2003年06月30日(月) |
認めざるを得なかった。 |
寺島に、思っていたこと全てを話した。 彼女のことが気にかかることも、未来に不安があることも。 その他あたしのなかにあったドロドロ全部。
独りで空回りしてるような気がするだとか。 証が欲しいだとか。言葉が欲しいだとか。 このまま寺島を想い続けていてイイのか、とか。 とにかくあたしは、今の関係の未来が怖くて。拠りどころが欲しくて。
寺島はまた、「好きだ」と言ってくれた。 あんなに複雑に悩んでいたくせに、その一言だけで、死ぬほど安心したのは確かだった。 結局あたしは、寺島に愛されたいだけで。 素直にそう言えなくて、ぐちゃぐちゃと言葉を並べていただけなのかもしれないと、今は思う。
あたしは変わった、と思ってた。 少なくとも寺島への気持ちが、前と大分違う、と。 量の問題だったり、質の問題だったりするのだけど。 でも根本的なところは変わってなかった。 あたしは、いつでも「寺島に」愛されていたかった。
ただ愛されたいだけなら、この間、 「冒険(浮気)しよう?」などと言って近づいてきた、馬鹿な同級生でもよかった。 嫌いじゃなかったし(そのセリフで嫌いになったけど)。 寺島よりも多く一緒にいる、話し易い男友達に恋してもよかった。 そっちのほうがよっぽど、楽なのに(それなりの苦労があるにせよ)
あたしはどうあったって、寺島を選んでる。 どんなに傷ついても、寺島に癒されてる。 それはもうどうしようもない、真実。
あの6月6日の、次の日の朝。 鏡を見たあたしは、自分をキレイだと思ってしまった。 認めざるを得なかった。 寺島の言葉だけで、こんなになってしまう自分は悲しかったけど、 死ぬほど幸せだった。 あたしは恋をしてるんだと、実感した。 それをまた、感じてる。
相変わらず、「恋人」ではない。 だけど付き合っていた頃よりも、自然に手をつなぐようになった。 前は気恥ずかしくて、言葉やきっかけがないとつなげなかったものだった。 今は、ふっと気づくといつのまにかつないでいる。
5月のあの日から、いろいろなものを失ったけれど、 新しく手に入れたものが、少しずつ増えてきている。 つなぐことが自然になったことも、そのヒトツ。 それを大事にしていかなきゃと、最近思えるようになった。
まだまだ安心できるような状態じゃなくて。 大きな大きな山の、険しい道を登っているような感覚で。 しんどくて、時々下りてしまいたいけれど。 少し先を、寺島が歩いているのが見えるから。 どうしてもついていきたい。
疑念というのは、どうして自然消滅ということがありえないのだろう。 考えれば考えるほど、大きくなって、真実のように思えてくる。
彼氏と上手くいってない彼女が、中学時代からの男友達の寺島に会う。 それは、恋が始まるうってつけのシーンに見えたし、 彼氏と仲良かった頃からあたしの前で寺島の話ばかりしていた彼女と、 中学時代、彼女のことを好きだった寺島なら、何が起こってもおかしくないと思っていた。 寺島が彼女を好きだったことは、彼女も知っていたから、昔話として彼氏にも話しているだろう。 自分が相談役として頼っていた(本当は今でも頼っているけど)ことも。 だから彼氏が、彼女が寺島のほうへいくんじゃないかと思うのは当然のことで。 あたしだって思う。
そんなことを考えながら、あたしはほとほと疲れきっていた。 前付き合っていたときは、疑うことなんて全くなかったから。 元々、人を疑うということはあたしの性に合わない。
前はそんな疑念、一瞬で吹き飛ばしてしまうほど寺島を信じていた。 二股なんかできる器用な人じゃ、ないと。 だから今悩むということは、あたしのなかで、寺島への信頼が減っているということで、 それはとても悲しかった。 自分が、嫌だった。
受けとめてくれるかどうかも、わからないのに。
2003年06月28日(土) |
すっかり慣れてしまっていたから。 |
