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2007年04月27日(金) |
第24回家族研究・家族療法学会(の、お知らせ) |
5月25から27日にかけて、龍谷大学(深草キャンパス)を主会場として『第24回家族研究・家族療法学会』が行われます。家族療法を主たる関心とする学会ですが、心理学だけではなく様々なバックグラウンドをもつ方々が参加されています。また、学会には非会員でも参加可です。
以下のサイトに詳しい情報があります↓。
http://www.k5.dion.ne.jp/%7Eft24kyo/
25日はプレ大会としてワークショップ、学会大会は26-27日です。まずは、26日のスケジュールをみてみましょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ○教育講演「人間科学---当事者と研究者の協同的実践」 杉万 俊夫〔京都大学〕 ○大会長講演「臨床がうまくなるための研究法とは?」 吉川 悟〔龍谷大学〕 ○大会シンポジウム「家族臨床における家族研究の可能性」 シンポジスト やまだようこ〔京都大学〕 小森 康永 〔愛知県がんセンター中央病院〕 野口 裕ニ 〔東京学芸大学〕 東 豊 〔神戸松蔭女子学院大学〕 児島 達美 〔長崎純心大学〕 森岡 正芳 〔奈良女子大学〕 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 上記のように、家族療法だけでなく「質的研究」とか「ナラティブ」に興味のある方にとっても興味をひかれるであろうプログラムが並んでいます。旧態依然としたやりかたにこだわることなく、新しいことを自由にとりこんでいこうとするところがこの学会の魅力だと思っています。ちなみに、25日にはプレ企画のワークショップ(こちらは予約制)で「質的研究」をサトウタツヤ先生が担当されます。
いわゆる「臨床系」の学会で、これほど「研究」を意識した学会があったでしょうか?。単純に「すごい」というべきか、「本当にこれでいいんですか?」というべきか、そこが問題だって感じもしますけれど・・・。
僕は「研究」の重要性を否定するつもりはないですし、臨床実践のアカウンタビリティを高めるためにも、研究は必要だとは思います。
とはいえ、アンヴィバレントです。「臨床」とはクライエントにむけてするものなのに対して、「研究」というのは、それがクライエントの役にたつこともたまにあるとは思いますが、研究者が研究者集団に対しておこなうことというのが第一義でろうと思っています。研究者が好き勝手やってることが、専門家としての能力や資質とか専門性と混同して語られるべきではないという思いもあります。
ともあれ、ここで言われる「研究」というのは、限りなく、実践との境目がないもの、というか、従来の研究者と対象者という関係性をゆさぶるもののようにも思われますがね。クライエントとの共同研究とかね。
ちなみに、私は1日目の10:25-55で、下記のテーマで発表します。上記シンポジウムなどの前です。ご興味ある方はどうぞいらしてくださいまし。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 演者:松嶋秀明(滋賀県立大学)「教育相談体制の構築過程のエスノグラフィー」 コメンター:楢林理一郎(湖南クリニック) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2007年04月18日(水) |
世界との関わり方を身につけるための書 |
夏掘睦・加藤弘通(編)『卒論・修士論をはじめるためのー心理学理論ガイドブック』ナカニシヤ
編者の加藤さん、著者の伊藤さんからご恵送いただきました。 ありがとうございます。本書は16の理論を、その代表的な著書を通して紹介するものです。・・・というと、編者に怒られるかもしれません。 本書は理論を「お勉強」するのではなく、使いこなすための書であるというのが特色でしょう。
(A)bstract・・・概要 (B)ackground・・・背景 (C)reativity・・・新しさ (D)irection・・・方向性
の4つにわけて理論がコンパクトに解説されています。「お勉強」ではなく、「使いこなせるようにする」ことをねらった本書ならではの構成です。ABCDと文字合わせになっているのもかっこいいですね。このABCDが指し示すところを自分なりに考えると、研究するということは、自らと「世界」との主体的な関わり方を探すということになのかなと思います。
僕はよく学生にいうのは次のようなことです。
虐待でも、精神病でも、なんでもいいけれど、それらについて書かれているような本を読みなさい。1−2冊読んでみて「面白かった。だいたいよくわかった」と思えたら、それはあなたのやるべきテーマではない。そうじゃなくて、「自分ならどうするだろうな」とワクワクしたり、「そうなのかな、そういうふうに考えちゃうんだ〜」と違和感を感じたりするものに出会ったら、そこからやっと「テーマ」探しがはじまります、と。
知識として消費するのではなく、生産者になるというのが論文を書くということで、そのためには主体的に「世界」に関わっていかなければならない。理論とか認識論というのは、そういう「世界」に関わるさいのスタンスのようなものだと僕は思います。
