天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

ねえ - 2001年12月31日(月)

ねえ、電話は?
ねえ、なんでかけてくれないの?
ねえ、待ってるんだよ。

かけるって言ったじゃない。
今日はお昼から練習に行くから午前中に電話するよ、って言ったじゃない。
「絶対?」って聞いたら「絶対」って言ったじゃない。

買い物から大急ぎで帰って来て、夕方からずっと待ってるんだよ。
ランドリールームに行ってるあいだにかかってきちゃいけないと思って、
洗濯もせずに待ってるんだよ。

なんで?
なんでかけてくれないの?

こんなに待ってることなんて、きっと知らないんだ。
こんなに待ってるのに、わかってないんだ。

練習終わったら、そのまま忘年会するって言ってた。
そのあとかけてくれたって、いないんだからね。
わたし仕事に行くって思ってないんでしょう?

ねえ、なんで最後の最後に意地悪するの?
最後の最後までわたしがバカだから?

嫌いになるよ。
嫌いになるんだから。

嫌いになんかなれないって思ってるんでしょう?
どうせなれないよ。
嫌いになんかなれないよ。

だから、ねえ・・・。

電話ちょうだい。
電話ください。
電話をください。

声聞けないまま、あなたが先に来年に行くのはやだ。
わたしのこと知らん顔したまま、彼女と一緒に行っちゃやだ。
置いてきぼりにされたまま、泣きながらひとりでニューイヤーになるのはやだ。

ねえ、キスはどうなるの?



ってぐじぐじ思ってたら、夜中の3時頃に電話があった。
よかった。
よかったけど、寝過ごした。
ねえ、わたし今から仕事。
完ぺき遅刻。

行って来ます。
Happy New Year!





-

もうすぐバイバイ - 2001年12月29日(土)

今日はお休みのはずだったのに、週末出勤の同僚が病気になって、かり出されちゃった。新規の入院患者さんがものすごく多くて、文字通り目が回った。ホリデーシーズンは羽目をはずしてぶっ倒れる人が増える。

同僚のジェニーと企んだ、どこかのニューイヤーズイヴ・パーティに便乗しようって計画はボツになりそう。タイムズスクェアのパーティは3時までに行かなきゃだめらしい。6時まで仕事だから無理。あの人はその頃初詣なんかに出かけてて、電話も出来そうにない。ひとりでシティのカウントダウン、テレビで見るしかないかな。


クリスマスパーティの写真に一緒に写ってた、名前の知らないドクターに会った。「写真、出来てるんだよ」って言ったら「あとでペイジして」ってペイジャーの番号教えてくれた。帰る前にペイジしてみた。「ジェニーって子とニューイヤーズイヴのパーティ探してるんだけどさ、あなたパーティ行かないの? もし行くんだったらジェニーとふたり、入れて欲しいんだけど」って言ってみたけど、パーティの予定はない、だって。「でももしどっかのパーティ見つけたら教えてあげるよ」って電話番号聞かれて、うちの番号言っちゃった。わたしって相変わらずバカ。病院のペイジャーの番号言えばよかったのに。そしたら「うちの番号も教えてあげようか」なんて言われて、しょうがないから教えてもらった。ますますバカ。絶対とんでもない誤解されてる。全然そういうつもりなんかじゃなかったのにー。ほんとにパーティ探してただけなのに。


帰り際、アニーのオフィスにいるペニーズが、「あれから例のドクターから電話あったの?」って聞く。「ないよ」って答えたら、「電話しなよ。『ハッピーホリデー!』って言えばいいじゃん。『 Have a happy new year! 』って、元気な声で言えばいいじゃん」って言う。「だめだよ。切られちゃうもん、絶対」「切ったりしないよ」「切られるって。いいの。もうかけないの」。また泣きそうになってくる。「あ〜あ、また泣くよ、この子ったら。泣き出す前に帰りな。泣いちゃだめだよ、ハッピーニューイヤ〜!」。

誰にも言えなかったけど、ほんとはクリスマスのEカード、送っちゃったんだ。クリスマスの少し前に。「元気? 素敵なクリスマスを迎えてね」って。クリスマスなんだもん、そんな気持ちになっただけ。友だちから届いた、ゆきだるまがゆきだるまのシャボン玉飛ばしてるカードがあんまりかわいかったから、それをそのまま送っただけ。でも、クリスマスだもん、「メリークリスマス」くらい言ってくれるかなって思った。

返事が来るどころか、ピックアップ通知さえ来ない。開けずに捨てられたんだろうな。絶対誰にも言えない。バカすぎて言えない。

最後の最後まで大バカ。バカの大行進。


帰ったら、留守電に無言のメッセージが入ってた。あの人だ。
約束通り電話くれたのに、突然の仕事のせいで話せなくなっちゃった。

あなたと話がしたい。明日はいっぱい話せる? 一足早く2002年に行っちゃうあなたを送り出してあげる。


もうすぐバイバイだね、2001年。
痛いことだらけで、おまけにバカの大行進が最後までついて来るけど、

どれもみんな忘れないよ。




-

3日遅れのプレゼント - 2001年12月27日(木)

あの人はやっぱり天使だった。
こんなにまた想いが膨らむ。
あれからまた電話がなくて、ずっと悲しくて心配で不安だった。
さっき、ずっとずっと待ちわびてた電話がかかって来た。
声を聞いたら拗ねてやろうと思ってたのに、
もうわたしのこころは暖かく暖かく包まれて、
声が聞けないって淋しがってたわたしはなんてちっぽけなんだろうって思った。

「真面目な話、していい?」って言って、クリスマスの間ずっと考えてたことを話してくれた。
あの9月11日の出来事を、あの人は忘れてなかった。
愛する恋人を亡くした人たち。大切な家族を亡くした人たち。かけがえのない親を亡くした子どもたち。笑えなくなったクリスマス。笑えないで送る年。笑えないまま迎える新しい年。

クリスマスの夜、体を壊したまま、それでもそんな思いを拭えなくて、悲しみに暮れる人たちのために曲を作ったって言った。クリスマスプレゼントをもらっても笑顔になれない人たちのことをアメリカのニュースで知って、ますます何かしなきゃって思ったって。日本中がクリスマスで溢れてて、きっとみんなもうとっくに忘れてるんだろうなと思うと、クリスマスが悲しくなったって。そして仲間たちと計画したことを話してくれた。

「偽善じゃないんだよ。上手く言えないけど、どうしても何かしたいと思った。何かしてあげたいって思う人は日本にもたくさんいたと思う。したくても出来ないって思う人がたくさんいたと思う。でもほんとにしなくちゃ意味がないと思った。こんな時期だからこそ、よけいにそう思った。ちっぽけなことだけど、どうしても何かしたかった。偽善じゃなくて、何て言うのかなあ、上手く言えないけど・・・」

わかるよ。わかる。わたし、わかる。あなたのこころ。あなたはそういう人だって、ちゃんとわかってる。あなたへのクリスマスプレゼントに、あの September 11th の CD 送ってよかった。まだ届いてないって言ってたけど、あなたならわかってくれると思ってた。

嬉しかった。暖かい人。人の痛みがわかる人。
やっぱりわたしはあなたをこんなに誇りに思うよ。
誰にもわかんなくたって、わたしにはわかる。
天使の微笑みがわたしの胸に届いたよ。
3日遅れの素敵なプレゼント。


