ケイケイの映画日記
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2026年04月09日(木) 「ザ・ブライド!」




予告編を観て、めちゃくちゃ公開が待ち通しかった作品。期待通りの、パンクでロックで痛快な、「フランケンシュタインの花嫁」でした。監督はマギー・ギレンホール。

1930年代のアメリカ。フランケンシュタイン博士によって、死体から蘇った怪物のフランキー(クリスチャン・ベール)。100年の年月を孤独に彷徨った彼は、ユーフォロニウス博士(アネット・べニング)に伴侶が欲しいと懇願します。博士と墓地で彫り返した遺体は、エスコート嬢のアイーダ(ジェシー・バックリー)。実験は成功し、アイーダには前世の記憶はなく、新たにペニーという名前が付けられます。しかし、ペニーを守ろうとしたフランキーが、殺人を犯し、そこから二人の逃避行が始まります。

冒頭、原作者のメアリー・シェリー(ジェシー・バックリー二役)の、一種怨念めいた時代の空気感の説明が入り、その後酔った勢いでの、アイーダの男への恨み節が出る。そして博士。「私は論文を出す時、姓は出すが名はイニシャルだけなの」。これは名を入れると女性だと判別され、読まれなくなるからだと思いました。

かつて監督のマギーが、「60歳の男性の妻役のオーディションを受けたの。そしたらプロデューサーに、『この役を演じるには、君は年を取り過ぎている』と言われたわ。私は38よ?」という記事を読みました。彼女はさぞ冷笑を浮かべていた事でしょうね。その時の女性あるだけで虐げられる怒りを、監督として昇華させたのが、この作品だと思います。

フランクが伴侶を望むのを、博士はセックスがしたいからかと言いますが、フランクは違うと言う。壮絶な孤独から救われたいのです。しかしここでも博士は、「人間は皆孤独よ」と言います。違う違う、誰とも話さず誰とも交わらない。奇怪な風貌が災いして、皆が避けて通る。このレベルの孤独を、フランクは100年生きているのです。ここは昨年観たデル・トロの「フランケンシュタイン」の、切々と胸を打った孤独の描き方が秀逸で、だいぶ補正されました。その代わり、100年の間、フランクがどうやって生きてきたかを表現するシーンが、秀逸。公園の噴水に落ちた、小銭を集めるのです。皆から嫌われ怖れられ、職にはつけなかったでしょう。その容姿から、物乞いさえ出来なかったのだと思うと、胸が痛みます。

ペニーは生前の記憶はなく、エスコート嬢時代の、男のおもちゃにされ、ゴミ屑のように扱われた鬱屈を、弾き飛ばすかのような輝きを見せ、二度目の生をアグレッシブに生きます。しかし、愛しい妻がレイプされそうになり、フランクは殺人を犯してしまう。様々な追手から、手に手を取り逃亡する二人。ボニーとクライドのようだなと思いました。自分たちを蹂躙する者には雄たけびを上げる二人に、同じような鬱屈を抱える女性たちは、追随します。しかし、二人が心ならずも手にかけた市井の人へ、深い悔恨を抱える事は、知りません。

心の高まりから、身体を重ねる二人。フランクはセックスがしたかったのでなく、愛あるセックスがしたかったのです。それはペニーも同じで、愛情のあるセックスは初めてだったかも。さかりが付いたように、お互いを貪る二人ですが、不潔感はないのは、その姿から愛が迸っていたからだと思う。

マギー監督は、一方的に女性を支配する男性だけを糾弾していたのかと言えば、さにあらず。小児麻痺を克服して、ミュージカル俳優としてスターとなったロニー(ジェイク・ギレンホール)。フランクは自分を重ねて、彼に憧れている。しかし富と名声を得た彼は、尊大でした。

二人を追う刑事のジェイク(ピーター・さースガード)とミルナ(ペネロペ・クルス)。頭脳明晰で英知に富むミルナですが、誰も彼女を刑事として認めない。ここにも作品の主張は貫かれますが、生前のペニーに対して、後ろ暗い事があるジェイクの悔恨の様子は、決して男性全てを悪だとは言っていない。

悪いのは権力や名声を悪用する輩なのです。その輩に、金魚の糞のようにくっつく男たちにも、この作品は鉄槌を下しています。言い換えれば、権力や名声を持てば、女性も変貌してしまう危険を孕んでいるとも言えます。ラストを観ると、博士は、いち早く抜け出したのがわかる。だって博士も、パンクでロックだったから。

ジェシー・バックリーが、これ以上出来ません!というくらい大熱演で、そこも見どころです。彼女、すごく歌が上手いんですよ。ダンスの場面はカットして、もっと歌声を聞きたかったなぁ。流れが少し冗長ではあるけど、許容範囲。長らくハリウッドの一線で活躍してきた監督の、思いの丈が込められた作品でした。監督の次作も期待しています。

私が一番好きなシーンは、初めて殺人を犯したフランクが、「君は逃げろ。巻き込みたくない」と言う。ペニーは「どこへ行くの?行くところがない」と言う。なら大罪を背負っても、自分を守ってくれた男が、自分の居場所なんだよ。手に手を取り走り出す二人は、ラストに繋がっていると思います。







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