天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

ジェリービーンズが来た - 2002年03月31日(日)

街の中に桜の木なんかないと思ってたら、
病院の周りにあった。
アパートの赤い煉瓦に枝の茶色が紛れて気づかなかった。
ごちゃごちゃうるさく並ぶお店と
足早に歩く朝の人込みと
平気でダブルパーキングしてる車のかたまりに、
細い木が埋もれて気づかなかった。

ぽつりぽつりと、ほんのところどころに浮かぶ小さな白い花。
紛れもなく桜だった。

よく見渡したら、道路の両側に木が並んでる。

ダブルパーキングで塞がれた道路を
ダブル通行する車がいて
それが両車線でそうだから
ダブルのダブルのダブル状態で
対向車にぶつかりそうになってるのにぎゅんぎゅん車は突っ込んで
その合間をまたジェイウォークするような人がいっぱいいて
横断歩道をちゃんと渡ってると思えば信号は赤だし。

そんなところを毎朝運転してたって
一目で分かるはずの桜の木に目をやってるヒマもない。
おまけに、ぽつん、ぽつん、と間を置いたシケた桜並木だし。

でも桜が咲いた。

迷子になった器量の悪いやせっぽちの猫が、か細い声をあげて不安げにこっちを見てるのを見つけたときみたいに、可笑しくて可愛くて可哀相で、泣きそうになってくすっと笑った。

「ミャア」って桜が咲いた。

今日はイースターの日曜日。

春が来た?

そういえばあの人、ジェリービーンズが好きだって言ってた。
子どもみたいで笑っちゃう。
生きてるのかな。大丈夫なのかな。

しょうがないね、子どもみたいなんだから。
電話してみよう。
声聞いたら、たぶんもう怒ったり出来ないよ。そのままずっと。
でも電話してみよう。

春が来たかもしれないしね。


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怒ってる - 2002年03月30日(土)

頭に来た。
初めて、あの人のこと怒った。
悔しくて悲しくて、何考えてるの?って、
すっごい頭に来てる。

ゆうべ同僚と飲みに行って、
気がついたら病院だったって。
親が迎えに来て今帰ってきたって。
しゃべったら吐きそうだから、しゃべられないって。

だからすぐに切ったけど、
わたし怒ってるんだから。

飲みに行ったことなんかじゃないよ。
おしゃべりが出来ないことでもないよ。

なんでそんな子どもみたいな飲み方して、
なんでぶっ倒れて病院なんかに担ぎ込まれてんの?

ボトル2本ひとりで空けちゃうくらい飲むほど、なんかあったの?
あったとしてもなかったとしても、なんでそんなバカなの?

こんな仕事してなかったら、
きっとわたし、怒ってなんかいない。
多分いつもみたいにただ心配して
早く元気になってって、大丈夫だからねって、ただお祈りしてる。

そんなんで病院に担ぎ込まれるような真似、なんでするのよ。
病院ってね、
病院ってね、
そんなバカ診るためにあるんじゃないんだよ。

そりゃあね、ドクターもナースもちゃんとケアしてくれるよ。
わたしだってどんな患者さんにだって、一生懸命だよ。
急性アルコール中毒がどういうことで、どんなふうにそうなって、
どれだけ危険で、
体が元に戻るために自分で何をしなくちゃいけないかも教えてあげるし、
「もうそんな飲み方しちゃだめよ」って優しく言ってもあげるし、
退院出来るまで出来るだけのこと全部してあげるし、
元気になってってくれるの見たら、嬉しいよ。

だけどね、
自分のせいじゃないのに病気になっちゃう人がいっぱいいて、
一生懸命闘ってて、
ついててくれる友だちや家族がどんな思いでいるか知ってる?
知ってるでしょ?
お母さんやおじいちゃんのこと、
自分だってどれだけ心配してた?

そんなこと、なんで自分からしちゃうわけ?
なんでわざわざ自分から病院に担ぎ込まれるようなことして
何みんなに心配かけてんの?
なんでこんな心配させるの?

どうしても避けらずに病気になっちゃった人や事故に遭った人が
毎日毎日たくさん入院しに来て
そういう辛い人たちでいっぱいなんだよ、病院は。

自殺未遂の人とかね、薬を多量に飲み過ぎた人とかね、
そういう人もいるよ。
だけどそういう人だって、苦しみや痛みをどうしても避けられなかったんだよ。

今日だってわたし、そういう患者さんいっぱい診て、
心配する家族の顔いっぱい見て、
ちょっとでも笑顔見せてくれたら「よかった」って思えて、
でも治らない限りそれは100%の笑顔なんかじゃあり得なくて、
ナースステーションに戻るとき胸がチクチクしたりして、
そんな一日終えて帰って来たばっかだったのに。

バカ。
いつもバカってわたし言うけどね、
今日はほんとに心からバカって思ってるんだからね。

明日電話くれても怒んないよ。
あさっても怒んないよ。
まだ苦しかったら優しくしてあげるよ。
だけどちゃんと元気になったとき、
わたし、怒るからね。
めちゃくちゃ怒るからね。
今だって、めちゃくちゃ怒ってるんだから。


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ずっと伝えたかったこと - 2002年03月29日(金)

ここは桜が咲くどころか、桜の木さえないところです。
桜のお花見は植物園に行くんだよ。サイテー。
去年行ったけどさ、日本語で「桜祭り」とかって入り口のとこに書いてあんの。サイテー。
お花が咲かないかわいそうな都会です。
花も咲かないような街が、なんで世界の中心地なんて言えるんだか。

それでもアパートの窓の下に、たんぽぽと水仙がやっと咲きました。

あの街は3月の初めから4月の終わりまで、いろんな種類の桜が順番にずうっと咲き続けるの。
もう街中、至るところだよ。色も形も大きさも全然違うのが、ほんっと次々と咲き乱れるの。涙が出るくらい綺麗。車や道路に花びらが雪みたいに積もるんだ。都会の中でだよ。「お花見」なんてのない。だって毎日がお花見だもん。

来週の週末にはそれが見られる。街中に溢れる木蓮もサルスベリもはなみずきも見られる。
そうそう、チケット見つかったしね。


子どもがいるから離婚出来ないってよく聞くじゃない?
子どもの幸せ考えたらって。
だけどさ、思うんだよね。
じゃあ子どもがいるのに離婚した人は子どもの幸せ考えてないのかって。
考えてるよね。ものすごく考えてるよね。それでも離婚しなきゃいけないから離婚するんだよね。だからよけいに、離婚を考え始めたときも離婚するときもしたあとも、めちゃくちゃ苦しいんだよね。

自分を守ってくれる親が幸せなことが、子どもにとって幸せなんじゃないの?
両親が別々のとこにいたって、自分にはたったひとりずつしかお父さんとお母さんはいなくて、それぞれが幸せでいてくれれば、子どもは幸せになれるんじゃないの?

わたし、上手くいってないくせに仲のいい夫婦装ってるような両親に育てられて、「家族の大切さ」とかってわざわざ言葉にしなきゃそれを教えられないような父親に毎年白々しい家族旅行に連れて行かれて、嫌で嫌でみじめで恥ずかしくて、離婚したらいいのにって子どものときから思ってた。

それからわたしは早く結婚してうち出たいって思うようになったけど、妹なんかそんな両親見てるのが我慢出来なくて、中学のときに家出しちゃっておかしくなった。

「子どもの幸せ考えてない親がどこにいる」「家族の繋がりより大事なものがほかにあるか」ってほざいてた父親がさ、妹をめちゃくちゃにして今じゃほったらかしだよ。

わたしね、親が離婚してても幸せな子どもたちいっぱい知ってるよ。
一緒に暮らしてるお母さんに恋人がいて、その人は「ママのボーイフレンド」で、自分を大事にしてくれる大きな友だちで、週末には遠くにいるお父さんに嬉しそうに会いにいって、そこにはお父さんと新しい奥さんの子どもがいて、「あたしのステップシスターがね」って帰ってきたら話してくれて。ってそういうの。

ここじゃそんなの普通だけどさ、ここだからそうなんだって思う?
そりゃあそういうのも確かにあるけど、その子たちだって両親が離婚したときはものすごく傷ついたし寂しかったんだよ。でも、子どもだってちゃんと乗り越えられるんだって思った。お母さんもお父さんもふたりが一緒にいたときより幸せなのを、子ども心にちゃんと感じ取るからじゃない?


