風太郎ワールド


2003年06月24日(火) いやがらせ電話撃退

アメリカの大学街に住んでいた一時期、いたずら電話がしばしばかかってきた。

ネチネチと話を続けたり何も言わずに切ったり、さんざん振り回される。そこで、どうしたものかと対策を練った。

同じアパートに住んでいたハウスメートの女子学生が一番の被害者で、かなり怯えている。

もう一人のハウスメートは、大学時代レスリングをしていた体重100キロを越すアフリカ系アメリカ人の大学院生。まるでボブ・サップのように威圧感満々だ。

もし、いやがらせ男がドアに現れれば、いくらでも脅しつけられるのだが、顔が見えない電話ではあまり効果がない。

しかし、我が家のボブ・サップには何か秘策でもあるのか、俺に任せておけと言う。そしてある日、たまたま彼が家にいる時に、またいたずら電話がかかって来た。

電話を取った彼は、いきなり早口の英語でまくし立てる。



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相手はあわてて電話を切り、もうそれきりかかってくることはなかった。

さすが我がハウスメート。ここでもボブ・サップと同じく、暴力ではなく頭脳を使って敵をやっつけた。


2003年06月20日(金) 昼間家にいると…

昼間家にいると、ろくなことがない。

職業柄、翻訳などの仕事で家にいることも多いのだが、困るのが、こちらの都合を無視してかかってくる電話だ。今日の夕方もそうだった。

「私、Tと申しますが、風太郎さんいらっしゃいますか?」
<T?聞いたことのない名前だ>

「私ですが?」

「あ、そうですか。私、総合商社SのTと申しますが、ちょっとお時間よろしいですか?」
慇懃だが、話の要点がハッキリしない。

「あの、ご用件は何でしょうか?」

「はい、あの、ちょっとご説明をさせていただきたいと‥‥」

「セールスですか?それとも、勧誘?」

「いえ、今日はそういうことではなくて‥‥」

「じゃ、どういうご用件で?」

「だから、時間をかけてご説明を‥‥」

「今、忙しいから」

「では、いつがよろしいでしょうか?明日なら時間ありますか?」

「いや、今日か明日かという問題じゃなくて。用件は何なの?」

「ですから、説明しますので」

「説明はいいから。用件がなければ、電話しないで下さい」

「用があるから電話してるんです」

「じゃ、何なんだよ、用件は!こんな電話につきあってるヒマないんだよ」

「だから、説明を‥‥」

「もういい。電話しないでくれ!」

まだ粘る。いい加減しつこい。ついに頭に来た。

「もう電話してくるな、ボケ!」

思い切り電話を切った。多分あまりに腹が立って、切る時に「死んでしまえ!」とも叫んだようが気がする。(暴言、反省してます) ^^;

不況だからか、最近こういう電話が多い。

数日前も同じように、用件のハッキリしない男が「ちょっと説明を」としつこい。「結構です」と言って電話を切ると、またすぐかかってくる。「もうかけてくるな!」と怒鳴って切っても、またすぐかかってくる。そして、「何で電話を切るんだ?」と逆ギレしている。話し方もだんだんチンピラのようにぞんざいになってくる。

あのね、人の時間に勝手に侵入してきて居座られたら困るのよ。いい加減諦めろ。

数年前には、例の大和都市管財からも電話で「有利な投資」の話をもちかけられた。怪しい話だということはすぐにピンと来たが、紳士的にちょっと話を聞いてやったら、こいつは食いつくとでも思ったのか、熱心に延々と説明する。そして、数日後分厚い資料が郵送されてきた。もちろん、読みもしないでゴミ箱行き。

だいたい、怪しい金儲けの話って必ず、「高利回りで安全確実」って言うんだよ。だって、カモ、いや、お客がそれを聞きたがっているから。だけど、世の中そんなにおいしい話は絶対にない。

ステークが高ければリスクも高い。リスクが低ければリターンは少ない。この両者は必ず相反する。それがリスクの経済学なのだ。お金が儲かるメカニズムを説明しないで、バラ色の結果だけを売り込む儲け話はすべて危険なのだ。