「あたしね、クリスマス彼女と過ごしてあんまり楽しかったから、もうあたしのことなんかどうでもよくなったんだって思ってた。」

「違うよ。寝込んでたんだよ。何度も電話したけど時間合わなくて、きみがいないときばっかりだった。」

ごめんね。「バカ」って思ってた。


今日の夕方のラッシュ時に、ミッドタウンの人込みでバンがバスに突っ込む衝突事故があったらしい。また6人の人が亡くなった。悲しみが増えてくばかりだね。でもね、優しい人たちもきっと増えて行くよ。そんな世の中になればいいね。


あなたが好きよ。
天使の翼に包まれて、今夜はぐっすり眠れそう。






-

天使のバカ - 2001年12月25日(火)

家族のいないクリスマスほど、孤独でみじめで淋しいものはない。
みんなそれを知ってるから、「どうするの? どうするの?」って「みなしご」のわたしを心配してくれてた。

わたしも、どうしようかな、どうしようかな、って思ってたけど、一ヶ月前に同僚のドリーンがイヴのクリスマスディナーにお義母さんちに招いてくれた。

仕事を終えて、迎えに来た旦那さんの車のあとについて、クリスマスライトの飾りつけに灯された家の合間を縫いながら住宅地を走る。どこのお家もそれは素敵なライティングで、年が明けてもしばらく続くこの光景は、毎年毎年わたしにとって一番のクリスマス・スピリット。

ドリーンのちいさな娘のメグと犬のデュークが、抱きついてキスして迎えてくれる。ドリーンがサンタに化けたお兄さんを迎えに行くあいだ、わたしは子どもたちを塗り絵に集中させる役目。「サンタが来たよ、ほら2階に来てごらん」って声に、子どもたちはクレヨンを放って2階に駆け上がる。お兄さんのサンタは、モールの「サンタと写真を撮ろう」のサンタよりも完ぺきで、子どもたちが口をぱっくり開けて、3人同時に手を差し伸べるサンタお兄さんから後ずさりしたのがかわいかった。それからおそるおそるプレゼントをもらう。顔が紅潮して輝いてる。帰って行くサンタにキスをしたら、3人が大はしゃぎで包みを開ける。いいなあって思った。「サンタクロースなんてお話の中だけなのよ。ほんとはいやしないんだから」って、夢も何もない母に育てられたおかげで、わたしはサンタなんか信じたことがなかった。プレゼントは大人になってももらってたけど。今でも送ってくれるけど。

お義母さんのお料理を手伝う。大きなフライパンを片手で振ってブロッコリーとガーリックをぽんぽんフリップさせてたら、みんながすごいって誉めてくれた。調子に乗ってぽんぽんしてたら、髪から洋服からガーリックの匂い浸けになった。

長ーいテーブルにどっさり並んだお料理をわいわい食べ始めた頃には、もう子どもたちはツリーの下に積まれたプレゼントが気が気でなくなってる。ごはんもちゃんと食べないで、大人たちの食事が終わるのを待ってる。そのうち一番お兄ちゃんのダニエルの機嫌が悪くなる。「いい子にしないなら、もうベッドに行きなさい。アンタはクリスマスが終わるまでプレゼントはお預けだからね」っておかあさんに叱られて、ご機嫌斜めがピークになる。泣き出しそうなふくれたほっぺたをむぎゅっと掴んで、「ほらスマイル、スマイル」って言いながら頭を抱いてあげたら、恥ずかしそうにちょっとだけにこっとしてくれた。なのに、手を取って「踊ろう。ワン・トゥー・スリー、ワン・トゥー・スリー」ってワルツの格好を始めたら、足蹴られちゃった。

帰るときにメリークリスマスのキスをしたら、お義母さんが「またブロッコリー、フリップしに来てね」って笑いながら抱きしめてお返しをくれた。飲めないくせに、サングリアを3杯も飲んじゃって、ちょっとふわふわしながら車を運転した。彼女といるあの人のこと考えたくないイヴが終わりかけた頃、「まだ一緒にいるのかな」なんて思ってた。

今日はミズ・ベンジャミンが、親戚んちのクリスマスランチに招いてくれた。
遅刻しそうになって「12時までに行けないよ、どうしよう?」って電話したら、「いいからおいで」って言ってくれた。ミスター・ベンジャミンが教えてくれた道順の、ハイランド通りを「アイランド通り」、ホームローン・アベニューを「ホームランド・アベニュー」と思い込んでたわりに、道を間違えずに12時過ぎには着いた。ナースの格好しか見たことないミズ・ベンジャミンが、すごい素敵にドレスアップしてた。

どこに行っても、誰もお客さん扱いしないでくれるのが嬉しい。
たくさんごはんを食べて、ココナッツのリキュールをクランベリージュースで割ってもらって飲んで、またふわふわしながら帰って来た。


今日は朝電話くれるって言ってたのに、かかって来なかった。
遅刻しそうになったのは、ぎりぎりまで電話を待ってたから。
夜になってもかかって来なかった。待ってるからきっとかけてねって言ったのに。

イヴをあんまり素敵に過ごして、わたしのことなんかどっかに行っちゃったの?

ちゃんと拾ってもらって楽しかったはずのクリスマスが、 ちょっとズキズキして終わる。


-

思いを込めて - 2001年12月23日(日)

やっと、
やっと電話がかかってきた。
よかった。元気になってよかった。
まだちょっと辛そうだったけど、これからイベントに行ってくるって言ってた。
心配だけど、楽しみにしてた仕事だものね。
またぶっ倒れないように、気をつけて頑張ってね。

みんながもっと幸せになれるよう、
素敵な曲をプレゼントしてあげてね。
正体バレないようにするんだよ。
天使のあなたはわたしだけのものなんだからね。

ずっとイベントとかで忙しいから夜は電話出来ないって言ってた。
「とか」ってさ・・・。
・・・正直なんだから。
クリスマスイヴだもんね。
彼女ととっておきの時間を過ごして。
うん、ちょっとだけ無理してる。
でも大丈夫。
わたしも仕事、頑張ってくるから。

声聞けてよかった。
もうそれだけでいいよ。


「Merry Christmas!」って言ったら、
「めりーくりすます」って返事してくれた。

遠い空の下で、
一足先に、あなたが元気でクリスマスを過ごせますように。


それから、
Wishing you a very merry Christmas and peaceful holidays.

世界中の人に。




-

ニューヨークシティ・セレナーデ - 2001年12月22日(土)

クリスマス・ウィークエンドが仕事でよかった。
ずっと心配しながらうちで電話だけ待ち続けるのは耐えられない。
朝、こっそり病院を抜け出して、あの人にプレゼントを送りに行った。
CD とお薬と一緒に、最近お気に入りのキャンディや、あの人の好きなガムのローリーポップや、それからあの人のワンちゃんに犬用のクッキーをたくさん買って詰めたら、また大きな包みになってしまった。

ずいぶん遅れるね。ごめんね。ちゃんとあなたの手元に届くのはいつだろう。
ちゃんと届けばいいけど。

このままメリークリスマスも言えないのかな・・・。


今夜は寒い。
うんと冷え込むってラジオでも言ってたっけ。やっと、ここらしい冷たい冬になるみたい。空が澄み切って星が綺麗だよ。オリオン座がはっきり見えるの。あれ、オリオン座だよね。真ん中にちっちゃい星がみっつ並んでるやつ。

ニューヨークシティ・セレナーデが似合いそうな夜空だよ。
お月さんとニューヨークシティの間につかまったら、もう恋に落ちるしかない。って。
あなたの大好きな曲だよね。ここに来たばっかりの時に、キーボード弾いて電話で聴かせてくれたよね。まだ上手く弾けないんだって言いながら、「なんの曲かわかった?」ってあなたが聞いた。「Arthurユs theme」って答えないで、わざと「ニューヨークシティ・セレナーデ」って答えたんだよ。だって、ここに来たわたしのために弾いてくれたのわかったから。

