ケイケイの映画日記
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2016年01月24日(日) 「ザ・ウォーク」(3D)




長らくCGアニメに携わり、もう実写には帰ってこないのかと思っていたロバート・ゼメキスが、鮮やかに「フライト」で実写に復帰したのが、三年前。今回はドキュメンタリー「マン・オン・ワイヤー」(私は未見)で描かれた実話を元に、腕を磨いたCGをふんだんに駆使して作った作品です。何故彼は、こんな狂気の沙汰を起したのか?眩暈のしそうなCGが繰り広げられる中、監督の思いが伝わってくるような作品です。

フランスに住むフィリップ・プティ(ジョゼフ・ゴードン・レヴィット)。子供の頃観たサーカスで、綱渡りに魅せられた彼は、現在大道芸人として、生計を立てています。ある日訪れた歯科にあった雑誌に、当時世界一の高さになるという、ニューヨークのツインタワー建設の記事を目にします。地上110階、高さ411mのワールドトレードセンターで綱渡りをしたいと決意する彼は、恋人アニー(シャルロット・ルボン)と共に渡米。彼の理解者である友人のジャン・ルイやジェフ、その他の協力者を得ながら、この計画を進めていきます。

私は3Dは苦手なので、出来れば避けたかったのですが、時間が合う劇場では、
3Dのみの上映。仕方なしでしたが、今回これが良かった。私は割合い高い所は平気なのですが、背筋が冷たくなるような、眩暈がするような場面が続出。フィリップがバランスを取る棒を落とす場面では、こちらに飛んでくるようで、思わず目をつぶっちゃった。観客も、たっぷりとフィリップの高揚感やスリルを共有できます。

こんな破天荒な計画を、とにかく一心に画策する彼ら。当日は綿密な計画なはずが、あれこれ不測の出来事が起こり、その度に辛くも警察や警備から逃げ切る様子がスリル感たっぷり。がっちり一枚岩のようなジャン・ルイやジェフの友情に好感を抱き、裏切り者登場もスリル間に拍車をかける。誰も傷つけるわけじゃないので、不法侵入と言う犯罪なのですが、あぁ若いっていいなぁと、何だか爽快でした。

現実のプティは、何故こんな事件を起こしたのか?と問われ、「理由はない」と答えたそう。この作品は、その理由のなさを説いていたような気がします

計画前夜、興奮してハイテンションのフィリップ。まるで操転しているかのよう。協力者に敬意の一かけらも見せないフィリップを、アニーはたしなめますが、意味はわからないフィリップ。思うに彼は綱渡りの天才なのです。天才だから、目標とする人がいない。もっともっと高みを目指したい、前人未到の場所に立ってみたい。荒ぶる魂を抑えようがないのです。それが誰も観た事のない場所に立った時、尊大だった彼が、友人達や観客、自然、全てに感謝し、魂が浄化されていく。反発した師匠のルディ(ベン・キングスレー)の言葉の意味もわかる。感動しているのです。

恋人なのに、協力するだけでちっとも心配しないアニーが不可思議だったのですが、フィリップ曰く、彼の一番の理解者である彼女は、この事が彼の人生の転機になると、見抜いていたのでしょう。パフォーマーとして生きていくため、フィリップには必要な事だったと思いました。

昔、「芸術とは人を感動させるもの」と仰った方がおり、それがずっと私の心に居座っています。ルディの「観客に感謝しろ」と言ったのは、観客がお金を払っているだけではなく、パフォーマーからアーティストの域にまで芸人を引き上げてくれるのは、観客だ、との意味だと解釈しています。

健在のフィリップは、この作品を観て、どう感じているんでしょうね。「マン・オン・ワイヤー」も是非観たく思います。


2016年01月17日(日) 「ベテラン」

いや〜、超面白かった!面白いだけじゃなく、直近に観たのが「ブリッジ・オブ・スパイ」だったもんで、ファン・ジョンミン演じる刑事の「不屈の男」ぶりに、感動してしまったわ。監督はリュ・スンワン。

広域捜査隊のドチョル(ファン・ジョンミン)は、正義感が強く熱血漢の刑事。そのせいで過剰な捜査も度々で、チーム長のオ(オ・ダルス)は、いつも頭を悩ませていますが、ドチョルはどこ吹く風です。ある日、いつも捜査に協力して貰っているトラック運転手のペが、自殺未遂をしたと聞き、急いで病院に駆けつけます。事はリストラと賃金の未払いから始まった事で、巨大財閥シンジン・グループの御曹司テオ(イ・アイン)が絡んでいると知ったドチョルは、チーム長の引きとめも聞かず、独自に捜査を始めます。