それはある日の学年集会で。 あたしの前に並んでいた、ある女の子。 その子がふいに後ろを向いて、あたしだけじゃなく、その辺の友達皆に対して話を始めた。
その子は、出身中学が同じで、寺島とも友達だ。 どちらかと言えばその子と寺島の方が、あたしとその子より仲が良い。 寺島がその子の相談役、という感じ。 ずっと、付き合う前から、あたしはその子に、嫉妬の感情を抱いていた。 付き合っていたときは、かろうじて収まっていた。 「付き合っている」という優越感があったから。
最近、彼氏との仲があまり上手くいってなかったらしい。 確かに、「恋愛したい」だとか、「愛されたい」と言っていた。 以前その子と彼氏はかなりラブラブで、その子はいつでもどこでも惚気ていたから、 皆本気とは思ってなかった。勿論、あたしも。 でもどうやら本音で、別れようとまでその子は思ってたらしい。 そしてそう思っていたことを、思い切って彼氏に話したんだそうだ。 そしたら彼氏は、 「お前が別れたがってることは、気づいてた。寺島のほうにいくんじゃないかと思ってた」 と言ったらしい。
あたしは、思いがけない名前にびっくりしていたけど、彼女は続けて、 「あたしが寺島とメールしたり、会って相談したりしてたからそう思ったらしいのよ〜」 と、言ってた。 彼女も含めてその場の友達皆が、彼女が寺島になびくコトなどありえないと思ってた様子だったけど、 あたしはそうは思えなかったし、寺島と彼女が会っていたということにもびっくりして、 その後の集会の話なんぞ頭に入らなかった。 はっきりと、炎の燃える音を聞いた。
前だったら、寺島が炎を消してくれた。 焦げた心を、癒してくれた。 だけど今は、寺島に頼ることはできない。 そんな状況には、すっかり慣れてしまっていたから。 1人でどんどん、感情をふくらませていった。
2003年06月27日(金) |
これまで見たことがないほど |
「恋人」だったから寺島を好きだったのか、 寺島を好きだから「恋人」だったのか、わからなくて、苦しかった。 どちらかと言えば、前者だったような気がして、自己嫌悪で吐きそうだった。
だけど嫌いな人の恋人は、いくら「恋人」という立場が気持ちよくても、嫌だろう。 好きは好きだったんだ。 そう思うことで自分を納得させようと思ったけれど。 それは心に小さくシミになって、消えないような気がした。
シミもろとも、心を焼き尽くしてゆく炎。 久しぶりに再会したそれは、これまで見たことがないほど、燃え上がった。
付き合っていたときは、自然と未来があるように思えてた。 結婚して、子供が生まれて…というような。 1度別れた経験から、あまり強く思い込まないようにしていたものの、 経験の分、そのときが幸せでたまらなかったから、つい考えてしまってた。
「恋人」になることで、またあの頃に戻れる気がした。 あそこまではっきりとは思い浮かべられなくても、今よりかはマシかもしれない、と。 不安でいることが、耐え難かった。
でも、「恋人」でも、その未来の保障はやっぱりないってことは、 今回別れたことで証明できるじゃないの。 未来がないのは、どちらも同じ。 あたしは何寝ぼけてるんだろう。 人生って常に、「一寸先は闇」なのに。
あたしは、幸せな未来が欲しかったんだろう。 それを夢見ることが、大好きだったんだろう。 でもそれは、寺島があたしを好きだと言ってくれることより、大事なの? 言ってくれなきゃ、未来も何もない。 少し前は、その言葉さえあれば何も要らなかったとまで、思っていたのに。
それが本当なら、あたしは、 本当に寺島のことを好きなわけじゃ、ないのかもしれない。 そう思うと、余計に怖くなった。 また寺島を失うようで、怖かった。
日記を再開することは、ふっきれてきた頃から、考えてた。 でもなかなか踏み切れなかった。 彼とのことが背を押したということなら。あたしはやっぱり、彼を好きなんだろう。
6月6日から今日までもたくさん、悩むことはあった。 「恋人」に戻ったわけじゃないから。 だから、恋なのかどうか、わからなかった。 だけど、お互いを好きなのは事実で。誰かにとられたくないのも本音で。 とりあえず今は、傍にいる。