わたしも天使になりたいな。
ひゅんと飛び上がって、お月さんとシティの間に引っかかったら、
そこからニューヨークシティ・セレナーデ届けてあげる。
熱があるなら熱が引くように、
カリカリに冷えた空のかけらも届けてあげる。


話してあげたいことがたくさんあるよ。
聞いて欲しいことがいっぱいあるよ。


眠りたい。眠りたいのに、眠れない。
元気になって。早く元気になって。
元気になって、また明け方に電話で起こしてよ。
あなたの声で目覚めたいよ。





-

カラ元気 - 2001年12月20日(木)

火曜日の朝の苦しそうな声以来、また電話がない。
留守電にメッセージも入ってない。
携帯にかけてみたけど、「お客様のご都合により・・・」って繰り返すばかり。
おうちの電話にかけたいけど、かけられない。
夢にも出てきてくれない。

どうしちゃったんだろう。
ほんとに入院しちゃったのかもしれない。
どうしたの? どうなったの? 


病院中がウキウキしてる。
いつもよりたくさんの笑顔の中で、いつもよりたくさんジョークが飛び交って、
クリスマスの飾り付けに囲まれた患者さんたちも、いつもより明るく見える。
いつもムスッとしてるドクターが、「ハ〜イ」って思いっきりな笑顔で声かけてくれるし、
いつもめちゃくちゃ恐そうなドクターにオーダーの変更お願いしても、あっさり変更認めてくれて、おまけに「サンキュー」なんて言ってくれるし、
ナースたちもいつもよりたくさん笑ってくれるし。
「Merry Christmas!」「Happy Holidays!」ってあいさつがあちこちで聞こえ始めて、わたしもいくつかキス&ハグをもらった。

仕事をしてると相変わらず元気でいられるわたし。
いつもにも増して、おしゃべりになるわたし。


駐車場のおじさんにバイって手を振って病院を出たとたんに、胃が痛くなる。
ラジオの音を大きくしても、チェアダンシングの気分にもなれない。
IV 繋がれて苦しそうなあの人の顔が思い浮かぶ。
また勝手に入院させちゃってる。

うちに帰ったら、もう何も手につかなくなる。
キーボードを枕にして寝そべるお兄ちゃんチビの頭を、ただなでてやるだけ。








-

お祈り - 2001年12月18日(火)

心配でほとんど眠れなかった。
朝になって、仕事に出かける直前に電話が鳴った。

よかった・・・。
生きてたあ。

でもおんなじ死にそうな声だった。
時間はあの人の夜。今日も仕事休んだって言った。
明日は行かなきゃいけないって言う。
休まなくちゃだめだよ、お願い。
言えなかった。
心配すぎて言えなかった。
声が苦しそうで、苦しそうで、辛そうで、
「大丈夫だからね。いっぱい寝たら、治るからね」
って言いながら、
苦しくて眠れなかったあの娘のこと思い出してた。
バカだね。ただの風邪なのに。ただの風邪だけど。


もうすぐクリスマスなんだからね。
天使は病気になんかなってちゃいけないんだからね。


天国のあの娘が見守ってくれますように。
あの人が元気になる分まで
わたしに力を届けてくれますように。


-

電話がない - 2001年12月17日(月)

あの人から電話がない。
日曜日の明け方に約束通りにかけてくれたけど、死にそうな声で「ごめん。今日は話が出来ない・・・」って言った。明日かけるって言ってたけど、明日っていつのことだったのかわかんないまま、一日半以上経ってる。

どうしたんだろう。どうしよう、肺炎になってて入院なんかしてたりしたら。
もうずっと、寝る時間も殆どないくらい毎日毎日仕事してる。「好きなことだから充実してるよ。楽しいよ」って言いながら、体調壊しても休まないで頑張ってた。どんなときでも、いつでも、頑張る。そういうとこが大好きだけど、元気じゃなきゃ意味ないよ。

死んじゃったらどうしようって、朝、車運転しながら心臓がドキドキじんじんしてた。
わたしに知らせてくれる人が誰もいないのはしょうがない。
あの人が天使の姿でわたしに教えに来てくれるまで、わかんなくてもしょうがない。
だけど、結婚を約束した彼女はどうなるんだろう。それほど悲しいことはない。
せめて、わたしが送った手紙とかカードとかプレゼントとか、そういうものは見つかんないで。彼女の目には触れないで。何も知らないままでいて欲しい。

わたしは、わたしは、どうなるの? どうしよう?  あの人が死んだら生きてけない。
チビたちはどうしよう? 一緒に連れて行けないよ。

空想癖は、悲しいことまでどこまでも空想させる。
天使のあの人が「大丈夫だよ。ほら、会いに来られたよ。もういつでも会えるんだよ」って、ベッドでめそめそ泣いてるわたしのところにふわっと現れて、「もうずっとここにいて。ここにいて。どこにも行かないで。彼女のとこにも行かないで」ってわたしが言って、「行かないよ。だけど曲は作らなきゃ。天国で曲作らなきゃ」ってあの人が笑いながら言って・・・。

やっぱりだめ。生きてるあなたに会いたい。
死なないで。死なないで。死なないで。

勝手に肺炎にして、死なせちゃって、そんなこと必死で思いながら運転してた。

それでも仕事してるうちに、きっと帰ったらちゃんと電話がかかってくるって思った。
そう思って、時間通りに仕事を終わらせて帰って来たのに、

電話はまだかかって来ない。



-

クリスマスの贈り物 - 2001年12月16日(日)

朝、母から電話があった。
明日クリスマスのプレゼント送るからねって。
箱にいろいろ詰めてくれたらしい。
「入れたかったもの、全部は入らなかったのよ。でね、マフラーとくまのプーさんのお風呂セット、どっちがいい?」。
マフラーがいいです。くまのプーさんのお風呂セットって・・・。
くまのプーさん好きだったの覚えてくれてて嬉しいけど・・・。
「たばこはマルボコのメンソールだったわよね」。
こっちはたばこが高いからとても有り難いんだけど、マルボロです。

それから、「お金を少し入れとくから、好きなもの買いなさい」って。
ありがとう。嬉しい。でも生活費に消えてしまいます、多分。ごめんなさい。

来月から、大学行ってたときの奨学金の返済がまた始まる。
毎月350ドルなんて払えっこないから、なんとかお願いして最低金額を組んでもらったけど、それでも毎月200ドル。その上、あと10年の返済期間だったのが、その分利息が増えるから15年になった。あと15年奨学金返し続けなきゃいけないなんて、そんなこと母に言えない。

わたしは今年もカードしか送ってあげられない。ごめんね。

あの人へは風邪薬? 去年は例の N'SYNC の CD のほかにも、あの人の好きなミュージシャンの CD とか、欲しがってたもう日本には売ってない Duran Duran の楽譜とか、わたしとお揃いのくまのぬいぐるみとか、ローリーポップとかチョコレートとか、そんなのと一緒に、ボロボロになったって言ってたスキーウェアを新調するためのお金を、ひとつづつ綺麗にラッピングして送った。大きな包みが届いて、「クリスマスツリーが入ってるのかと思った」なんて子供みたいに喜んでた。わたしが送ったのに、入ってたものひとつづつ説明してくれたりして。喜んでくれるのが嬉しかった。

