、欲しいと思ってる CD があるときにはオンラインで買うのがいいって決めた。CD やさんに行くみたいなエキサイトメントはないし、ジャケットが素敵だから買ってみたら大当たりだった、とか、これなつかしー、とか、セールのワゴンを漁る楽しみとか、サンプルリスニングのコーナーで全然知らないアーティストに一目惚れ、じゃなくて一耳惚れ? とか、そういうのはないけど。

GROOVE ARMADA と india arie がすごくいい。afghan whigs の古いアルバムも red hot chili peppers の新しいのもいい。All I Have はジェニファー・ロペスじゃなくて LL COOL J のアルバムのほうにして正解だった。一番気に入ったのは、リンキン・パークのリアニメーション。ENTH E ND がなつかしい。夏にカダーと車の中でよく聴いた大好きな曲。ラヴェンダーのボディジェルと重なるよ。なつかしい。

ああ、だめじゃん。カダーカダーってばっか。


そんなこと思ってたら、カダーがまた電話をくれた。
シティの友だちのところからの帰りって。
なんでそんな話になっちゃったのか、妙に真面目な愛とか出会いの話題になった。あの頃のわたしとのことを話してたわけじゃない。わたし自身のことを話したわけでもないし、わたしがカダーに聞いたわけでもない。そんなこと、聞くわけない。だけどカダーが言った。

僕だってシリアスな関係を探してるよ。だけどそれは一緒に過ごしてく時間の流れの中で自分の気持ちが決まってくものだろ? 例えば、結婚がしたいなんて思っちゃいないけど、つき合ってく間に愛するようになったら、結婚したいと思うようになるかもしれないし。だけどつき合ってるうちに愛せないと思うかもしれないし。

僕はきみに嘘はつかなかったよ。ロングターム・リレイションシップにはならないよって言っただろ?


そうだったね。
愛せないって言ったんだよね。
「僕は自分が愛せる子を探す」って言ったんだよね。
でもなんで、今日そんなこと言ったの? 
神さまがカダーに言わせたの?
ディーナの言ったことは冗談だよって?

だから、いいのにわたしは。

ただ。
思い出してちょっと淋しくなっちゃったじゃん。


あの人に電話したら、「お客さまの都合により」のテープのおねえさんの声が流れた。


もうさっそくディーナに SOS なのかな、明日・・・。


-

ポジティブな力 - 2003年03月23日(日)

今日も教会に行った。
ジェニーが来られないから今日はひとりで。今日のお話はよくわかんなかった。クリスティアニティをあんなに熱く語られてもわたしにはよくわからない。っていうより、ちょっと拒絶反応を起こしてしまう。

神さまは信じるけど、「自分たちの神さま」が唯一の神だなんてのは、やっぱりわたしには受け付けない。でもゴスペル・ソングを歌うときは気持ちがよかった。日本の教会で歌ってた賛美歌みたいに、何言ってんだかわけわかんないってことがない。

神さまへのメッセージは愛に溢れていて、言葉がとても繊細で、
この人たちはこんなに神さまを愛してるのかって、クワイアの人たちやバンドの人たちや周りの人たちの歌ってる様子を順番に見回しては冷静に観察しながらも、愛でいっぱいの言葉に胸が詰まりそうなほどだった。多くのラブソングの歌詞はゴスペル・ソングの影響を受けてるんじゃないかと思った。

終わってからフランチェスカとオースティンで落ち合う。お天気がいいからどっか行こうよって、昨日電話をくれた。コートも要らないくらい、ぽかぽかとあったかかった。メキシカンのランチを食べて、本屋さんで何時間も過ごす。フランチェスカが薦めてくれた小説を一冊買った。それからアイスクリームやさんで、ピスタチオの大きなサンデーを食べた。不味かった。フランチェスカが注文したピーチとチェリーとシャンペインのサンデーはとってもおいしかったのに。


昨日もやっぱりぽかぽかのお天気だったみたいだけど、ずっとうちにいた。
昨日はわたしの大事な日だった。らしい。ディーナの教会でわたしのために、一ヶ月燃え続ける大きな大きなキャンドルに火が灯されるって。なんだかちょっとオカルトだけど、もうここまで来たら最後までディーナを信じるしかない。朝11時半から正午にかけて、ディーナに言われたことをやった。それだけで疲れてしまって、もう何も出来なかった。

ソレをやってから、ディーナに電話をかける。これも言われてたこと。

これから一ヶ月、ネガティブなエナジーを絶対に引き寄せちゃいけないって言われた。ポジティブな力がしっかり集まるように、素敵なことをたくさんやりなさいって。「今日は何するの?」って聞かれる。何も予定はないって言ったら、お天気がいいんだから何も予定がなくたって外に出て、お散歩して、おいしいランチを食べに行って、お日さまの光をいっぱい浴びてうんと気持ちよくなりなさいって。

でも、一歩も外にすら出られなかった。
だけどたっぷり眠って、夜にはジェニーが電話くれてバカばっかり言って大笑いした。

「誰かの言葉で落ち込んだりすることがあるかもしれない。それでネガティブな気分になったら、すぐにわたしに電話するのよ。すぐにそのネガティブ・エナジーを取り除かなきゃなんないから」。ディーナはそうも言ってた。「またそういうことが起こるの?」ってコワゴワ聞いたら、「あなたはすぐに弱っちゃうから」って言われた。


わかんない。
なるようになれ。
ひとりの力で抜け出す努力をしなくていいってだけで、大丈夫な気がする。

取りあえず、今日はたくさんポジティブな力を集められた。



今はあの人の声を聞いてから眠りたい。


-

世の中のものは全部女の子のためにある - 2003年03月21日(金)

夜中の2時半。
カダーが電話をくれた。
カダーの「Hello」があの人の声に聞こえて、最初わかんなかった。
前にもそういうことがあったなって思い出してた。

ディーナにあんなこと言われてから、カダーにもう自分から電話するのが怖かった。
マジシャン・デイビッドとデートした日にやっぱりカダーに電話したくなったけど。

前話したの、いつだっけ。
一週間以上経ってる。
きみの声が聞きたくなったってカダーは言った。
「なんだ、まだガールフレンド出来ないの?」「まだ出来ないよ」「探してるの?」「いいや。最近忙しいしね。きみはオトコ出来た?」。

ちょっと躊躇ってから言った。
「デートしたんだ」。
「へえ」ってカダーは言った。
それから慌てて、「でもわかんない。ごはん食べただけ。まだよくわかんない。好きにならないように気をつけてるの」って、ほんとのこと言っちゃった。

「僕のことはもう好きじゃない?」
「あなたのことはもう好きじゃないかって?」
「うん」
「好きだよ」
「オーケー」。

また言っちゃった。ほんとのこと。安心されたのがちょっとくやしかったけど、自分もほっとしてしまった。それから、そんなこと聞けるカダーが羨ましかった。

なんか話してよって言う。
ダンス教室に行こうと思ってるんだって話した。
「見つけたの。毎日いろんなダンスのクラスがあって、好きなの選べるの」
「何習いたいの?」
「サルサとかクンビア」
「スパニッシュ? なんで?」
ここじゃあ、スパニッシュ話すラテンアメリカのことをまとめてスパニッシュって言う。
「だって楽しいから。あ、でもベリーダンスも習いたいかな」って笑う。
ミドルイースタンのダンス。お尻が大きくなけりゃサマにならないよベリーダンスは、って笑われた。それからベリーダンスは女の子だけのものなのか聞いたら、「そうだよ。ベリーダンスは女の子のものだし、世の中のものは全部女の子のためにあるのさ」ってカダーは言った。

