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| 2003年05月27日(火) | 第１６回 |
■第１６回『資本論』を読む会は、５月２７日(火)に行われました。
前回、前々会の復習の後、第４節「商品の呪物的性格とその秘密」の最初の部分を輪読し、討論しました。
第４節 商品の呪物的性格とその秘密
●呪物とは？
呪力や霊験があるとされる物のこと。
呪物崇拝は、「人造物や自然物に神秘的価値を認めて、信仰・儀礼の対象とする呪術的・宗教的態度。フェティシズム」のこと。物神崇拝とも訳されている。
商品は、一見、自明な平凡なものに見える。商品の分析は、商品とは非常にへんてこなもので形而上学的な小理屈や神学的な小言でいっぱいなものだということを示す。(国民文庫第１分冊133頁・原頁85)
●形而上学とは？
アリストテレスの中心著作の書名。存在者を存在者たらしめている超越的な原理、さらには神・世界・霊魂などを研究対象とする学問をさす。また「形而上」は「精神や本体など、形がなく通常の事物や現象のような感覚的経験を超えたもの」、「形而下」は「時間・空間の中に、感性的対象として形をとって現れるもの」のこと。
★商品の神秘的性格は商品の使用価値からも、価値規定の内容からも出てこない。
１.いろいろな有用労働がどんなに違っていても、どれも「人間の脳や筋肉や神経や手などの生産的支出」(国民文庫87頁・原頁59)であり人間労働力の支出＝抽象的人間的労働
２.労働の継続時間(労働の量)は感覚的にも労働の質と区別されうる
３.「最後に、人間がなにかの仕方で相互のために労働するようになれば、彼らの労働もまた社会的な形態をもつことになるのである。」
●価値規定の内容とは？
価値規定は「社会的必要労働時間による商品の価値量の規定」のこと。価値規定の内容とは「社会的必要労働時間」のことではないか。
社会的必要労働時間は「現存の社会に正常な生産条件と、労働の熟練度および強度の社会的平均度とをもって、何らかの使用価値を生産するために必要な労働時間」であった。
【復習】
諸価値の実体をなしている労働は、同じ人間労働であり、同じ人間労働力の支出である。商品世界の諸価値となって現れる社会の総労働力は、無数の個別的労働力から成っているのであるが、ここでは一つの同じ人間労働力とみなされるのである。これらの個別的労働力のおのおのは、それが社会的平均労働力という性格をもち、このような社会的平均労働力として作用し、したがつて一商品の生産においてもただ平均的に必要な、または社会的に必要な労働時間を必要とするかぎり、他の労働力と同じ労働力なのである、。社会的に必要な労働時間とは、現存の社会に正常な生産条件と、労働の熟練度および強度の社会的平均度とをもって、何らかの使用価値を生産するために必要な労働時間である。……だからある使用価値の価値量を規定するものは、ただ、社会的に必要な労働の量、すなわち、その使用価値の生産に社会的に必要な労働時間だけである。個々の商品は、ここでは一般に、それが属する種類の平均見本とみなされる。したがって、等しい大きさの労働量が含まれている諸商品、また同じ労働時間で生産される諸商品は、同じ価値量をもっているのである。(国民文庫第1分冊78-79頁・原頁53-54)
・商品の価値は、ただ人間労働を、人間労働一般の支出を、表している。
・それは、平均的にだれでも普通の人が、特別の発達なしに、自分の肉体のうちにもっている単純な労働力の支出である。
・商品に含まれている労働は、使用価値との関連ではただ質的にのみ認められるとすれば、価値量との関連では、もはやそれ以上には質を持たない人間労働に還元されていて、ただ量的にのみ認められるのである。
・すべての労働は、一面では、生理学的意味での人間の労働力の支出であって、この同等な人間労働また抽象的人間労働という属性においてそれは商品価値を形成するのである。
