あわわ…
思わず声に出して、うれしいはずなのに体を離そうとしてしまう。 こんな突然の出来事、想像していなかったから。 でも思いの外強い力で抱きしめられていて、体は離れなかった。
「酔った勢いで、とか言いたくない…言われたくない」
「そんなこと言うわけないよ」 私と同じ事考えていてくれたことが嬉しくて、宙ぶらりんだった両手に力を入れて、彼の背中に手を回す。
「んーーと、でもシャワー浴びてくるw」 と笑いながら言う彼。
「うん」 背中にまわした手をほどいて、立ち上がる彼を見上げながら、これから起こる出来事に胸が苦しくなる私だった。
彼の家に向かう途中でコンビニで、酒やらお菓子やら、大量に買い込んでいたので、まずはそれを広げて、テレビをつける。
私と彼は、先輩後輩、友達以上恋人未満…なんていう説明のつきにくい関係をずっと続けてきて、手を繋いだり、腕を組んだり、一晩一緒に過ごしたり(何もなかったけど)、思い出せば、いつも彼を好きでいた自分がいて。
テレビをぼーっと見ながら、買ってきたビールに手を付ける。 その間彼は仕事のメールを片付けると言って、すぐにパソコンに向かっていた。
「これでよし、と」 仕事終わりましたよアピールの声が聞こえてきたので、
「おつかれさまー」 とビールを渡す。
距離は50cm。
私が伸ばした手を、さらに引き寄せられ、思わず前のめりになる私。 そしてそのまま抱き寄せられた。
三年前と変わらない彼の部屋。 変わったのは私と、弟の姿がないだけ。
「三ヶ月くらい前から一人暮らしになったんだよ」 と、弟が彼女と同棲を始めることになり、自分一人で持て余している2DKの部屋を、寂しそうに見つめる彼。
そうだよね、弟のこと大好きで、すごく心配していて、いつも仲良しで。 本当は寂しいんだよね。一人。
「それ以来だなー誰かがそばにいて過ごすの」 私より彼の方が緊張しているのか、いつもより多くを語る彼。
「そっかー。独りだと広いね、ここ」 「うん。広すぎるなー。俺も引っ越そうかな」 「お金かかるねw」 「やっぱやめよw」
きっと彼は引っ越さない。 いつ弟が帰ってきてもいいように、きっとここで過ごすんだよね。
「だから、明日までずっと一緒にいさせてください」
勇気、とか必要なかった。
全てが彼で、全てを捧げてもいい、なんて現実はそんなに簡単にいくわけないんだけど、確かにその時そう思っていた私は、声がうわずることもなく、淡々と、どちらかと言えば低めのトーンで、そう言っていた。
この状況に舞い上がって、テンションが高くなって、こんなことを言っているわけじゃないってことに気づいたのかどうかわからないのだけど、彼は驚く風もなく、私と同じように、落ち着いた感じで、軽く頷いた。
「わかった」 と。
三年前は弟がいて何も起こらなかった彼のアパート。 私たちはタイムスリップするかのように、もう一度、その場所に向かっていた。
超久しぶりに書いてみます。
とりあえず近況報告。
元気です。 結婚式お呼ばれ貧乏です。 二次会でお持ち帰りされそうになりました。 浮気はしてません。
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