「女は欲張りだからね。なんでも欲しがる」
「男は違うの?」
「男はシンプルだよ。食べることとセックスがあればいい」。

またそうやってうそぶく。
でもそうかもしれない。綺麗なお洋服も甘いお菓子も幸せな時間も優しい思い出も、夢も愛も約束も安心も、女はいつも欲しがる。多分男よりずっと。だからややこしいんだ。だけど世の中のものが全部女の子のためにあるっていうなら、それはちょっと素敵だと思った。そして欲張りな女の子のために男が上手にマニピュレイトしてくれればいい。実際には女がマニピュレイトする方が、世の中上手く行くように出来てるみたいだけど。男はレイジーだから。そうじゃん。シンプルなんじゃなくて、男はレイジーなんじゃん。


わたしはあの日から神さまにお祈りしてた。
もしももしもディーナの言ったことがほんとなら、
どうかカダーからわたしに電話をかけさせてください。

そしてカダーは電話をくれた。
偶然かもしれない。
だけど、
ぎゅっと握り締めてた風船の糸をほっとして放すみたいに、
翼の傷が癒えた小鳥を空へ返してやるみたいに、
わたしはカダーへの想いを自由に出来た気がした。
神さまを信じて、got free from my over-attachment。
ディーナの言ったことを信じるかどうかは別にして。


「世の中のものは全部女の子のためにある」。
そんな言葉、カダーにしか言えそうにない。ちょっとシニカルで批判的で、なのに隠れてあったかい。わたしを一瞬にして幸せにしてくれるあの人の魔法とは比べものにならないしワケが違うけど、わたしやっぱりそんなカダーの言葉をもっとたくさん聞きたいと思った。

そして、きっとまた聞けると思った。



-

commitment - 2003年03月20日(木)

昨日。
マジシャン・デイビッドとこの前と同じカフェで会う。
わたしはまた顔をはっきり覚えてない。
先に着いたみたいで、ひとりで座ってる人がいないのを確認してから「お席ご案内」係のおねえさんに「あとからひとり来ますから」って言って席に案内してもらう。
しばらくして扉を開けて入ってきたその人をデイビッドだってちゃんと分かって、手を振った。

スクウォシュのグラタンをわたしが注文して、ちょっと頭痛がしてあんまりおなかが空いてないデイビッドがそれを半分食べる。それからりんごとくるみとエンダイヴのサラダを半分コした。デイビッドはわたしのためにホワイトワインを注文してくれて、自分は頭痛のためにコーヒーを注文しながら、わたしのワインを飲んでた。

あんなにあったかくなったばかりだったのに、昨日はまた寒かった。帰り道、デイビッドは手袋してるわたしの手を取って、自分のコートのポケットに入れた。やっぱり5フィート11ないじゃんって思いながら身長聞いたら、5フィート8って言った。

ゲラゲラ笑いながらおしゃべりしてずっと楽しかったけど、わたしデイビッドに恋したりしない。ディーナに言われたからでもなく、5フィート11インチないからでもなく、多分この人もコミティッドな関係なんか求めてないって思ったから。

日曜日には ex-ガールフレンドとニュージャージーまでバイクライディングした話とか、ex-ex-ex-ex-ex-ガールフレンドがドクターで、今度イリーガルにうちで血液検査をしてもらう話とか、そんなことなんでもないふうに聞いてたけど、もしも恋に落ちたらそういうのを受け入れられないに決まってる。


おととい24時間の尿採取を終えて、昨日はまた GYN のドクターのところに行って、
今日はバリウム飲む GI の検査を受けた。エンドウスコーピーでは出来ない小腸の検査のために。
バリウムが気持ち悪くてぶっといストローで目つぶりながらちびちび飲んでたら、「まだ飲んでるの?」って見に来たナースに言われちゃった。日本で昔受けたときみたいに、機械に体をくくりつけられてグルグル回されるのはなかったけど、ピーチ味がつけてあったってバリウムは気持ち悪い。これで吐いたらまた入院じゃんって思ってた。おまけにレントゲン室が寒くて寒くて、バリウムが小腸に届くのを待つ間、コートにくるまって縮こまってた。寒くて涙がポロポロ出た。

検査はお昼には終わったけど、お休み取ってたから帰る。
帰り際にエレベーターホールで Dr. チェンにばったり会う。検査受けに来ただけなんだって言ったら「これからランチに行くんだけど、一緒に来る?」って誘ってくれた。寒気がひどいのと、まだバリウムがおなかの中で気持ち悪いのとで、とても行けなかった。

うちに帰ってベッドに潜り込む。
電話が鳴った。時計を見たら、6時半だった。電話は Dr. チェンだった。
「大丈夫? お昼、気分悪そうだったから」って言ってくれて、「もう大丈夫だよ」って言ったら、ラーメン食べに行こうよって誘われた。

Dr. チェンったら、ほんとに日本の食べ物が好きなんだ。
ミッドタウンのラーメン屋さんに行く。
中はまるで日本だった。日本人のお客さんしかいないし、日本語しか聞こえない。ウエイトレスのおねえさんも、日本語しか話してくれない。わたしはまた緊張して、日本語が喋られない。わたしが人前で日本語が上手く喋られないことが苦痛なのを Dr. チェンは知ってるから、代わりに注文してくれる。ウエイトレスのおねえさんが言ってることもメニューに書いてあることももちろんわたしは分かるから、それを英語で Dr. チェンに説明しながら。メニューは英語でも書いてあったけど、ちょっと意味不明な英語だった。

ラーメンはなつかしくておいしかった。Dr. チェンは日本人のわたしに日本の食べ物のおいしいところを教えてくれるのを得意になってて、「ここならひとりでも来られるだろ?」って言ったけど、あのお店にはひとりでなんか絶対行かないだろうなと思った。

ジェニーは Dr. チェンのことをちょっとだけ心配してるけど、わたしは全然心配してない。スーパー美人な奥さんがぼうやを連れて LA に休暇に行ってるから、ドクターはただたいくつなだけ。スーパー美人な奥さんをもちろん愛してて、今日も自慢してた。


戦争が始まった。
説明も言い訳も意見も滑稽にしか聞こえない。ただ滑稽で気味が悪い。
あんな映像を見て、死んでいく人たちの人数を数字に見て、深刻ぶった顔をして人はまだ何を語りたいのだろう。


-

戸惑い - 2003年03月18日(火)

ディーナのところに行った。
信じなきゃいけないのかな。
ディーナに言われたこと。

カダーはわたしのところに戻ってくるってディーナは言った。
「彼はまだ自分の生活を試行錯誤していて、あなたが彼に必要なその人だということを認識出来ないでいるの。彼の今の複雑な困難が全て解けてしまったときに、彼はそのことに気がつく。今でも彼はあなたのことを想ってる。いつもあなたのことを気にかけてる。ただ、いろんなことが邪魔をして、分からないでいるの。あなたのせいじゃない。これは彼の問題なの。それが解けると、彼はあなたのところに戻って来る」。

びっくりした。
そして、戸惑ってる。

ディーナが言い出したわけじゃない。
わたしがカダーのことを聞いた。
ディーナはしばらく黙ってから、「ほんとは言うべきじゃないんだけど」って、「その時がやって来たときに、あなたに自分でそれを見つけて欲しかったから」って、そう言ってから話してくれた。

わからない。
ただ、戸惑ってる。

カダーがわたしのその人なの?
わたしがカダーのその人なの?
ほんとに?
なんで?