「恋人」という言葉は、今のあたし達には重すぎる。 上手く扱うことが、できない。
それはまた明日から、綴っていこうと思ってる。
あたしが、前のままのあたしではないから、名前を変えたように。 あなたも前のあなたではないから。 そういう意味で、新しい名前。
「…え?別に…何とも」 「あ、そう…」 「いや…それよりも、返信してないのにメールくれたことのほうが、嬉しかったし」 「ああ、そっか(笑)」 「うん(笑)何て答えて欲しかったの?」 「え?いや、別に。その答えで大丈夫だよ」 「ふーん」
本当だった。 メールの言葉は嬉しかったけど、会うこと自体は、何も思わなかった。 嫌だ、とも、嬉しい、とも。 会いたくて会いたくてたまらないってわけじゃ、なかったからだと思う。
だけど彼は、どんどんあたしを途惑わせる。 部屋で、抱き寄せられるのは理解るけど、 その力が、半端じゃなく強いのはどうして? まるで、前みたいに…? 「キス、してくれる?」 遠慮がちにそう聞かれたときは、本当に驚いた。 「キス、したいの?」 聞き返したら、いともあっさりと、 「うん」 って答えられた。 そう言われたら、しないわけにはいかなかった。 長く静かな、キスになった。
あたしは確かに、幸せを感じてた。
書きかけていた長文をなんとか終わらせて、了解の文章を書いて、 1人でくすくす笑いながら、メールを送信した。
いつも受け身な彼が、自分からメールくれたり、会う約束をしてくれること。 それがとても、嬉しかった。
当日駅を出ると、彼が待ってくれていた。 そのことに驚いたのも束の間、 「塾サボってきた」 ってセリフにまた驚いた。
……え? 彼の口調の弱気さに、あたしはほんの少しだけ途惑い、答えに迷った。
あたしは何度か、あの人との体の関係をほのめかすようなことを書いたけれど、 本当は、まだ最後まではやってない。 あたしは今でも堂々と、バージンロードを歩ける。
「高校生だから」それがあたしの理由だった。 妊娠したら困る。少しでも可能性があるなら、避けたい。 妊娠を、「嬉しい」と言えるときまで。出来るなら。
その理由を、彼はよく理解してくれてたし、妊娠したら困るというのは彼も同じなわけで、 1年間、ギリギリのラインを保ってくれた。
卒業したら…というのは、ずっと2人の頭にあったと思う。 それを言い出したのは彼だったけど、あたしも嬉しかったし、 「卒業したからって自立したわけじゃない」とかなんとか言うつもりもなかった。
愛し合っている以上、その欲求は止められないんだろう。お互いに。 ただ、今現在の自分たちは高校生で、親の力を借りて生きているから。 迷惑なんかかけられないし。 だけどそもそも、あたしは本当にこの人を愛しているのかな? 自分ではそう思っているけど、客観的に見たら違うのかもしれない。ただの欲求かも。 じゃあ「愛してる」ってどういうこと? 「高校生だから」という優等生的な理由じゃなくて、あたしのなかで、 それは最終的に辿り着くものだと思っていたからなのかもしれなかった。 「愛してる」と思えなきゃ、しちゃいけないんじゃないか、というような。
だけど、好きな人と手をつなぐことで、体温が溶け合うことで、安心できるのは否定できないことだろう。 あたし自身、手をつなぐのは好きだった。隣り合って歩くときだけじゃなく。 もしかしたら同じことなのかもしれない、と、今では思うようになった。
理想論かもしれないけれど、やっぱり、体と心はどっかでつながっているんだろう。 だから求め合うし、繋がっていれば安心なんだ。 「愛していなきゃ」とか、難しいこと考えなくてもいいのかもしれないね。 高校生だから、そこまで無責任なことはできないけれど。 でも高校生だって、何気に真剣に恋をする。少なくとも、子供じゃない。 好きな人とひとつになることぐらい。 許されているんじゃない?