夕方の電話のあと、暴言をはいた反省と、最近やたらに多い詐欺まがいの電話に対する怒りで、何も手につかずボーっとしていたら、また電話がかかってきた。

またヤツか、と少し身構えたが、とりあえず電話をとる。
無言。しばらくしてから、電話の向こうで低く押し殺した声が、



    ↑クリックするとメッセージが変わります(ランキング投票ボタン)ひとこと言うと、電話が切れた。

それだけか?たったそれだけか、仕返しは?可愛いヤツやのう。

もっと嫌がらせでもしてくるかと思ったが、こいつはチンピラ詐欺師としてはまだ半人前なのだろう。

見たこともない相手にケンカを売ることは、あまり褒められたことではない。下手をするとストーキングされたり、ネットで風評を流されたりする危険性もある。

しかし、ヤツは自分の名前も会社名も名乗った。しっかりノートに記録してある。手も足も出せないだろう。

それにしても、昼間家にいるとろくな電話がかかってこない。


2003年06月17日(火) 千人祈

昨日の「クローズアップ現代」で、「ことばで綴る千羽鶴」と題されたウェブサイトのことが紹介されていた。イラク戦争開始直後に20代の若者達が立ち上げた。

「何もできないからこそ、せめて声を上げませんか?」イラク戦争について感じた素直な気持ちを短い詩の形で募集したところ、20代の若者達を中心に5千を超えるメッセージが寄せられた。

「どっちがいい、どっちが悪いではなくて、戦争自体がいやだなっていう‥‥思いをダイレクトに書ける、‥‥そういう場所を作ろう。そういう言葉が集まった時に‥‥、何かが変わるキッカケになるかも知れない」発起人の西澤直純さんは言う。

戦争が進むにつれ、寄せられるメッセージには懐疑的な声も混じるようになり、ブッシュの終戦宣言をもってサイトは閉じられた。

しかし、この時の素直な気持ちを記録に残しておこうと、サイト運営者達は、寄せられたメッセージを本にまとめた。タイトルは『千人祈』。

在米の日本人留学生もメッセージを寄せた。

後ろの席の彼は
バグダッド出身。
「家族はどうしているの?」
と白人の教授が聞いた。
「…みんな、
バグダッドにいます。
もう、電話も通じないけど。」
クラスのみんな、下を向いた。
誰も、何も言えなかった。
言えるはずもない。
その日の新聞の見出しは、
「バグダッドまであと50マイル」
投稿者の最年少は、小学5年生の少年。
同じ地球に同じ時に
生まれてきた人間同士が、
なんで殺し合わなくちゃ
いけないの?
この少年は、自分が使っていたサッカー用具をイラクの少年達に送ろうとしている。彼は2年前におばあさんからもらった手紙が心に残っていた。9才の時に終戦を迎えたおばあさんは、戦争の悲惨さを伝えるために自分の体験を手紙に書いて、この少年が9才になった時に渡した。自分のおじさんが特攻隊で死んだことなどを綴った。

この本の収益は、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に寄付されることになっているという。

*    *    *

日本では最近、少年犯罪をはじめ若者に否定的な報道が多いが、一方で、こんなに素晴らしい若者達がいる。

さらに、戦争の体験を次世代に伝えることを自分の責務と考えるおばあさんもいる。まだまだ日本は捨てたものじゃない。

こうした若者達の多くは、イラク戦争の現実を目の当たりにして無力感に襲われているかも知れない。そんなことをやっても無駄だと訳知り顔で嘲笑する大人達もいるかも知れない。

そんな若者達に伝えたい。君達は正しい。決して負けるな!挫けるな!納得がいかない大人の話に盲従する必要はない。理想を捨てずに突き進んでいけば、きっといつか君達の勇気が報われる時が来る。

ただ、君達にはまだ力がない。正義感はあっても、気持ちだけが走っている。だから、もっと知識を吸収し、知恵を身につけ、経験を積み、歴史を学び、自分に力をつけ、そして正義を実現して欲しい。世界を良くするために貢献して欲しい。

「何故」をもう一歩進めなくてはならない。「戦争反対」と唱えるだけではなく、どうしたら社会を変革できるのか?どうしたら理想を実現できるのか?悪をなくすにはどうすればいいのか?それは本当に悪なのか?悪とは何か?

