一平さんの隠し味
尼崎の「グリル一平」のマスターが、カウンター越しに語ります。
目 次|過 去|未 来
その26
人との出会いの中で大きく人生がかわってゆくってことがあるんですね・・・。
そのチーフは、店のオーナから絶大なる信頼を得ていて、それは、みんなが認める事で
いずれ、オーナーから、のれん分けをしてもらい自分の店を持つ人だと思ってました・・・。
ウエイトレスの人達もチーフの優しい目、言葉使い、好感度、120%!でした。
その人が来るまでは・・・。
和服の似合う人でした、物腰が優しく、いつも日が沈む頃、日差しが店のなかに入るころ、
その人は、やって来るんです・・・カウンター奥の、いつもの席で、チーフに一言、
「いつもの、作ってくれますか・・・」・・・・・・(チーフは何故か緊張気味でした)
後でわかった事ですが、どこかの小料理屋の二代目女将だったようです。
次の日に・・・
その25
今でも忘れられない、先輩がひとり、いるんです。
私がこの中央店に来たときには、その人は、すでにチーフ格で、高いコック帽をかぶり、 背も180センチほどあり、なにか、フライパンを振るのが華麗と、言うか、綺麗と、 言うか、今、思っても、あんなセンスを持ち合わせる人は、あれから三十年、見たことがない、ぐらい、カッコよかった!さわやかでしたね。後々、その訳が解ってくるんですけど・・・
私が出前から帰ってくると、いつも笑顔で「ごくろうさん!」って言ってくれるんです。 なぜか、その笑顔で、配達先で嫌な事があっても、救われてましたね・・・。
今はどうだか分かりませんが、当時の洋食屋さんは、特にオープン・カウンターでの職人の上下関係が、はっきりしてて、初めて店に来た見習いさんは、二年は出前で、三年目から裏方になり、仕込みの手伝い、ごはん炊いたり、サラダを盛ったり、などなど・・・
五年目ぐらいから、レシャップと、言って、お客さんからの注文をすべてハークして、 それを、料理をつくる人に用意してあげる、ラグビーで言うと、スクラムハーフ! バレーで言うと、セッター、野球で言うキャッチャー!ようするに、カナメ・要・ ですね。忙しい時、店がうまく流れるかどうかは、レシャップ次第!
そして・・・下済みからいろんな経験を積んで、やっと七年目から料理を任せられるほどになるのが・・・チーフ!です。これは凄かった、仕入れから仕込み、料理を作りながら 、お客さんとの会話、お客さんの顔は一度話したら絶対に憶えてます、カウンターに座ったら、必ず会話をしてます、いろんな話題性を身に付けてます、お客さんが減るも増えるも、チーフ次第でしょうね!
その人は、チーフでした、出前が込んでくると、レシャップに後は任せて、ニコニコ しながら、配達を手伝ってくれる人でした・・・。
ある日・・・そのチーフの前のカウンターに、和服姿の綺麗な女性が座ったことが・・・ ある事の始まりなんです・・・。
また次の日に・・・
番外編・・・その1
{ 五、六年、前になりますか・・・琢と日本海へツーリングに行った事があります、
天の橋立から伊根町をぬけて経ヶ崎へ行く途中で、琢が・・・「ちょっと休憩しよう」と
ちょうど、それが、宮津の駅だったんです!駅の長椅子に座って、何気なく外を・・・
見てたら、食堂があって、琢が、「お腹すいたなー」なんて言うから、二人でその食堂へ
行ったんです、二人で陳列を見ながら、あれやこれやと決めかねていました・・・
隣にパーマ屋があって、外を掃いてる女の子がいて・・・何かどっかで見たことが・・・
あるなーなんて思いながら食堂の中へ・・・琢と定食を食べながら、琢に、
「先っきの子なーどっかで見たことがあるんやけど・・・」
そして・・・ビックリしたんです!「ええ! ええ!」 「うそうそ、うそうそ」
私はも一度、外に出て確かめようと・・・もうその子はいなくて、その店の看板を見た ら、間違いなく、あの時の、見習いの子の名前でした!えええ!でした!じゃ!あの子
は、娘さんだ!ほんまに、あの時の、顔と同じ顔をしてました・・・そーっと店の中を
覗いたら、もう、すでにお客さんが座ってて、あの時の見習いさんは、髪を洗うだけ
じゃなく、パーマを掛けながらお客さんと、笑顔を交えて、優雅に・・・自信に満ちて
お喋りをしてたんです、娘さんが時おり下を掃きながら、お母さんと顔を見合わせ
ながら、笑って話してるんです・・・・・そうでしたか、貴方は夢を棄ててなかった!