冒頭からユーモアたっぷりの活劇シーンを見せられ、面白いなぁと思っていたら、これはほんの小手調べ。以降事件の謎解きと大活劇が交互に繰り広げられ、とにかくテンポがスピーディーです。華やかなのではなく、庶民的な賑やかさがあるのも良いです。

警察やマスコミの腐敗は、どこの国も描かれますが、そこに韓国特有らしき大財閥の傲慢さを、描いています。テオの傍若無人の人でなしさを描けば描くほど、これは韓国民の憂いを超えた怒りなのだと感じます。

お話的には、最後の最後で明かされる真実は、最初で暴露した方が、私はお話の滑りがいいかな?と、個人的には思いました。でも監督が何より描きたかったのは、権力や財力を持てる者は、どんなクズでも守られていいのか?と言う怒りだと思います。それを、そうじゃないんだ!と代弁者として、本当に正義の味方であって欲しい、警察側の人間であるドチョルに託した事に、希望も込めたんじゃないかなぁ。ストレートに描くと、暗い社会派になるので、広い層に観て欲しくて、監督はこんなエンタメ上等の作りにしたのかな?と、感じました。

ファン・ジョンミンは、最近コンスタントに観ていますが、どんな役でも愛嬌たっぷりなのがいいです。今回も熱血漢だけと、狂犬的なのではなく、恐妻家と言うのもいい。その奥さんもテオ側に買収されそうになり、きっぱり断るシーンは胸がすきました。この夫にして、この妻あり。しかし、この共働きの正義の血がたぎる夫婦にして、金銭的には恵まれておらず、この辺は日本と同じのようです。人間の誇りさえ奪ってしまうもの、それがお金。だから「汚い」と、揶揄されるのでしょう。トラック運転手の背景と共に、働けど低所得と言う、社会問題を表していたのだと思います。日本と同じですね。

テオ役のアインは、私は初めて観ましたが、多分アイドル系なのでしょう。甘い顔つきのハンサム。だから残酷で傲慢なクズっぷりも、返って引き立ちます。アインは好演でしたが、惜しむらくは、もっと深く「持てる者」の冷酷さは、どこから来るのか?まで掘り下げ、アインの人格形成にもっと迫っていたら、痛快さや爽快さだけではなく、深く心に余韻が残ったかなと思います。

とは言え、ドチョルやチームの人々に、それイケ!やれイケ!と応援し続ける筋運び、やんややんやと喝采を上げたくなるラストには、観客の溜飲は下がったはず。映画でも毎度お馴染みの韓国の警察や司法のダメっぷりですが、作り手は怒りと期待を込めて作った作品なのでしょう。まずは理想でいいんですよ。理想を描けば、観客の心に、ほんの少しでも芽吹くものはあるはずです。


2016年01月12日(火) 「ブリッジ・オブ・スパイ」

「スペクター」の感想で、「スパイ映画は、国家を描けば歴史がわかり、人を描けば厚い人間ドラマが作れます。」と書いた箇所を、長年の映画友達のヤマさんに褒めて頂き嬉しかったです。その両方を兼ね備えた作品です。純粋な中学生の時、シドニー・ルメットの「十二人の怒れる男」を観て、これが正義と言うものなのかと、震えるほど感動した心が蘇りました。実話が元の、大変立派な作品です。監督はスティーブン・スピルバーグ。脚本はコーエン兄弟。

米ソ冷戦真っ只中の1957年のニューヨーク。ソ連のスパイとして、ルドルフ・アベル(マーク・ライランズ)が逮捕され、国選弁護人として、ジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)が選ばれます。国の敵を弁護するドノヴァンにも非難の目が向けられるも、怯む事なく仕事を進めるドノヴァン。死刑必至のところを、ドノヴァンの尽力で禁固30年で結審。その5年後、アメリカ軍パイロットのパワーズ(オースティン・ストウェル)がソ連上空を偵察飛行していたとしてソ連が拘束。パワーズを釈放して欲しいアメリカ政府は、アベルと交換する計画を立て、その交渉人に、民間人であるドノヴァンを指名します。

あらすじを書いているだけで、アメリカ政府の余りの無茶苦茶ぶりに、思い出して、また腹が立ってきました。裁判は完全にアベルの有罪が決まった出来レース。しかし対外的にアメリカは民主主義の国家だとアピールするため、弁護士を立てただけです。ドノヴァンは完全に噛ませ犬、捨て石です。それを解った上で、精力的にアベルの弁護活動をするドノヴァン。弁護士のプライドと正義感からだと、胸を打たれました。

