2000年01月03日(月)
 

タロウくんは、このご時世に珍しく7人兄弟という大家族の6番目の子としてこの世に生を授かり、兄弟や親からの愛情を年子で産まれたただひとりの妹に剥奪されながら幼少時代をすごしてきた。
自分に付けられた「太郎」という名前を、両親が名前に困った末
てきとうにつけたと子供のときから思っていて、今でも頭のどこかにその考えが染み付いているからだろうか、女の子に名前を教えるときは、カタカナでタロウと教えている。
少しでも格好良くみえるような気がしたからだ。



ROOM 205  「Mama」



ぼくは大人に為れない。

働いてもいるし、くさるほどはないけどそこそこの生活基準を保てるくらいのお金も持っている。
お酒やたばこだって平気な顔して買いにいけるし
女の子とやらしいことだってする。

表面上は大人だけど、ぼくは大人じゃない。

自分勝手に生きたい。
わがままだとか身勝手だとか責任感がないとか言われても。
約束を破って、将来のこととか考えてお金ためたりしないで。
グリンピースはお皿の隅っこ、お昼にはお昼寝だってしたい。
色んな女の子と眠ってみたい。


ぼくは大人に為れない。



「そういうわけで、本能のまま高田さんと愛し合ってみたいんです。」

タロウくんはそう言い切って、目の前に座る高田さんの目を見つめた。
高田さんは、あんぐりと口をあけてしばらく放心した後
「はぁ」と間の抜けた声を漏らした。





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2000年01月02日(日)
 

部屋に戻ってきて、お茶を入れようと急須を取って
そしてわたしはとつぜんとそのことに気づいたのだ。

もう、なにもなくなってしまった、と。

それは「あ、この壁の染み、人の顔みたいだね。」とか
そんなふうにあっさりと、何事もなかったかのように気づいてしまった。
わたしは空っぽだ。何もない。


泣こうとした。
けれど悲しくはなかった。
悲しくなかったので、悲しいことを次々と思い浮かべていった。
そこそこに悲しい気持ちにはなったけれど、涙は出ない。にじみもしない。
目頭は冷めたまま、涙すらも枯れてしまったかのようで。

泣く理由がないことが、いちばん悲しくて。
けれど泣くにしては莫大な悲しさで、涙が出なかった。

吐き出すものもないのだ。




このアパートの部屋を引き払って
新しい生活を始めようとまでは思わないけれど
近所のスーパーで、生野菜でも買って来ようかと
のんびりとわたしは思ったのだ。





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2000年01月01日(土)
 

浮気をしました。
どうでもいいひとと。


彼は、優しく許したりなどしなかった。
わたしは初めて彼が怒るところを見た。
罵ることも、手をあげることもなかったけれど。
その目は底冷えのするような冷たさで、そしてとても悲しそうで
肩を震わせて、彼は静かに泣いた。

「いつかこういうことがあるんじゃないかと思っていた」

震える声で。

「それでもきみを愛せるんじゃないかって思ってた」

泣くように。



わたしは、叱られも許しもされなかった。
ただとほうもなく人を傷つけて。
ようやく

このひとにただ愛されたかっただけだってことに気づいた。
それはもう、ずいぶんと遅かったけれど。





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