すべてを一度に変えることはできなくても、きっと小さな変化を生み出すことはできるはずだ。変革は常に小さな変化から始まる。

頑張れ、日本の若者達!




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2003年06月10日(火) 男女差別

アメリカのある大学で、男女学生比が偏り過ぎて問題になっているらしい。アメリカPBSのニュース番組、"The NewsHour with Jim Lehrer"が先週報道していた。男女差別ではないかという声が出ている。これは、一つの大学に限らずアメリカ全体の傾向らしい。

いまだに女子学生は差別されているのかと憤慨するには及ばない。問題のシアトル大学では、女子の割合が61%に及ぶ。70%に達する大学もあるという。全米の大学生総数に占める女子の割合は50%を超え、さらに増え続けている。特に黒人学生の間では、女子と男子の比率は2対1だ。少数派は、男子学生なのだ。

この状況を是正すべく、男子学生を増やすための具体策を講じる動きも出てきた。一方で、これは女子が「本来の能力」を発揮できるようになった「当然の結果」であり、喜ぶべきことであって、憂えるのはおかしいという意見もある。

アメリカでは、人種差別・女性差別などによる歴史的な不公平是正のために、30年近く前から"affirmative action"(積極的差別是正措置)という少数派優遇政策がとられてきた。

こうした政策が功を奏したのか、少なくとも大学教育の現場では男女間で少数派のポジションが逆転してしまった。

大学だけではなく小・中学校でも、活発な女子に対して、おとなしくて引っ込み思案な男子というパターンが生まれつつあるらしい。

あるインタビューで、男子生徒が言っている。
「女子は頑張れと激励されるが、男子は、何とかなるでしょうとしか言われない」

優遇策というのは、いつまでどの程度続けるか判断が難しく、行き過ぎると逆差別になる。

*    *    *

日本ではまだ、アメリカのように男性が少数派に陥ってしまうほどの是正には至っていないように見えるが、実は社会のそこかしこに逆差別はすでに存在している。

たとえば、映画館では何故「レディースデー」があって「ジェントルメンズデー」がないのか?

女性は既にカルチャーセンターも占領し、男性より遥かに多くの習い事をし、男性より文化的で、知識吸収意欲も旺盛だ。何故に、このうえ映画まで女性を優遇する必要があるのか?

優遇する必要があるとすれば、日頃文化とはほど遠い環境で虐げられている男性、特に中年オヤジ達だろう。私は、「レディースデー」の替わりに、「中年オヤジデー」を設けることを提案する。

女性を優遇しているのは映画館だけではない。レストランの食べ放題でも、女性料金は男性料金より安い。何故なのだ?女性の方が必ず食べる量が少ないのか?飲む量が少ないのか?

そんなことはない。私の女友達連中は男性よりもよく食い、よく飲み、よくしゃべり、長い時間居座って、よく楽しんでいる。何故に、そのうえ料金まで安くする必要があるのか?

その他、実際に制度になっていなくても、女性が優遇され男性が割を食っている状況は既に多々ある。こうした男女別料金は、アメリカなら差別であり、明らかに違法だ。

こういう逆差別を許してしまう神経は、実は女性の差別を放置しておく考え方と根は同じである。要するに差別ということに鈍感なのだ。

今まで女性は損をしてきたから、今度は得をさせてあげましょうという態度では、結局違う形の差別を生むだけ。差別はなくならない。

既成社会、たとえば企業や大学、政治、官僚などの世界では、いまだに女性が差別に苦しんでいるのは事実だ。だからといって別の場面で男性を差別して良いということにはならない。どちらも、差別は許せないのだ。

差別は放っておけばどんどん助長される。日本とアメリカの違いは、差別に積極的に文句を言うかどうかだ。アメリカ人の方が、より社会正義感が強く徳高いという訳ではない。基本的に、自分が損をする差別に反対するのだ。