●「人間がなにかの仕方で相互のために労働するようになれば、彼らの労働もまた社会的な形態をもつ」とはどういうことか？
よくわからない。
ここでは価値規定の内容について述べている。「第一に」と「第二に」はわかるが「最後に」はどういうことだろうとの疑問が出された。「社会的形態」は労働について述べられているのだから「社会的必要労働」のこと、個々の労働力が「一つの同じ人間労働力とみなされる」という意味ではないかと考えられるが…それでいいのだろうか。
それでは、労働生産物が商品形態をとるとき、その謎のような性格はどこから生ずるのか？明らかにその形態そのものからである。いろいろな人間の労働の同等性はいろいろな労働生産物の同等な価値対象性という物的形態を受け取り、その継続時間による人間労働力の支出の尺度は労働生産物の価値量という形態を受け取り、最後に、生産者たちの労働時間の前述の社会的規定がそのなかで実証されるところの彼らの関係は、いろいろな労働生産物の社会的関係という形態を受け取るのである。
だから、商品形態の秘密は単に次のことのうちにあるわけである。すなわち、商品形態は人間にたいして人間自身の労働の社会的性格を労働生産物そのものの対象的性格として反映させ、これらの物の社会的自然属性として反映させ、したがってまた、総労働にたいする生産者たちの社会的関係を諸対象の彼らの外に存在する社会的関係として反映させるということである。このような置き替えによって、労働生産物は商品になり、感覚的であると同時に超感覚的である物、または社会的な物になるのである。……商品形態やこの形態が現れるところの諸労働生産物の価値関係は、労働生産物の物理的な性質やそこから生ずる物的な関係とは絶対になんの関係もないのである。ここで人間にとって諸物の関係という幻影的な形態をとるものは、ただ人間自身の特定の社会関係でしかないのである。(国民文庫第1分冊135頁・原頁86)
●「商品形態をとる」とは？
使用価値であるとともに価値をもつものとして現れること。
●価値対象性とは？
価値をもっているという性質。
●労働生産物の社会的関係
交換関係や価値関係のことか。
後で出てくる「諸対象の彼らの外に存在する社会的関係」も同じ意味。
●人間自身の労働の社会的性格
他人のための労働という性格と理解していいか？
「商品を生産するためには、彼は使用価値を生産するだけでなく、他人のための使用価値、社会的使用価値を生産しなければならない」(国民文庫第1分冊82頁・原頁55)
●社会的自然属性とは？
「社会的」とはここでは「自然的」ではないということを意味している。それが「自然属性」につづくので奇妙な感じがするが、「自然的、つまり物理的とか化学的な性質ではなく、社会的な生まれながらにもっている性質」といったことではないか。
【資料】
商品形態は労働生産物の独自な社会的形態である
商品は労働生産物がとる独自な社会的形態である。商品の使用価値は他人のための使用価値、つまり社会的使用価値でなければならず、価値は社会的に規定されるまったく社会的な属性である。商品はまつたく社会的なものである。
労働する諸個人が生産のなかで取り結ぶ特定の生産関係のもとでのみ、労働生産物は必然的に商品の形態をとり、商品のなかから貨幣が生まれる。このような生産関係を商品生産関係と呼ぶ。つまり、商品とは商品生産関係のもとで労働生産物がとる社会的形態であり、商品生産とは、商品生産関係が支配する社会的生産形態である。
商品生産関係のもとでは労働生産物が商品形態をとり、そのなかから貨幣が生まれるのは、人びとの意志や意欲から独立に貫く法則であり、この法則が人びとの意志や意欲を規定する。
(大谷禎之介『図説社会経済学』72−73頁)
| 2003年05月20日(火) | 第１５回 |
■第１５回『資本論』を読む会は、５月２０日(火)に行われました。