何が言いたかったのかっていうとね、いつも思ってたことなんだけどね、
貴女が想っちゃったような、そんな幸せが来ることを、わたしは信じてるってこと。

今貴女が暮らしてる場所の、キッチンに彼が当たり前のように立ってお料理してたり、リビングルームのソファに彼が当たり前のように座って笑ってたり。
そんな彼に貴女の子どもたちが、貴女に言えないこと相談しに行ったりしてさ。
そうだなあ、何て呼ぶのかなあ。「おにいちゃん」? 「おじさん」? 
わたしとしては、貴女が彼を呼ぶのとおんなじに呼ぶのがいいな。

「子どもたちまでは抱えられないよ」って言ってた彼だけど、今は違うような気がする。
それにさ、抱えようとしなくたっていいじゃん。
だってお父さんになんか、どうしたってなれないんだから。
貴女が彼と結婚したってさ、お父さんじゃなくたって当たり前じゃん。
お父さんは別のとこに、たったひとりしかいないんだもの。
「お母さんの恋人」が「僕たちのステップファーザー」になって、「新しいお父さん」なんかじゃないんだよ。それでいいじゃん。それが素敵じゃん。
貴女なら子どもたちをそんなふうに幸せにしてあげられるよ。彼と一緒に。

日本じゃそんなの無理?
そんなことないよ。誰かが始めてそういうのが増えたら、そのうちそれが普通になるんだって。日本ってそういうとこじゃない? そしたらほかの貴女みたいな人、みんな幸せになれるんだよ。 
始めちゃえ。それで、「わたしが第一人者です」って自慢しちゃえ。
だめなの? わたしっておかしい? 


わたしのこと、いつも心配してくれてありがとうね。
このあいだからさ、短い電話のたんびに「キライ」とか「バカ」とか「あたし、キスなんかしてやんない」とか言って切ってやってたんだけどさ、

昨日また言っちゃったよ。「大好きよ」って。
貴女のせいだよ。

そういうわけで、貴女にどうしても伝えたくなったのです。


バースデーのプレゼント、彼喜んでくれましたか?
ちょっと遅いけど、わたしからもおめでとうって伝えてください。

これ、一応手紙のつもりです。


かしこ







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獣医さんに行く - 2002年03月27日(水)

お休み。
チビたちを予防接種に連れて行った。
ここに来てから初めて獣医さんに行く。

ケイジに無理矢理押し込まれたチビたちが、何事が起こるのかって顔で、
お行儀よくふたり並んで縮こまってる。
ここに連れて来たときは、隅っこにふたりでまるまったらケイジにずいぶん余裕があった。もう今はふたりでいっぱいいっぱいになってる。

「大丈夫だよ。注射に行くだけだよ。どこにも置いて来たりしないから」。

心配そうな顔にそう何度も言いながら、重たいケイジを車に乗っける。
ごめんね。でもね、来週の週末からはアニマル・インにお泊まりなんだよ。
ふたり一緒だから、淋しくないよね。大丈夫だよね。

ほんとはあの街にチビたちも連れて行きたいけど、
5時間のフライトをまた荷物と一緒に真っ暗なカーゴに入れられるのは可哀相すぎる。
一週間後にまた5時間かけて帰ってくるのもチビたちの体に負担がかかりすぎる。
向こうじゃエミリアんちに泊めてもらうのに、「ねこたちも一緒に泊めて」とは言えなかったし。

ずっと前に一度下見に行ったアニマル・インは、とてもいいところだった。
おんぼろな、シェルターみたいなとこだったけど、スタッフの人たちがとても暖かかった。動物をほんとに愛してる人は、わかる。それに、おんぼろだけど清潔だったし、ちゃんとプロフェッショナルに動物を扱ってた。ここなら信頼出来るって思った。

獣医さんも暖かかった。腕のいい獣医さんは、チビたちの方がわかる。反応で示す。腕がよくても悪くても、獣医さんはみんな暖かいとは思うけど、動物は自分の体を預けて間違いない相手を本能的に選ぶような気がする。

久しぶりの獣医さんは、動物病院の匂いがなつかしかった。
お薬と消毒液と餌と動物の匂いが混ざって、それがなんとも言えないいい匂いなのは、そこで働く人たちが作る独特の空気のせいだと思う。
ドクターの手はとても人間の手とは思えないほどに、上手に器用になめらかにチビたちを扱った。それはほんとに魔法使いの手みたいだった。優しい魔法使いの手にかかって、チビたちが目を線にして躯をしならせる。

人間相手のドクターとは違うなあって、そう思った。
人間のドクターが人間を好きだとはあまり思えない。

帰り道にあるアニマル・インに寄る。
予約を確かめて、チビたちに「ここにお泊まりするんだよ」って見せるために。

大丈夫かな。大丈夫かな。ふたりともこんなに甘えんぼなのに。
わたしが心配しちゃだめ。そう思うけど、少し心細くなる。

そしてあの街に行くことが、心細くなる。

何が心細いんだろう。
なんで心細いんだろう。
わかんない。
きっとほかに理由があるんだ。
ほかにもっと心細いことがあるんだ。

「プルッ」をやっとつかまえて、今日もひとことだけの電話だった。


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蝶々の誘惑 - 2002年03月26日(火)

蝶々を追いかける。
追いかけて掴まえる。
怪しげな音楽が流れる。
子どもの笑い声が聞こえる。

蝶々を追いかける。
ひたすら追いかける。
ひたすら追いかけて掴まえる。

蝶々は増える。
どんどん増える。
挑発されて追いかける。
狂ったように掴まえる。

わたしはおかしな気分になる。


電話がプルッと鳴った。
間を置いて、またプルッと鳴る。
このあいだとおんなじだ。
途切れ途切れのプルッが続いて、やっとそのひとつに飛びついたら、
あの人の声がした。
今日もそうだと思った。
けれども今日は2回っきりでプルッは終わって、
掴まえ損ねた。
こっちからかけてみる。
「今? かけてないよ。ゆうべ留守電入れたけど。聞いてくれた?」。
留守電はまた入ってなかった。
ほかの人からの電話はちゃんと鳴ってたのに、
今日のプルッはほかの誰かからだったんだ。
留守電も電話も、壊れてしまったかもしれない。

「ごめん。今ものすごく急いでるから。明日電話する」。

置いてきぼりにされて、
わたしはまたひとり蝶々を掴まえに行く。

緋色の蝶。鶸色の蝶。芥子色の蝶。藍色の蝶。空色の蝶。
陰鬱なのにリズミカルで、アップビートなのに重圧で、不調和なのにハーモニアスな、
音と旋律が交差しては重なり合っては押し寄せる。
気が触れた大人の泣き叫びのような、子どもの笑い声が、やまない。

蝶々は美しく美しく美しく、
わたしは追いかけて追いかけて追いかけて、

おかしな気分になる。

コーナーヒーターから熱い空気がゆらゆらのぼる。
外は雨。

あの人の声が、優しいのにつれなくて、
狂おしい。

苛めないで苛めないで。苛めて。
怒らないで怒らないで。怒って。
優しくしないで優しくしないで。優しくして。

あの人が微笑んでる。
くちびるの両端をあげて、鋭い目をして、微笑んでる。

掴まえた小さな蝶々が手のひらから消えて、
わたしはその手で自分を抱きしめる。

あの人が何か言ってる。
わたしを見つめる目を、目を閉じながら見つめ返す。
わたしは言われたとおりにする。
連れて行って連れて行って。あなたと一緒に行きたい。
目を閉じながら目を閉じる。
狂おしい声が遠のいて行く。
もう聞こえない。もう何も見えない。