わたしが信じて来たことは、そんなことじゃなかった。
だからそんな時がいつまで経っても来なくったって、わたしはがっかりしない。
それが神さまの決めたことでも、途中で神さまの気が変わるならそれでもいい。
ただ、カダーがもう何にも悩まされることなく幸せになってくれるのなら、その時が来ることだけをカダーのために祈りたい。

全てのことが上手く行く。
わたしの人生も、母も妹も。それから、別れた夫の人生も。
わたしのダークネスは消えて、神さまがこれからわたしを全ての悪いことから守ってくれるから。
わたしは神さまに守られて、わたしの大切な人たちもみんな幸せになれる。
ディーナはそう言った。
そして、ディーナは最後までわたしを助け続けてくれるって。

どうしてわたしのためにそんなことをしてくれるのか、わからない。
ディーナはただ、わたしを救うお手伝いをするようにとそれが神さまに与えられた使命だからって微笑む。
それからこうも言った。

あなたにはこれから色んな出会いがある。
たくさんの人とデートすればいい。
だけど恋に落ちてはだめ。
ほかの誰もあなたの「その人」じゃないから。

わからない。わからない。わからない。
戸惑うばかり。


うちに帰ったら、マジシャン・デイビッドから電話があった。
今から近くまで車で行くから会おうよってデイビッドは言った。
わたしはもうくたびれて、出掛ける気にも会う気にもなれなかった。
明日の夜会うことになった。


今日はカダーのルームメイトのバースデーだった。
おめでとうの電話をかけた。
ルームメイトは相変わらず優しい。
わたしはディーナに言われたことが怖くさえなって、聞いて欲しくなる。
でも言わなかった。
言えるわけない。
誰にも誰にも言えない。





-

春のせいじゃない - 2003年03月17日(月)

昨日から突然あったかくなった。
今日はそのせいか、病院中がウキウキしてた。
セント・パトリック・デーのせいかもしれない。
サイクコンサルタント・ナースのおばさんが全身グリーンのスーツを着て来てた。
この人、バレンタインズ・デーには全身ちっちゃな赤いハートプリントの60ユs 風ワンピース着て来てて、すっごい真面目っぽい人だからジョークでもなさそうでちょっと目が点になりそうだったけど、なんか妙に似合ってた。今日の全身グリーンもちょっとひっくり返りそうになったけど、こういう人、なんか好き。

セント・パトリック・デーの特別メニューで、アイリッシュ・ランチとグリーンのアイシングたっぷり乗っけたカップケーキが出されてた。病気になりそうなグリーン色だったけど、そういうのもなんか嬉しい。

お昼からスタッフ必修の、患者さんのコンフィデンシアリティについてのクラスがあった。行きたくないってまたブツブツ言うジャックを引っ張ってクラスに行く。たいくつな講義だったけどビデオが結構笑えて、文句言ってたジャックも隣りでウケてた。

オーディトリアムのお手洗いは広くて綺麗で、クラスのあと、小学生みたいにみんなでなだれ込む。「こんなお天気いいと仕事したくないー」って言うジェニーに「踊りに行きたい!」ってわたしは洗面所の鏡の前で踊り出す。一緒に踊り出すクリスティーナに「教えて教えて」って、サルサとメレンゲとクンビア、本物のステップちょっと教えてもらっちゃった。仕事中にそれもお手洗いで何やってんだか。


日が長くなって来た。
帰る時間、もう真っ暗じゃない。
なんとなくディーナに会いたくなって、電話してみる。
でもいなかった。

ディーナに会いたくなるのは、決まってちょっと胸が痛くなるとき。
フロアにあがっても足が勝手にステップ踏んでしまうほどウキウキ気分だったのに、一体どうしたんだかわかんない。


インターネットで、シティのダンススタジオでやってるクラス見つけた。
毎日ぎっしり詰まった色んなダンスのクラススケジュール。
行ってみたいな。ダンス習いたい。誰か一緒に行かないかな。
ジェニーは行かないだろうな。
「アンタ頭ん中ダンスばっか」って今日も笑われちゃったし。


あと3週間もすれば、デイライト・セイビング・タイムが始まる。
なんか始めたい。始めなきゃ。
そう思うのは、春が近いせい?
それともまた少し痛いせい?

痛いのはあの人のせいじゃない。
でも、
あの人に会いたくてちょっと泣きそうになってしまう。



-

オーバーアタッチメント - 2003年03月16日(日)

昨日、「ジェニーと一緒に遊びに来ない?」って、夕方、Dr. チェンから電話があった。
ジェニーに電話したけど、学校のアサインメントがたくさんあるから行けないって言われた。どうしようかなって思ったけど、「ひとりでもおいでよ。マギーがいるよ」って Dr. チェンの言葉に乗せられて、ひとりで行った。

マギー可愛い。わたしの顔見て飛びついて興奮して走り回った挙げ句、おしっこしちゃった。仰向けに寝転がったおなかを撫でてあげたら突然。
前に初めて会ったときは抱っこしたわたしの腕でおしっこしてくれちゃって、洋服どぼどぼになって泣き笑いした。ジェニーが「アンタくさい〜」って鼻つまんでたっけ。
マギーほんとに可愛い。あんまりなついてくれて可愛いから、Dr. チェンに写真撮ってもらった。マギーったら片目つぶって、わたしもちょっと可愛く映ってる。あの人に送ってあげたい。

アパーイーストのコンドの23階は、バルコニーからのヴューが素敵だった。シティの高層ビルの合間にひしめく古い背の低いアパートの屋上がゴミだらけで汚くて、それがおもしろい。まっすぐ見下ろすと、ぞーっと気持ちよくなって飛びたくなる。「コワイこと言わないでくれよー」って Dr. チェンに腕引っ張られたけど。

アンゼンチタイのビデオを延々見せられた。ちょっとびっくりした。タマキコウジって、なんかヘナヘナであのクリーピーな化粧とコスチュームしか覚えてなかったけど、すごいミュージシャンじゃん。ライブなのに演奏も歌も全部きちんとしてるし、ギターも上手いし、ジャンルも幅広いし。「年取っても頑張ってる」じゃなくて、「年取ってから磨きがかかった」。そういうことみたい。余裕たっぷりなエネルギッシュさで、とにかく自分たちが楽しんでる。そういうカッコつけない才能っていい。そんな年の取り方っていい。