アベルは映画に出てくるような、颯爽としたハンサムなスパイではなく、極々普通の初老男性。街に居ても、埋没して溶けてしまいそうな、存在感のない男性でした。確かにそうでないと、長年の活動は出来ないだろうと思います。それを端的に表した、駅で刑事とすれ違う描写が秀逸。

拘束されたパワーズも普通の軍人であったのを、優秀であったため、CIAが偵察要員にスカウト。有無を言わさず、誰にも話すな、この作戦は隠密だ、失敗すれば死ね。CIAの無茶ぶりはドノヴァンにも及び、人質交換は民間レベルの事である、国は関与せずで、失敗すればドノヴァンの責任、命の保証もないと言い放ちます。それでも人命救助のため、突き進むドノヴァン。国が個人の「善意」を利用し、手柄は自分が取ると言う欺瞞。

アベルとドノヴァンの交換の他、東ドイツでアメリカ人留学生プレイヤー(ウィル・ロジャース)が拘束され、その交換も絡んできます。プレイヤーは見捨てろと言う政府。パワーズの方が優先なのは、彼が国の機密を知っているからです。そうはしないドノヴァン。一人の人質で、ソ連と東ドイツに分かれた二人の人質を、どうやって交換するのか?この辺はものすごくスリリングです。ドノヴァンの知恵と度胸の交渉術を、是非ご覧あれ。

拷問シーンは、ソ連がパワーズに対して行ったものだけを描写。これは現在解体した国である事で、表現し易かったのでしょう。しかし敢て描写した事に、アメリカや東ドイツでも合った事なのだと、暗示していると私は取りました。

アベルからの情報を聞き出そうとするCIAのホフマン(スコット・シェパード)に、守秘義務を理由に断るドノヴァン。「規則などどうでも良い」と言い放つホフマンに「自分はアイルランド系。あなたはドイツ系。それがアメリカ人として成り立っているのは、この国のルールを守っているからだ。規則外などない」と敢然と席を立つ姿は、人種の坩堝であり、不穏で混沌とした今のアメリカに対して、作り手の心意気が込められていたのだと思います。

このスピルバーグ作品のどこに、コーエン兄弟の影響があるのか、私にはわかりません。私がわかるのは、偉大な映像作家三人は、この作品において親和性があり、アメリカ人として、アメリカを愛している事。一触即発だった過去から学ぶことで、平和を強く願っている事です。

正義と善意、ファイトのあるドノヴァンを演じたハンクスは、彼の持ち味から誰もが納得のキャスティングです。還暦前を感じさせぬ若々しさで、本当に力を貰いました。弁護士ドノヴァンとして、アメリカ人二人の解放は本懐でしょう。しかし親愛の芽生えたアベルを、迎えの車の後ろに乗り込む姿を見送る事は、私人ドノヴァンとして、悔いと無念の残る気持ちであったでしょう。その時のハンクスの表情が本当に秀逸で、涙を見せないドノヴァンの代わりに、私が泣いてしまいました。

アベルを演じたライランスも、驚愕するほどの好演です。いつもポーカーフェイスで、抑揚のない演技の中、長年スパイとして暮らした、達観した孤独が匂い立ちます。知的な語り、絵の才能に恵まれた様子を映し、ドノヴァンが職業的矜持だけではなく、彼に好感を持った事も、頑張りの一つであったでしょう。ライランズは、私がずっと観たいと思って未見の、「インティマシー/親密」の主演で、これを機会に是非観ようと思います。

この二人の好演あってこそ、成し得た作品だと思います。

アベルは、「平凡な男が、何度も殴られても立ち上がり、とうとう不屈の男と呼ばれ解放された。その男に君は似ている」と、ドノヴァンに言います。今思えば、作り手が、平凡な男=平凡な市井の人々と言っていたのではないかと、思っています。平凡な人は、狡猾な権力に負けない不屈の人に成れるのだ、と言われたよう思えてなりません。


2016年01月10日(日) 「クリムゾン・ピーク」




この作品の監督ギレルモ・デル・トロも大好きです。前作「パシフィック・リム」では、門外漢の怪獣映画で、まさかの感動・号泣で、やっぱりデル・トロすごい!を実感致しました。今回待望のゴシック・ホラーで、この面子、と言う事で、ウキウキ初日に観て参りましたが、うーん、めでたさも中くらい。個人的には、残念です。