「セックスは最終的に辿り着くものなのか、途中経過なのか」 そんなメールが、彼から来て。 あたしは、大体上に書いたようなことを書いた。 ふっきれてなかったら、きっと書けなかったと思うけれど。
書くのに時間がかかって、もしかしたら他のメールが来ているかもしれないと思って確認をした。
返信してもいないのに、彼から来たのは初めてで。 内容よりも、そのことが嬉しかったし、可笑しかった。
新しい恋人。 そんなのは要らないと思っていた。 あの人しか要らない。あの人しか見たくない。 他の人の隣にいて、笑ってる自分なんてありえない。
だけど1度ふっきれると、そこまで思い詰めることはなかった。 できるかな、できたらいいな、ぐらい。 周囲に、ときめくことができるような人はあんまりいなくて、 前だったら、やっぱりあの人しかとか思っていたんだけど、 今は、そこまで心が回復してないんだな、もうちょっと時間が経てば変わるかも、と思う。 外見は可愛いほうじゃないから、恋人ができる自信なんてないけど、 もの好きが1人いたんだから、後1人ぐらいどっかにいるんじゃないの?なんて。
どんどん楽天的になっていく。 明るい未来なんて想像出来ないけど、希望ぐらいは持てる。
気づいていたら、今の状態はありえないから、 きっとあたしは前のままだと、思っていたんだろうな。
2003年06月17日(火) |
あたしだけじゃなくて |
あの日以来、どうしてだろう、不思議と安定していた。 本当はしていなかったのかもしれないけど、 別れた直後のように泣き暮らした覚えはない。 メールに、一喜一憂していたような記憶もない。 今ログを見ると、そこまで平和ではない気がするのだけど、 やっと本当にふっきれてきたということだったのかもしれない。
日を追うごとに、あの人のことを考える時間が、少なくなっていった。 メールの返信に費やす時間も、減った。 高総体があって、新聞に同級生が出ていることに騒いだり、 いつになく、部活に集中したり。 そのこと自体に、疑問なんて持たなかった。 時々ハッとして、自分の変貌に驚いた。
あの人のことを考えてない自分なんて、想像できなかった。 時間が経っていってそうなることが、別れた直後は悲しかった。 ずっと、あの人のことを考えていたくて、でも辛くて、 だから戻りたくて。そんなの無理なのに。 でも今は、あの人以外のことに集中できる自分がいる。 その自分を受けとめられる。
あたし、変わったなぁ…。
正直言うと、本当に来るなんて思ってなかった。 来るといいながら来なかったことは、付き合ってたときでさえあったし、 彼の両親に彼が使えそうな口実は、もうなかったハズだから。 受験生には、時間はない。 だから、キャミソール1枚にジーパンという、いつもの休みの日のスタイルで、 のんびりと本なぞ読んでいた。 彼が家に入ってきたのが見えて慌てたのが、午後1時。
慌てても、待たせるわけにもいかずに、結局その格好のまま、彼を迎えた。 「今日は何時に帰るの?」 「6時半かな」 驚いた。 付き合ってたときに、そんなに長い時間がとれたことは、あまりない。 皮肉なことね。 おかしくって、涙が出そう。 「どうしたんだ?」 「悔しくって」 今さら嘘なんて、つけない。 「泣くな」 「ごめん」
いつもしてたような、一通りのことをしたって。 時間はまだまだたくさん。 5時間半は、長い。
その日は、それだけで終わった。 次の日からの、3連休のどこかに来るかもしれない、と告げて彼は帰って行った。 来て欲しい、と思うあたしがそこに在た。
何なんだ結局。 あたし達は、何をしたいんだ。 何を求めてるんだ。 この先どうなるんだ。
「友達として会おうね」 あのメールでは、メールを書くときには、確かにそう思っていたのに。 彼もこれで終わったって思ってると思ったのに。 別れを切り出したのは彼だから。 のはずなのに、どうして、抱き寄せられるの? あたしもどうして、きっぱり別れたはずなのに、拒めてないの? まだ彼を好きだから?
そう自問すると、はっきり「好き」とは言えなかった。 1年2ヶ月そう思ってきた、いわば「習慣」のような感じで、そう思い込んでるだけだと気づいていたから。 でも、だからって彼を突き放せるような強さは、なかった。 あたしは「セフレ」になりたいんじゃなくて、誰かの「恋人」になりたいんだと告げて、 「恋人」には戻れないと言う彼から離れる。 それが正しいんだとわかっているのに。 どうしてこんなに、彼を失うのが怖くなっちゃうんだ??