ごめんね。今年は出来ない。

今年は風邪薬のほかに、9月11日の CD-ROM を送ってあげる。
クリスマスにはもう間に合わないけどね。
まだね、忘れてなんかいないんだよ、ここの人たちは。
あの日の映像をたくさん写真にして、BGM をかぶせた CD。病院のスタッフのひとりが作ったらしい。「もう見るのはイヤ」なんて思ってたけど、飛行機が撃墜する瞬間、ビルから飛び降りる人たち、通りを逃げ回る人々、血だらけになってうずくまる人、瓦礫になったツインタワー、そんな映像がなぜか涙と一緒に底知れない愛情みたいなものを誘う。

忘れたわけじゃない。忘れるわけがない。
あの恐ろしかった日。悲しくて重苦しかった日々。日が経つにつれて増えていった急性精神疾患の患者さんたち。ロビーに溢れた献血に並ぶ人たちの数。

理屈じゃなくてね、忘れちゃいけないんだよ。
たくさんのたくさんの犠牲になった人たちがいたことを。恐ろしさに震えて震えて、抱き合ったことを。そして、多くの人が戦争なんか望んでなかったことを。覚えていてどうなるわけでもない。だけど、今でも悲しみに暮れる家族のために、今でもあのままの壊された街のために、終わったことになんかしちゃいけないと思う。

あなたならわかるよね。CD 見て、きっとわたしとおんなじように感じてくれる。
胸を引き裂かれるような痛みと一緒に、穏やかであたたかくて切なくて沸き出す泉のような、深い深い愛情みたいな気持ち。


今日はちょっとだけのクリスマスショッピングに出掛けよう。
来週のパーティの grab gift 買わなくちゃ。
国際電話利用にめいっぱい貢献してる AT&T から送ってきた、ボーナスの Macy's のギフトカードで。

ギフトカード、お母さんに何か贈ってあげられるくらいの金額だったらよかったのにな。



-

腐りかけのミルクな気分 - 2001年12月15日(土)

嫌な気分。
いやあ〜な気分。
なんでかわからないから、なんでだろって考えてみる。
いろいろ理由が浮かんでくるけど、絶対これだと確信出来るものがわかんない。
なんか、どれかのせいでこんなにも嫌な気分なはずなのに、どれもみんな嫌でしょうがなくなる。

あんまり嫌な気分だから、何か食べることにした。
シリアルを半分くらい食べたとこで、ミルクがちょっと酸っぱいことに気づく。
腐りかけのミルクに浸ったシリアルを捨てながら、またいやあ〜な気分になる。
最低。


ゆうべからずっとこんな嫌な気分で、ひたすら電話を待ってた。
真夜中にやっとかかって来たと思ったら、あの人はまた風邪をひいて寝込んでた。
風邪ばっかりひく。おなかもしょっちゅう痛くなる。疲れ過ぎだってば。
「もうちょっと話してていい?」って苦しそうにあの人が言う。
もっと話していたいのはわたしの方。こんな嫌な気分を追っ払って欲しくて、ずっと電話待ってた。少しだけ話してキスして、切った。ゆっくり休まなきゃ。送ってあげたよく効くお薬、もうなくなったって言ってたね。また買って送るよ。

「明日の今ごろ、またかけていい? 苦しいときはきみの声聞いていたい。だから、いて。電話するから、うちにいて」。愛しい言葉。ちゃんといるよ。だって、わたしの真夜中でしょ? もうほかの誰かのとこなんか、行かないんだよ。

何にもしてあげられないなんて思いたくない。遠くにいたって何かしてあげられる。出来ること全部してあげる。声が聞きたいって思ってくれるなら、それで少しは楽になれるなら、そうしてあげたい。一緒にいてあげられなくても、ちゃんと声でそばにいてあげる。

なんてね、声聞きたいのはわたし。
また、ひたすら待つよ。元気になるようにお祈りしながら。


わたしのこのいやあ〜な気分も、早く早くなくなれ。
殆ど残ってる半ガロンのミルクのカートン、ごぼごぼシンクに流した。


-

ひとりでなんか - 2001年12月13日(木)

夜のクリスマスパーティのせいで、今日は仕事中ずっとウキウキ。
足の痛みは殆どなくなって、わたしって結構頑丈に出来てるんだなあって感心した。でも、ベルベットの膝丈ドレスに合わせて履いた、4インチヒールのパンプスが痛い。ちょっと細身だから、あひるみたいなわたしの足を締めつける。

あんまり痛くなってナースステーションで靴脱いでたら、ミズ・ベンジャミンに言われた。「アンタ、ちっちゃいねえ。痛くても靴履いてなさい」。裸足で背伸びして抱きついてたあの胸を、また思い出してた。

朝、ネイルの下地を塗りながら電話待ってたけど、やっぱりかかってこなかった。明日かけてくれたときに、昨日のこといっぱい謝ろう。早く謝りたいよ。

お昼休みにオフィスで真っ赤なマニキュアを塗った。爪が長すぎて真っ赤っかはちょっとケバいかなって思ったけど、みんながいい色って誉めてくれた。「魔女みたいじゃない?」って聞いたら「全然。セクシー、セクシー」って言うから、ふざけて口をすぼめてウィンクしながら、指を順番に折るカモンのポーズをしてみせる。やっぱ、この色ならもう少し爪短い方がいいかもね。あの人に見せてあげたい。娼婦みたいなおいでおいでをしてあげる。知らないけどさ、そんなことするかどうか。「口紅ももちろんおんなじ色にするんでしょ?」ってドーリーンが言う。ふふふ。仕事用にラズベリー色をつけてたけど、バッグの中にちゃんと真っ赤な口紅忍ばせてる。

チャイニーズの Dr. チェンが「パーティー、どうやって行くの?」って聞くから、察して「乗っけてってあげるよ、綺麗な車じゃなくてよかったら」って言ってあげる。

車の中で、おしゃべりが楽しかった。Dr. チェンは80ユs の音楽が好きで、わたしの知らないバンドの名前をいっぱい教えてくれた。デュランデュランも好きだって言ってた。思い出す。あれはアパートから車で一緒に病院に行ったときだっけ。イントロの初めのとこ聴いただけで、「デュランデュランだね」ってドクターが言ってドキッとしたこと。あの人の大好きなデュランデュラン。


パーティは DJ も選曲もイマイチだったけど、踊りまくった。踊ってる間に、パンプスの痛みも消えちゃった。踊るのやめたらじんじん痛くなったから、裸足になって、また踊りまくった。ふざけたダンスもしたりして、笑いまくった。久しぶりに聴いた Alice Deejay の「Better off alone」は大声で歌いながら踊ってた。

帰りも Dr. チェンをうちまで送ってあげた。ドクターのアパートから10ブロックしか離れてないとこだった。「帰りの高速乗るとこわかる?」って聞かれて、「うん、この辺ならよくわかるの」って答えた。あっちの病院のドクター用のアパート、この近くでしょ? わたし、そこに住んでる人と少しの間デートしてたんだ。ふられちゃったけどね。きっと知ってるよ、その人。「誰?」って聞くから名字に Dr. をつけて言ってみる。 Dr. チェンは言った。ああ、Ken ? Ken か。彼ならよく知ってるよ。あっちの病院の循環器病棟で一ヶ月一緒に仕事した。いいやつだよ、すごく。今でも時々電話で話す。ほんとにいいやつだよ、あいつは。そうか。残念だなあ。終わっちゃったのか。「ほんと? ほんとにいいヤツって思う?」「うん、いい男だよ」「よかった。ソレ聞いて、嬉しい。よかった」。