第３節｢価値形態または交換価値｣の「Ｃ 一般的価値形態」の「２ 相対的価値形態と等価形態の発展関係」、｢Ｄ 貨幣形態｣を輪読し、討論しました。
２ 相対的価値形態と等価形態の発展関係
等価形態の発展は相対的価値形態の発展の表現であり結果。
つねに相対的価値形態にある商品が能動的であり、等価形態にある商品は受動的。
・形態�機｜噂磴覆泙燭聾鎚姪�な相対的価値形態→個別的等価物(単独な等価物)
・形態�供‥験�された相対的価値形態→さまざまな種類の特殊的等価物
・形態�掘‥�一的・一般的な相対的価値形態→一般的等価物
最後に、ある特別な商品種類が一般的等価形態を与えられるのであるが、それは、すべての他の商品がこの商品種類を自分たちの統一的な一般的な価値形態の材料にするからである。
しかし、価値形態一般が発展するのと同じ程度で、その二つの極の対立、相対的価値形態と等価形態の対立もまた、発展する。(国民文庫第1分冊 127-128頁・原頁82)
・形態�機，海梁侘�を含んでいるが、それを固定させていない。左辺と右辺が入れ替わっても形態としては同じ。ただしどの商品の価値が表現されるかは変わる。
・形態�供，垢戮討梁召両ι覆�その商品種類にたいして等価形態にあるからこそ、そのかぎりでのみ、その商品種類自身が、展開された相対的価値形態をもつ。ここではもはや、価値方程式の二つの辺を置き換えることは、この等式の全性格を変えてしまう。
・形態�掘，海侶疎屬�最後に商品世界に一般的な社会的な相対的価値形態を与えるのであるが、それは、ただ一つの例外だけを除いて、商品世界に属する全商品が一般的等価形態から排除されているからであり、そのかぎりでのことである。したがって、一商品、リンネルが他のすべての商品との直接的交換可能性の形態にあるのは、他のすべての商品がこの形態をとっていないからからであり、またそのかぎりでのことなのである。
注24の中の「一般的直接的交換可能性の形態を見ても、それが一つの対立的な商品形態であって、ちょうど一磁極の陽性が他の磁極の陰性と不可分であるように非直接的交換可能性の形態と不可分であるということは、けっしてわからないのである」は重要な指摘。
一般的等価物は、他の諸商品と共通な相対的価値形態をもたないのであって、その価値は、他のすべての商品体の無限の列で相対的に表現される。形態�兇�、等価物商品の独自な相対的価値形態として現れる。
【復習】
「Ａ 単純な、個別的な、または偶然的な価値形態」の「１ 価値表現の両極 相対的価値形態と等価形態」のなかでは「相対的価値形態と等価形態とは、お互いに属しあいお互いに制約しあっている不可分な契機であるが、同時にまた、同じ価値表現の、お互いに排除しあう、また対立する両端、すなわち両極である」「同じ商品が同じ価値表現で同時に両方の形態で現れることはできないのである。この両形態はむしろ対極的に排除しあうのである」(国民文庫第１分冊 96頁・原頁63)と述べられていた。
●注24でふれられているプルドンの社会主義とは？
プルドンはフランスの社会主義者。
1848年の二月革命の後の直後<無償信用>とそれにもとづく<人民銀行>の設立を提唱。プルドンによれば、小商品生産者は彼らの商品を、その生産に必要な労働時間に応じて、貨幣の媒介なしに交換し、プロレタリアは<無償信用>によって独立商品生産者になることになる。この空想を彼は<人民銀行>によつて実現しようとして、1850年代のはじめには、そのための資金を集め、またナポレオン３世の援助を求めたが、もちろん失敗に終わった。(『資本論辞典』の「プルドン」の項より抜粋。執筆者は時永淑氏)
３ 一般的価値形態から貨幣形態への移行
一般的等価形態が最終的に一つの独自な商品に限定された瞬間から、はじめて商品世界の統一的な相対的価値形態は客観的な固定性と一般的な社会的妥当性とを勝ち得たのである。