春はまだ遠いのに、わたしは蝶々を追いかけて、
あの人は遠すぎて、わたしは手を伸ばせない。

手を伸ばせないまま、
ひとりで墜ちていく。




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アーモンドティー、ごちそうしてあげる - 2002年03月24日(日)

大掃除した。
っていっても、いつもはまあるく掃除機かけてるのを、
今日は隅々まできちんと掃除したっていうだけ。

でも、ほんとに隅々まで、ちっちゃい方のバキュームのホース使って、
ていねいに掃除した。

バスルームもキッチンの床も磨いた。

すっきりした。
きれいになって、さっぱりした。
気持ちいい。

気持ちいいけど、お掃除終わったらすることなくなって、
時間を持て余す。

また余計なこと考えそうだから、
ちょっと早いけど晩ご飯を作った。

オリーブオイルでガーリックと赤唐辛子を炒めて、
ブラックオリーブを薄くスライスしたのと、バジルとオレガノと一緒に、
茹でたてのパスタにからめる。

レモンと黒胡椒と乾燥パセリとカノーラオイルでドレッシング作って、
グリーンペパーとトマトのサラダを作る。

フードプロセッサーで、苺ミルクを作る。

きれい、きれい。彩りがきれい。
ピカピカになったテーブルに並べて、ひとりで食べる。
味気ない。

食後にアーモンドティーを入れて、ひとりで飲む。
味気ない。


10時頃、突然自分の手が電話を取って、指が勝手に15桁の数字を押す。
かけないって決めたのに。
あの人が眠そうな声で、「留守電聞いてくれたの?」って言った。
「留守電? 入ってなかったよ。」
「あれー? 入れたのに、こっちの朝7時頃。どっか行ってるのかなと思って、またかけるよって。」

最近留守電の調子がおかしいみたい。この間もそうだった。
それより、うちにいたけど電話なんか鳴ってないよ? 掃除機かけてて聞こえなかったのかな。ゴミ捨てに行ったときかな。

「どっか行ってた?」って聞くから、「デート。今帰って来たの」ってまたしょうもない嘘つく。 
デートって何したの? 決まってるじゃん、コドモのデートじゃないんだからさ、オトナのデートだよ。 ヤラシ。やったの? いいじゃん別に。好きじゃないもん。 よくないよ。よけい悪いよ。

「あたしがまた誰かとデートしても、あたしのこと好き?」
「好きに決まってるじゃん。」
「誰かのこと好きになっても?」
「うん。」
「あなたのこと嫌いになっても?」
「試しに言ってみなよ。」
「なんて?」
「僕のこと嫌いって。」
「『あなたなんか嫌い』。」
「僕は好きだよ。僕は好きだからずっと電話する。」

明日の夜に電話くれるって言ってなかった?  そうだっけか。ずっと2時間くらいしか寝てなくてさ、今日やっと時間出来たからゆっくり寝ようと思って。それでその前にきみに電話したくなった。


ねえねえ、勝手に電話かけちゃったのは、わたしの中の誰かでしょ?
声も聞けなくなる日のこと、今から準備するって言ったくせにさ、
電話代払えなくなること口実に、もう電話もかけさせてくれなかったくれにさ、
自分からたまらなくなってかけちゃってるじゃん。
あの人が電話くれたのも、アンタだけ知ってたんでしょ?
留守電もアンタには聞こえたんでしょ?
ほらね、自分だって準備なんか出来ないじゃん。 

きれいになったお部屋、気持ちいいね。
ほんとに気持ちいいね。
アーモンドティー、もう一杯ごちそうしてあげるよ、わたしの中の誰かさん。


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見つかった - 2002年03月23日(土)

髪をやっと切りに行った。
予約の時間よりずいぶん早く着いて、時間潰しに久しぶりの街を歩く。
大好きなお店をのぞいたら、あったあった。
Paul & Emilie の、アリシア・キーズみたいなひらひらのシャツ。
いっぱいあった。
どれもかわいい。どれもわたしに似合いそう。嬉しくなって、買いもしないのにいろいろ手に取る。パンツやスカートまで合わせて選んで、鏡の前に立つ。今年の春・夏は「ロマンティック&フェミニン」らしい。わたしにぴったり。なんて。でもやっぱり買えない。節約。

美容師のフランクに、今日はいろいろ注文した。「はいはい」って言いながら、「でもここはこうだからこういうふうにしてみるね」とか教えてくれながら、相変わらず予想以上の髪にしてくれる。いい気分で車のオイル交換に行ったら、エアフィルターとトランスミッションオイルも換えなくちゃいけないって言う。

「ほんとに換えなくちゃいけないの?」って聞くと、「ほんとに換えなくちゃいけない」って言う。エアフィルター見せてもらったら確かに汚れてたけど、ほんとに換えなくちゃいけない程度なのかどうか、わたしにはわかんない。「女だからと思って騙そうとしてない?」って聞いたら、当然だけど「そんなことするもんか」って言う。

前の街じゃあ絶対なかったのに、ここじゃそういうのがよくある。よくわかってないのがほんとはいけないんだけど、ここに来たときから、特に車のメインテナンスには「気をつけなさい」ってみんなに言われて来た。「女だから」って足元見るらしい。そういうとこが、この街嫌いだ。

毎日高速がんがん飛ばしてるから換えといた方が無難なのかなって、結局言われた通りにしたけど、こういうときつくづく思う。もっとかしこくならなくちゃ、ひとりで上手に生きてけない。

ワイパーが壊れてることも指摘されて、「ああ、そうだった」って思い出す。それは前から直さなきゃって思ってたけど、「いつも行くオートパーツやさんで買うから、いい」って言った。そしたら半額にしてくれて、おまけにすぐにつけ直してくれた。これだけはちょっとラッキーって思った。でも要するに、それだけいいかげんってこと。

友だちが誕生日にくれた GAP のギフトカード、使おうかなって思った。
GAP body で下着を買った。コットンの総レース編みのブラとパンティ。コットンの総レース編みって、去年の夏によくドレスを見かけた。ピチピチに体にフィットして、ノーブラで歩く黒人の人がかっこいいって思ってた。「ロマンティック&フェミニン」だから、今年はそういうののキャミソールとかもいっぱいお店で見る。買ったラズベリー色のブラも、それだけで歩けそう。しないけどさ、そんなこと。

ついでにアン・テイラーでドレスを見る。でもやっぱり買わない。節約。
ボニーの結婚式には、グレーのロングのシルクのキャミソールドレスに真珠のネックレスを短く3連にして付けて、白いショートのレースの手袋と白い華奢なサンダルに決めた。新しいもの買わなくて済む。


帰りの車の中で思い当たる場所があって、うちに帰ってすぐチケットを探す。
旅行代理店の名前と車の保険やさんの名前がそっくりで、FedEx の封筒から落ちたヤツをもしかしたら保険の請求書の封筒と間違えて、請求書入れのラックに入れたかもしれないって思った。

大正解。
あった。
それだった。

ひとりで大騒ぎした自分がものすごく恥ずかしい。
ドリーン以外に誰にも言ってなくてよかった。
おまけに封筒は茶色じゃなくて白だった。


あの人から月曜の夜まで電話はない。電話代を払えなくなりそうだから、こっちからはかけられない。相変わらず忙しいあの人を、もう電話で追いかけ回して困らせなくて済むから、ちょうどいい。そういうことにしよう。

