ケイケイの映画日記
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2020年06月21日(日) 「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」




「昔の女の子」(今もか?)なら、一度は読んだオルコットの「若草物語」の映画化です(三回目?)。ローティーン時代に一度読んだきりだし、今更感も半端なかったのですが、監督がご贔屓のグレタ・ガーヴィクなので、正直言うと仕方なしで観ました(笑)。私が原作を輪郭しか覚えていないからか、今風の味付けに妙味があり、ところどころ疑問はあるものの、大変楽しめました。今回は粗筋なしです。

勝気で今で言うところのバリキャリを目指す次女ジョー(シアーシャ・ローナン)の奮闘ぶりを観ていると、この時代(1860年代)から今日まで、それ程変わっていない事に、少々愕然としました。男子のいない家庭に置いて、長男的役割を果たすため、彼女は無理をしていたのじゃないか?これは原作では感じえなかった事です。小説家になりたいのは、自分の夢であると同時に、家庭を裕福にしたかったのですね。なので、愛や恋を夢を実現するには邪魔であると、思い込もうとしていたんじゃないかなぁ。

天使のように心映えの美しかったベス(エリザ・スカンレン)を亡くし、憑き物が落ちたように、自ら振った幼馴染のローリー(ティモシー・シャラメ)を取り戻そうとする様子が、とても切ない。相手はローリーではなくても良かったはず。心の逃避行先が欲しかっただけで、それは愛ではありません。

お金持ちと結婚することが夢のエイミー(フローレンス・ピュー)。マーチ伯母さん(メリル・ストリープ)に気に入られ、パリに住み洗練されたレディになります。しかし、自分の夢を阻むものが、一途な恋心だと言うのが皮肉と言うより麗しく感じるのです。お話は、七年前のジョーの回想と現在が交替で描かれますが、一番人として成長したのは、エイミーだったと思います。夢見る夢子さんのような少女は、男性に選ばれる生き方を放棄した時、女性としての強さやしなやかさを得たように思いました。

私が原作で一番好きだったのがベス。スカンレンは初めて見ましたが、私の中にまだこんなに聖なるものへの憧れがあったのかと思う程、彼女が出てくる度、感動して(そう、出てくるだけで感動する!)涙が出ちゃったの。もちろん作り手の描くベスがそうなのでしょうが、スカンレンの好演あってのものです。自分の中にまだこんな綺麗な心があったのかと、彼女に感謝です。

唯一イマイチに感じたのが、エマ・ワトソン。結婚相手に経済力よりも愛情を選ぶのは、今でも美しい事ですが、この時代女性、特に主婦には仕事はなく、夫だけが頼り。その夫が、「甲斐性がなくてごめんよ・・・」と、自分が傷ついてどうする!所帯窶れする妻に詫びるより、寝る間を惜しんで働いてよ。エマも出演場面はそれなりにあるのですが、彼女の素地が活かされているように思えません。エマは美貌が取り柄の女性じゃないと思いますよ。思うに、彼女はジョーを演じたかったのじゃないかな?今すぐは思い浮かばないけど、メグは他の人の方が良かったかも?

ローラ・ダーンのお母さんも、芯が強くて優しく素敵なお母さんですが、これまた甲斐性のない牧師の父に甘すぎないか?メグの夫と共に、人柄の良さはわかりますが、マーチ伯母さんの援助がなくては娘の結婚式も挙げられず、娘の仕送りなくば、生活が立ち行かないとは、どういう了見だ?頼りなさ過ぎます。原作でもそうだったのかな?脚色はかなりしていると思うので、この夫たちに「ごめん」以外のセリフや行動を付け加えて欲しかったです。私は何が良くて、この容姿も内面も美しい妻たちが、この夫を支え続けるのかが、わかりませんでした。