インタビューとか曲創ってるとことかの場面を英語に訳してあげる。Dr. チャンったらいちいち納得してグレイト・ガイ連発。でも確かによかった。よけいなもの全部そぎ落としてただただシンプルに音楽が好き。音が好き。誰に影響されることもなく感化されることもなく。そんなことすら言わないけど、言わないだけに分かる。いつだったか Dr. チェンが「和製スティング」なんて言ってたのを、まさかって笑って聞いてたけど。スティングのことを「ウェスタン・タマキ」って言ってたんだっけ。でもソレ、ちょっとわかった。わたしはあの人があんなふうに曲創ってるとこ想像してた。

Dr. チェンがわたしの車を運転して、ビレッジにお寿司を食べに行った。前にジェニーと3人で行こうとして閉まってたところ。Dr. チェンはアピタイザーに殻つきウニとモンクフィッシュの肝臓なんか注文する。モンクフィッシュって何だ? わたしの方が知らないんだから。すっごくおいしかった。

戻ってからスターバックスでコーヒー買って、コンドの隣りのお店でラズベリーのタルトを買って、 Dr. チェンちでデザートを食べる。マギーにあげては Dr. チェンに叱られながら。また延々アンゼンチタイ。それから Dr. チェンがハイスクールの頃にやってたバンドのビデオなんか見せられる。髪伸ばしてポニーテールして、笑っちゃった。


今日はジェニーと教会に行った。
アニーの教会じゃなくて、ジェニーが先週初めて行ったってとこ。
やっぱりクワイアが賑やかで、でもアニーの教会のゴスペル・クワイアほどプロフェッショナルじゃなかった。大きな教会で、ものすごくたくさんの人が来てて、今日はわたしはきちんとした格好で行ったけど、今日の教会はみんな普段着だった。牧師さんはやっぱりパワフルで、やっぱりとってもインタラクティブで、そういうのみんな、ジェニーも今まで行ってた教会と全然違うんだって言ってた。

オーバーアタッチメントすると失う、逃げてしまう、って、そういうお話だった。
愛着が強すぎること。思い入れしすぎること。違うな。もっと強い。執着しすぎること。のめり込みすぎることかな。

それだ、わたし。


抱え込もうとしてるもの、離したくないもの、諦められないもの、精神的にも物理的にも肉体的にも求めすぎてるもの、そういう物や人を、怖れずに手放そうとしてみなさい。そこからすこし離れようとしてみなさい。そうしなければ、いつまでも本当の意味でそれらをつかめない。

何も所有しない人は全てのものを所有してるのです。


わたしには出来ないよ。怖くて出来ない。
カダーの心。マジェッドの友情。離したくない離したくないって、もがいてる。
そこから少し離れされてくださいって、神さまにお祈りすることも出来そうにない。
手放すのが怖くて出来ない。
離れてみようとすれば、手放そうとしてみれば、ほんとに失わずに済むんだろうか。ちゃんと保証してくれなきゃ、怖くて出来ないよ。

だけどひとつだけ気がついた。あの人のこと。
いつのまにか、大好きで大好きで苦しくて会いたくて会いたくて泣いてばかりで、そんな毎日が過去になった。手放そうとしたわけじゃないけど、諦めたわけでもないけど、大好きでも苦しくないし会いたくてももう泣かない。会えない距離も時間もほかの理由も知らないうちに受け入れられて、ただ信じてるだけでもう何も求めてない。そして、あの人はちゃんとそのままそこにいて愛を送ってくれてる。

そういうこと?


ジェニーは昨日やっと Dr. アスティアニと話し合ったことを、聞かせてくれた。
「So, everything is fine now?」って聞いたら、顔を赤らめて「I think so」ってジェニーは答えた。思わず微笑んだ。よかった。


わたしは、今日やっとあの人の声が聞けた。


-

the hours - 2003年03月14日(金)

仕事が終わってから、ラヒラとジェニーと3人で映画を観に行く。
ラヒラが選んだ映画館は彼女の家から近いところで、わたしがこの街に越してくる前に、ひとりでアパート探しに来て1週間泊まってたホテルの近くの映画館だった。映画を観る前にごはんを食べに行った。ラヒラがリストアップした中にミドルイースタンのレストランがあって、わたしがそこがいいって言った。


「きみが18で僕は19だったね。覚えてる? ビーチで僕はきみにキスをした。きみはそれは美しかった。ああ、それは素晴らしい朝だった。なんでもない普通の朝だったのにね」

彼はそう言った直後、窓から飛び降りてしまった。

幸せだった日々。
今まで生きて来た中で一番幸せだと思った瞬間。
人は時々そんな過去の時間にとらわれたまま動けない。
今が苦しければ苦しいほど、哀しければ哀しいほど、生きれば生きるほど。
幸せを知っていて、幸せに戻れなくてもう二度と幸せになれないともがいている人たち。

違う時代に違う場所で生きる3人の女性の人生。ヴァージニア・ウルフと、彼女の小説「Mrs. Dollway」にインスパイアされるローラと、「Mrs. Dollway」の現代版クラリサ。それぞれの時代と場所が「Mrs. Dollway」を絡んで交差する構成がよかった。

愛。結婚。同性愛。家族。治らない病。死。過去の幸せ。現在の悲しみ。

ディプレシングな映画だったねえ、ってラヒラはため息をついてジェニーは笑ってさえいたけど、わたしはいいと思った。わたしの人生なんか、大してシンドクもなければ大した悩みもない。だけどヘタすると、わたしだってああいう女性たちの一人になってたかもしれない。幸せだった時に思いを馳せて、幸せだったあの頃のあの街に帰りたかったときがある。

「ああ、なんであんなふうに不幸を決めつけるんだろ」ってジェニーは言った。
誰にも、思い出せば涙が出るよりもまだ切ない幸せだった時間があって、それを振り返ることは多分避けられないし避ける必要もない。だけど振り返ってそこに立ち止まってしまえば、後ろにも前にも進めなくなる。何の望みも持てないまま生き長らえて行くことにすらなりかねない。だから前を向いていたい。今を幸せに生きる術を見つけたい。どんなに時代が巡っても、生きるしんどさは昔も今も変わらない。それを抱えてしまえば、誰にでもいつの時代にでも、おなじこと。

「そういうことだと思ったよ」って言ったけど、たった26年、ぬくもりの中で生きてきたジェニーには死にたいほどの不幸や孤独なんか分からないだろうし、そんなもの分かりたくもないだろうなって思う。そして、死にたくなるほどやり切れない諦めや悲しみなんか経験しないほうがいい。そのまま生きて行ければそれが一番いいに決まってる。

わたしよりうんとたくさん生きて来て、うんとたくさん悲しみを越えて来たラヒラには、きっとあのディプレストな人たちにイライラしたに違いない。

映像も綺麗だった。
それにしてもこの街は、映像の中でなんであんなに素敵に映るんだろう。
好きになりたい。わたしの目にもあんなに魅力的に映るほど。


映画が終わってから、ラヒラんちでコーヒーをごちそうになる。2時までおしゃべりした。ラヒラは「Chicago」が観たくて、もう3週間前に観ちゃったジェニーは絶賛してるけど、わたしはあんまりそそられないなあ。「How to lose a guy in 10 days」が観たい。


朝仕事に出掛ける前に、マジシャン・デイビッドにお誕生日のメッセージを送った。
「Hi David, HAPPY BIRTHDAY!!! Have a great day」って、それだけ。