このように、まず自分が受けている差別に対して声を上げていくことが、反差別運動につながる。

そこで私から始めよう。映画と食べ放題の女性優遇料金はやめてくれ。

そうでないと今後、


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想像するだけでも怖いだろ。


2003年06月08日(日) このあやしい雰囲気は‥‥

クリスに初めて会ったのは、アメリカに渡って最初の学期の11月。大学の留学生課主催のニューヨークツアーに参加した時だった。

3泊4日。宿泊は、マンハッタンのYMCA。アフリカ、ヨーロッパ、アジアの留学生に混じってアメリカ人も何人か参加した。そのうちの一人がクリスだった。

私は、ヨーロッパ・アフリカの留学生2〜3人に大学の引率担当者を加えてグループで行動していたが、そこにクリスも混じってきた。

離婚して子供3人。シングルマザー。やや太目の30代中頃。州政府からの援助をもらって大学で勉強していた。

この旅行には夜遊び用のドレスを何着も持参して、気合が入っている。ディスコでも休まず踊り続けた。

さて、私にとって生まれて初めてのニューヨーク。朝一番に起きて、凍えながらメーシーズ百貨店の感謝祭パレードを見物し、昼間はメトロポリタン美術館、自由の女神などを巡る。夜はエスニックレストランを堪能。その後、ブロードウェーを見て、夜中過ぎまで話題のディスコで踊り明かす。

体力に任せて、朝から夜中まで毎日寝る時間も惜しんで、短いニューヨーク滞在を楽しんだ。この時のニューヨークツアーほど中身の濃い旅行は後にも先にもない。

このツアーをキッカケにクリスと親しくなった。よく聞くと、私が住んでいる寮の斜め前のアパートを借りているらしい。外国人学生と親しく、私が兄貴分として慕っていた日本人学生のことも知っている。

以後、しばしばいっしょにパーティーを楽しむようになった。他の留学生も交えて料理を作ったり、遊びに行ったり。少しずつアメリカ人や留学生の知り合いの輪が広がっていった。

そんな楽しい大学生活を送りながら、留学も2学期目に入ったある木曜日の夜、誰かが部屋のドアをノックする。開けると、きれいな格好をしたクリスが立っている。

"Are you ready?"

準備も何もないだろう。約束なんてしたっけ?

どうやら、大学のバーでその日から始まる週一回のジャズナイトに誘いに来たのだ。私がジャズを好きだというのを覚えていたらしい。しかし、私は金曜日には宿題の提出がある。バーに行っている場合ではない。

といいながら、国際親善第一の私は、断りきれない。宿題をそのままに、ジャケットを引っ掛けて通りに出る。それから毎週木曜日の夕食後、クリスが私の部屋のドアをノックするようになった。

こういうことが何週間か繰り返されたある日。ジャズナイトも終わって、川の土手沿いをクリスと並んで寮に向かって歩いていた。私は物理の宿題のことが気になって仕方がない。すると突然、クリスが口を開く。

「日本人の男性って、とてもいいんだってね」
「えっ?」



    ↑クリックするとメッセージが変わります(ランキング投票ボタン)いきなりそういう話題が出てきて、なんと答えていいのやら。それに、日本人の男が?聞いたことがない。その逆の話はたんまり聞いたけど‥‥。私は、何も言えず黙っていた。

「最近読んだ雑誌にそんなことが書いてあったわ」
私は、うつむくばかりだ。どんな雑誌を読んでいるんだろう。

「私、離婚されちゃったでしょ」
「‥‥」

「今、中東からの留学生と付き合ってんだけど‥‥よくけんかするの」
「‥‥」

「やっぱり、文化が合わないのね」
「かも‥‥知れないね」

「だから、日本人男性は、とてもやさしいって読んで‥‥」

何だ、何だ、このあやしい雰囲気は?なんでこんな真っ暗で、周りに家もない、他に歩いている人もいないところで、こんな話をしているんだ?

いけない、いけない、絶対にいけない!こんな流れに乗っては大変なことになる。

私は、努めて冷静に振舞い、頭をもたげそうになる男の欲望を押し殺した。

そして、無事寮につく。彼女のアパートはその斜め前。
「楽しかったよ、おやすみ」
分かれようとする私に、
「寮から電話させて。彼に電話しなくちゃ」
寮の食堂までついてくるクリス。

何の話をしているのか、電話で彼と言い争っているようだ。

やっと電話を切った彼女。これで、無事切り抜けたと思ったのもつかの間。つかつかと私の前に近寄って来た。

と、いきなり頭をつかまれた。彼女は私とあまり体格が変わらない。両方の腕で、グイッと引き寄せられ、何が何だか分からない間に、湿った生暖かいものが、私の唇をべっとりと包む。

動けない。すぐそこに目を閉じた彼女の顔。まるで蛇に飲み込まれつつあるカエル状態だ。時間がいつまでたっても進まない。

開放された時、目まいがしてよろめいた。クリスは、「また来週ね」と言い残して去って行った。彼女のステップが心なしか弾んでいるようだったのは、一体何故?