20世紀初頭のNY。富豪の一人娘イーディス(ミア・ワシコウスカ)は、作家を目指しています。昔から幽霊が見える彼女は、幼くして亡くなった母の幽霊が「クリムゾーン・ピークに気をつけなさい」と言う言葉が、忘れられません。
社交的な事を嫌う彼女を父(ジム・ビーバー)や、幼馴染で彼女に恋するアラン(チャーリー・ハナム)は、心配しています。そんな時、自分の発明のパトロンになって欲しいと、父の元へ、イギリスの準男爵トーマス(トム・ヒドルストン)が現れ、イーディスと恋仲になった時、彼女の父が不慮の死を遂げます。悲しみに暮れ、遺産のたった一人の相続人となったイーディスは、トーマスと結婚。イギリスにあるトーマスのお屋敷で、トーマスの姉ルシール(ジェシカ・チャステイン)と三人の生活が始まります。しかし、生来の幽霊が見える力を持つイーディスは、この屋敷に不吉なものを感じるのです。

美術はとにかく圧巻です。トーマスのお城は、ほぼお化け屋敷か廃墟のような荒みようながら、抜けた高い天井から、ハラハラ雪が舞う様子や、傷んでいるのに高級そうな調度品など、昔はエレガントでさぞ格式高かったろうと感じさせます。そして今の禍々しい不吉さも。なので、普通は逃げ出すはずが、魅入られるような風情なのです。衣装も素敵。男女ともきちんと作り込んでいて、普段着・晴れ着の落差も、きちんと描き分けています。

他に良かったのは、ゴーストの造形。イーディスのお母さんが、既に骸骨姿だったのは、びっくり。ありゃ、実の娘でも怖いっすな。以降霞がかった幽霊たちは、イーディスを怖がらせるに充分(でも私は怖くない)。常に異形の人に心寄せるデル・トロですが、今回は骸骨になった亡霊の哀しみに、思い入れを込めたようです。

そして演者たちは皆好演。しかし好演過ぎてもぉ(笑)。ゴシックホラー仕立てのミステリーなのですが、伏線と言うか、思わせぶりなえさをあちこちばら撒いているのですが、拾われなくても、オチがわかっちゃう。トムは表情一つでイーディスへの感情の変遷がわかるし、ジェシカはずっと表情一つ変えないのに、この姉弟の秘密はあれだよと、すぐわかる。演技上手すぎるのも、考えもんだわ(笑)。

終盤疑問を一つずつ明かして行くのですが、まだあったのか・・・と(正直もったいぶるほどの事もない)、退屈。テンポが悪いです。もっと畳み掛けるように明かして行かなきゃ。

そしてあれですね、今のベッドシーンは、女優が脱がないで、男優のお尻を見せるのが流行りなのですか?(笑)。最近そんなの多いぞ。とっても素敵なトムなので、お尻見せてくれるのもいいんですが、ミアちゃん服を着たままって、不自然にもほどがある。あれなら昔風に、ベッドになだれ込む→明かり消える→そしてラブラブな朝、じゃダメなの?その方が男優のお尻より、品が良いと思うんだけど。

ミアは愛らしいけど地味な容姿、と言う特性を上手く活用できて、適役でした。彼女お得意のしかめっ面も、きちんと機能しています。ジェシカは、本当ならすごーく可哀想な役柄なんですが、人物の掘り下げが甘いので、同情が湧きません。本来なら監督が心寄せる人物は、ルシールだと思うのですが。ただただお芝居上手いなーと、思うのみ。トムは、最初の颯爽とした雰囲気より、気弱に妻と姉の間で苦悶する時の方が、魅力的です。姉から「子供の時から完璧(に美しい)」と言われるのも納得の、エレガントさでした。

懲りまくって高い完成度の撮影や美術に比べ、ストーリーや人物像が雑です。なので、ミスリードしたかった部分も、引っかからない。ツッコミはないけど驚きもない。これはホラーとしてもミステリーとしても、致命傷です。

思うに監督は、お屋敷やゴーストのビジュアルを先に思いついて、それありきで心血注いで、後でストーリーを適当に作ったんじゃないかと疑惑が起こる(笑)。それくらい美術面とストーリー展開にギャップがありました。

イーディスの名字がカッシングでね、カッシングと聞こえる度に、あの偉大な怪奇役者、ピーター・カッシングを思い出して、ニコニコしていました。これはカッシングに対しての、リスペクトだったのかな?ならやっぱり、この作品のカテゴリーは、「ホラー」ですね。