明日は大掃除しよう。
泣かない。泣かない。淋しがらない。
あの人の写真のファイルを開けて、顔を見る。
この写真も、もうすぐ一年前のになるよ。





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もうすぐイースター - 2002年03月22日(金)

ミーティングルームのドアを閉めて、こっそりバージニアに電話する。
今日のおねえさんはハスキーな声が素敵な、やっぱり優しい人だった。
航空会社にすぐに問い合わせてくれて、その間待つ。
ケニー・G の曲が延々と流れてて、最初はなつかしいなあって聴いてたけど、だんだん気が狂いそうになってくる。40分くらい待たされた。

やっと聞いた答えは、出発時に空港のチケットカウンターで、50ドルの手数料と正規の航空券代を全額払う・・・。って、そこまで聞いてわたしはおねえさんの言葉を遮る。
「どうして? だって、チケットはちゃんと発券されててわたしはお金も払ってて、席だってもう確保してるのに、なんでまた全額払わなきゃいけないの? 正規の金額っていくらですか? それに全額払うのに、その上手数料って・・・」
「待って。落ち着いて落ち着いて。ちゃんと最後まで聞いてください。チケットカウンターで全額払うけど、それは全額戻ってくるんです。そのために手続きをして、その手数料の50ドル以外はちゃんと戻ってくるんです。」

それからおねえさんは、続けた。
「でもまだ日にちがあるんだから、チケット探してください。見つかるかもしれないでしょ? よくあることなんですって」。

そうだった。探さなきゃ。どっちにしても、最悪の予想ははずれてくれた。500ドルのチケット、パーになっちゃったらどうしようって思ってたから。

朝、「チケット失くしちゃった」って言ったら、びっくりしたドリーンが「家が火事になったって電話しなよ。そしたら再発券してくれるって」って言った。いきなりよくそんな発想出来るなあって感心した。そういう手があったんだ。「あたし、失くしたってもう言っちゃったよ」「バカだねー」。だけどよく考えたらさ、家が火事になっちゃったら、旅行なんかしてる場合じゃないじゃん。

ちょっと安心した。代理店のおねえさんは、今日の人もほんとに親切だった。
「ここが一番安くてサービスがいいんだよ」って、ドクターが休暇の行き先探してたサイトだった。もうそんなに落ち込まないで済んだのはドクターのおかげだよ。なんて思っていい?

あの街から帰って来た頃にチケット見つかったりしたら、50ドル分笑い話にしちゃお。


日が長くなった。病院を出るとき、まだ明るい。
もうすぐイースターがやってくる。
それが終わったら、デイライトセービングタイムが始まる。
国じゅうの時計が1時間進む夜中の2時ごろ、わたしはあの街の空港に降りる。
ここと3時間時差があるから、わたしは自分の時計を2時間分戻すことになる。

あの人がわたしに彼女と結婚するって言ったのは、ちょうど去年のその頃だった。
あの人に、わたしからのイースターバニーのカードが届いた少しあと。
彼女のことなんか気にしないで、幸せでいられたあの頃。
「きみと電話してると、ほんとに時間がすぐに経つよ」ってあの人がいつも言って、恋人同士みたいに楽しかったのに。

電話を握ってた手の力が抜けて、それでもあの人の声を探りながら、わたしはベッドに突っ伏して泣いた。気が遠くなりそうだった。
「わかるよ、気が遠くなりそうって。泣いていいよ。気が済むまで泣けばいいよ。ずっとここにいてあげるから」。
「なんでそばにいてくれないの? そばにいて抱きしめてて。抱きしめてて」。そう言いながら、いつまでも声をあげて泣いてた。遅刻しそうなのに、あの人はずっと電話の向こうにいてくれた。

だけどイースターは嫌いにならない。
春の訪れをお祝いする、あたたかくて幸せな、大好きなお祭り。
嫌いになんかなりたくない。

そしてその次の日曜日、自分の時計を2時間戻したらわたしはあの街。
夏時間の始まりを、あの街で過ごせるなんて最高だね。

帰って来たら、あの人との時差が1時間縮まる。


イースター、イースター、
あの頃の幸せを連れ戻してなんて言わないから、
新しい春と一緒に、去年よりもう少しだけ優しい時間を連れてきて。

それから、まだ見つからない飛行機のチケットも。



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失くしちゃったよ - 2002年03月21日(木)

信じられない。
チケット失くした。飛行機の。ボニーの結婚式に行くヤツ。あの街に帰るヤツ。

なんで?
茶色い封筒に入ってて、それがFedEx の封筒に入ってて、わたし、FedEx の封筒は開けたけど、そっから茶色い封筒出してないのに。
まだ封も切ってなくて、FedEx の封筒に入れたまま置いといたはずなのに。

初めから思い出してみる。
不在配達通知が来てたから、土曜日に取りに行って、帰りに買い物するから車のグラブコンパートメントにFedEx の封筒ごと入れて、それからアパートに戻るとき、そのまま車の中に置いて来ちゃって、すぐに取りに行かずに日曜日に車に取りに行って。

そのとき入ってたよ?
ちゃんと FedEx の封筒の中に、茶色い封筒入ってた。
と思う。

うちに入って無造作に FedEx の封筒を本棚の上に置いて、それからずっとほったらかしてた。チケットの確認もしないで。
今日やっと、確認でもしとこうかな、なんてのんびり構えてたら、ない。
まだ見てもいないチケット、ない。

あの人から電話があるかもしれないのに、めちゃくちゃ焦ってたから代理店に電話した。

ものすごく優しい声の優しいおねえさんが優しく応対してくれて、
男だったらこんなヒト、
声と話し方と優しい応対だけで好きになるかもしれない。
焦ってるくせに暢気にそんなこと思った。

航空会社の規定によって紛失したチケットの対処の仕方が違うらしい。
すぐに航空会社に電話してくれたけど、もう時間が終わってて、情報得られなかった。

航空会社のカスタマーサービスの番号を教えてくれたけど、
それとも明日もう一度ビジネスアワー内に電話してくれたら、そのときにこちらから問い合わせますよ、どっちがいいですか?
って優しい声で優しく聞いてくれるから、そうしてもらうことにした。

わたしが電話するよりも、代理店が電話したほうが、航空会社が特別な処置を施してくれるかもしれない。
なんてちょっと思ったりもしたし。

ビジネスアワーを聞いたけど、ネットでチケット買ったから、その代理店どこにあるのかわかんなくて、
「えっと、時差はあるんですか?」
って聞いたら
「ここはバージニアですよ」。
「じゃあ時差ないですよね。ここ今9時12分なんですけど。」
「こちらも9時12分ですよ」。
あははははって笑ったら、おねえさんがうふふふふって笑った。

ああ、ほんとに優しいおねえさんだった。よかった。

なんて安心してる場合じゃないこと思い出して、
今、めちゃくちゃめちゃくちゃ落ち込んでる。

どうしよう? 
明日もいちど、うちの中探しまくってみるけど、今日だってバスルームの中まで探した。明日探しても、きっとない。

あの人はまた電話くれないみたいだし、もう最低だよ。




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いやだって言ってるのに - 2002年03月19日(火)

