あふりかくじらノート
あふりかくじら



 古い喫茶店。

正確に言うと、古い雰囲気を大切にしている新しい喫茶店だったらしいけれど、それは正直いってどちらでもよかった。

空が今にも泣き出しそうだったのだけれど、昨日、豪雨で一日中家にいたのに嫌気が差したので散歩へ。
この近所をよく知らないままでは嫌だと思ったので。

古い住宅街を抜ける細い道(いちおう商店街らしい)にあったその喫茶店は、名前からして古い感じがするのだけれど、とても雰囲気が良かった。

飾り気がなくて、嫌味もなくて、古いものがたたずまい良く。
落ち着いた店内は手触りの良いテーブルと椅子、カウンターが備えられ、背筋がしゃきっと伸びた女性が迎えてくれた。そして、その女性のお母様なのか、歳のいった女性がやわらかく微笑んだ。

何も言わないけれど、その空気のよさが自分をほっとさせた。

なによりも、珈琲はほんとうに美味しかった。

そして、わたしの目を引いたのは、カウンターの向こうにある戸棚である。
丁寧に、上品に、カップやソーサー、グラスなどが並べてあるくもりガラスがはめられた戸棚。

それだけで、とてもこの店が好きになった。

2008年08月31日(日)



 天からたたきつける雨。

週末。
外に出ていない。

きっと異常気象だ。激しい雷、そして豪雨が窓をたたく。

新しい部屋の窓にぶら下がっていたのは、ジンバブエで買った布だったのだが、ちゃんとカーテンを作った。部屋の雰囲気が変わった。


こうやって生きていかなくてはならないのだな。


今日は誰とも喋っていないと気付き、実家に電話。
父の誕生日。


そういう土曜日。

2008年08月30日(土)



 ペールギュント。

ノルウェーの文豪イプセンの詩劇『ペール・ギュント』。
夢想家で、女たらしの主人公ペールが世界を放浪する冒険の物語。

幼馴染を結婚式から略奪し、やがて彼女に飽きると捨ててしまう。彼は、アフリカ大陸に渡り、ベドウィンの娘に誘惑される。・・・(あらすじはこちら


モロッコに渡ったペールが迎えるあまりにも有名な「朝」という曲。

ペールの母の死の床で冒険譚を語るペールと死にゆく母親。そして、故郷でペールを待つ恋人の「ソルヴェイグの歌」。


いただいた招待券で行ったあるマエストロのコンサートは、ほんとうにいまのわたしを包んでくれた。
グリーグによる、組曲である。今日、東京芸術劇場にて。


圧倒的な迫力と、哀しみや愛。
音楽って、どうしてこういうものを表現できるんだろう。
身体中に響き渡る音に、わたしはやはり、昨日の告別式のことを思い出していた。

ひとは死ぬ。
静謐の中で死にゆく。

喪主である奥様のご挨拶のことばをひとつずつ思い出し、かみ締めた。ソルヴェイグの愛の歌のように、彼女の想いはあまりにも深い。
そして哀しく。
その様子は、わたしの脳裏に焼きついて離れない。


年老いたマエストロは、自分も死ぬまで秒読みです、と語った。
とても生命力に溢れた彼から出たことばに観客は笑ったけれど、そのことばは、いまからとても大切なことを言うのだという重みを持って、まっすぐわたしの心に届いた。

襟を正すときは、襟を正す。


そういうことを、彼は語った。


今日、あなたの世界に包まれることが出来て、ほんとうに良かったです。
涙でお化粧はぐしゃぐしゃでしたが(汚)、背筋が伸びる気持ちになりました。
そして、色んな人間の哀しみや何かを知りました。


あなたのアンコールは、最高でした。
いまのわたしに、必要なものでした。

それは、必要な涙でした。


(ひとり、号泣)



2008年08月29日(金)



 今日のこと。

今日、告別式。

お世話になったひとが突然亡くなった。


黒い服に袖を通すことがいやだと、数年前にも書いたと記憶する。


本物の涙があるところに、誰かの生きた証があり、誰かがこれから生きていかなければならないという事実があるのみ。

故人の古い仲間と思しき男性の涙が、わたしの脳裏に焼きついて離れない。
つまり、このことなのだ。



残される家族も友人も、あまりにも哀しすぎる。

ほんとうにこういうのは嫌だけれど、生きていく以上、避けられないこと。


ひとは皆いつか死ぬのだ。
だから、今日と精一杯向き合い、出会いを大切にする。

それしかないのだ。



ただ、ご挨拶が出来て、良かったと思う。


今日の日。


2008年08月28日(木)



 生きる。

パリで治療を受けていたというザンビアのムワナワサ大統領が亡くなったというニュースが流れている。

これは大きなショックだ。

エジプトのAUサミットで倒れ、パリの病院へ運ばれて数週間。
死亡説が流れたりしていたけれど、とうとう。



ひとは、いつ死ぬかなんてわからない。

だから、誰かとの時間を大切にしたいし、自分も精一杯生きる。
ひどい交通事故でわたしが死ななかったというこの事実が、神様がまだわたしにはやるべきことがあるから生かしてくれたのだ、なんて思いたくない。

そうではないと思う。

でも。

生きていることってなんてありがたいんだろうと。何て辛いんだろうと。何てすばらしいのだろうと。そういうことをひたすら思うだけ。



身近なひとが突然亡くなった。

まだ、その事実をうまく受け止めることが出来ない。

残された彼の家族のことなどを思うと。


そして、若くして亡くなった何人かのわたしの「身近なひと」たちのことを思うと。

2008年08月20日(水)