「Wow. Thank you very much」って、それだけの返事が来た。そういうのがほっとする。


-

急がないで - 2003年03月12日(水)

「そんなのきみに教えたことなんて覚えてないよ。いつ教えた?」
「もうずうーっと前だよ。いつだったか覚えてないけど」。

バースデーパーティに茄子とタヒニのディップを作って持ってった話をした。カダーが教えてくれたレシピだった。
おいしいね、あれ。とっても好評だったんだよ。
そう言ったら、どうやって作ったか始めから言ってごらんよって言う。
茄子をまるごとオーブンで焼くとこから言って、カダーは「そうそう」って返事する。

全部言い終えたとき、カダーがそう言った。

それから、茄子のディップはもうひとつあるんだよって、タヒニを使わない方のヤツを教えてくれた。「今度作ってみるよ。あなたにも作ってあげる。食べたい? 食べに来る?」。

カダーは食べたいって言ったけど、ほんとに来てくれると思わないし、もう「うどん」のときみたいに待ったりしない。でももし来てくれたら、ピタブレッドをたくさん用意して、言わなかったけどマジェッドが教えてくれて作ったきゅうりとヨーグルトのディップも作ってあげようって思った。少しガーリックが多すぎるけどよく出来てるよ、ってマジェッドは合格点をくれた。ヨーグルトは2時間かけて水切りした。マジェッドのレシピにそれはなかったけど。ジェニーは初めて食べるそれを気に入ってくれた。茄子とタヒニのより好きみたいだった。ほかのみんなも、きゅうりとヨーグルトのがおいしいって言ってた。だからほんとは「とっても好評だった」はウソ。でもわたしは、カダーの好きな茄子のディップがとても上手く出来たと思った。


シティからうちに帰る高速のあいだ、ずっとおしゃべりしてくれた。昨日、かけたときには電話は繋がらなくて、少ししてから車からかけ直してくれた。
「胃はもういいの? もう大丈夫なの?」って心配もしてくれた。
「うん、平気。でもこれから検査いっぱいするんだ。金曜日には GYN の検査するの」
「GYN って?」
「要するに、ヴァジャイナ見せるの」
「ヴァジャイナ? プシーの検査? なんでさ?」。
プシーの検査って。
ちょっと違うと思うけど、おもしろいからそういうことにしとく。

カダーはまた、なんでそのかわいい友だち紹介してくれないんだよ、って言う。フランチェスカのこと。フランチェスカみたいないい子、カダーなんかに会わせられない。
「あたしの友だちはみんないい子だからね、あなたに泣かされて欲しくないの。性悪女を見つけたら紹介してあげるよ。ソイツにあなたを泣かせて欲しい」
「I never cry」。
そうなんだ。カダーは強い。悲しいことを寄せ付けない人。悲しいことがあっても、立ち向かえる人。追い払える人。跳ね返せる人。

「僕はそんなに悪い男?」
「そうだよ。悪い男だよ。あなたはほんとは人が持ってない究極に素敵なところがあるのに、絶対それを見せないで悪いとこばっか表に出すの」
「女の子はそういう男が好きなんだよ」
「悪ぶる男? バカな女の子はね」
「女はみんなバカじゃん」
「あたしはバカじゃないよ」
「きみのこと言ってないよ」
「あたしが言ってるの。もうあたしはバカな女じゃないよ」。

あんまりバカすぎて、バカを通り越して、もうそろそろわたしは普通になれる頃かもしれないって、ほんとに思った。もう少し。もう少し。勢いがつくと、くるっと一回転してもとのバカに戻っちゃうから、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり。


メインディッシュはカダーの好きなお魚にしよう、なんて思ってる。
またただの空想で、そんなことが叶わなくったってもうかまわない。


だけど、ずっと信じてきたことに、もうすぐ、もう少しで、届きそうな気がする。
もしもそうなら、神さま、どうか急がないで。
ゆっくりがいい。

このままゆっくり時が過ぎて。



-

- Ai Ga Umareta -.mp3 - 2003年03月11日(火)

久しぶりに ICU と CCU をカバーした。
ドクターが、NGT の患者さんがバイルを100cc以上チューブから吐き出して経管栄養が出来ないって飛んで来て、わたしは急いで TPN を処方する。すぐ経管栄養を始める別の患者さんのために、ドクターに患者さんのコンディション聞きながらその場でフォーミュラを処方してボリュームとレイトを決める。血が騒いだ。あの緊張感が好きだ。一番スペシャルティを発揮出来るフロア。それに、ドクターたちが一番わたしたちの仕事をリスペクトしてくれるところ。

一息ついたドクターが「きみ、何年目?」って聞く。まだ2年経ってないって答えたら「へえ。もっと長いのかと思ってた」って言ってくれた。誉め言葉かな。ちょっと嬉しくなった。インターンのときは ICU があんなに怖かったのに、こんなに成長しました、ってインターンのコーディネーターに報告したくなる。


今日は勝手に時間を1時間短縮して、Dr. ライリーに診てもらいに行く。退院後のフォローアップ。
フィロミーナは「絶対 Cyclic Vomiting Syndrome だよ」って、数年前からリサーチが進んでる病名を言って、4月にニューヨークタイムズに取り上げられてた記事の切り抜きを持って来てくれた。だけど、Dr. ライリーは違うと思うって言った。

明日から少しずつまだ受けてない検査を受ける。消化器系をもう一度徹底的に調べ直して、GYN も全部調べるって。これまでの検査じゃ何も見つかってない。「絶対何かあるはずだから」って、Dr. ライリーったらワクワクしてるみたいだった。血が騒ぐのかな、ドクターもそういうの。

わたしはやっぱりフィロミーナの言うとおり、Cyclic Vomiting Syndrome に近いと自分でも思ってる。フィジカルな因子だけじゃないのは自分が一番よく分かってるから。どっちにしても、体をちゃんと調べてもらうのはいい。パップテストさえ今まで受けたことないくらいだから。


うちに帰ってチェックしたら、Dr. チェンからメールが来てた。おととい電話をくれて、夜中にバカなことばっか3時間もしゃべったばかり。昔の彼女のこと聞かされて、そのリンダって子がすっごいセクシャルで、「え? そんなこともやったの? 20歳の時に? で、どんなだった? どんなだった? ほかにはどんなことやったの?」とか聞いたわたしもわたしだけど、全部事細かに話すドクターもドクター。「もうきみの顔見れないよ。リンダのことは二度と口にしないでよ」って、自分が言い出しといてそんなこと言ってたのに、今日病院でばったり会った。思いっ切り笑っちゃった。「リンダ」って言ってやろうかと思った。

「Just want to say Happy B-day again。この曲は僕からのプレゼントだよ。『Happy Birthday』のとこ以外歌詞の意味はわからないけど、ちゃんとお誕生日に相応しい歌詞であることを願って。Hope you like the song too。」
もう誕生日を4日も過ぎてメッセージと一緒に送ってくれた歌は、もちろんアンゼンチタイ。じゃなくて、タマキコウジかな。

