一平さんの隠し味
尼崎の「グリル一平」のマスターが、カウンター越しに語ります。


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2003年09月29日(月) その33



その33

オルテガさんは私に聞きたいことがあったみたいで・・・

「あの、チーフ、店をやめたらしいな、そして何処いったんや?」

私は、言いたくなかったんですが、あの顔でにらまれると・・・

「たぶん、あの料理屋の女将さんの所だと思いますけど・・」

すると、オルテガさんは、すぐに・・・

「わかった!今から、その料理屋でも覗いてこようか・・・」

正直、私はイヤナ予感がした。

配達もそこそこに、帰りに料理屋の方に回ってみた。

もうそこのは、たくさんの人だかりが出来ていた・・・入り口が開いていた。

オルテガさんが、カウンターの真ん中に座って女将さんと、その横にチーフがいた。

「なあー女将!商売ってもんは、自分だけよければいいってもんじゃないやろ!」

「よその店の一番手を手玉にとって、引っこ抜いて来て!どないやねん!」

「チーフ・・・ええのんか?この店で・・・ええのんか?」


       また・・・次の日



           


2003年09月26日(金) その32

その32

親父さんも、言った手前、引っ込みがつかず、そのまま、店をプィっと出ていってしま

った。みんな、みんな、不安だった、セカンドチーフはいるけど、人望的には・・・

みんなから、嫌われてるみたいでした。

或るとき、へんこな、お客さんが、
「ヘレ肉を焼いてくれ、チーフは?チーフはおれへんのか?」
「何で、ここをやめたんや!それやったら、もうーええわ!」・・・(帰ったがな!)

そんな事が、たびたびあった。チーフの事を、悪く言う人は誰もいなかった。

私自身とっても悲しい思いでした、これからもっと、もっと、学ぶ事がいっぱい

あったし、チーフを目標にしてた私は、突然の事で、地に着かない心のまま、

日々、配達してたことを思い出します。

もうー私もやめて田舎へ帰ろうかと思っていた時・・・。

オルテガさんに、ある日、呼び止められ・・・。


        また・・・次の日
           


2003年09月18日(木) その31


その31

チーフが時々あの女将さんの店を手伝う事になって、ひと月ぐらい経ったころ、

オルテガさんの事務所に配達に行ったとき、オルテガさんが私に・・・

「なんで、あのチーフは、あの女将の店にいるんや?」

「お客でいくのはいいけど、調理場で働いてるのは、どうなんや!?」

「一平のおやじは知ってんのか?」

私が、あんまり返事をしないので、オルテガさんが怒りだした。

「あの女将は、一平のチーフってことを分かってて使ってるのか?」
「おかしいやないか、洋食屋のチーフが小料理屋で働いとるって!変やろ」

どーも、オルテガさんは、納得しがたく、義理人情の世界では通用しないらし。

そんなこんなで、チーフが女将の店で手伝ってる事が、一平のおやじさんの耳に入るのは

時間の問題でした。私が出前の皿下げから帰ったら、チーフとおやじさんがテーブルに

座ってなにやら話し込んでいた・・・私は下げてきた皿を洗いながら二人の話に耳を傾け

てたら、お互い段々、感情的になったのか、おやじさんが・・・

「手伝うなら店を辞めてから行ってくれ!」

売り言葉に買い言葉!チーフが・・・

「わかりました!やめます!」と、・・・・・(えええええ!あかんがな!あかん!あかん!)



また・・・次の日・・・
           


2003年09月11日(木) その30


その30

店のオーナーから絶大な信頼を受け、本人も洋食の世界に日々、自分を厳しく接し

料理に究極と、いうものはなく、次に作る料理はもっと美味しく、もっと!もっと!

それが職人と、いうものだ!と、いつも言ってました。野菜サラダを盛るにしても

胡瓜のスライスした時の長さ、アスパラの立ち具合、全体のバランスとか、必ず

チェックする人でした・・・忙しい日にこんな事もありました・・・

レシャップの人が野菜サラダを盛り付けて出そうとした時!

