「テレビでも買うか。」 そう言ったのは食事を済ませた父親だった。しかし返事はなく、いつもの静けさが漂っている。
一家六人で食卓をかこみ、ご飯を食べる我が家の居間にはテレビがなかった。 テレビを置かず、かわりに会話をしようという父親の考えは見事にすべっていた。 「テレビでも・・買うか。」 再び声に出して言った。だが、今度も何の反応も家族は示さなかった。 そんな父親をかわいそうに思った僕は、なんか返事をしようと賛成することにした。 と思ったのも束の間、コンマ何秒かでやる気を失い半目で居眠りを始めた。
しかし実はそれはたぬき寝入りで、僕は半目で他の家族を見回した。 母は台所で食器を片付けるかたわら、なにやら豆腐を丸く切ろうとしている。 姉は漫画を読んではいるがくるぶしを必死にはたいている。 妹は・・・ストレートパーマだ。祖母は白目をむいている。 一体、いつからこうなってしまったのだろうか。いや、原因は分かっている。 それはテレビだ。
三年前のあの日、マンスリーパレスに泊まってれば出張費も浮いたのに。 「太郎が生きていたら・・・」 そう言ったのはストパーだった。ストパーの妹が正気に戻ったのかと思ったが、 太郎なんてもともといなかったので、やっぱりやつはストパーだ。 ふと気づくと姉は漫画ではなく広辞苑を開いていた。
こんな家族になったのもテレビがないからだ。とはいえ、後悔しても役に立たない。 『ポジティブに生きよう。』そう思ったら目の前が明るくなった。 そう、それは徹夜明けだった・・・
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