歌詞の意味わかんなくてよかったよ、Dr. チェン。出来れば日本語ちゃんと分かる人から贈られたかったよ。

それはとても甘いメロディーに乗せられた愛する人に捧げるバースデーのお祝いの歌で、それが例え Dr. チェンからのプレゼントでも、それも意味すらわからずに贈ってくれた曲でも、思わず微笑んでしまうほど嬉しくて優しい気持ちになった。


あの人は昨日、ライブが終わるまで電話出来ないって言った。
淋しいなってちょっと暗くなりかけてたけど、幸せな気分になれた。

あの人がくれた曲だったらもっとよかったけど。
あの人が創った曲ならもっとよかったけど。
あの人の曲ならもっと素敵だけど。
ライブ、いいな。聴きに行きたいな。
でも大丈夫。優しい気持ち。幸せな気分。


もったいなくて、誰かに電話したくなった。
「誰か」なんて、うそ。

カダーに電話した。


-

好きになるまで - 2003年03月10日(月)

「ダメになったの」って、おとといジェニーはジャックんちのゲストルームでこっそりわたしに言った。

自分は友情とか愛情とかコミットメントとか信頼とか理解とか支えとかを求めてたのに、彼が欲しかったのはセックスだった、って。「自然の感情だと思うよ、セックスしたいって。それに、それって付いてくるものじゃん」。 あまり思慮のない言い方だったかもしれない。すぐ「まあいいや」って思っちゃうようなわたしなんかと、ジェニーは違うんだ。「あたしはイヤなの。まだ愛し合ってるって確信もないのに。でも分かってくれなかった」。ジェニーはそう言って、「すごく好きなのに」って泣きそうな顔をした。

今日ジェニーは、昨日 Dr. アスティアニから電話があったって言った。きっとかかってくるとわたしは思ってた。Dr. アスティアニは別にセックスだけがしたかったわけじゃない。彼にだって分かって欲しいことがきっとある。「あたし、自分がどういう気持ちになったか、も一度会ってはっきり話す」ってちょっと恐い顔してジェニーは言ったけど、会って話して分かり合えたらいいのにって、ジェニーのためにそう思う。Dr. アスティアニを好きになったジェニーが、ほんとにほんとに可愛かったから。



昨日、自称マジシャンのデイビッドから電話があった。
このあいだ「よけいなことしゃべりしすぎたかな」って思ってたのに、またわたしはたくさんおしゃべりした。「ほかには?」「それから?」って、デイビッドがまるでカダーみたいにわたしのおしゃべりを促すから。デイビッドはわたしの話すことにいちいち笑って、いっぱい話していっぱい笑って楽しかった。「近いうちにまたごはん食べに行こうか。いい?」って聞かれた。「もちろん」って答えた。

たくさん話して、たくさん知ってみよう。
好きになるのはそれからでいい。もしも好きになるのなら。
ホールドバック。ホールドバック。ホールドバック。
すべて神さまが決めてくれるから。


-

男と女の友情 - 2003年03月08日(土)

ジャックんちに30分遅れて着いたら、知らない人がいっぱいいてびっくりした。
ジャックがわたしとマジェッドのバースデーパーティのために、友だちをたくさん招んでくれてた。すっごい賑やかなパーティになった。ジャックの友だちは男の人も女の人もみんなそれは素敵な人たちで、あんなジャックだけどほんとはものすごくいい人間なのかな、なんて思っちゃった。

2時間遅れてマジェッドが来た。来てくれた。

わたしはカードしか用意してなかったのに、マジェッドはわたしにプレゼントをくれた。
四角い箱は重たくて、「目覚まし時計だ」って言ったら、「なんで?」って笑われた。
だって最近お気に入りの目覚まし時計がひとつ壊れちゃったから。
それから、キャンドルかなって思った。
キャンドルだった。ガラスのキャンディ・ジャーの真ん中に入ったブルーのキャンドル。その回りは海になってて、イルカがたくさん泳いでる。瓶の上からも横からも海で泳ぐイルカたちが見える。真ん中のキャンドルがなくなれば新しいのを入れればよくて、海とイルカは永遠にそのままそこにある。キャンディ・ジャーが割れない限り。
綺麗だった。

「気に入った?」
「うん。綺麗だねー。すっごく綺麗」
「イルカ好きだといいけど」
「好きだよ。海大好きだし、イルカもお魚も海藻も、海のものは全部好き。ありがと、マジェッド」。

ほんとに嬉しかった。思いっきり抱きついて、ほっぺたにキスした。

「あたしがキャンドル好きなの、マジェッド知ってくれてたんだよ」って、ジャックに自慢した。なんかすっごい自慢したかった。わたしのアパートにはキャンドルがいっぱいだし、マジェッドのアパートに行ったら必ず一番にダイニングテーブルの上のキャンドルにわたしは灯をつける。だから知ってても当然なんだけど。


もっと嬉しかったのはカード。
多分今までもらったカードの中で一番美しいカードだと思った。
本物のお花と葉っぱがたくさん、和紙のような手法で伸ばした紙の中に埋められてて、それは本物だなんてわからないくらいに、ほんのり淡く紙に溶け込むように姿を見せてる。油絵のような立体感なのに水彩画のような透明さ。柔らかな彩り。リサイクルのあたたかい紙の質感。

それから、カードに書かれた言葉。


きみとしばらく会ってないけど
きみのいろんな表情やしぐさを
僕はしょっちゅう頭に描いてる

最近話もしてないけど
きみの心の声を僕は何度も聞いてる

いい友だちっていうのはきっと、いつも一緒にいることじゃない
離れているときに変わらずに大切だと感じる気持ち
それがいつまでも続く友情の証なんだよ


それはマジェッドの言葉じゃなくて、カードに印刷された誰かの言葉の引用だったけど、そんなカードを選んでくれたマジェッドが嬉しかった。失いたくなかったフレンドシップはちゃんとそこにあった。大事な友だちだと思ってくれてた。いつまでも友だちって思ってくれてた。

わかんないけど。まだわたしがマジェッドに言ったこと誤解してて「ただの友だちだからね」って念を押したかっただけかもしれないし。何度も読んでるわたしに「僕は書いてあること読んでない」って言って笑ったの、うそじゃないのかもしれないし。でも。


パーティの帰りにふたりであのグリーク・バーに踊りに行く。
マジェッドと踊るのは大好き。場所を変えるときにはいつも手を繋いで引っ張ってくれて、恋人みたいにくっついて踊ったり、ときどきぎゅうって抱き締めてくれたり、「恋人みたいでしょ? でも違うんだよ」って、そんなのが楽しいし嬉しい。


マジェッドは明日も仕事があるから、3時頃にお店を出てバイバイした。
「ハッピーバースデー」ってまた言ってくれて、「楽しかった?」って聞いてくれる。

おんなじバースデーを、ずっとずっとお祝いし合いたいね。
近くに居なくなったって、一緒にはお祝い出来なくったって、ずっと絶対忘れないよね。

あのカードの言葉は、男と女の友情だからこそ当てはまるような気がする。
マジェッドの友情、信じたい。



-

You all made my day - 2003年03月07日(金)

明日はジャックんちでバースデーパーティをしてくれる。
わたしとマジェッドのために。

だから昨日久しぶりにマジェッドに電話した。
マジェッドはここ2週間仕事がものすごく忙しくて、土曜日なのに明日も出勤らしい。「ジャックがケーキにあなたの名前も入れるんだから、絶対来なくちゃだめって言ってるよ」って言ったら「なんとか行くようにするよ」って笑ってたけど。