その現物形態に等価形態が社会的に合生する特殊な商品種類は、貨幣商品になる。
商品世界の中で一般的等価物の役割を演ずることが、その商品の独自な社会的機能となり、その商品の社会的独占となる。
金が歴史的にこのような特権的な地位を勝ち取った。形態�靴里覆�の商品リンネルを商品金に取り替えれば貨幣形態が得られる。
Ｄ 貨幣形態
２０エレのリンネル ＝２オンスの金
１着の上着 ＝２オンスの金
1０ポンドの茶 ＝２オンスの金
４０ポンドのコーヒー ＝２オンスの金
１クォーターの小麦 ＝２オンスの金
１/２トンの鉄 ＝２オンスの金
ｘ量の商品Ａ ＝２オンスの金
等々の商品 ＝２オンスの金
形態�気�ら形態�兇悗痢△泙新疎岫兇�ら形態�靴悗琉楾圓任蓮∨楴租�な変化がある。しかし、形態�靴鳩疎岫�(貨幣形態)の間には、形態そのものとしては本質的な違いはない。前進は、ただ、直接的な一般的交換可能性の形態または一般的等価物の形態が社会的慣習によって最終的に商品金の独自な現物形態と合成しているということだけ。
金が商品世界の価値表現において一般的等価物の地位の独占をかちとったとき、それは貨幣商品となる。金がすでに貨幣商品になってしまった瞬間から、はじめて形態�犬蓮�形態�靴閥菠未気譴襪里任△蝓�言いかえれば一般的価値形態は貨幣形態に転化しているのである。
すでに貨幣として機能している商品での、たとえば金での、一商品の相対的な価値表現は、価格形態である。価格は金の重量で表されるが、重さの単位そのものではなく鋳貨名で呼ばれるのが通例である。
●なぜ金が一般的等価物の役割を独占したのか？
議論の中で、この疑問が出された。
それに対する回答は、第２章「交換過程」でかかれているが、今検討している箇所ではこのことは問題にならない。なぜならここでは価値形態の分析が課題であり、歴史的に金が貨幣となったという事実を受け入れるだけで充分だからである。
「貨幣形態の概念における困難は、一般的等価形態の、したがって、一般的価値形態一般の、形態�靴陵�解に限られる。形態�靴蓮�逆関係的に形態�兇法�展開された価値形態に、解消し、そして、形態�兇旅柔�要素は、形態�機△垢覆錣繊■横哀┘譴離螢鵐優襦瓧叡紊両綯紂△泙燭�x量の商品Ａ＝y量の商品Ｂ である。それゆえ、単純な商品形態は貨幣形態の萌芽なのである。」(国民文庫第１分冊 132-133頁・原頁85)
| 2003年05月13日(火) | 第１４回 |
■第１４回『資本論』を読む会は、５月１３日(火)に行われました。
前回の復習をした後、第３節｢価値形態または交換価値｣の「Ｃ 一般的価値形態」の「１ 価値形態の変化した性格」を輪読し、討論しました。
Ｃ 一般的価値形態
１ 価値形態の変化した性格
一般的価値形態では、商品はそれぞれの価値を
１.簡単に表している----ただ一つの商品で
２.統一的に表している----同じ商品で
諸商品の価値形態は、簡単かつ共同的、したがって一般的
形態�機�形態�兇任楼貍ι覆硫礎佑髻△修両ι兵�身の使用価値から区別されたものとして表現しただけだが、形態�靴任呂�よそ使用価値というものから区別されている。
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●「形態�靴任呂�よそ使用価値というものから区別されている」とはどういうことか？
形態�気任蓮∈己佞両ι覆�ただ一つの商品を自分に等置する。ここでは、右辺の商品の使用価値は、ただ価値の現象形態でしかない。使用価値としては問題にならない。そして、左辺の商品は、価値をもつものとしての意味しかもたない右辺の商品と等しいということを通じて自分も価値を持っていることを表現している。この場合には、左辺の商品の価値は、自分自身の使用価値から区別されているだけだ。