ほんとに嬉しかった。やっぱりいいやつなんだ。よかった。こんなふうに、いいやつって聞けて。嬉しくて、何度も「よかった」って言ってた。涙が出そうだった。

高速の入り口まで、なつかしい道を走る。対向車線をくぎって道路の中央に立ち並ぶ低い木が、白い光で飾られてまぶしかった。この道、こんなふうになるんだ。素敵だね。思い出にないクリスマスのイリュミネーション。

デュランデュランをかけながら、あの高速を走る。止めたらいつものステーションからまた Better off alone が流れてきた。 Do you think youユre better off alone?  ひとりで生きてく方がいいの? ほんとにひとりの方がラクなの? 出来るかな。出来ないよね。ひとりの方がラクだなんて、思ってない。

真っ暗なアパートに電気をつけて、足元にじゃれつくチビたちに「ただいま」を言う。
あの人に電話したい。「おかえり。楽しかった?」って、声で抱きしめてほしい。


-

意地悪 - 2001年12月12日(水)

明日はパーティ。クリスマスパーティ。


朝の4時頃に、あの人が電話くれた。
「ごめんね、遅くなって。今日きみの夜にまたかける。今は時間ないから。明日は仕事が昼からだから、ゆっくり話せるよ。」
うん、うん、わかった、気をつけてね、仕事頑張ってね、って殆ど寝ながら返事してた。

明日パーティだから、帰りにドラッグストアに寄ってあみあみの靴下と真っ赤な口紅買って帰った。

やっと電話がかかって来て、ずーっとかけてたけど、かかんなかった。もう出る時間だって言う。

このごろずっとそんなのばっか。今度いつ電話するか決めるためだけに電話してるみたい。なんだか相変わらずおうちからだと国際電話がかかりにくくて、この間は公衆電話からもなかなか通じなかったって言う。

「もー。ほんとにかかりにくいの? 携帯繋がるようにするって言ってたのにさ、ずーっとそのままだし。ほんとは都合の悪い時にあたしから電話かかってきたらマズイから、携帯止められてるなんてウソついてんじゃないの? それとも電話代払えないなんて言って、彼女にお誕生日のプレゼント買って、クリスマスプレゼントも買うから、それでお金がないんでしょ? 大事だからあたしが淋しくないようにしてあげるとかって、ほんとはその後で舌出してるんだ。ウソいっぱいついてたって、どうせ離れてるからわかんないもんね。約束なんか、守ってくれたことないもんね。」

それでもちゃんと毎日電話くれるから、ほんとはそんなこと全然思ってなかったし、冗談のつもりで言ったのに。

なんにも返事がないから、切れちゃったのかなって思ったら、あの人が言った。
「・・・信じてよ。そんなふうに・・・思われるのいやだ。」
涙声だった。

びっくりして、なのに気づいてないふりして、
「だって、離れてるからわかんないもん」って、わたしまだ言ってる。

そしたら今度はずるって鼻水啜る声が聞こえて、
「信じて。声聞きたいから、国際電話のカード買ってたら、携帯の電話代ますます足らなくなって・・・。ごめん。でもきみが大事なのはほんとなのに」って、あの人は涙声で必死で言ってる。

泣いたりしたら、どうしていいかわかんないよ。わたしが泣いたらあの人はいつもあんなに一生懸命取りなしてくれるのに、わたしったら自分はそんなこと全然出来ないでいる。

「早く行かなきゃ、遅刻するじゃん。もう遅刻だよ。」
「信じるって言って。言ってくれなかったら、こんな変な気持ちのまま仕事に行けない。」
「遅刻しちゃいけないよ。ホラ、もう行かなきゃ。」
「・・・わかった。行く。明日電話するから、ちゃんと取ってよ?」
「明日はパーティだから、夜いないよ。」
「・・・。じゃあ、きみが仕事に行く前にかける。かけられなかったら、土曜日にかけるから、絶対電話に出て。」

ごめんね。意地悪止まらない。ひどいね、わたし。

「泣いちゃダメ。泣かないで。信じてるよ。信じてるに決まってるじゃん。ごめんなさい。」

やっと言えた「ごめんなさい」。
明日の朝、電話してね。でもさ、かかってこなくったって大丈夫だから。怒ったりしないから。

彼女にクリスマスプレゼント、買ってあげてね。電話、少しくらいがまんするから。

なんであんな意地悪したのかなあ。
クリスマス、ひとりだから?
いいかげん諦めなきゃ、会えるクリスマスなんか。
あの人が彼女と過ごすクリスマスも、我慢しなきゃ。


だからね、明日は楽しんでくるよ。
素敵なドクターに出逢えるかもしれないし。

違うじゃん。ちっとも反省してない。


-

夢判断 - 2001年12月11日(火)

昨日より足が痛くなった。
左足が、太ももから膝まで全部痛い。右足の足首とかかともまだ痛い。階段の上り下りが辛い。今日は6時きっかりに終わって、またぶっ飛ばして帰って来る予定だったのに、ダメだった。おっちらおっちら歩くから、仕事が進まなくて。

帰ると留守電に、「またあとでかけるね〜」ってひらがなっぽいメッセージが入ってた。

珍しく晩ご飯を作った。お米の代わりにオーゾーを使ってリゾットみたいにしたヤツにパルメザンチーズかけてオーブンで焼いた。オーブンで焼いてるあいだに眠たくなって、出来上がったときにはもうおなかすいてなかった。眠くてぼーっとしながら、それでも食べた。

からだに故障があったら、それだけで疲れる。
ベッドの中で目がさめて、慌てて時計を見た。知らない間に寝て朝になっちゃったのかと思ったら、11時だった。

夢を見ちゃった。ドクターの。もうこれで終わりって昨日言ったの誰?
もうひとり男の人がいて、3人で公園みたいなところで BBQ やってた。ものすごい季節感のずれた夢。ドクターとふたりでひたすら話してた。もうひとりの男の人はドクターの友だちって設定だったけど、なんだかふたりの会話の証人みたいだった。

「もう会わないって言ってたじゃん」ってわたしが言った。
最後の日は、夢の中ではあの最後の日じゃなかった。
「そんなこと言ってないよ。あの日きみがはしゃぎすぎてたからだよ。ああいうのはよくないよ」。ああ、ほんとだ、わたしはしゃぎすぎてた、って、意味のわからないドクターの言葉に妙に納得して思ってたけど、夢の中で思い出してたその日は、ほんとはどこにもない。

「あたし物理が嫌いだった」ってわたしが言って、それで物理が嫌いだったわけを話してた。高校の最初の授業で、先生が中庭の工事を指さして言った。あのクレーン車は土を地面からすくい上げて、その土を別の地面に移してる。あれは物理的に言えば、仕事量ゼロなんです。ふふんと鼻で笑うみたいに言った。

仕事量ゼロって何よ。人が一生懸命仕事してるのにさ。その瞬間から、そんな勉強してやるもんか、って決めた。それで試験は毎回赤点だった。毎回赤点だから毎回レポート書かされて、なんとかパスしたけど。

「僕は好きだったよ」ってドクターが笑いながら言って、「きみんちで一日ぼうっとしていたいな」って言った。「ダメじゃん。猫がいるんだよ」って言ったら、「平気だよ」って、絶対に言いそうにないこと言ってた。

ひたすらおしゃべりを続けてて、そのあいだに一回だけキスしてくれた。それは、チビたちがキーボード打ってる手元に上がって来たら、自動的にいつも眉間にチュッってするような、そんなキスだった。でも、少しだけドクターの顔にとまどいがあって、わたしはわざと知らん顔してた。

