寺島と話をつけてから、一週間。 心は、寺島に戻ってしまっていたけれど。 だからってまたすがりつく気なんてさらさらなかったし。 受験が終わらなきゃまともに話せないと思っていたし。 ましてや。 寺島がまた求めてくるなんて予想もしていなかった。
細かい説明を省けば。 その一週間目の夜に、市丸と話していた横を寺島が通り。 三人で話していたけれど、市丸が帰り二人になって。 一緒に帰ろうとして、寺島の隣を歩き始めたあたしを。 半ば強引にあの人は、暗がりへと追い詰めていった。 あたしに何が出来る? 本能ではそれを求めてやまなかったあたしに。 それをあの人はきっと。 知っていたのだろう。
「まだ好きなんだ?」 どういう会話の流れだっただろうか。 今はよく思い出せないけれど。 そう聞かれて、嘘は言えなかった。 「好きだよ」 寺島の目をまっすぐに、あたしは見つめ返した。 精一杯の抵抗のつもりだった。 少しの沈黙の後、寺島があたしを抱き寄せようとした。 「嫌だ。やめて」 寺島は何も言わなかった。 両腕をつかんだまま、ただ微笑みを浮かべるだけ。 「こんなことしたって、ためにならないよ」 「それは結果論じゃん」 「ためになる要素がどこにあるの?あたしは空しいだけなのに」 「…」 話していた場所が坂で、あたしの立ち方は傾いていて、 しかも抵抗のために不自然な姿勢をとっていたからなのか、 そのときあたしの左足がつった。 「痛っ」 「どうした?」 「足が…つった」 それを聞くや否や、寺島はあたしを抱き寄せた。 「嫌だ、放して」 「痛いでしょ」 それでも離れようとするあたしを、さらに強い力で寺島が抑える。 …あたしにどうしろって言うんだろう? この人はあたしに何を求めてるんだろう? あたしには、それに応える義務があるんだろうか?
好きだよ。 今でもあたしは、果てしない程にこの恋に溺れている。 だけど見境なく突っ走ることには疲れた。 もういいかげんに。温もりが欲しい。 落ち着きが欲しい。安心が欲しい。 だからあなたの手を離したのに。 あなたが、そんなあたしを知らないはずがないのに。
2003年12月04日(木) |
BGMは『月ひとつ』bySeeSawで。 |
「…おい?」 「…ん?」 泣いていると思ったのか、市丸が声をかけてきた。 本当だったけれど。
「うつむくなよ。月が見えないだろ」 それはうつむくから見えないのではなくて、 雲が隠しているからだった。 「お前が落ち込んでるから、隠れてんだよ」 「…ホントかなぁ」 「泣いてちゃ新しい恋出来ないだろ」 「…ホントだ」 その後あたしはずっと。 空を見上げながら、市丸の話を聞いていた。
「あの人のこと、どうでもいいって、言ってたよ。 今はやっぱ受験、忙しいって」 「…そうだろうね」 寺島と会う度、それは感じていた。 別れた原因はやっぱり、受験であること。 あの人の存在というのは、実はそれほどまでに大きくないこと。 寺島自身から、聞いたこともあったし。
「宮島はずっと、お前と寺島は戻るって言ってたよ」 「あー(笑)やっぱり?」 「でも竜崎も言ってた。 あの二人は、戻りそうだって」 「え…」 それは少し意外だった。 竜崎君は頭がいい人。 成績がいいというだけじゃなくて、何だかこう、 人間をちゃんと見て、冷静に判断する人だから。 そして寺島と同じ学校で、一番近いところで寺島を見ているはずだから。
宮島と寺島で揺れていたことを、市丸に話した。 結論は、寺島であることも。 「…恥ずかしい話だけどね」 「じゃ、お前…まだ寺島のこと好きなのか?」 「…うん」 「戻りたいか?」 「…うん。戻りたい」 「…それなら戻れるだろ。俺も、宮島達と同じこと思うもん。 あいつは何だかんだで、お前に戻ってくる気がするよ」 思わず、市丸の方を見た。 「ありがと」 やっと笑えた。 宮島のときと同じ。 そんな確信がある言葉じゃないって、わかってるけど。 「ほら」 市丸に促されて見上げた空に。 雲ひとつなく光る、月がかかっていた。 「お前が笑って、元気になったからだよ」 「…落ち込んでたから、隠れてたの?」 「そう」 …ありがとう、市丸。 かっこいいよ。 早く彼女出来たらいいのにね。
***
期末テストだったり、原因不明の体調不良だったり。 散々な毎日ですが。 相も変わらず、寺島君がビタミン剤です。 進歩してないよね、一年前から。
|