選んだのが彼とは言え。 悪いのは、あたしも一緒。
熱のせいで、少しぼんやりしながらだったけれど。 いつもの会話が進んでいた。
この間と似たような、会話。 小説の話だとか、テストの話だとか。
ふと話題が途切れて。もう帰る時間で。 いつもなら、少しでも引き伸ばそうとしてるとこだけど。 そのときはまた不思議と、さぁ帰らなきゃって思った。 瞬間、 “だけど少し惜しい”そんな本能が頭をかすれて、沈黙を呼んでしまった。
その沈黙が、いけなかったのか? あたしはさっさと帰るべきだったのか? それとも…? それは、今となってはわからないし、どうでもいいけれど。 彼の手が腰に伸びて、抱き寄せられるのを、あたしは拒めなかった。 それだけが真実。
…あーあ。かわいそうに。 存在意義が消されてしまった、あたしの「さよならメール」。
別れる直前から、あたしは、その人から本を借りていた。 例の、その人が大好きな小説。 別れてからも借り続けて、読んでいた。
最初は開くことすらできなかったそれも、だいぶ読めるようになっていた。 そのことはつらかったけれど、本を読めること自体は、少しでも別世界へ行けるから、 気がまぎれて、ちょうどよかった。
「さよならメール」を送ってから初めて、会うことになった。 その本を返し、さらに貸してもらうために。 他の目的もないわけじゃなかったけど、それは別れた後の残務処理みたいなもんで、 戻りたかったとかそんなんじゃない。 そう言いたくなる衝動が起こらない自信も、あった。
会いたくないというわけでもない。そりゃ、まだ好きだし会いたい。 だけど自分の中で、付き合ってた頃の「逢いたい」よりは、純粋な気持ちのような気がした。 何も期待していなかったから。 今は、「元恋人」として彼を好きなんじゃなくて、ある意味では友達に近い気持ちで、 「彼」という人間が好き。だから会って、いろんな話をしたい。 そんな感じだった。
前日、あたしは突然発熱した。 当日になっても、下がらなかった。 一応そのことは伝えてはいたけど、あたしは、約束を破りたくなかった。 熱はあっても、頭痛やめまいは治っていたから、 母に許可をもらって、その人を待った。 会うのは、その人の塾のついでだから。塾からの帰り道で待ってればいい。
あたしには絶対、真似できないこと。
次の日、ずっと考えていた。
どうしてキスなんかしちゃったんだろう。 これ以上、あの人を束縛していてはいけない。 もう、昨日みたいなことをしてはいけない。 いいかげんにさよならをしなきゃ。 恋人のあの人は失ったけど、友達のあの人がいるなら十分。 自分でも不思議なくらい、自然にそう思えた。 思えるうちに、伝えておこうと思った。
本当なら、2週間前にそうするべきで。 原因は明白なんだから、悪あがきなんて、しちゃいけなかった。 おかげで余計にこじれて。お互い傷ついて。 これ以上悪くはなりたくないから。傷つけたくないから。 でもまた会ったら、あたしはきっと、失うことがまた怖くなる。 だからメールで。 ちょっと、長くなってしまうけど。
そんな想いをこめたメールは、正常に送信された。 涙は止まらなかったけど、どうしようもできない程じゃなくて。 残った思い出で。十分生きていけるような気がした。 その後のやり取りも、至って平和で。 あたしはだんだん、本当に少しずつだけど、元気になり始めた。
あたしにとって、彼との関係が平和であるということは、かなりの影響力があるらしい。 それは、恋人であったときは勿論だけれど、 その前の友達5年間でも、そうであった気がする。 どうあろうとも、あたしには彼が必要らしかった。
そう気づいたとき、「恋人」という言葉に執着していた自分が馬鹿らしくなった。 「恋人」じゃなくてもいいんだ。 あたしの世界に彼が存在するように、 彼の世界にあたしが存在しているのならそれでいい。
ああこんな、穏やかな気持ちは久しぶり。
ごくごく一部の、意味だけど。
何にも変わらない。 まるで、何もなかったかのように。 2週間前の、恋人だった頃のように。
いつもの口調で。いつもの、好きな小説の話。 それを話すときの彼の表情が好きだったことを、あたしはぼんやりと思い出していた。 きらきらした顔。 本当にその小説が好きなんだなって、伝わってくるような。 あたしまで幸せになれるような、笑顔。 泣きそうになって、必死で堪えた。
いつか話が途切れて、いつもの「ように」抱き寄せられて。抱きしめられて。 いつもだったら、その喜びに身を任せていたところだったけど。 あたしの頭は、妙に冷静で。 習慣だったからやってるだけで、別に抱きしめたいわけじゃないんだよね、なんて考えていた。 何をされても、あたしの頭から、その考えが消えることはなかった。
「本当の意味」で、抱かれてるわけじゃない。 この人が戻ってきたわけじゃない。 愛なんてどこにもない。 涙がこぼれて、気づいた彼もほんの少し、あたしを見つめた。 手を止めるわけじゃなかったけど。