「明日お誕生日おめでとう」
「もう今日になってるよ」
「ほんとだ。12時過ぎてるんだ。じゃあ言い直し。Happy Birthday! 」
「Happy Birthday to you too!」。

バースデーのおめでとうを言ってもらう嬉しさが、そのまま同時に一緒にわかるってなんかおもしろい。嬉しくて「ありがとう」を言いながら、マジェッドの嬉しそうな「ありがとう」を聞いて、また嬉しくなる。

入院してる間に、この間デートした自称マジシャンが「どうしてますか?」ってメールをくれてた。返事のついでに「今日あたしのバースデーなの」って書いたら、ハッピーバースデーの歌をそのまま4行書いた返事が来た。最後に「来週は僕のだよ」って書いて。覚えてる。この人も魚座かあ、って思ったから。

あの人は日付が変わると同時に一番に電話はくれないで、ずっとずっと待ってたけどくれないで、諦めてこっちからかけたら「え? ちゃんと用意して待ってるのに。まだだろ? まだ7日じゃないだろ、そっち?」って、かける時間を間違えてたのか時差を間違えてたのか、一体何をちゃんと用意してくれてたんだか、なんだかバタバタしてるみたいで短い「おめでとう」だけで終わっちゃった。


今日は一日眠ってた。
もう大丈夫と思ってたのに、ぐったり疲れたまんまだった。
お昼休みに病院からみんながハッピーバースデーの電話をくれた。
夕方にはもうすぐ赤ちゃんが生まれるビクトリアが電話をくれた。
夜になってフランチェスカも電話をくれた。せっかくのバースデーだから調子よくなったなら出掛ける? って言ってくれたけど、とてもじゃないけど元気がなくて行けなかった。

入院したこと知らなかった大家さんたちは、帰って来ないわたしのこと心配してたらしい。昨日はそれで奥さんのシャーミンに「なんで知らせてくれなかったの?」って叱られて、そのあと食生活の改善について延々お説教された。それで今日、昨日ジェニーのママが作ってジェニーに持たせてくれたチキンスープをあっためて食べてたら、シャーミンがお花とカードを持って来てくれた。


カダーが電話くれるかなって9時頃まで待ったけど、かかんないからこっちからかけた。
少しおしゃべりしたあと「今日何の日か知ってる?」って聞いたら、「あーっ。しまった。そうだった。電話しようと思ってたのに。そうだった。今日だ」って。覚えてくれてた。マジェッドとおんなじ日だから忘れるはずがない。「マジェッドにも電話してないよ」って笑ってた。

アップステイトに遊びに行く途中で、隣りで誰かがハッピーバースデーを歌ってる。「誰?」って聞いたら、あの携帯電話やさんの友だちの名前を言ってた。家賃が払えたのか聞いたけど、ちょっと低い声でヤーって言うからそれ以上聞かなかった。大丈夫だったのかな。いつでも助けてあげるよって、またそんなこと思ってしまう。

でも、元気そうで嬉しかった。「明日のパーティ、楽しんでおいで」って言ってくれて、嬉しかった。それから最後にまた「Happy Birthday!」って、すごく嬉しかった。嬉しかった。嬉しかった。嬉しかった。

もう国際電話なんかかけられない母と妹にもこっちからかける。
父からメールがある。

あの街のリサもメールをくれて、ボニーは電話をくれた。3時間も話しちゃった。

去年は一番にメールをくれた昔の恋人が、さっきメールをくれた。


それから、一番一番待ってた人から、やっとメールが届いた。
「お誕生日おめでとう」。
たったそれだけだったけど、安心した。
バースデーにもバレンタインズ・デーにもEカードを送ったのに、返事がなかったから心配してた。いつもいつも心配な、別れた夫。よかった。元気でいてくれてますように。


一日うちにいたけど、たくさんおめでとうをもらった。
ほんとに、誕生日はいくつになっても嬉しい。
ありがとう。 You all made my day.


-

入院しちゃった - 2003年03月06日(木)

火曜日のお休みの日、またあの胃痛に襲われて、
慌てて Dr.ライリーのお薬飲んだけど治まらなかった。
そのうち吐き気がして、
吐いたらダメ。吐いたらオシマイだから絶対吐くな。
って必死で自分に言い聞かせたのに、
だめだった。

吐き出したら止まらない。
20回以上吐いちゃって、もう立てなくなって、
やっとの思いで Dr.ライリーにペイジしたらすぐうちにかけ直してくれた。

すぐに ER に来なさい。一人暮らしでしょ? 誰もいないんでしょ?
救急車呼んで。タクシーなんか呼んで待ってたら脱水症状が危険だから、
今すぐ救急車呼びなさい。それから ER ですぐに CT スキャンとソノグラムをする筈だから、それが済んだらすぐに僕にペイジしなさい。

って。

救急車の中でレスキューの人に病院を指定したら叱られた。それでも近くの病院じゃなくてその病院に連れてってもらわなきゃダメなんだって、オエオエ言いながら頑張る。

ER でものたうち回ってげえげえ吐き続けて、CT スキャンのために無理矢理飲まされた溶液も、飲んだ直後に全部戻しちゃった。もう意識モウロウで何してるのかも何されてるのかもわかんない。「GI の Dr.ライリー呼んでください」って必死で何度か言ったのだけ覚えてる。


やってしまった。
自分の働いてる病院で、あんな醜態晒すなんて。
オマケに ER から移された病棟は、わたしの担当フロアの B5。
水曜日の朝。意識が戻って一番に、向かいの病室の B5-15 ってルームナンバーが目に入ったときには唖然とした。予想してなかったわけじゃないけど。

ああ、これだから、絶対吐いちゃだめって必死だったのに。

みんな心配してくれたしすごく優しくしてくれたけど、
醜態晒した上に、
みんなに歳バレちゃったよう。
思い込まれてるまんまの年齢あたりに完ぺきになり切れてたのにな。

ま、いいか。
月曜日に復帰してからもこのままバカでいるしかない。
突然歳相応の大人になんかなれないよ。
っていうか、明日またひとつ「大人になる」ってのにさ。

明日の誕生日。
おとなしくひとりで寝て過ごそ。

誕生日前に退院出来たのが、神さまからのバースデープレゼント。かな。

あの人、日付が変わったらおめでとうコールくれるかな。


-

大間違い - 2003年03月02日(日)

患者さんが手を差し出すからわたしも手を差し伸べたら、手の甲にキスされちゃった。
「ありがとう」って。
そんなの初めて。めちゃくちゃ照れた。
かっこいい患者さんだったし、患者さんと恋に落ちるのもありかな、だめじゃん奥さんいるじゃん、とかまたふわふわとんでもない空想しながら、そのまま次の患者さんの病室に行った。
手洗うの忘れちゃった。基本中の基本なのに。直接触れなきゃいいか、って、キスされた手の甲を白衣のお尻で拭いながら、次の患者さん診る。