5日ぶりに話した。

嬉しかった。
嬉しくて、泣いた。


でも
おかしいよ。

わたしの中に誰かがいて、
そういうのってよくあるけど、

ソイツがね、
もうあの人の声も聞けないで
このまま会うこともなくなる日が来ることを
ちゃんと準備しろって言ってる。

ううん。
言ってるんじゃなくて、
そういうことならよくあるんだけど、

ソイツったら
勝手に準備を始めてる。

わたしはそんなのイヤなのに。
絶対イヤなのに。

いやだって言ってるのに、

「いいじゃん。
 ずっと愛してるんでしょ?
 会えなくたって声も聞けなくなったって、
 こころはずっと愛し合ってるんでしょ?
 だったらいいじゃん。

 あの人結婚するんだよ。
 彼女がいて幸せなんだよ。

 なんであんただけ
 がんじがらめになってるのさ。
 わかるけど、
 いつか突然電話も出来ない日が来るんだよ。
 そのときにまた
 おかしくなるくらい泣くんだよ。
 
 もういいじゃん。
 もう十分じゃん。
 今から準備して少しずつ泣けばいいじゃん。
 ほら、準備するよ。
 あんたが何て言ったって準備するからね。」

って、
わたしの意見も聞かないで、
勝手にそう言いながら
勝手にもう準備を始めてる。

そしてソイツがあの人に聞いた。
「もう聞かないから。
 コレが最後だから。
 だから聞くけど、
 6月までに会いに
 来てくれないよね?」

「行くって言ってるじゃん。」
「6月までだよ。」
「・・・。そのあとじゃだめなの?」
「だめ。だめなの。だめ。」
「・・・。」

来られないんだよね? ってソイツが念押したら、なんとかするってあの人が言って、
いいよ、いいんだよ、ってソイツが言って、あの人が、わかった、って言った。

電話を切ったら
ぼろぼろぼろぼろ涙がこぼれて落ちる。


なんで6月までなの? ってソイツに聞いたら
だって7月に引っ越しするんじゃん、ってソイツがわたしに答える。
いいチャンスだからさ、もうそれを区切りにするって決めたんだよ。
って、ソイツがわたしに言う。

ソイツが勝手に準備始めてる。
いやだって言ってるのに、
聞いてくれない。

いやだって言ってるのに。
いやだって言ってるのに。

いやだって言ってるじゃん。







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結婚 withdrawal syndrome - 2002年03月18日(月)

ゆうべ母から電話があった。
妹の夫の死を知らせて来てから初めての電話だった。
いくつもの精神障害と CF という不治の病を、もう何年も抱え続けてる妹は、やっぱりあれからひとりでは生活出来ず、母が妹の近くに引っ越すという。一緒に暮らさないのは、妹に少しでも精神的に自立する機会を与えてやることと、親子でも距離を置いたほうがいいという、母の判断からだった。

妹の病気は日本では症例が殆ど皆無なために、原因不明の難病としてしか扱われず、ちゃんとした診断名も与えられず、全く適切とは思えない治療を続けられている。CF というのは、症状から考えてわたしが勝手にそう思ってるだけだけど、あらゆる症状と検査数値がその病気の診断基準と見事に一致するから、多分間違いない。こっちで診てもらえば簡単に分かるのだけど、飛行機にさえ乗れない体だからそういうわけにもいかない。

日本の医療を嘆いてもしょうがないけど、なんでこんなに違うのか歯痒くて仕方ない。
精神科に入院歴があるとわかったとたんにあからさまに治療を拒否した病院は、ひとつやふたつではないらしい。やっと受け入れてくれた、妹の言う「いい病院」でさえ、これだ。

病気ごと支えてくれてた夫と結婚が突然消えて失くなる。わたしはアルコール離脱症候群を思い出す。体がぶるぶる震えているのに、大丈夫と言い張る患者さんたち。

母は妹のことと引っ越しのことを話したあと、「もうそっちには行かないの?」と、わたしに別れた夫のことを聞いた。母には離婚のことを話してない。言いたくなかった。


土曜日に、別れた夫から電話があったばかりだった。
国家試験にパスしたことを報告しようと電話したけど繋がらなくて、「おめでとうってナマの声で聞きたかったな」ってメールを送っていたから。努めて明るく話したけど、足の先から眉間のとこまで痺れが走って、じんじん切なかった。「誕生日もおめでとう。遅くなったけど」。そう言った夫の声も途切れてた。

「どうしてるの?」って聞かれて仕事のことや弁護士さんのことやチビたちのことを話して、4月にボニーの結婚式のためにあの街に行くことを言ったら突然胸が苦しくなった。

一緒に暮らしたあの街。
あの娘がまだいて、3人で幸せだったあの頃。
こころが通じ合わなくなっても、一生懸命修復しようとしてた日々。
ビーチと緑に囲まれたあの都会が、美しく哀しく目の前に広がる。
わたしはどんな気持ちであのなつかしい空港に降り立つんだろう。


離婚は簡単なことじゃない。
疑問を持ったまま結婚を続けることの辛さより、離婚の辛さの方が何十倍も大きい。
たとえ望んでいた離婚でも。どんな形の離婚であっても。

誰も簡単になんか、離婚したりしない。
簡単にしたように見えたとしても。
離婚したことを何ごともなかったかのように平然と言う人がいたとしても。

「おめでとう、とか、よかったな、とかは、今はまだ言わないでね」。そう書いて二度目の離婚を報告した昔の恋人は、それからメールの返事をくれない。離婚したことのある彼にはその気持ちがわかるんだとも思うし、わからないんだとも思う。

離婚の辛さは人それぞれで、経験があっても人の辛さの程度まではわからない気がする。60を過ぎてから離婚した母の胸の内を、わたしには想像がつかないほどのものなんだということしかわからないように。


母のことだから、感づいただろうと思う。
それでも言いたくなかった。
どんなふうに受け取られても、どんなに優しい言葉をかけられても、何か言われること自体が哀しくなると分かっているから。

それに、わたしが別れた夫に抱いてるある意味の愛情を、母にはわかるようで多分わからないと思うから。もしも母が父に対して、同じような愛情を抱き続けてるとしても。



土曜日はあんなにあったかかったのに、昨日は木枯らしが吹きつけた。
今朝は雪が積もってた。
スクレイパーで車のウィンドシールドに凍り付いた雪をガリガリ落としながら、
終わり切らない冬が悲しくなった。

お気に入りだったシガレットケースを失くしたみたいなのに、まだ諦められないでいる。

留守電にあの人からのメッセージが入ってたけど、かけ直さなかった。

こんな日はきっと、話さないほうがいい。




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まあいいか - 2002年03月15日(金)

ドリーンと旦那さんのジョンと、おちびちゃんのメグが、国家試験の合格祝いにってスパニッシュ・レストランに連れてってくれた。

わたしは南米のスパニッシュフードよりスペインのスパニッシュフードが大好きで、スペインのスパニッシュ系のジョンのおじさんが経営してるっていうそのスペインのスパニッシュ・レストランに、行きたいなあってずっと思ってた。

ビレッジとシティの郊外にレストランはあって、ビレッジの方のは日本の旅行ガイドにも紹介されてるらしい。「日本人の観光客でいっぱいなんだよ」ってジョンが言ってた。「じゃあ今度日本のガイドブック見せてもらって、『ここ、あたしの友だちのだんなさんのおじさんのお店なんだよー』って自慢するね」って笑って言ったら、「してして。自慢して」ってジョンが真面目な顔で言った。日本から友だちなんか、ほんとは誰も来てくれないんだけど。

連れてってくれたのはドリーンのうちから近い、シティの郊外の方のお店だった。
スパニッシュが好きって言ったってパエヤとかカラマリとかしか知らなくて、ジョンとドリーンが注文した知らないお料理がおいしい。名前なんか全然覚えられなかったけど。

食事が終わってお手洗いに立って戻って来たら、ジョンのおじさんがなにやら運んでくる。メグのデザートかなって思ったら、わたしの前に置かれたそれは、大きなお皿に乗っかったフランだった。灯のついた蝋燭が一本つき立てられてて、突然ドリーンとジョンとおじさんとお店の人たちが、メグも一緒に、ハッピーバースデーを歌ってくれる。すっごい驚いた。だってもう一週間経ってるよ。今日は合格祝いって言ってたじゃん。それにお店の人もおじさんも、わたしの発音しにくい名前ちゃんと入れて歌ってる。大きなお皿のふちに、「HAPPY BIRTHDAY」とわたしの名前が、チョコレートソースで書いてある。オーマイガーオーマイガーオーマイガーオーゴッシュオーディアって、ものすごく驚いた。ドリーンが「やった!」って言いながら、大笑いしてた。