私が一番心に残ったのは、マーチ伯母さんです。彼女はジョーに自分の過去を見たのじゃないかしら?生涯独身だった彼女は、「私はお金があるからいいのよ」と言いますが、妻となり母となる事のなかった自分の人生に、後悔があったのかと思います。だから姪たちには、いい男捕まえて結婚しろと、発破をかけたのじゃなかろうか?彼女もまた、自分の夢を追いかけるため、「女の幸せ」は、諦めたのではないかと思います。ジョーに残したものは、自分と似た姪が、せめて路頭に迷わないようにとの思いではないでしょうか?ジョーは草葉の陰で伯母さんが怒ると言いましたが、あの使い方は、きっと伯母さんは喜んでくれるでしょう。

他には美しき四人姉妹の相手役を一手に引き受けた感のあるシャラメですが、生い立ちからの憂いと少年らしい溌溂さを共存させる少年時代と、退廃的な高等遊民風の青年期を、境目を曖昧にしながら好演。彼の美貌も際立っていました。

女性は経済力のある相手と結婚するのが幸せと思われていた時代の名残は、今も十分にあります。それと相反するように、仕事も結婚も子育てもと、女性として諦めない人生も提唱され、女性たちは多様な人生観に戸惑う事もあるでしょう。どの人生を選んでも、自分に選択に責任を持つ事が大切。それを痛感したラストシーンの大団円でした。





2020年06月01日(月) 「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」




これも親愛なる映画友達の方の推薦作。日記でタイトルと文章の序盤を拝読して、良さそうな作品だなと記憶していました。TOHOシネマズが29日から再開して、昨日は是非TOHOシネマズで観たいと、スケジュールをうろうろしていたら、この作品に出合いました。81分の中に、ヒロインの雄々しさと純粋さに、心洗われ勇気を貰った作品。監督はレミ・シャイエ。アニメーションです。

19世紀のロシア、サンクトペテルブルク。14歳の貴族の少女サーシャは、北極航路の回路から戻らない、船長の祖父を案じていました。父は自分の出世のために、皇帝の息子とサーシャの結婚を画策しますが、逆にサーシャの一族に恨みを持つ皇帝の息子の策略にはまり、サーシャは父親から叱責を受けます。打ちひしがれる彼女は祖父の部屋から、航路の案内図を発見。自ら航海に出るため、家を飛び出します。

まず色使いがとても素敵!カラーの明度や彩度を落とした画面は、時代の空気感を映しながら、アート的な格調高さを醸しだしています。画の一つ一つが、どれもこれもポスターにしたくなるような美しさに溢れています。

自由闊達で物言う事に恐れを知らないサーシャ。しかしそこは貴族のお嬢様。祖父を探す道行に、お金が必要とは頭が回らない。着の身着のまま同然で飛び出し、有金も巻き上げられた彼女を救ったのは、食堂の女将。ここで働いてお金を貯めろと言います。

当初は役立たずで有ったサーシャが、負けん気と祖父を想う心から、見る見る逞しく成長する姿は、眩しいほどです。そう、この物語の中で、サーシャは徹頭徹尾様々な困難が来ても、表情豊かに輝きまくっているのです。貴族と言う属性からは想像し難い、生命力や勝気さも加わり、すっかり彼女に魅せられました。

何とか偏屈で有名な船長の元、やっと祖父探しに出る事に。女性が船に乗ると不吉だと言うのは、万国共通だったのかしら?この作品は少女がヒロインなので、性的な描写はなかったですが、その側面以外の迷信かしら?

荒くれ男たちとの旅の様子は、苦難の連続。これがアニメとは思えぬ一大スペクタクル場面も出てきて、本当に見応えがあります。そして成長したのはサーシャだけではあらず。船長の弟はろくでなしですが、彼も決死のピンチの中、変貌していくのです。他の船員がこの無茶な航路を提案したサーシャを責める中、「船長たち」は、一度もサーシャを責めませんでした。航路の最中遭ったことは、全て船長の責任だと認識しているからでしょう。

貴族のお嬢様の命がけの大冒険は、きっと祖父譲りの高潔な精神から来ているのでしょう。5年前の作品ですが、男女の垣根が低くなった今、たくさんの女の子たちに観て欲しいです。やる気があれば、属性も性別も関係ないんだよ。
もちろん男の子にもエールを送りたい。エンディングの後日談が心温まるので、是非お見逃しなく!


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