夢の一番最後のところで、ドクターはドクターの顔じゃなくなってた。ブラジルのお土産にくれたキーチェーンのにわとりがめがねをかけてる顔だった。


目がさめたら、ものすごく気持ちがよかった。
ちょうちょになってお花畑でも飛んできたみたいな気分だった。


夢って何なんだろうね。
フロイトに聞いたって、セックスにしか結びつけないからお話にならないし。誰かちゃんとまともなこと教えて欲しい。何かの暗示? ドクターは物理みたいなやつってこと? ほんとはハンサムなんかじゃなくて、にわとりがめがねかけたみたいな顔ってこと? わたしがただしつこいだけ? 気持ちよく夢見たんだから、もうほんとにこれでおしまいにしたい。まだね、病院歩くと足と一緒に、胸も痛いんだ、少しだけ。


早くあの人から電話かかって来い。「あと」っていつだろ。


-

わりと平気 - 2001年12月10日(月)

朝、病院の駐車場の屋上に車を停めて、階段を降りたら・・・。
あと6段のところで足がもつれてつんのめった。コンクリートの階段。
このまま頭から落ちたら間違いなく骨折以上だと咄嗟に判断して、ジャンプした。
重たい大きな鞄と昨日夜中に洗濯した白衣を抱えて、3.5インチのヒール履いて、足から叩きつけるようにコンクリートに着地。大失敗。いや、大成功かも、あの状況でなら。手もつかなかったし、尻もちもつかなかったもん。だけど、思いっきり右足のかかとを打ち付けて、足首捻って、しばらく立ち上がれなかった。

駐車に並ぶ車から見られてたのが恥ずかしくて、エレベーターに乗らずにそのまま階段を、6階から足引きずりながら降りた。

そっから始まった最低な日。

なんか体中痛くなってきて、肩とか背中が重たいし、
おかげでやらなきゃいけないこと、忘れちゃうし、
気分悪くなってきて、診なきゃいけない患者さん、診られなかったし、
キッチンのスーパーバイザーとケンカしちゃうし。
明日、ディレクターにチューイされちゃうんだ、また。
「もう少し上手にコミュニケートしなきゃ」とかって。
わたしったら、時々めっちゃくちゃ意地悪になるから。ガンガン言っちゃうし。

帰るときには、何故か左の太ももが筋肉痛みたいになってて、
右足と左足、両方引きずって歩いてた。


バースデーの祟りだ、なんて意味不明なこと思ったりして、
でもそんなこと思いながら、わりと平気だった。

ミズ・ベンジャミンが、3人分の男をみつけなきゃいけないから忙しいって笑う。
わたしとフランチェスカはわかるけど、あと一人は誰?
「タニア」。タニアもかあ。「誰が最優先なの?」って聞いたらタニアだって言う。「なんでー? 背の順?」。だったらわたし、最後じゃん。「タニアは30だからねえ」「ならあたしの方が上だよ」「わかった。じゃあアンタが最優先」。

そんなバカなおしゃべりしながら、ミズ・ベンジャミンが聞く。「電話あった?」。
「ないよ。・・・今日さ、バースデーなんだ」「ダメだよ、こっちから電話なんかかけちゃ」。かけないよ。かけないよ。絶対かけない。一番素敵なおめでとうを言ってあげられるはずだったけどね。きっと来年も再来年も覚えてるんだろうな。おめでとうが言えなかったままの誕生日。でも、わりと平気で過ごせた。そうなの。わりと平気だったじゃん。祟りのバースデーだったけどさ。

あの人が「よく飛べたな」って誉めてくれた。「うんっ!」って得意げに答える。
変だけど、なんか心配してくれるより嬉しかった。


昨日ここに書いたバースデーのメッセージ。
書いてからメールしそうになって、誰か止めて止めて止めてって必死で思ったあと自分で思いとどまって消したけど、もう大丈夫だからもう一回書いて残しとく。今日のバースデーが終わるまでにね。あれはあれで、昨日の気持ちだからね。

人のこと言えないけどさ、ひとつ歳取ったんだからその分大人になれ!
なんて・・・。

楽しいバースデーでしたか? もうすぐ終わるね。
もう、これで最後にしよ。


Kenny,

I wish you
lots of luck, tons of cheer,
all that you deserve, for today
and all through another year
starting with this special day.


Happy Birthday









-

正気に戻った - 2001年12月09日(日)

夜中の2時半。
洗濯するのを忘れてたことを思い出した。
明日着る白衣がない。慌ててお洗濯開始。
ついでにシーツも洗う。夜中の2時半なのに。

ランドリールームから戻って来て、ふと窓の外を見たら、すごい霜。
黒い車のルーフがまっ白になってる。
窓を開けて、たばこを吸ったら、キーンと冷たい空気が気持ちよかった。
一本吸い終わる頃には頭がくら〜っとするほど寒くなって、慌てて窓を閉めた。
明日は早めに出て、エンジンあっためなきゃ。
いつもより少し早起きしなきゃ。

朝あの人が電話くれるって言ってた。
だったらなおさら早起きしなきゃ。

雪が降ったらいいのにな。
去年の今日は雪だった。
あの人に送ったメールに書いてる。
「いいなあ〜雪。こっちにも分けてほしいくらいです」。
いつものように、短い返事が来てた。

クリスマスプレゼントを送ったっけ。
あの頃一日に何度も、車の中でも病院でもかかってた「This I promise you」。
ナップスターからダウンロードして、インターンのプロジェクトしながら毎日うちでも聞いてた。
「初めて聞いたとき、あなたの言葉に聞こえたの。今はわたしには言ってもらえないけどね、いつか遠い未来にまた出逢えたとき、きっとあなたは言ってくれる。だからその時までに、ちゃんと全部覚えておいてね。『約束する』は、わたしの一番好きなあなたの言葉なんだよ。」
訳した歌詞と手紙だけ送ろうと思ったけど、やっぱり曲も聴いて欲しくて、 CD 買って一緒に送った。

「聴いたよ、CD 。」
「ほんと? あたしの好きな曲、聴いてくれた?」
「聴いた。」
「ね、素敵だったでしょ?」
「いい曲だったよ。」

わたしはわざとはしゃいで言ったけど、あの人は、ため息のような、囁きのような、とてもとても優しい声で答えてくれてた。

あれが初めてこころを伝えたときかもしれない。
「百年か千年か二千年たったら、またあなたと出会いたい。
 そのときには、いつでもそばにいてくれるわたしだけの恋人でいて欲しい」。
手紙と歌の訳詞と CD に、いっぱいいっぱい想いを込めて。


わたし、正気に戻った。
あんなバースデーのメッセージ、送らないよ。
あんなの消しちゃえばいいんじゃんね。バカじゃん。
だから消す。さっき書いたの。

あの人が好き。
あの人が好き。
あの人だけが大好き。
この想いを抱きしめて眠ろう。

・・・洗濯終わってからか。
乾燥機に入れて、あと1時間か。


しょうがないや。お洗濯思い出したおかげだもんね。
頑張って早起き・・・出来るかな。


-

誕生日 - 2001年12月07日(金)

ズル休みしちゃって、ちょっと罪悪感。
でもその分頑張った。

エレベーターで一緒になった、いつも笑って「Hi」だけ言い合うドクターに、「なんでこんな時間までいるの?」って言われた。しょうがないよー。明日から週末だし、昨日さぼったし、会わなくちゃいけない患者さんいっぱいだったから。

