under one umbrella

2003年12月10日(水) さらに強い力で


寺島と話をつけてから、一週間。
心は、寺島に戻ってしまっていたけれど。
だからってまたすがりつく気なんてさらさらなかったし。
受験が終わらなきゃまともに話せないと思っていたし。
ましてや。
寺島がまた求めてくるなんて予想もしていなかった。


細かい説明を省けば。
その一週間目の夜に、市丸と話していた横を寺島が通り。
三人で話していたけれど、市丸が帰り二人になって。
一緒に帰ろうとして、寺島の隣を歩き始めたあたしを。
半ば強引にあの人は、暗がりへと追い詰めていった。
あたしに何が出来る?
本能ではそれを求めてやまなかったあたしに。
それをあの人はきっと。
知っていたのだろう。

「まだ好きなんだ?」
どういう会話の流れだっただろうか。
今はよく思い出せないけれど。
そう聞かれて、嘘は言えなかった。
「好きだよ」
寺島の目をまっすぐに、あたしは見つめ返した。
精一杯の抵抗のつもりだった。
少しの沈黙の後、寺島があたしを抱き寄せようとした。
「嫌だ。やめて」
寺島は何も言わなかった。
両腕をつかんだまま、ただ微笑みを浮かべるだけ。
「こんなことしたって、ためにならないよ」
「それは結果論じゃん」
「ためになる要素がどこにあるの?あたしは空しいだけなのに」
「…」
話していた場所が坂で、あたしの立ち方は傾いていて、
しかも抵抗のために不自然な姿勢をとっていたからなのか、
そのときあたしの左足がつった。
「痛っ」
「どうした?」
「足が…つった」
それを聞くや否や、寺島はあたしを抱き寄せた。
「嫌だ、放して」
「痛いでしょ」
それでも離れようとするあたしを、さらに強い力で寺島が抑える。
…あたしにどうしろって言うんだろう?
この人はあたしに何を求めてるんだろう?
あたしには、それに応える義務があるんだろうか?


好きだよ。
今でもあたしは、果てしない程にこの恋に溺れている。
だけど見境なく突っ走ることには疲れた。
もういいかげんに。温もりが欲しい。
落ち着きが欲しい。安心が欲しい。
だからあなたの手を離したのに。
あなたが、そんなあたしを知らないはずがないのに。




2003年12月04日(木) BGMは『月ひとつ』bySeeSawで。

「…おい?」
「…ん?」
泣いていると思ったのか、市丸が声をかけてきた。
本当だったけれど。

「うつむくなよ。月が見えないだろ」
それはうつむくから見えないのではなくて、
雲が隠しているからだった。
「お前が落ち込んでるから、隠れてんだよ」
「…ホントかなぁ」
「泣いてちゃ新しい恋出来ないだろ」
「…ホントだ」
その後あたしはずっと。
空を見上げながら、市丸の話を聞いていた。


「あの人のこと、どうでもいいって、言ってたよ。
今はやっぱ受験、忙しいって」
「…そうだろうね」
寺島と会う度、それは感じていた。
別れた原因はやっぱり、受験であること。
あの人の存在というのは、実はそれほどまでに大きくないこと。
寺島自身から、聞いたこともあったし。


「宮島はずっと、お前と寺島は戻るって言ってたよ」
「あー(笑)やっぱり?」
「でも竜崎も言ってた。
あの二人は、戻りそうだって」
「え…」
それは少し意外だった。
竜崎君は頭がいい人。
成績がいいというだけじゃなくて、何だかこう、
人間をちゃんと見て、冷静に判断する人だから。
そして寺島と同じ学校で、一番近いところで寺島を見ているはずだから。


宮島と寺島で揺れていたことを、市丸に話した。
結論は、寺島であることも。
「…恥ずかしい話だけどね」
「じゃ、お前…まだ寺島のこと好きなのか?」
「…うん」
「戻りたいか?」
「…うん。戻りたい」
「…それなら戻れるだろ。俺も、宮島達と同じこと思うもん。
あいつは何だかんだで、お前に戻ってくる気がするよ」
思わず、市丸の方を見た。
「ありがと」
やっと笑えた。
宮島のときと同じ。
そんな確信がある言葉じゃないって、わかってるけど。
「ほら」
市丸に促されて見上げた空に。
雲ひとつなく光る、月がかかっていた。
「お前が笑って、元気になったからだよ」
「…落ち込んでたから、隠れてたの?」
「そう」
…ありがとう、市丸。
かっこいいよ。
早く彼女出来たらいいのにね。


***

期末テストだったり、原因不明の体調不良だったり。
散々な毎日ですが。
相も変わらず、寺島君がビタミン剤です。
進歩してないよね、一年前から。



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