「ちょっと!待って、このサラダ!君がよその店に行って、サラダを注文して、
 このサラダが出てきたら、君は金を払うかい?」

「あのね・・・仕事として盛るんじゃなく、君が食べたいと思うサラダを盛るんだよ」

そして彼は・・・ゆっくりと・・・

「職人は自分の仕事におぼれたら、あかんで!気が付かない内に、仕事が小さくなるで」


何故か今でも・・・サラダを盛るとき、不思議と毎回この言葉が、よみがえります・・・。


        また次の日・・・

            


2003年09月07日(日) その29


その29


高度成長のおり、人手不足は職人さんまでおよび、見習いさんはいっぱいいるけど、

そこそこ、五年以上の手に職を付けてると言うか、いちよう、ひと通りの事が出来る

職人さんが少なくて、どこのお店でも、引っ張りだこでしたね、当時のグリル一平も

五、六年、勤めてるコックさんが、いつの間にかよその店に、ひっこ抜かれる事が

たたありましたね。スナックのママさんが最近よくカウンターで見かけるなーと、思っ

たら、中の職人さんと仲良くなって、一月ぐらいすると、急に店を辞めたいと言いだし

次の日には、そのスナックの調理場でオードブルを作ってる、姿が見れましたよ・・・

だいたい、手口としては、ママさんが店の可愛いスタッフを一平に連れて来るんです・・・。

その、可愛いスタッフに、お目当てのコックさんと友達になるように通います、そして、

今度は店に一度飲みに来るように誘います・・・。一度そのスナックに行ったら、また、

必ず同じ店に行きます、そして言葉巧みに、店を助けて欲しいと言って、オードブルを

作るスタッフいない!腕のいい職人さんが欲しい!と、悩みを相談するんですね・・・

職人さんて、意外と正義感あって、助けて上げようとするんですね・・・。

そうして、何人ものいい腕の職人さんが辞めていったことか・・・。

我が尊敬するチーフが次に日、ニコニコしながら言うんです、



「やけどさした、あの店にいったよ、ちょうど忙しくしてたから、手伝ってあげたら
  えっらい喜んでくれて!ビールもご馳走になって・・・。」


        また次の日に
            


2003年09月03日(水) その28


その28

チーフが一番心配したのは、その白い肌の顔に傷を付けたらと・・・

もう一つ、そのころの水商売の方は、たいがいウシロにスポンサーって言うか、

怖い男の人が付いてることがあって、おそらくチーフは、そっちの方も、とっても

気になっていて、それは必死で冷やしてました、直ぐに冷やしたのが良かったのか

少しだけ赤くなってただけで、女将さんも、笑いながら、

「ちょっと、化粧を厚めにすれば、わからないわよ」・・・・・(ふとっぱら!です!)

店を開けるのに時間がないからと、このエビフライを後で店にはこんで下さいとのこと

サランラップに巻いて、教えてもらった店に行くと、女将さんは、もう他のお客さんに

笑顔を振りまいて明るく働いていたのを憶えています、その時、プロの世界は凄い!
  

と、それなりに思ったものでした。料理を置いて帰ろうとしたら、

「店に帰ったら、チーフにあんまり気にせんといてって、言っといてね・・・」
「また、仕事の帰りにでも寄るようにって」

       また・・・つぎの日 


2003年09月01日(月) その27


その27

いつものとは

「車海老フライ定食」で車海老が二匹付いてコーンスープとライス付いて、¥850円。

35年前の値段ですが(笑)・・・ハンカチを袖から出して、何気なく和服の襟に沿えて

目の前でチーフが車海老を揚げてくれるのをまっています、たまたまその日は、海老の

ご機嫌が悪く、油が飛び跳ねて、ちょうど正面の女将さんの眉間に油の固まりが!!

そりゃーたまりませんよ!熱いのなんのって!この世の終わりって言う顔でしたよ!

「あ!つううう」  「あ!熱いー」  

チーフが驚いて、「すみませひん!」「ごめんなさい!」「大丈夫ですか!」「スミマセン!」
「氷をオシボリに巻いて持って来てえ!」「早くうー!」・・・・そりゃー必死でしたよ

その世界の人には、顔は商売道具ですからね、女将さんも必死で冷やしてましたよ。

私は、あの車海老はどうするのか、とっても気になったのを憶えてます。


          またこの次・・・



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