こういうのって、ほんとにいくつになっても嬉しい。

お酒なんか一滴も飲まなかったのに、帰りの車の運転が眠くて眠くて、うちに着いたとき、「ああ事故しなくてよかった」ってほっとした。


あの人は土曜日の朝から日曜の夜まで、泊まり込みで仕事って言ってた。
「仕事だけど、電話してくれていいよ」って、あのあと妙に優しかった。
「いいよ、そんなこと言ってくれなくったって」なんてまたカワイクないこと言ったら、「まだ怒ってるの?」って聞いた。

怒ってなんかないよ。怒るなんて、あなたに対してそんな感情、ほんとに持ったことないんだから。怒るんじゃなくて、こういうときはね、わたしは悲しいの。

わたしってそんなに自分のことしか考えてないのかな。いつだって心配してるのにさ。頑張ってって思ってるのにさ。あなたのことしか考えてないじゃん。意味違うのか。


わたしは明日も日曜日も仕事。
あの人の日曜日の晩に電話くれるって言ってたけど、わたしの朝だからまたすれ違いかもね。

まあいいか。
今声聞きたいけど、我慢しよ。
今日は楽しかったから、
まあいいか。


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春なのに - 2002年03月14日(木)

弁護士さんに送る書類と資料、いくつか残してほぼ完成。
昨日とりあえず出来た分まで送る準備をした。
ていねいにパッケージにして、やっと一息。

時間かかった。
タイプしてる間、お兄ちゃんチビがキーボードを枕にごろにゃんと寝る。
左上の角のところがちょうど具合がいいらしく、そこに頭を乗っけたがる。
タイプする分にはじゃまにならないけど、左上の角にはエスケープキーがある。
ごろんと頭を気持ちよさそうに乗っけるたんびに、エスケープキーが押されて、打った文書が見事に消滅。3回くらいそれを繰り返した。それでもチビのすることには頭に来ない。「こーら」って頭を叩くふりしてキスしてやる。

卒業したあっちの大学のサイトに行って、成績証明書を請求してから、
インターンのプログラムを取ったここの大学院の教授に電話。
必要な書類の作成をお願いする。喜んで引き受けてくれた。近況報告して、それから、
「明日あなたの病院に、院の卒業生がひとり面接に行くわよ」って教授が言った。

来た来た。
お昼休みに降りたオフィスに、現れた。
女の子と思ってたのに、男だった。
すんげーかっこいい。
背が高い。
6フィートは軽くある。
6’3”はあると見た。
ゴーティ髭も似合ってる。

「昨日、Dr.エティンジャーと電話で話したの。あなたが来ること言ってたよ」なんて話しかけたりして。
感じいいー。
話し方もいいー。
笑顔もいいー。
もっと話したかったけど、郵便局にパッケージ送りに行かなきゃいけないから、
「面接頑張ってね」って言って、外に出る。
頑張れ頑張れ。採用されたらいいのになあ。


やっと春、みたい。
まだ少し風は冷たいけど、ぽかぽかの陽気だった。
グローサリーストアに並んだチューリップの鉢植えが、陽差しに似合ってる。
気持ちいい。
気持ちいいけど、ちょっと不安になる。

今日はお給料日だったけど、
もらった2週間分のお給料、弁護士さんへの一回目の支払いに全部消えちゃう。
パッケージの中にチェックも一緒に入れて送ったけど・・・。

やってけるかなあ。
ほんとにバイトしなきゃいけなくなるかもしれない。
娼婦でもしようかな。
って言ったらすごい怒ったドクターのこと、思い出した。

会いたくなった。
会いたいよ。会いたいな。
会いたい会いたい会いたい。

誰に会いたいか、教えてあげようか?

あなたじゃないよ。
ドクターだよ。

どうせわたしは自分のことしか考えてませんよーだ。





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精神分析医 - 2002年03月12日(火)

自分のことしか考えてないって言われた。
電話の約束破られてばかりいて、淋しくてこっちからかけて、「ごめん。今まだ仕事中だから」とか「帰ったらかけるよ」「明日の朝かけるよ」とか言われて、それでもかかって来なくて、「なんでかけてくれなかったの?」って電話しまくってたら。

「僕がほんとに忙しくて寝る時間もなくて体調崩しっぱなしで、それでも空いてる時間は全部きみに電話してるのに、きみはわかってない」って言われた。

「空いてる時間って何? 仕事がなくて彼女にも会わなくて彼女に電話もしない時間?」
って言ったら、切られちゃった。

そういうことするの大嫌いなくせに大嫌いなそういうことしちゃうくらい、怒らせた。切られたからまたかけたら、「どうしたの?」って冷静に言われた。「なんで切ったの?」ってわかってるのに聞いて、「彼女のことなんか言うから。僕はきみと話がしたくて、時間見つけて電話かけてるのに。彼女となんかもうずうーっと会ってないよ」って言われた。

会ってなくたって、愛してて結婚するんじゃん。
なんかもう、あの頃のぐじゃぐじゃにまた戻っちゃった。

こういうときにまた、言い寄ってくる男がいる。
言い寄るなんて言い方、悪いか。
精神分析医のドクター。
ものすごい話が弾んで楽しいんだけど、違う。
全然気使わずに話せて自然でいられるけど、違う。
「仕事終わったらペイジしてよ。コーヒーでも飲みに行こ」って、その人のオーバーナイトの日にペイジャーの番号渡された。
ペイジしなかったら、次の日に「待ってたのに」って言われた。
「ごめんね。くたびれてたし、同僚が一緒だったからそのまま帰ったの」って言ったけど、はじめからペイジする気なかった。

だめなんだってば。ネクタイの柄も結び方もいいけど、シャツが少し大き過ぎるじゃん。パンツの素材もイマイチじゃん。靴はケニス・コールがいいの。身長も5フィート11インチ以下はだめ。わたしの気持ち探るような自信のなさも嫌。あのドクターみたいじゃなくちゃ、だめなのよ。

バカ言ってるよ。わかってるよ。
だけどさ、「外見なんかどうでもいい」ってうそぶくほどオトナぶったコドモじゃない。寂しさ埋めるためだって、好きになることは必須条件なんだから。おしゃれってさ、中身のセンス表すじゃん。ブランド物で固めたり無難に着こなしたりなんて、うちじゃあボーダー柄のTシャツとか着てるんだろうなって思っちゃって、だめ。ナイキの上下の着方にだって驚かせてくれるくらいじゃなくちゃ、好きになれないんだからしょうがない。それにさ、4インチのヒール履いてても背伸びしなきゃ抱きつけないくらいじゃなきゃ、寂しさ埋められないんだからしょうがない。あのドクターがくれたみたいな素敵じゃなくちゃ、だめなんだから、しょうがないんだよ。


「ごめんね。あたしが悪かった。あたしが何にもわかってなかった。自分のことしか考えてなかった」。
そう言ったら、「悪いんじゃないよ。自分でだってほんとは悪いなんて思ってないくせに、そんなこと言わなくていいよ」って言われた。「こんなことでこんなふうになるのはやめようよ。僕はきみが好きだから、電話したいんだから。きみとは楽しい話がしたいんだから」。

そうだよ。悪くないよ、わたし。悪いと思ってないよ、きっと。そうやっていつだってあの人は冷静で正しくてわたしを上手に取りなして。そんなふうになれるのはちゃんと恋人がいて普通にケンカも出来て、だからわたしとは楽しい話だけしていたくて。それが淋しいなんて、わたしが悪いんじゃないよ。

ああ、わけわかんない。


精神分析医のドクター、デートになんか誘わないでよ。病院以外で会いたくない。楽しいだけの友だちでいようよ。
もっと頭がおかしくなったら、わたしを診て。


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あの娘が置いて行った罪 - 2002年03月10日(日)