話したこと殆どないのに、「最後に日本に帰ったの、いつ?」なんて突然聞かれてびっくりした。わたしが日本人って言ったことあったっけ? 言わなきゃチャイニーズかタイワニーズかコリアンかフィリピーノかタイか、その辺のどれかだと人に思われてるみたいなのに。「ジャパニーズ?」なんて聞かれたことないし。あれー、この人もまわしモンかなあ、なんて思った。被害妄想? 自意識過剰? 早く平気になれ。でももうすぐなれそうな気がする。


あの人はひとの誕生日が覚えられないらしい。
初めて会った日に自分が聞いたくせに、たった3日違いのわたしの誕生日も覚えてなかった。「さて、あたしの誕生日はいつでしょう?」って週に一回くらい出すクイズに、ちゃんと一度で正解するまで2ヶ月かかった。彼女の誕生日さえ覚えてなくて、それでケンカになったこともあるって言ってた。「12月の最初の辺だったと思う」ってあの人が言って、わたしはそれをずっと覚えてた。

「彼女のお誕生日、終わったの?」。また聞かなくていいこと聞く。
「終わった。コーヒー飲んだだけ」って、あの人は答える。
「前の日に電話かかってきてさ、忙しいからそれしか出来なかった」。また聞いてないことまで言う。

知りたくないけど、わかっちゃった。わたしがいつになく控えめに、一緒にコーヒー飲むだけでいいから会いたいって思ったあの日だ。絶対そうだ。あの人彼女とコーヒー飲んでたんだね、お誕生日お祝いしながら。だからわたし、一緒にコーヒー飲みたいなんて思ったんだ。なんでこんなことまで通じちゃうんだろ。


初めてデートした日に自分が聞いたくせに、ドクターもわたしの誕生日覚えてなかった。「歳知りたくて、聞いたんだよ」。「誕生日聞かれて、生まれた年まで答える人いないよ」って笑った。「いつだっけ?」「3月」「そっか、魚座だったね」「何日か当ててよ」「15日」「それ、誰のバースデー?」「別れた恋人」「ふふ。知ってるよ。魚座だもんね」「なんで知ってるの?」「わかったよ。だってあなた魚座に詳しかったもん」。わたしはひとの誕生日をすぐに覚えられる。おんなじ日に一回聞いただけで、覚えちゃった12月10日。


魚座と射手座って、相性いいのかなあ。
相性いいんだろうな。

相性いいんだけど、上手く行かないんだ。
絶対上手く行かないんだ。上手く行かないんだよ。上手く行かないんだからね。

すっごい意地悪なこと考える。
だって、わたしも一緒にコーヒー飲みたいよ。


12月10日。知ったときから楽しみにしてた。
平気で過ごせるかな。平気で過ごさなきゃ。


-

I've been to heaven - 2001年12月06日(木)

天国に行って来たよ。

そこはね、
クリスマスが近いせいで、入ったところにそれらしい本がたくさん特別に並べてあって、
タイトルのなかの angel って単語がやたら目に入った。

古めかしい建物の、石の階段を登って中に入ったら、
天井がうんと高くて、古い紙の匂いがいっぱいして。

図書館ってさ、なんでこんなに素敵なんだろうね。
図書館で本を読んでる人ってみんな、
そこではとっても心が豊かで、なんだかとてつもなく優しい気持ちでいて、って、
そんな気がする。

静かで、誰かがコホンと咳をしたら、高い天井にコンと響いて。
ものすごく静かなのに、緊張感があるわけじゃなくて、柔らかい空気が広がってて。


大学に行ってたときは、授業が終わってから毎日図書館で勉強してた。
キャンパスに16個も図書館があって、今日はここ、明日はあそこ、って場所変えて。
インターンしてたときは病院の図書館で、課題やったりビデオ室でビデオ見たり。
患者さん診るのがまだまだ緊張だったあの頃、図書館に行けるとほっとしてた。

あのアパートのすぐ近くにも図書館があった。地下鉄の駅に行く途中。
public library の b が v に見えて、「なんで v なの?」って聞いたら、
「あれはラテン飾り文字の b だよ」って言ってたけど、
納得できなくて、首の骨折れそうになるくらい振り返って、
いつまでも見てたっけ。手引っ張られながら。


angel の文字がタイトルに入った本を、全部読みたいなって思った。
「十二番目の天使」もあるかもしれない。


あの娘と走り回れなかったけどね、
あの頃みたいにそばに座って、「ママ、お勉強頑張れ〜」って言ってくれてた。
そう、勉強しに行ったんだ。
でも天国だったよ。

生きてること、ちょっと休憩して来た。

だから明日から、また頑張る。
あの人に会いたくて会いたくて会いたくて苦しくたって、
今だにちょっと似たようなドクター見かけたら、目で追いかけたりしたって、

病院のなか、足が棒になりそうなくらい歩き回って、
患者さんに笑顔の元気分けてあげて、
患者さんから笑顔の元気お返しにもらって、

そんな毎日がやっぱり好きみたい。


天国に行って来たの。
おなじこと、言ったよね。あの腕の中で。
「Where did you go?」
「Up to heaven. Iユve been to heaven.」
そう答えたら、笑いながら抱きしめてくれたね。

まあいいや。忘れなくていいって決めたもん。


ねえ、あなたと行きたいよ。
ひとりでじゃなくて、ふたり一緒にだよ。
天使のあなたが連れてって。

違うってば。図書館じゃなくって。


-

休憩しようかな - 2001年12月05日(水)

なーんにも考えたくなくなった。
前向きにも、後ろ向きにも、なーんにも。


やっとあの人から電話がかかった。
携帯はまだ止められたまんまだから、こっちからかけられない。
仕事に行く途中に公衆電話からかけてくれた。
昨日はずっとおうちからかけてくれてたらしいけど、繋がらなかった。
おうちからかける国際電話が上手く繋がらないみたい。なんで?
「どうしてた?」って聞かれて黙ってたら、「淋しかった?」って。

あの人に初めて会いに日本に行った日のこと思い出した。
成田に着いてすぐに電話した。まだ顔も知らなかったあのとき。
「ねえ、今ここ、何時だか知ってる?」
「・・・。3時。一緒だろ? 着いたんでしょ?」
不思議そうな声で真面目に答えてた。
「そうだよ。一緒なの。一緒の時間なんだよ。」
あの人はくすって笑って、それがとても優しかった。

なんでここにいないの?
わたし、一緒にコーヒー飲むだけでもいいよ。
もう一度、おんなじ時間のなかにいたい。


仕事、楽しいし、患者さん診るの大好きだし、毎日すっごい頑張ってるけど、このところ忙しすぎて、くたくたでへとへとで、それなのにちょっとかっこいいドクター見たら「似てる」って思ったり、「でももっとかっこよかった」なんて思ったり、顔のいい男嫌いなんじゃなかったのかって自分に突っ込んでみたり、もう疲れた。


あの人の電話が優しいから、また苦しくなっちゃうよ。会いたくて、会いたくて、会いたくて。


ちょっと生きること休憩したい。
あの娘のとこに行って、一緒に走り回りたいなあ。
天国は病気も消えちゃうとこだから、あの娘はもういくらでも好きなだけ走れるものね。
一日だけ、なーんにも考えずに、あの娘と一緒にいたい。ただ、笑いながら一緒に走り回りたい。
そしたらまたここに帰ってくるよ。あの人の声聞きに。患者さんたちに会いに。


明日、仮病使って仕事休むこと計画中。
ダメ?