形態�兇任蓮�右辺には(左辺の商品を除いて)あらゆる商品が置かれる。そこでは、形態�気茲蠅盍袷瓦忘己佞両ι覆硫礎佑呂修両ι兵�身の使用価値から区別される。左辺の商品の価値は、形態�気任呂燭整譴弔梁松ι覆謀�しいものとして左辺の商品の現物形態に相対していた。形態�兇任蓮∈己佞両ι覆硫礎佑�(左辺の商品を除く)あらゆる商品に等しいものとして左辺の商品の現物形態に相対しているからである。ただまだここでは、左辺の商品の価値は、その商品自身の使用価値から区別されているだけだ。
形態�靴任蓮�等価物商品以外のあらゆる商品が自分たちにただ一つの商品(等価物商品)を等置する。ここでは、すべての商品の価値が、等価物商品との同等性によつて表されている。どの商品の価値も、その商品自身の使用価値から区別されているだけでなく、使用価値そのものから区別され、すべての商品に共通なものとして表現されている。左辺にはあらゆる商品が並んでいるのであり、左辺の一商品の価値はただ自分自身の使用価値から区別されるだけでなく、あらゆる使用価値から(使用価値そのものから)区別されているのである。
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形態�機�形態�兇任蓮⊂ι覆硫礎佑楼貍ι覆瓦箸防集修垢襦�左辺に来るのはひとつの商品でしかない。自分自身に価値形態を与えるのはいわば個々の商品の私事。他の諸商品の関与なしにそうしている。
形態�靴蓮⊂ι弊こΔ龍ζ瓜�業としてのみ成立する。
本文での例では、リンネルが一般的価値形態の等価物商品とされている。
リンネルは一般的等価物という性格を押し付けられる。
リンネル自身の現物形態がこの商品世界の共通な価値姿態。
したがって、リンネルは、他のすべての商品と直接に交換されうるもの。(直接的交換可能性の形態にある)
リンネルの物体形態が、一切の人間労働の目に見える化身(抽象的労働の対象化＝価値をもつもの)として通用する。
リンネルを生産する織布労働という私的労働が、同時に、一般的な社会形態に、すなわち他のすべての労働との同等性の形態にある。
一般的価値形態をなしている無数の等式は、リンネルに実現されている労働を、他の商品に含まれているそれぞれの労働に等置し、そうすることによって織布を人間労働の一般的な現象形態にする。
このようにして、商品価値に対象化されている労働は、現実のすべての具体的形態と有用的属性とが捨象されている労働として、消極的に表されているだけではない。この労働の積極的な性質がはっきりと表れてくる。この労働は、いっさいの現実の労働がそれらに共通な人間労働という性格に、人間の労働力の支出に還元されたものである。
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●「消極的に表される」に対比して「積極的な性質がはっきりと表れてくる」と述べているが、「消極的」「積極的」の意味するものは？
現実の労働は、具体的有用労働であると同時に人間労働力の支出という側面からとらえるなら抽象的労働でもある。
「消極的」というのは、具体的有用労働から具体性と有用性を度外視し、はぎ取る(捨象する)ことによって抽象的人間的労働にいたる。捨象するという点で「消極的」だと述べている。また、抽象的人間的労働は、あらゆる労働に共通なものとして取り出す(抽象する)ことによっても表現される。抽象するという点で「積極的」だと述べている。
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【資料】大谷禎之介｢商品および商品生産｣６０-６１ページ(「経済志林」第６１巻第２号)より引用