外が明るくなってようやく眠りについた。
あの人の電話で起こされた。
もう夜の11時だっていうのに、
明日のライブのメンバーの一人が事故に遭ったらしい。
急遽ピンチヒッターを雇って、
コーラスは自分がやって、
これから朝まで練習だって焦ってた。
どうしよう、出来るかなそんなの、間に合うかな、出来るかな、どうしよう、って焦ってた。



翼と輪っかをその娘に手渡しながら、女神さまは言いました。
天国に来る者は誰でもこれと引き替えに、生きてるあいだの罪を全部地球に置いて来なければなりません。あなたには置いて来るべき罪が何もないので、ご褒美をひとつだけあげましょう。
そして女神さまは尋ねました。
「抱きしめることの出来る腕と、離れていても伝え合える心と、どちらを望みますか?」
その娘は答えました。
「どんなに離れていても伝わる心を、わたしのママにあげてください。
 そばにいても分かり合えない心に、ママはずっと苦しんできたのです。」
こうしてその娘は生まれて初めて犯した小さな罪をママに残し、翼と輪っかをもらって、天国に逝くことが出来ました。



わたしには伝わった。
あなたのこころ。言葉以上に震えてたこころ。誰にも言えない不安。
大丈夫よ、大丈夫。きっと上手く行くから。今までいつもそうだったでしょう?
わたし、お祈りしてるから。ずっと応援してるから。
焦らないで頑張って。大丈夫よ。絶対絶対、大丈夫だから。
あなたにも伝わってた。
わたしのこころ。あなたの力を信じてるこころ。あなたにあげたい支え。
声がだんだん落ち着いてきて、少しずつ自信を取り戻した音が聞こえて、言葉にはしなかったけど、あなたはありがとうって言った。

会えないから、顔が見えないから、耳を研ぎ澄ませてこころの声を聞こうとするんだよね。
ほんのすこーしのいつもと違うトーンにも気づける。
だから、こころを伝え合える。そばにいられない分、強く強く。何よりも確かに。

それはわたしにとってはちょっと悲しくて、とても淋しいことだけど、
そばにいられたらいられたで、苦しいことには変わりない。
あの娘がどっちを選んでいても、それは女神さまの策略で、どっちもあの娘が残すべき優しい罪だったのだから。



そして、ママ思いのその優しいこころに打たれた女神さまは、特別にもうひとつの望みも叶えてあげようと決心しました。その娘のママに、そばにいていつでも抱きしめてくれる人を、別に見つけてあげることでした。罪ではなくて、今度は本当のご褒美に。けれども女神さまは、そのことをすっかり忘れてしまっているのでした。


なんてね。

早く思い出せ、女神さま。




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アリシア・キーズみたいなシャツ - 2002年03月09日(土)

信じられないくらい眠った。
起きたらお昼の2時だった。
試験前の徹夜続きの疲れがまだ尾を引いてるみたい。

夕方から出掛けた。
自分へのご褒美買いに。
アリシア・キーズみたいなひらひらのシャツが欲しかったのに、
春のコート買っちゃった。
パンツも買っちゃった。
買ったパンツに合わせて、
やっぱりアリシア・キーズみたいなひらひらのシャツが欲しかったけど、
やめた。
もっとすっごいお気に入りを見つけるまで待とうと思った。

帰って来たらまた眠気に襲われて、
眠った。
あの人の夢を見た。
うっすらとした眠りの中でうっすらと見た夢に出てきたあの人は
ゆらゆらゆらゆら揺れていて、
なんだかよくわからなかった。

夢の中のあの人と現実のあの人は
髪型も髪の色も、きっと全然違うんだろうな。

わたしのあの人の現実は、あの人とわたしの現実は、
ゆらゆらゆらゆら揺れててよくわかんないあの夢のようなもの。
「ねえこれ、アリシア・キーズみたいじゃなくない?」
って見せてあげられるわけでもなく。
「う〜ん。脱いで見せてくれないとわかんないよ。ちょっと脱いでみな」
なんて言ってくれるわけでもなく。
髪型さえわかんないなんてね。

そうだ。明日、髪を切りに行こう。
そうだ。家賃を払わなきゃ。
電話代も電気代もケーブル代も払わなきゃ。

ああ、アリシア・キーズみたいなひらひらのシャツどころじゃないかもしれない。
コートもパンツも買ってる場合じゃなかったかもしれない。

お昼はあんなに穏やかなお天気だったのに、今ものすごい風が吹いてる。

あんなに眠ったから眠れなくなった。
風の音が怖くて眠れなくなった。
眠れなくなった。




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しゃぶしゃぶよりずっと - 2002年03月07日(木)

しゃぶしゃぶ食べた。
バースデーのお祝いにジェニーがしゃぶしゃぶやさんに連れてってくれた。
しゃぶしゃぶなんて、最低11年半は食べてない。
日本にいたときの最後にいつ食べたかなんて覚えてないし。
不思議なしゃぶしゃぶだった。
しゃぶしゃぶって、あんなじゃないよね。
得体の知れないものが入ってた。
ジェニーも知らないって言うから、こわくて食べなかったけど、それ。
タイ系フィリピン系チャイナ系しゃぶしゃぶ?
おもしろくて楽しくて、久しぶりに死ぬほどおなかいっぱい食べた。

あの人は昨日も今日も電話をくれなくて、
バースデー忘れてるかなって思ってた。
まあいいかって思ったけど、やっぱりおめでとうって言って欲しくて電話してみた。

何にも言ってくれないから、
「ねえねえ、今日何の日か知ってる?」って言ったら、
「わかってるよー。でもそっちは明日だろ?」
「・・・。」
「あ、日本で生まれたから、今日か。」
笑っちゃう。間違ってる。
「そっち、まだ7日だろ?」
げらげら笑う。
「明日になったら、ちゃんとお祝いしてあげる。その方がいい?」
「何いってんの? 何日だと思ってる? あたしの誕生日。」
「え? 8 ・・・じゃなかったっけ?」
「違うよ。7 だよ、な・な。」
「・・・。」
「あー、寝たふりしてるー。」
「いや、あ、そうか、3日違いだから、そうか。」
大笑いしたけど、あの人は笑わないで焦ってる。
出かける用意するからあとでもう一度電話してって言った。
じゃあね、今日が終わるまでにかけるからね。そう言って、切る。

12時少し前に電話が鳴る。かけてって言ったくせに、かけてくれた。
さっきの会話なんかなかったことにしたみたいに「おめでとー」って言う。
それから、お祝いの曲をきみのために弾いてあげよう、なんて、
キーボードを弾いてくれた。途中であの人が言う。
「歌も入れて欲しい?」
「欲しい!」

英語の歌。わたし知ってる、この歌。
あの人が書いた詞だ。
英語バージョンも作りたいからって、わたしが英語に訳してあげたやつだ。
もう、ずうっとずうっと前に。

女の子の想いを書いた詞だった。
彼女の想いなのかなって思ったり、女性のボーカル用だから、あの人の彼女への想いを女の子の言葉にしたのかなって思ってた。
英語の訳詞作りながら、ちょっと痛かった。

詞から想像してた曲と全然違った。
中途半端な音がぞくぞくした。
ずっとどきどきしてた。
最後のところで胸がきゅうんと絞られて震えた。

あなたが歌うとこんなに素敵な言葉になる。
わたしに想いを込めて歌ってくれたよね。
そう思っていい?
だって、そう聞こえたよ。
「 I love you, forever and ever. 」

ちょっと間違えたーってあの人が笑ったけど、
今度はわたしが笑わなかった。


しゃぶしゃぶ食べに行ったって話そうと思ってたけど、
妙ちくりんなしゃぶしゃぶのこと教えてあげようと思ってたけど、
「誰と行ったの?」って聞かれたら、
「ふふふ。『ここで日本食のレストラン行ったことないって言ってただろ? きみの誕生日のためにおもしろいとこ見つけておいたんだよ』って、連れてってくれたの」
って言おうと思ってたけど、
どうでもよくなっちゃった。


1日間違えて覚えてたことも、いいんだよ。
You made my day.