あれから、貴方にどんな人生があったんでしょうね・・・苦労したんですか?・・・
おばあちゃんの・・・髪は・・・貴方の店で解いてあげたんですか?・・・
たった・・・5分ほどの事でした・・・じいーんと、じいーんと、しました・・・
食堂に帰って、琢に話したら・・・「へーーなかなか根性ある人やねー」・・・
また・・・二人でバイクに乗り・・・宮津を後にしました
その24
クリスマス・イブ・・・
朝からバタバタした!商店街を抜けた所に、足長さんのマージャン屋よりも3倍ほど大きなマージャン屋さんからオムライス50個!の配達があり、一枚一枚運ぶのも大変なので オヒツのデッカイのに入れて、お皿を五十枚、持って、あとは、そのマージャン屋さんに行って注いで渡す!いちいち運ぶ思いをすれば、こっちの方が早くて楽でした・・・
50個のオムライスも注ぎ終わったら3人前ほど残り、帰りに足長さんの所で食べてもらおうと・・・店に持って行ったら・・・足長さんが灯りも点けづ椅子に座ってた・・・
薄暗い店の中から、足長さんは、私に一枚の手紙を渡しながら・・・
「朝、起きて、二階の見習いさんにコーヒーでも入れてあげようと階段を上がって見たら 居なくて・・・枕元にお礼の手紙が3通おいてあってね・・」
足長さんは、自分えの手紙をよんだせいか・・・目が潤んでて・・・
私はオムライスだけを店に置き、忙しい店へ飛んで帰った・・・
休息の時間に彼女からの手紙を読んだ・・・
「わたしは・・・やっぱり丹後に帰ります・・・ありがとうございました・・・ 小さい頃から髪を触るのが好きで、いつも夕方になると、お婆ちゃんの髪に櫛を通して ました、するといつもお婆ちゃんが、卒業したら、ちゃんと修行してパーマ屋さんにな
るといいよって!私は早く一人前になってお婆ちゃんの髪を結ってやりたいと・・・
思ってました、自分の思うようにはならないものなんですね・・・私は途中で挫折した
けど、貴方はがんばって自分の店を持ってください!いつも・・・星をみて・・・
祈っています。それから・・・あの親分さんにも、よろしくお伝えください・・・
メンソレタームはもう、いらなくなりました、よかったら使ってください・・・」
店の3階は倉庫になってて、大きなメリケン粉の袋の横で泣いたのを憶えています・・・
やっと仕事も終え、夜中の一時頃・・・外は沢山の三角帽子を頭にかぶった酔っ払いが、
手にケーキを持って、次なる店へフラフラ〜フラフラ〜
洗い物でびっしょり濡れたコックコートを絞りながら、一番!輝いてる星に・・・
メリークリスマス!がんばれー!って叫んだ事がありました・・・
もちろん・・・30年、前のことです・・・
その23
あのクラブのママが、オルテガさんの側に着くなり・・・
「親戚の子なら、それならそうと、言ってくれたらいいのに、親分も水くさいよ!・・・」 「あんなパーマ屋に置いてたら、こき使われるばっかりだよ!可哀想だよ!・・・」
オルテガさんが・・・
「それで、かわりにお前さんが、コキ使う気だったんかいな!」
「ちがうよ!親分の親戚の子だと分かっていたら、私がパーマ屋に言ってやるよ!」 「何年、たっても髪しか洗わして、もららえず・・・少しでもお客さんの髪を 触るもんなら、あんたはまだ触るのは十年早いよ!なんだよ・・・」
オルテガさんが言った・・・
「じゃ!あの子は、お前さんのその腐った脳みその入った頭を何度も洗ってたんかいな、 あの子は、あんなにひび割れした手で、泣き言いわず、怒られながら毎日、毎日、 洗って・・・洗って・・・あげくの果ては、よその水商売へ手伝え!・・・ よくも、そんな不道理な事が言えたもんだよ!」
「もう二度と、あの子にチョッカイ出すんじゃねーぞ!いいな!もし、こんな事が・・・ また、あれば、うちの若いもんを毎晩、あんたの店で暴れたいってよ!」
クラブのママがペコペコしながら、帰っていった・・・
もう・・・街なかは、新聞配達の自転車が飛び回ってた・・・この日のことは・・・
三十年たった今も・・・昨日のように・・・浮かんできます・・・
また・・・次の日・・・
その22
外の方で何か騒がしく・・・