 ホンネの本音。

焦っているふりをしたいのは、
きっとほんの少しの不安のせい。


でも、ほんとうはそれほど焦っていない。
まだ焦っていたい自分を引きずっている、それだけ。


自分を理解してほしい病は、思えば小学6年生のときにアメリカに行ったそのときから始まっていて、いまでもまだ患っている。


これでも、ずいぶんコントロールできるようになり、人生をかなり自分なりに楽しめるようになった分、ほんとうは20代のころより楽だ。


自分の目の前の仕事に精一杯向き合う。

そういうことって、ほんとうはわかっているのだけれど、わからないふりをする。



ヲトメゴコロとお呼び。

2008年08月18日(月)



 オガサワラ、タソガレ。

雨。

日曜日。

新しい部屋もずいぶんなれてきて、少しずつ生活環境を整えている。
好きに暮らせるってすてき。

身体中がなんだかくたびれていて、たぶんこれは、東京にいたんじゃ癒せない。ほんとうに遠くに行く計画を具体化させようと思う。


『めがね』をTSUTAYAで借りて観た。
映画館以来。

海がいい。何にもない時間がいい。
ときの流れが、やわらかく映し出されている感じ。
心が解き放たれるイメージ。


小笠原、行きたいな。

あの島へ行くのは少なくとも一週間の時間が要るのでいまのわたしには無理だけれど、それでも、ザトウクジラが来るのを待ちたい。
(ザトウは2月から4月くらいだから、いまはマッコウクジラか)


オガサワラ、タソガレ。


それでも、この新しい街を歩くだけでも、けっこう楽しいけど。



めがね(3枚組)


2008年08月17日(日)



 照り返しまぶしく。

夏の新宿って、とても久しぶりな気がする。

真夏日。
照り返し。


こういうすさまじいのが、東京の夏だったなぁ。

2008年08月15日(金)



 深夜のラジオ。

アンジェリーク・キジョーの歌声が流れてくる。


ハラレの夜、彼女のコンサートを思い出しながら。


遠くへ行きたいな。



それだけ。



誰にも邪魔されたくない。

2008年08月13日(水)



 何処か遠い国の味。

そのイタリアン・レストランは、埼玉県にあった。
わたしが電車をおりたこともないような駅で、駅舎を出ると空が広がっているようなところ。

所属先の会社のひとたちと一緒に行った上司イチオシのレストランは、さらに10分くらい歩いたところ、静かな静かな住宅街の真ん中にある一軒家だった。

ヨーロッパ風の古い建物を真似た張りぼてのような建物や内装のレストランは、きっと東京にはいてすてるほどあるだろう。
その、底の浅さがすぐにわかってしまうようなものは、しかし意外ともてはやされ、人気があったりする。
そういうものをみれば見るほど、「日本的だ」と感じてしまうのはわたしだけではないはずだ。

だが、夕べのイタリアン・レストランは本物だった。
建物。内装。空気。雰囲気。
いやらしくわざとらしいところがひとつもない。
そのままそこに切り取られて置いていかれたような、ヨーロッパ。そしてイタリアだった。


野菜はその庭で取れた有機のものを使い、ほんとうに甘くて美味しい。
四種類も出たパスタのソースは、それぞれに独特な香り。
日本のイタリアン・レストランではまずありえないような、「本物」の素朴な味がした。
ひとくちいただいた瞬間、ものすごく懐かしい気持ちで心が満たされ、そして「新宿」でこびりついてしまった疲れがゆるりと溶けていくのがわかった。

どこか、懐かしい味。

それは、日本ではない遠い国の味。

イタリアに行ったときか、それとも、どこか別の国のイタリアン・レストランで食べた味か。

わたしがわたしの身体や血のなかにある過去の思い出とつながる。


ほんとうに、すばらしいパスタだった。




2008年08月08日(金)



 新しい街、自分の生きかた。

ずっとずっと色んな街に暮らしてきて、やっぱりわたしはこの生きかたが好きだし、きっとひとつところにずっと根を下ろすことは出来ないんじゃないかと思ってしまう。

いつも、どこかへ行きたいから。


あれこれ、忙しい。

書き物も、いくらでもある。
これで、もうちょっと儲かってくれればいいんだけれど(本音)、どうも「やりたいこと」の方を優先したいわけで。だからわたしは、いわゆる「ライター」業みたいなものはできないんじゃないかといつも思う。


思うこと、いろいろあるけど、また今度。


今日、勤務先に提出するために住民票を取りにいった。
わたしのほかには、婚姻届を提出するカップルだけだった。

へこんだ。
でも、弾力性のあるお肌なので、すぐ復活。

なんだかんだと、(元)だーりんに電話しちゃったりするけれど、わたしは新しい(ひとりの)生活が好きだ。

2008年08月04日(月)



 ジプシー。

自分で自分の人生のコマを進めるきっかけ作りのために。
なんてたいしたものでもないのだけれど。

でも、泣いたり傷ついたりしたここ数年を、わたしはわたしのものとして取り戻したいのです。

そして、自分で自分の人生が好きなんですよ。

誰が何と言おうとね。


それから、もろもろの気持ち的理由が重なって、都内に引っ越しました。
好きな街を選んで、好きな部屋を選んで。


何度も何度も引越しをしているけれど、いつもわたしと一緒についてくるいくつかのものたちが、わたしのこれまでを思い出させ、そしてまた少し、わたしの人生に近づいてくる。


やっぱり、ひとつところに落ち着かないのが、わたしの生き方なのだ。

2008年08月03日(日)
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