カフェの住人...

 

 

第一話 〜花番人〜 - 2003年06月21日(土)



だいたい朝一番に顔を出す住人がいる。

外の花たちを見て、手入れが終わるとドアが開く。

そんな流れがいつもの事の様になり、私は朝の準備をしながら

「おはよう」

と言うと、何も言われないがいつものコーヒーの用意を同時に始める。



そんな彼女は時折、原っぱから摘んできた野の花を持って・・・

時には家族に作ったおかずのおすそ分けを持って来てくれる。

どこかへ行けば、その土地の名物を買ってきては半分こしたりもする。

なんだか少しお母さんの様なのだ。

そうは言っても、その人の息子は成人したばかりなので

母というには若いのでお姉さんにしておこう。

事実、そんな世話好きの感じの姉貴肌のせいか

聞くと次から次へと周囲の人から相談を受けるらしい。

つい頼りにしたくなる彼女のあたたかさは

それまで様々な体験をしてきたからなのかもしれない。

ほんの一年半前に訪れてから

カウンターで色々な話を聞かせてくれた。

ついこの間まで心の病で誰とも口をきかずにいた事。

実の親からお姑さんのお世話まで十代からし続け

本人も大病をした事など。

はたと色々な事が片付いた時

彼女の中の緊張の糸が切れたのだろう。

それまでの世界が一変したように引きこもり

自分の存在理由を見失ってしまったという。





それを乗り越え、こうしてここに来た。

今では一緒に泣いたり笑ったりしながら夢を語り合っている。



彼女はいつか田舎に帰り、お年寄りや都会で疲れた人々など

様々な人が和める小さな宿なんかがやりたいそうだ。

今現在は興味あるものが絶える事なく

くるくるとせわしない毎日を送っている。

カウンターでは明るいお姉さんで

他の住人達を励ましてくれている日々だ。




自然を愛し、バイタリティー溢れる体のそっと奥にある様々な体験が

そんな彼女をつくってくれてくれたのだろう・・・


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〜プロローグ〜 - 2003年06月15日(日)

私がここの住人になってから、まだそれほど月日は経っていない。

小高い場所の小さな森の中に、忘れかけていた一両の電車。

偶然出会ったのだが、直ぐに「ここは私の探していた場所だ」と感じた。

ボロボロになって眠っていたそいつに手をかけ

時間をかけて目を覚まさせた。それから私はいわゆる管理人で

一番初めの住人。



何故カフェかと言われれば、そこは何をしてもいい場所だからかもしれな

い。

ご飯を食べても、お茶しても、本を読んでもお喋りをしてもいいのだ。

そして、ただのカフェのつもりだが「ここがもう一つの住家」だと

気付いた人達が入ってくるという、さり気無く秘密のアジトになっている。

その引き寄せられる感じのせいか、周りの自然のせいでか、みな素の自分に

なってしまう。



ゆるりと流れる時間の中で、私はカウンター越に性別も年齢も肩書きも関係

ない住人らと、素の瞳の奥にあるその人にしかないドラマを垣間見る。

知らないけれど、知っているホンの少しの世界。そんな小さなお話を少し

紹介してみようと思う。



カラカラカラ・・・

「おかえり」

「ただいま」



また一人住人が帰ってきた。さて、今日はどんなドラマが見れるだろう


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