足長さんの店から斜め前のパーマ屋さんの方を見ると、オルテガさんが立つていた、 そのオルテガさんの大きな体に隠れるようにパーマ屋のママがペコペコと頭を 地面につくほどに下げていた・・・・(何故か気持ちが良くて、すーっとした) 大きな声で、オルテガさんが言っていた、
「そんなに人間!欲張っちゃいけねーよ!人という字があるだろうが、あの字を見てみろ 支えあって人という字ができてるんとちがうんか!あんたも見習いの頃が、あっただろうが、その頃の自分を支えた人のことを忘れたら、あかんのとちゃうか!勝手に店が、 大きくなったんじゃないだろうが!弱いものいじめをすな!あの子だって一生懸命 働いてるだろうが・・・助けてやれよ!・・・育ててやれよ!・・・」
それを聞いてた足長さんが・・・僕をさけるように横を向いて泣いていた・・・
オルテガさんて・・・さすが親分だ・・・そんな事を感じた私もちょうど20歳でした。
ネオンも消えた街の奥から・・・あの二人がクラブのママを連れて帰ってきた
また・・・次の日・・・
その21
オルテガの号令で、剃り込みと刺青の二人がきた!
二人に事情を説明して・・・オルテガさんが言った・・・
「お前ら二人は、くそババアの店へ行ってこい!ワシはパーマ屋に行ってくる!」
「それから・・・彼女はワシの親戚の子やっちゅうことにしとくんやで!」
三人は出発した!
私も慌てて店に帰ったら、もうシャッターは閉まってた、店の前はクリスマスの 酔っ払い達が、フラフラ歩いていた・・・先輩にちょっと遅くらると、電話した そして、すぐに足長さんのところへ行ってみた、彼女は疲れたと思うから・・・ 二階に寝かしといたと言っていた、足長さんが、あの三人がまだ帰って来ない ので、そわそわ・・・そわそわ・・・
次の日に
その20
せき止めてた水が溢れるかのように・・・
「帰りたい!帰りたい!帰りたい!・・・丹後に帰る!」と、何度も何度も言ってた。
夜中に泣いて立ってるのも人目があるし、とりあえず足長さんの所へ連れていった・・・
「すみません!あ、あのうーこの子を今夜だけ預かってもらえませんか・・・」
足長さんは、大きな荷物を持って泣いてる、その子を見て、とっさに察したのか、彼は 直ぐに、 「とりあえず座りなさい、君は前のパーマ屋さんの見習いの子やね・・・」
「愛想がよくて、毎朝あいさつをしてくれて・・・いつも頑張っていたよね・・・」
「あの店は、見習いさんが続かないことで有名なんだよな!」
「泊めるのはいいけど、一晩だけだよ!僕は下で寝るから・・・上で寝たらいいよ」
オルテガさんが・・・何か言いたそうに・・・
「僕の女かい?」・・・・・・・・(はあー?)(なに言ってんの、この人!・・・)
「さあーこのおっちゃんに言ってごらん、何があったんや!・・・」・・・・(こわ!)
見習いさんも少し落ち着いてきたのか・・・話し出した・・・
いつもの様に髪を洗ってると、あの大きな頭のクラブのママが、クリスマスで猫の手も 借りたいほどてんてこ舞の忙しさで、パーマ屋のママに見習いの子を、ちょっと・・・ 貸して欲しい!ってことだったらしい・・・もちろん彼女は断ったらしいが・・・ クラブのママが、とうとう切れて・・・
「もう二度とこの店には来ないからね!」・・・・・・(何を言うとんねん!)
パーマ屋さんにとってクラブのママは上得意さんらしくて、必死にママをなだめていた らしく、 「ママの店を手伝わなかったら・・・もう!田舎へ帰り!」っと・・・・(そんな、アホな)
それで、仕事が終わったとこで、店の外に、掘り出されたらしい・・・
今の時代では信じられないだろうが、どの店でも見習いさんは辛い思いをしていたと思う それを、すべてを聞いてた、オルテガさんが・・・すくっと立って!
「その、クソばばあーの店はドコヤ!」・・・・(ええー!怒ってるでー知らんで!)
「若いモンを呼んで来い!」「その店で暴れたる!」・・・・・(それはいい考えだ!)
また・・・・次の日・・・
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