帰り道、あの人はあたしに、「空しい」と言った。 やっぱり、いくらあたしが「過去の人」で、どちらかと言えばどうでもいいような存在でも、 人を奴隷とか機械だと思える人じゃなかった。 それがわかっていたのに、それを信じていたくせに、 こんなことをさせてしまったあたしって、一体何なんだろう。 「失いたくない」「この人を好き」というだけで、 この人を縛る権利がどこにあったんだろう。 そのときはまだ、ここまではっきりと考えることはできなかったけど。 やっぱりダメなんだって、理解ることはできて。
どうして、失ってでも進まなくちゃいけないことが、わからなかったんだろう。
その後のメールでは、それ以上の存在として扱われることはなかった。 あたしが真剣に話そうとしても…のらりくらりとした返事しか返ってこない。
「奴隷が出来たから、嬉しい」とか、「容赦なく使うから、覚悟しとけよ」とか…。 今までとは違いすぎる、言葉の羅列。 正直言うと、傷ついていた。 友達にもたくさん怒られた。 「そんな奴とは別れろ」と、皆言った。 自分の選んだ道が間違っていたことも、本当は理解っていた。 失うことが、怖かっただけだった。
あの人は本当は、そんな人じゃない。 「そんな人」になってしまったのなら、それはあたしの責任だ。 あたしを傷つけることで、あの人が元の人格に戻るのなら、いくら傷つけられたっていい。 今のあの人を見るのは、嫌だ。
その理屈は、彼があたしのことを、多少なりとも大事に思ってくれていなければ成立しない。 気づいたのは、もう少し後だった。 それでもやっぱり、失いたくなかった。
「奴隷」扱いされて、確かに傷ついたけれど、 あたしはどこかで、安心していたようなふしがある。 多分、無理して前に進まなくてもいいと思えたからだ。 今とりあえずは、この人を失うことはないんだと思えたからだ。 結局あたしは、そこに戻ってきてしまう。 馬鹿だ。 もう既に、失っているのに。
「奴隷」になってから、初めて会う日。 信じてはいたけど、少し緊張した。 あたしが信じているあの人など、もう存在しないのかもしれなかった。
気が抜けた。
2003年06月08日(日) |
2度目の「さよなら」 |
それは突然、訪れた。
まったく予想だにしなかった。 付き合って1年と2ヶ月弱の、5月の晴れた日。 前の日は雨。次の日も雨。 その日も雨だったら、逢えていなかった。 もし逢えていなかったら、別れなかったかもしれない。 そう考えると、それは運命だったかのように思えた。 どうしようもない逃避だけれど。
すぐはまだ、冷静だった。 恋人最後のメールを、その人に打ったりしていた。 日記も書けた。 涙は、少ししか出なかった。 本当に別れたのだということは、ちゃんと理解っていたつもりだった。 戻りたいなんて口にしてはいけないということも、理解っていた。 原因は自分なのだから。
理性が外れたのは、その後、友達と電話していたときだった。 友達が、あまりに信じられないと落ち込んだ。 あたしだって信じられないよ、と言ったとき、何かが切れ、 涙が落ちた。 そしてそれは止まらず、あたしをおかしくした。
「戻りたい」 理解ってる理解ってる。言ってはいけない。 けれどあたしには、あなたが必要で。 あなたのいない人生など考えられなくて。 同情でも何でもいいから。 すきなの。まだこんなにすきなの。 「やり直したい」 深夜、2通目のメールを送った。
当人と、逢った。 気づけば、別れてから4日が経っていた。 その頃のあたしには、時間の感覚すらなかった。 ただ戻りたかった。 逢って、ますます気持ちが強くなった。 メールではもうきっぱりと、「戻れない」と言われたのに、 諦めないことが美徳だと、あたしは信じきっていた。 まったく、ありえない。
当人にとっては、あたしは既に過去の人だった。 とりつく島も、ありはしなかった。 でもあたしは、諦めなかった。
要するに、処理機。
日記病の、再発。
つい1ヶ月前も、あたしは日記を書いていた。 当時愛した人のために、書いていた。 だから別れた後は、全て消し、閉鎖した。
あたしは、弱い。
もう日記なんて書けないと思っていた。 文章を書く心の余裕などなかったから。 それはまた恋をするまで、生まれないんだろうと思っていた。 だけどどうやら、時間が解決するものだったらしい。
それとも、また恋をしたからなのか、は定かではない。 恋であるかさえもわからないのだから。
とりあえず、歩き出そう。 何が待っているのかわからないけれど。 あたしの目の前に、とても大事な人が存在していることは事実。 その人のために、あたしは止まってはいけない。 あたしのためにも、止まってはいられない。
6月7日。 日記の、再出発。
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