ただし、さらに著者らがいうのは理論をメタに読みこなすことが大事だということのようです。ベタ読みからメタ読みと、これまたうまいことまとめられています。ベタ読みというのは、僕の理解したところによれば、理論に書いてあることをそのまま忠実に習得するということでしょう。で、それをさらに一段階メタな立場から、相対化しようということのようですね。つまり、さきほどの私の「世界にかかわるスタンス」という例にそくしていえば、「世界」と関わるとしても、盲目的に自分の立場を自明とするのではなく、自らの関わりを自覚しつつ、関わるということが大事になるということでしょうか。なるほど、これはとても重要な視点だと思います。
ただ、こういうのって、しかし、なかなか学生には伝わらない、というかおそらく言葉は伝わっているのですが、やるのは難しいということなのでしょうね。精神論じゃだめで、ツールが必要なんでしょう。
そういう意味で、ABCDという様式に従って読み込み、また自分でもそうやってみると、自然と問題意識がうまれるのだったらこれはとてもよい教育ツールになると思いました。
僕自身、最初に理論を学んだ頃というのは、理論書ではなく、それについて論評しているものを読んで足場をつくった覚えがあります。もちろん、いつまでもそのままではいけなくて、いずれ理論から自分の頭で考えていかなければならないのでしょうね。理論に一度は埋没して、そこからでないと相対化もできないのではという声も聞こえてきそうです。だから、原著にあたれと。それはそうですが、それでもファーストステップを援助してくれるというのは、初学者には嬉しいことですね。
学生にもぜひ薦めてみようと思います。みなさまも、是非に。
2007年04月01日(日) |
『子どもの妬み感情とその対処』 |
著者は宇都宮大学の澤田匡人先生。新曜社から。
ひょんなことからお知り合いになり、ご恵送いただきました。 本書は筑波大学に提出された博士論文をもとにしたもので、10の実証的研究がズラッと並んで壮観です。妬みがどのように経験されているのか、あるいは妬みはどのように帰結するのかという観点からまとめられています。
妬みというと、ダークな、ネガティブな印象が先にたちます。以前、北山先生のご講演を聴いたときにも、envyについてとりあげておられたのを思い出す。北山先生は「うらやましい」をenvyにあてておられたが、古来、「うら」とは「こころ」を表す言葉であり、「やましい」とは「病」。つまり、うらやましいとは、ある意味で、心の病なのだととらえられていたというのをうかがって、なるほどーと思ったことがある。
さて、澤田先生は「妬み」を経験した子どもが自分で努力したり、他人に助言を求めたりするといった「建設的解決」が用いられているといった、ご自身の研究結果をあげつつ、妬みの機能ということで、自分にとって何が大事なのかを知る契機となったり、どのような努力が必要なのかを知る契機になるということを挙げておられる。
ともすると「妬み」というとネガティブでダークなイメージがあるわけだが(もちろん、イジメなどにつながったり、破壊的行動につながる場合もあるということだが)、自らを成長させていける契機にもなりえるというのは面白い。
さらに、調査によれば高学年になれば、妬み感情にかかわって、なんとかなりそうだと思えれば建設的解決方略が用いられ、そうでなければ回避方略が用いられやすいようだ。こうした対処方略の柔軟性が、精神的な健康にも影響を与えているとのこと。
素人考えでは、このような柔軟性というのは、その子どもが生きていく社会のありようを反映するものでもあると思う。勉強(とりわけ5教科)ばかりが価値をもつような社会(親や教師)のありようが、子どもに柔軟性を失わせていくということも考えられることである。しばしば小学校の先生などが「子どもが6年間で1度は輝く学校を目指す」というようなことをおっしゃることがあるのは、その意味ではよいことなのだろう。
ネガティブな「妬み」をうみだす競争原理をもちこむべきではないというような教育界での主張に対しては、やればできることと、どうしょうもないことが世の中にはあるわけで、「成功/失敗体験をつみかさねつつ、他人や課題に対する効果的な関わりを学んでいく」といったように、それを有効に活用することを考えていくべきだと述べておられるが、同感である。
僕自身は質問紙調査というのはほとんどやらないのだが、こうやって丁寧に積み重ねられているのをみると勉強になる。「感情」をうまく研究していくというのは、難しいことだと思うのだが、今後、ますます重要になってくるテーマだと思う。感情研究をやる人には必読だろう。
ちなみに、澤田先生は本の紹介などをみると、大学で最も評価の高い授業をされる先生とのことである。すばらしい。授業作りというのは、けっこう難しいもので、もう4年間教えているが、まだまだ、これでOKといえるものはない。初年度は、勢いでやってたけど、いま改めてみると・・・・・・(汗)。一度、授業を見学させていただきたいものである。
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