2016年01月07日(木) 「007 スペクター」

明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い致します。

例年お正月休みの一日は夫と映画なので、やっぱりお正月は華やかに!と言う事で、待ちに待った鑑賞です。ダニエル・クレイグがボンドになって4本目。今回集大成のような作りで、ダニエルがもう一本契約したとかしないとか聞きますが、もう完結篇のような作り。ダニエルになってから、007の芸風だった荒唐無稽さが影を潜め、世相を反映するような現実的な味付けでしたが、今回ちょっと原点回帰かな?私は楽しかったです。監督は前作に続き私の大好きなサム・メンデス。今回あらすじはなしです。

冒頭、メキシコの「死者の祭り」から入る華やかな展開は007のセオリー通り。鮮やかなアクションの連続は、導入としてバッチリでした。

ダニエルになってから、ユーモアの欠如が言われますが、それってボンドに愛嬌がないって事ですね。そして色男ぶりが楽しめない。ベッドインするまでの艶やかでウィットに富んだ会話やしぐさが魅力だったのに、突然始まったりするので、その辺ずっと物足りない。ちょっと生真面目過ぎるんだな。
あんなにハンサムなのに、色男ぶりが低下するって、如何なものか?(笑)。

そんな愛嬌薄いボンドをカバーするため、今回お茶目なQ(ベン・ウィショー)がいっぱい出てきます。と言うか、「ミッション・インポッシブル」さながら、M(レイフ・ファインズ)はともかく、マネーペニー(ナオミ・ハリス)も出番が多くて、一匹狼で行動する割には、雰囲気はチームMI6と言う感じです。

ボンドガールは、個人的にはモニカ・ベルッチが良くて、レア・セドゥがちょっと残念。レアは現在フランスが一押しの女優さんですが、今回は華が足りず、もう少し大人な雰囲気も欲しかったです。モニカは50代では初のボンドガールだそうで、楽しみにしていましたが、出番はわずか。しかし何が感激したかと言うと、ちゃんと50前後の女性に見えたこと。目の下は弛み、隈があり、ほうれい線はくっきり。背中は引き締まっているものの、若い人のようなまろやかさはありません。50代の女が必死になって若作りするのではなく、あるがままです。確かにあの美貌あっての事でしょうけど、そんな50女に、百戦錬磨のボンドが、性的魅力を感じたわけです。あまりメンデスらしさのない作品ですが、唯一メンデスだぁ〜と私が強く感じた箇所は、ここでした。モニカ・ベルッチ、良くぞ出演してくれました。

ストーリーは、前作「スカイ・フォール」がママ恋しなら、今回はパパ恋し。そんな個人的恨みつらみで、無理くりお話を広げて、世界を揺るがしていいもんか?と思いますが、まぁ上手く脚本はまとめているので、この際良しとしよう。要所要所のアクションも007らしく派手だし、ボンドの不死身さもダニエルに似合ってリアルに感じさせる見せ方も良かったです。何より敵役にクリストフ・ヴァルツを持ってきたのは、正解。少ない出演場面でマックスの存在感で、画面が引き締まる。彼が言うなら、パパ恋しも許してあげようと言うものです(笑)。

ダニエルがボンドになって約10年。何だかんだ言われながら、ボンドが板についてきたけど、明るさが欠けているのは、いつも少し不満です。他の作品のダニエルは、決して暗くはないので(明るくもないが)、これは彼のせいではなく、脚本が閉塞的な世相をボンドに反映させていたんだと、四作観て、やっと悟りました(遅いよ)。

しかし、スパイの世界ではビックネームのジェームズ・ボンドやイーサン・ハントが、揃って「失業」の憂き目にあいかけるとは、。思えば東西冷戦終結後は、描く世界観がぶれまくり、題材が迷走したのが受難の始まり。スパイ映画は、国家を描けば歴史がわかり、人を描けば厚い人間ドラマが作れます。そして派手なアクション。娯楽映画にとって、こんな面白いジャンルはないので、これからも試行錯誤して作って欲しいな。

何だかダニエルはもう引退?と思わせるようなラストでしたが、集大成的なこの作品で、身を引いてもいいかも?そして次のボンドは、閉塞どころか、暗黒前夜のような現在の世界情勢をぶっ飛ばすような、元のはっちゃけたボンドが観たいです。ヒュー・ジャックマンが名乗りを上げているそうだけど、彼なら申し分なし。未来永劫、007は不滅です。


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