-

日本 - 2001年12月03日(月)

楽しかったー。滅茶苦茶楽しかった。昨日はトレーシーがごはんを作ってくれた。お父さんはいなかったけど、トレーシーのママも、わたしのために来てくれたおねえさんもおねえさんの旦那さんも、いつものようにわたしを家族みたいに扱ってくれる。家族っていいなあ、なんて思ってしまった。全部おいしかったよ、トレーシー。全部おいしかったけど、パースニップにメープルシロップを少しからめてオーブンで焼いたヤツが一番だったな。インターン仲間はみんなお料理が好きで上手で、そんなことを誇りに思う。

ごはんも楽しかったけど、食事のあとで見た「アイアンシェフ」、最高だった。トレーシーのおねえさんがいつも見てるらしい。そのおねえさんがわたしに聞く。「ねえねえ、『フクイサン』って Excuse me のことでしょ?」って。なんのことかと思ってたら、通訳をかぶせた調理の実況中継の会話のなかに、「フクイサン?」「イエス」「フクイサン?」「イエス」ってのがしきりに出てくる。大笑いしちゃった。なるほどね。「Excuse me?」「Yes」「Excuse me?」「Yes」。

・・・って、この話をしたら喜ぶだろうなあって思ったのに、あの人から電話がかかって来ない。今朝仕事に早く行くのをやめて待ってたら、出かける寸前にかかって来て、携帯止められちゃったからわたしの夜に家の電話でかけるって言ってた。おうちの電話にわたしからはかけられない。


最近日本が近い。

お寿司のウニと「タマキコウジ」が大好きな ICU のチャイニーズドクターが、イーストビレッジの日本の食料品屋でウニをひと箱買って来て、お寿司を20個作って食べたって話を嬉しそうにするし。タマキコウジの DVD からコピーしたっていう CD くれるし。「80年代のアンゼンチタイもよかったけどね、あの頃からうんとマチュアになってものすごくいいよ。エリック・クラプトンよりいい」なんて興奮して言ってた。聴いたけど歌詞がなんか・・・ってちょっと思ったけど。エリック・クラプトンと比べるか、とも思ったけど。3月にわざわざ日本までコンサート見に行くって言ってた。

生きたエビのお寿司があるんだよ。ごはんの上で、殻剥かれたエビのしっぽがまだはねてるの。口の中で踊るんだよ。だから「ダンシング・プローン」っていうの。プチプチしておいしいよー。って、いい加減な英訳つけて話して、一緒にいた別のドクター気持ち悪がらせておもしろがったり。

今日は、「日本のプリンセスにベイビーガールが産まれたね」っていろんな人に言われたし。「らしいね。日本中がハッピーなんだって」って答えて、なんだか嬉しかったり。

日本に行きたいなって思った。

でも、あの人は遠い。
日本に行っても、会えなくて遠い。


きっとくたびれてまだ寝てるんだよね。
ずっと寝不足だったもんね。
明日電話くれたときは、「約束破った」なんて拗ねたりしないよ。
いっぱい眠って、わたしの夢見てね。


-

あっためて - 2001年12月02日(日)

昨日きれいに片づけたはずの机の上が、もうめちゃくちゃ。テキストとノートの山積み。問題集のバインダーが散乱。おまけに最近甘えんぼがエスカレートしてるチビたちがその上を徘徊する。ふたりしてキーボードの前にどっかと座る。キーボードを枕にどてっと横たわる。キーボード打つわたしの手に両手を伸ばしてふにゃあ〜って鳴く。降ろしても降ろしても飛び上がってくる。


今朝あの人の電話で起きた。
たくさん話せるって言ったくせに、またこれからスタジオに練習に行くって言う。いつもこうやってのびのびになる。昨日頑張って勉強したことも、せっかく上手に焼けた洋梨とヘーゼルナッツのタルトのことも、話せなかったじゃん。「今日は何するの?」って聞くから「夕方から友だちんとこに行く」って答えた。

「誰? 友だちって。」
「うふふふふ。」
「誰だよ?」
「内緒。」
「ごはん食べに行くの?」
「まあね。ふふふ。」
「男? 女の子?」
「男。」
「誰〜?」
「ドクター。」
「なんで? なんで? なんで?」
仲直りしたの、って言おうと思ってやめた。
「別のドクターだよ。」
「・・・。・・・ふたりで行くの?」
「そうだよ。」
「ごはん食べるだけだろ?」
「わかんない。だって今日はいっぱい話せるって言ったくせに、約束破るんだもん。」

だって、いつだってそうやって延ばし延ばしにして、電話しかないのに、電話だけ待ってるのに、火曜日はゆっくり話せるなんて言ってどうせまた「これからまた仕事」とか言ってダメになって、「ごめんね」とか言うんだ。「ごめんね」なんかもう言わないでよ。約束破って「ごめんね」ばっかじゃん。バカ。もう嫌い。もう、また別の人見つける。ほかの人のとこに行く。

そう言ってやったら、「別の人見つけないで」ってちょっと悲しそうにあの人は言った。それから「練習やめるよ。もう遅刻してるし。このままきみと話する。話したい」なんて言い出す。「きみが大事だから」って。慌てて言った。「だめだよ、行かなきゃ。嘘だから。うそうそうそ」。だめだよ。そんなこと今まで言ったことないじゃない。いつも仕事が一番大事でいてよ。ちょっと拗ねただけだから。

「嘘だって。女の子女の子。だから早く練習行ってらっしゃい。」
「なんで急に、そんなに焦って切ろうとするの?」
「違うよ。だって練習行かなきゃだめだよ。ほんとに女の子と会うんだってば。」
「ほんとに? じゃあさ、明日きみが仕事に行く前に電話する。それで許してくれる? だめ? それとも泊まってくるの? 帰らないの?」

まだ心配してる。泊まらないよって言ったけど、明日はいつもより早く仕事に行くかもしれない。電話してくれたときわたしがいなかったら? 悲しい? 淋しい? だけどあなたには彼女がいるじゃない。わたしだって、あなたに腕を伸ばしたい。 


外は突然冬景色。またやられた。追いつけないよ、変わり身が早いんだから。赤い葉っぱも黄金の葉っぱも嘘みたいに消えちゃって、突然裸んぼうにされた木たちが白い空に腕を伸ばしてる。

ねえ、木は悲しい? 淋しい? でも、雪が包んでくれる日が来るもんね。春になったら芽吹くものね。夏が来たら緑でいっぱいになるものね。ちゃんと約束されてるんだもんね。


誰か別の人、探したりなんかしないよ。
ただね。ただね。急に寒くなったから、あっためて欲しいよ。あなたに。


-

12月 - 2001年12月01日(土)

あたたかな土曜日。
窓を全開にして、
お掃除をして、
手洗いの洗濯をして、
壊れた椅子を直して、
コーヒーを沸かして、
クラッカーを食べる。

これからお勉強をしましょう。
夕方になったら買い物に出かけて、
梨とヘーゼルナッツと小麦粉とバターを買って来よう。
明日はトレーシーのお家に行くから、
夜にはそれでタルトを作りましょう。

明日の朝、あの人が電話をくれる。
「昨日は何してたの?」って聞かれたら
ちゃんと答えられるように、
今日をいっぱいにしよう。

最後の月の、最初の日。
今年も頑張ったねって言えるように、
最後の月くらい
毎日きちんと暮らしましょう。

「眠れなかったの」なんて
もうあの人に心配かけないように、
夜もしっかり眠りましょう。

アニーが昨日言った。
「神さま、わたしを救ってください」って
毎晩それだけお祈りしてからベッドにもぐりなさい。
そうすればちゃんとそうなるからって。

信じよう。
神さまもあの娘もわたしの天使も。
それから、今日から始まる12月を。





-




My追加

 

 

 

 

INDEX
past  will

Mail