2003年06月06日(金) 女性に対する褒め言葉

アメリカ留学中に知り合ったK氏。途中でシカゴに移り、ヌード・フォトグラフィーを勉強するようになったのだが、その彼女をある時別の女友達といっしょに訪ねた。もう20年近くも前だ。

ひとしきりお互いの生活や共通の知り合いの近況などを話したあと、彼女が「どうしようかな」と一瞬ためらってから、「見せてあげようか?」とB5サイズほどのポートフォリオを取り出した。

自分の作品でも見せてくれるのかなと覗き込むと、なんと彼女自身の写真。それも、何も身につけていない‥‥。

プールの中で気持ちよさそうに天を仰いで浮かんでいる。微笑んでいる。水の中で素っ裸で戯れる彼女の写真は、ボカシもなく、ヘアもはっきりと写っている。

その彼女が今目の前に座っている。私はただ驚いて、感動して、そしてうろたえて、彼女の顔を真っ直ぐに見ることができなかった。

まだ日本ではヘアヌード写真など解禁されていない時代だ。私はと言えば、こっそり隠れてプレイボーイなどを見ているような恥じらいのある20代。

彼女の説明によると、クラスの課題でヌードを撮らなくてはならないのだが、モデルになってくれる人もいなければ雇うお金もない。そういう人は、学生同士で撮り合いをするのだと言う。

K氏は元々美人系だが、まったく何もまとわない姿も飛び抜けてきれいであった。私は、彼女の形の良い胸や、くびれた腰や、きれいに揃ったヘアや、プロポーションの整った体をとても美しいと思った。

いやらしい気持ちはまったくなかった。それは断言する。絶対にいやらしい気持ちはない。天に誓って。

彼女はこちらを覗き込んで何か反応を待っているようだったが、何と言っていいか私は言葉が見つからない。あせって、思わずつぶやいた。



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男としては「最上の褒め言葉」のつもりだった。しかし、彼女はそれが気に入らなかったようだ。

「もおう。男はすぐそんな目で見るんだから。だから見せようかどうか、ためらったのよ。これは芸術作品なのよ。もう見せてあげない。Mちゃんだけに見せてあげる」

私の前から写真を取りあげると、横に座っている別の女友達と二人だけで、あれこれ写真を指さしてページをめくりはじめた。

い、一体、何が悪かったの???

俺は、褒めたつもりだったのに‥‥。

あのお、決してポルノとして見ていた訳ではありません。芸術的な美しさだと思っただけで‥‥。あのセリフって褒め言葉にならないのね‥‥。

そういやあ、大学生の頃にも、似たような経験をした。美人で有名な後輩がある日、お嬢様のようにおしゃれな格好をして大学に来た。誰もが振り返るほど美しさが際立っていた。

いつもは女性の外見にコメントすることなど全くない私だが、思わず褒めてあげたくなって、「Aちゃん、きょうはきれいだね」と言うと、ぷっとふくれて怒ってしまった。

な、何で?褒めたのに‥‥。

「『きょうは』って‥‥まるでいつもは汚いみたいじゃないですか」と抗議されてしまった。なるほど。もっともだ。俺の言葉が足りなかった。

じゃ、なんて褒めれば良かったのだ?仲の良い別の後輩に聞いてみると、「先輩。そういう時は『きょうもきれいだね』とか、『きょうは、一層可愛いね』と言わなくちゃだめですよ」と言う。

なるほど。比較級か。言葉は微妙だな。特に女性のことを評する時は、徹底的に気をつけないと。

もしかしたら私は、そういう微妙な表現に鈍感なのかも知れない。そういえば、女性達が急に黙りこんでしまったり、表情から笑顔が消えたり、いつからかまったく連絡もしてくれなくなるというのは、どこかで「きょうは」と「きょうも」を間違えたからなのかな‥‥。


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