すっごい悪態つかれる。手強い女の患者さん。でも診てるうちに普通に話してくれるようになる。わたしって子どもみたいな声だし、なんかぽーっとした喋り方らしいし、だから気が抜けちゃうんだろうな、ガンガン悪態ついてても途中で。最後には「ジュースが飲みたい」って甘えられて、そういうのが嬉しくなる。

ナースステーションに戻って「14-1の担当だれ?」って聞くのに、「あたしじゃないよー」ってそこにいるナースたちに言われて、「患者さんジュース欲しいって。持ってったげてー」って言うのに、担当ナースがいない。メディカルレコードの記入と検査数値のチェックいっぺんにしながら、わたしは手が回らない。「ねえ、誰でもいいから持ってってあげてよー、お願い」って叫んだら、「誰も言うこと聞いてくれないじゃん」ってすぐ後ろで笑い声がする。ドリーンだった。週末の大変なわたしのフロア、助けに来てくれた。

「コレだよ。あたしココでこういう扱いされてんの」ってふざけて言ったら、ナースたちがキャッキャ笑う。こんな忙しい日にからかわないでよ。

ドリーンにほかのフロアの患者さんのリスト渡して、わたしは急いでまた次の患者さんを診に行く。あの患者さん、結局ジュースもらえたのかな。


「最後の週末、アンタと仕事出来てよかったよ」ってドリーンが言ってくれた。
ドリーンは今週末で辞めちゃう。
旦那さんのジョンがアップステイトに新しい仕事を見つけて、ドリーンも新しいとこ見つかった。アップステイトはちっちゃなメグのためにも教育環境がここよりずっといいし、なんといってもドリーンのお父さんがアップステイトに住んでるから、パパとママが仕事から帰って来るまでメグは大好きなおじいちゃんに預かってもらえる。お父さんの援助でお父さんちの近くにコンドミニアムも買った。

去年の暮れは大変だった。ジョンは事業が上手く行かなくてバンクラプトを申告しなきゃいけなくなったし、ドリーンは病気になっちゃうし、メグもケガするし。
今全てのことがいっぺんに上手く行って、ドリーンのためにとっても嬉しい。
一緒に仕事出来なくなるのは淋しいけど、いつでも遊びに行けるもんね。アップステイトはわたしも好きなところ。

ローデスも1月に辞めて別の病院に行っちゃって、ビクトリアは先月から一年間のマタニティー休暇中。でもここには戻って来ないと思う。それから、ジェニーだって別のもっといい病院探してる。

わたしはしばらくこの病院にいるしかない。
淋しくなるばっかだけど、でもいいや。わたしにもきっとその時が来る。いつかそのうち、うんといいチャンスと一緒にね。時は順番に巡って来るものだから。神さまだって忙しい。



さっき約束の時間に電話をかけたら、「明日に日付けが変わったら、一番におめでとうコールしてよ」ってあの人が言う。「忘れたの?」って。
「忘れてないよー。ちゃんと一番に電話して驚かせてあげようと思ってたのに、あなたから言っちゃだめじゃん。だけど日本の今日はまだ3日でしょ?」
「そうだよ。今日は3日だけど、今日の夜には日付けが変わるんだよ?」

「あーっ。あたし間違えてたーっ」。
思わず叫んで、大笑い。
違うの。電話かける日間違えてたんじゃなくて、あの人のお誕生日間違えてた。

明日病院からかけなくちゃ。
いつもより早起きして、仕事の前にコーリングカード買わなくちゃ。
ごめんね、間違えてて。
でも間に合ってよかった。

お詫びに今日は
Happy Birthdayユs Eve!
そんなのないか。




-

スカボロフェア - 2003年03月01日(土)

昨日、明るくなる前に眠って起きたら夜の11時だった。
18時間も眠って、せっかくのお休みの金曜日台無しにしちゃった。

あの人が電話をくれた。
新しいコンピューター買ったから、もうすぐまたメールが出来るようになるよって。
でも仕事場に入れたコンピューターだからスタッフに読まれるって。
「だからヘンなこと書けないよ」って。

「うそ」
って言ったら、なんかものすごいウケてた。
なんでよ。ウケるとこじゃないじゃん。
ずっと、またメール出来るの楽しみに待ってたのに。
ヘンなこといっぱい書きたいよ。

18時間も眠ったせいでそれから眠れなくなって、
そのまま今日仕事に行ったから、また眠たい。

眠たくて頭が働かない。
もうすぐあの人の誕生日だけど、
何曜日の何時に電話したら一番最初におめでとうが言えるのか
さっきからずっと考えてた。

去年はあの人の12時きっかりに電話して、
そしたらあの人レコーディングのミーティング中だったのに電話取ってくれて、
わたし、用意してたどっかのサイトから取ったハッピーバースデーのジャズバージョン急いで聴かせてあげたら、
「めっちゃ嬉しい」ってあの人言ってくれた。

なんであんなこと出来たのかなって考えてて、
思い出した。
国家試験受ける前日の月曜日で、お休み取って勉強してたんだ。
今年は出来ないなあって思ってて、
でも仕事ちょっと抜け出してコーリングカード使って病院の公衆電話から「おめでとう」だけ言おうかなって、
それって何曜日の何時にすればいいんだろうって考えてた。

それでやっと今、嬉しいことに気がついた。
火曜日だ、わたしの。
わたし、お休みだ。明日の出勤の分の。
なんかすごく嬉しい。
すっごいこと発見した気分。
ドキドキする。

このあいだグラミー賞の話したときからずっと、
頭ん中で「スカボロフェア」が回りっぱなし。
「卒業」って映画のサントラに使われたヤツだよって言ったけど、
あの人知らないって言ってた。
初めてあの映画観たときは、
ダスティン・ホフマン好きじゃないし、なんであんなオバサンとああいうことになっちゃうワケ? ってぜんっぜんわけわかんなかったけど、
「スカボロフェア」が大好きだった。

今日は突然ユーミンの「卒業写真」が頭ん中でかかった。
最初から最後まで全部ソラで歌えるほど、ちゃんと覚えてる。
不思議。

それから突然、ランドセルの匂いがした。
ランドセルって、今でも日本の子どもたちは使ってるのかな。
みんなのランドセルはつるっとしててごっつくてしっかりしてたのに、
わたしのはなんか柔らかくてヨレッとしたぺっちゃんこので、みんなのパコーンとしたランドセルが羨ましいなって思ってたっけ。

なんか、中にいくつも仕切とかポケットとかついてて、
ランドセルって便利なのかもしれないなあ、なんて、
ここで背負って歩いたら素敵かもしれない、なんて、
そう、赤いランドセル。流行ったりして。なんて、
眠たい頭でぼーっと考えてた。

3月。
日本はこれから卒業の季節だね。
ランドセルには少し早いけど。
頭ん中が日本。それもずいぶん昔の。

3月。
ここにももうすぐ春が来そうだよ。
週末また降るはずだった大雪は、どっかにそれちゃったらしいし。

3月。
春と一緒にお誕生日迎えるなんて、やっぱり素敵だよね。

スカボロフェア歌ってあげたい。
ちょっと上手に歌えるんだよ。


Are you going to Scarborough Fair?
Parsley, sage, rosemary and thyme
Remember me to one who lives there
She once was a true love of mine



-




My追加

 

 

 

 

INDEX
past  will

Mail