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月日は流れる - 2002年03月06日(水)

ちょっと遅れてお昼にオフィスに降りたら、
机の上に、まるごとの大きなチョコレートケーキがでんと乗っかってた。
ぽっかり口を開けてたら、フィロミーナが大笑いする。
大きな体で抱きしめて、「おめでとう」って言ってくれた。
それからみんなが順番に、抱きしめてほっぺにチュってキスしてくれる。

仕掛け人はフィロミーナだと思ってた。
昨日病院から電話をくれて、試験のこと聞いてくれたから。

合格祝いのサプライズ・ケーキの仕掛け人はチーフだった。
先週ケンカしたのに、ちゃんとケーキなんか用意してお祝いしてくれた。


うちに帰ったら、前に住んでたところの友だちがおめでとうメールをいっぱいくれてた。それに紛れて日本から一通のメール。


お誕生日おめでとう!

今君がどんな環境で、どんな精神状態かなんて、
僕には本当のところはわからないけど、
僕はひとつだけ大切なことを知っている。
君っていう女の子は、いつも自分に正直で、
嘘な時間が許せない人だった。
でも、それをなかなか言えない気弱なとこがあるんだよね。

大切な時間を正直に生きて、
いつも素敵な人でいてください。

       愛をこめて
             2002・3.7


まだ女の子だったころに、6年間もつき合ってた人。
18の誕生日を迎えた直後に別れた。
少し時間が空いて、それからずっと友だちでいる。

わたしったら、嘘が嫌いだったんだなあ、昔から。
なのに、自分が嘘ついて壊しちゃった恋がある。
あのとき、「君は嘘をついてドクターを傷つけたって思ってるけど、傷ついたのは君も同じ。ほんとのことが言えなかったのは好きだからしょうがない」ってメールくれた。

ずーっと昔からわたしを知ってくれてて、ほんのときどきメールするだけなのに、ずっとわたしの気持ちをわかってくれる人。

でもさ、変わったとこがあるんだよ。
わたし、もう昔みたいにあんなに気弱じゃない。
ボスに楯突くくらい、気が強いんだよ。



月日は流れる。流れる。
そして明日、またひとつ歳を取る。
誕生日は、いくつになっても嬉しい。


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国家試験終了 - 2002年03月05日(火)

試験、受けてきた。
受かった。

と思う。

コンピューター試験だから、終わるとすぐに結果がわかる。

だけど、それが素っ気ないのだ。あまりに。

合格ラインのスコアが示されて、
その下に「あなたのスコア」っていうのが出る。
それからそれぞれのセクションでわたしが取った得点がずらーっと並べられて、

「あなたは合格しました」
ってちっちゃい文字で書いてある。

あったと思う。

そんなんじゃ、よくわかんない。
「 Congratulations! 」
って書いてくれるとか、

スクリーンいっぱいに
「合格しました + スマイルマーク」
とか出てくれればいいのに、

とにかく事務的で素っ気ないのだ。

だからまだ、ほんとにあれは合格だったんだろうかって思ってる。


3日くらい、殆ど寝てなかった。
今朝はふらふらのドキドキのガクガクで、
「行く前に電話しておいで」って言ったあの人に電話したときも
緊張しまくってて声が震えてた。

グルコース補給しなきゃ脳みそが働かないから
無理してヨーグルトを食べてみたけど、
ふたくち口に押し込んだら、吐き気がした。

試験は、それはそれは長くて、
問題も、それはそれは長いのがあって、
画面をスクロールしているうちに
最初の方に書いてあったことなんか忘れてしまって、
また戻る。
そんなのを繰り返しているうちに
もうイヤになってくる。

そのうち、頭がくらくらしてきて、
首が痛くなってきて、
肩が凝ってきて、
目が乾いてきて、
おんなじ単語を何度も何度も読んで先に進めなかったりして、
電卓使う問題なんか、全然違う数字を指が勝手に押したりして、

sleep deprevation は脳の機能を低下させるのに最も効果的である

っていう、昔心理学で習ったことを
自ら実践して証明してるな、なんて考えてた。

75問目くらいに

こりゃあ、もうダメだな。時間足りないよ。2回目は失敗しないようにしなきゃ。

って、妙に落ち着いたのがよかったのかもしれない。

137番まで、番号を覚えてる。
いくつあったんだろう、問題。
突然画面のバックグラウンドが
ブルーだったのがグレイに変わったのを見たとき、
コンピューターが壊れたのかと思った。

よく見たら、
「解くべき問題数に達しました」ってメッセージが出てた。


とにかく、
試験を受けて、

受かった。

と思う。


あったかくていいお天気だけど、今はもう外に出る元気もない。
眠ろうと思うのに、くたびれすぎて眠れない。
久しぶりに CD 聴こうと思うのに、何が聴きたいか決められない。
あの人に電話したいけど、日本は夜中だからかけられない。


ベッドルームの机の上も、
コーヒーテーブルの上も、
ダイニングテーブルの上も、
ちっちゃなキッチンテーブルの上さえ、

テキストやら資料やらペーパーやらの山積み。

片づけなきゃ。
今日は力が出ないから、明日から片づけよう。

でも、

ほんとに受かったんだろうな、わたし。


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たくさんを、ぎゅうっと、 - 2002年03月01日(金)

歳取ってくと、・・・じゃなくて
大人になると、・・・じゃなくて
長いこと生きると、・・・じゃなくて
たくさん生きると、そう、たくさん生きると、

自分のなかの何かにちょっとした自信を見つけられると同時に
何かものすごく具体的な不安にかられるようになる。
ような気がする。
それは、「なんとなく怖い」とか「ふと怖くなる」とか
そういう種類の不安じゃなくて、
明らかに理由があって、
それも理路整然とした理屈と
経験というデータを基にしたケアフルな分析のうえに成り立った科学的な不安。
のような気がする。


それからもっとたくさん生きると、っていうより
たくさんを、生きると、

そういう不安が全て消えて、
自分に対する、根拠があるようであまり根拠のないどうでもいい自信も消えて、
まるで非現実的でもっと宇宙的なことを確信を持って信じられるようになる。
たとえば「絶対」とか「永遠」とか
そういう言葉で置き換えられるような。
そしてそれをそんなふうに信じられるときには、
それはもう非現実ではなく、確かに絶対であって永遠なんだと思う。


たくさんでも「たくさんを」でもなく、
ぎゅうっと生きている人は
とてつもない勇気を授かる。
ような気がする。
それは、捨てる勇気とか飛び込む勇気とか
乗り越える勇気とかじゃなくて、
わけのわからない不安も、わけのわかる不安も、抱きかかえたままで、
それらをひとつずつ丁寧に消化しようとする底知れぬ強さが備わった勇気。
のような気がする。


だからね、
わたしの愛は絶対で、
そう信じてるからあの人の愛も絶対で、
そう言ってくれたあの人のこころも信じてるからそれは永遠で、

あの人の勇気が全てを支えてくれるとわたしは信じてて、
そしてそれも絶対。

行き着くところがなくても
会うことがなくても
悲しみが苦しみにオマケみたいにくっついてても、
本当にそうなんだからしょうがない。
絶対が事実なんだからしょうがない。

オメデタイ?


でもね、
貴女にももうわかったでしょう?
もう不安になる必要はないんだよ。
怖がると幸せが逃げ腰になるんだよ。
もう、絶対も永遠も信じられるでしょう?

貴女は今、たくさんを生きてる人。
彼はぎゅうっと生きられる人。






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