<捨象>というのは、多くの性質を持っていたり、多くの規定を受けていたりする多面性をもった複雑な事物を観察するとき、それらの性質や規定の一部を度外視することである。たとえば、Ａ、Ｂ、Ｃ、Ｄという四つの性質をもった事物から、Ａ、Ｂ、Ｃという三つの性質を捨象するとしよう。すると、この事物はいまやＤという性質しかもたないものとして考察することができることになる。この場合には、この捨象は、言い換えてみると、この事物のＤという性質だけを抜き出したのと同じことになる。このように、ある性質や規定だけを抜き出してくることを<抽象>と言うのだから、じつは、一群の性質や規定を捨象することは、他の一群の性質や規定を抽象してくることでもあるのであって、同じ操作をそれぞれ別の観点から、つまり抜き出すという観点と度外視するという観点から見るのである。日本語では、捨象と抽象という二つの言葉があるが、英語でもフランス語でもドイツ語でも、捨象にあたる特別の語はなく、<抽象>ないし<抽象する>と言う語で<捨象>ないし<捨象する>ということを言い表す。例えば英語でabstractAと言えば、Ａを抽象してくる、ということであるが、abstract from Bと言えば、Ｂを捨象するということだ、というように。このように、捨象と抽象とは表裏(ひょうり)の関係にあることを理解しておかれたい。
ところで、労働の二重性の一方の側面である抽象的労働は、一方ではあらゆる労働がもっているさまざまの具体的形態を捨象すること、abstractすることによって把握できる労働であるが、他方では、あらゆる労働がもつている共通の性質、すなわち人間的労働力の支出という性質を抽象して、abstractして得られる概念でもある。そのようにして得られた性質を明示的に呼んだものが、<人間的労働>という概念なのである。
人間的労働というのは、人間的労働力の支出という観点からみられた労働という厳密な意味をもった科学上のタームであって、日常語でたんに<人間がやる労働>という意味で使われる<人間労働>という語と混同してはならない(中略)抽象的労働と人間的労働とはまったく同じものを別の視点から命名しているにすぎないが、後者にはそれがもつ同一の質が積極的に表れており、この語を使うことが望ましい場面が多くある。
| 2003年05月08日(木) | 第１３回 |
■第１３回『資本論』を読む会は、５月８日(木)に行われました。
第３節｢価値形態または交換価値｣の｢Ｂ 全体的な、または展開された価値形態｣の「２ 特殊的等価形態」「３全体的な、または展開された価値形態の欠陥」と「Ｃ 一般的価値形態」の最初の部分を輪読し、討論しました
２.特殊的等価形態
上着や茶や小麦や鉄などの商品はどれもリンネルの価値表現では等価物として、したがってまた価値体として認められている。これらの商品のそれぞれの特定の現物形態は、いまでは他の多くのものと並んで一つの特殊的等価形態である。(国民文庫第１分冊 120-121頁･原頁78)
●なぜ「特殊的等価形態」とよぶのか？
商品Ａ＝商品Ｂという商品Ａの価値表現において、商品Ａの価値存在は商品Ｂが直接に交換されるものだということによって表現されている。
商品Ｂは、この関係の中ではその使用価値(現物形態)で商品Ａの価値を表現するという役割を果たす。この役割は、商品Ａが商品Ｂを自分に等置することによって、商品Ｂにおしつけたものである。
形態��(単純な価値形態) 商品Ａ＝商品Ｂにおいては、商品Ａは商品Ｂというただ一つの商品とだけ関係していた。
形態��(展開された価値形態)においては、商品Ａは、商品Ａ以外のすべての商品(Ｂ、Ｃ、Ｄ、Ｅ等々)との価値関係を結ぶ。ここではただ一つの商品による価値表現ではなく、さまざまな商品による価値表現の総和がある。
このとき、等価形態にある一つの商品(例えばＢ)は、他の多くの商品と並んで「一つの特殊的等価形態」である。「特殊的」というのは多くの等価形態の中の一つということを意味している。
形態�気痢峺鎚姪�等価形態」と対置されていると思われる。形態��(商品Ａ＝商品Ｂ)においては「個別的等価形態」であるかぎり、商品Ｂ以外の等価形態は問題にならない。
またそれは、形態�靴痢岼貳姪�等価形態」とも対置される。「特殊」の対義語が「一般」や「普遍」であることを思い起こしておこう。
３、全体的な、または展開された価値形態の欠陥
第一に、商品の相対的価値表現は未完成。新しい商品が登場するたびに、一つの価値等式が他の等式と作る連鎖は延長される。
第二に、この連鎖は、ばらばらなさまざまの種類の価値表現の雑多な寄木細工をなしている。
第三に(最後に)
ア、Ａ＝Ｂ、Ａ＝Ｃ、Ａ＝Ｄ、Ａ＝Ｅ…
イ、Ｂ＝Ａ、Ｂ＝Ｃ、Ｂ＝Ｄ、Ｂ＝Ｅ…
ウ、Ｃ＝Ａ、Ｃ＝Ｂ、Ｃ＝Ｄ、Ｃ＝Ｅ…
アはＡの相対的価値の表現、イはＢの相対的価値の表現、ウはＣの相対的価値の表現だが、アでは相対的価値形態にあるのがＡ、イではＢ、ウではＣであり「どの商品の相対的価値形態も、他のどの商品の相対的価値形態とも違った無限の価値表現列」である。
また「ここでは各個の商品種類の現物形態が、無数の他の特殊的等価形態と並んで一つの特殊的等価形態なのだから、およそそれがお互いに排除しあう制限された等価形態があるだけである。」
●「ばらばらなさまざまの種類の価値表現の雑多な寄木細工」とは？
形態�兇琉譴聴譴弔硫礎揺集修�(Ａ＝ＢやＡ＝ＣやＡ＝Ｄ等々)、それを取り出してみるなら単純な価値形態(形態��)に他ならない。
Ａ＝Ｂ、Ａ＝Ｃ、Ａ＝Ｄ等々は商品Ａのそれぞれ異なった価値表現であり、「ばらばら」である。
形態�兇蓮△気泙兇泙並松ι覆砲茲訃ι複舛硫礎揺集修料輜造覆里任△蝓■臓■叩■津�々のさまざまな使用価値による雑多な価値表現の寄せ集めであり、そこには統一性がない。
マルクスは、形態�兇�、さまざまな(Ａ以外の)商品が等価形態をとる無数の形態�気料輜造任△襪海�(総和でしかないこと)を「ばらばらなさまざまの種類の価値表現の雑多な寄木細工」と述べることで表現したと思われる。
●｢お互いに排除しあう制限された等価形態｣とは？
商品Ａの展開された価値形態は、Ａ＝Ｂ、Ａ＝Ｃ、Ａ＝Ｄ…である。ここで等価形態におかれる商品Ｂ、Ｃ、Ｄ等々は互いに排除しあう。商品Ｂが等価形態をとるなら、その際には同時にＣやＤが等価形態をとることはできないからである。
商品Ａの一つ一つの価値表現、Ａ＝Ｂ、Ａ＝Ｃ、Ａ＝Ｄ等々は、展開された価値形態(形態��)の構成要素ではあるが、全体の一部でしかなく「制限」されている。
【資料】大谷禎之介氏の論文｢価値形態｣(｢経済志林｣第6１巻第2号 1993年 210頁−211頁)より引用
全体的な、または開展された価値形態の欠陥
開展された相対的価値形態には、次のような欠陥がある。
１) 商品の相対的価値表現は、その表示の列が完結することがないので未完成である。
２)その列は、さまざまな使用価値による雑多な価値表現の寄り集まりであって、統一性を欠いている。
３) もしも、どの商品も自分の価値をこの開展された価値形態で表現するとすれば、どの商品の相対的価値形態も、それぞれみな違った無限の価値表現列である。それぞれの商品の価値表現の中では、他のすべての商品はただ等価物の形態で表れるだけであるから、ここでは諸商品の共通な価値表現はすべて直接に排除されている。
相対的価値形態のこれらの欠陥は、等価形態にも反映する。
１) 等価形態にある諸商品の現物形態のそれそれが、お互いに並ぶ特殊な等価形態なのだから、ひとつひとつの特殊的な等価形態は全体の一部分をなす制限された等価形態にすぎない。しかも、ここには、こうした制限された等価形態しか存在しない。
２) 同様に、それぞれの特殊的等価形態に含まれている特定の具体的有用労働も、それぞれただ、抽象的人間的労働の特殊的な、部分的な現象形態でしかない。抽象的人間的労働はたしかに、その完全な現象形態の全体のなかにもってはいるが、しかし統一的な現象形態を持っていないのである。
★５月２６日に誤記を訂正しました。
