2004年08月31日(火)
虫の心臓

豆電球の小さな灯に

まるで群がるかのような

自分に気づく


そうか

今まで気づくことを拒否していた

僕は虫けらと同じ

ような人

人? たぶん人


どう思われているのかに

びくびくするなんて

弱くなったもんだと

額の汗を拭う


夜でも飛び回る

汗をかく

休む間もない

虫の心臓




2004年08月30日(月)
それは終わらない

不安なら

もっと近づけばいい

と思うだけで

いっこうに縮まらない距離

まぁいっかって笑えるのなら

まだまだ僕らはやっていける


いつまでも終わらない

計算ドリルのように

延々と続くような錯覚


苦笑いの奥のほう

見えない問題が

たぶん 笑ってる




2004年08月29日(日)
殺害

封印したはずの

生きた心がうずきだす

僕の曖昧さに負けた

たくさんの気持ちの亡霊


さようならと言えたなら

さようならを続けられたなら

優しさを捨てられたなら

優しさを殺せたなら

僕は僕でなくなるかもしれない


でも誰も苦しませなくてすんだかもしれない


僕一人が悲しめば

世界が幸せになってくれれば


偽善

と呼ぶものに

僕が僕をささげていれば




2004年08月28日(土)
目を背ける

君が遠くに見える

それは錯覚ではない何か


物理的距離というよりは

心の距離が遠すぎるから


指で指をなでた

ある夕暮れの終わり

陽炎の向こうにいたはずの君が

今はもう幻


繋ぎとめる何かがあるとすれば

それはもう見えない運命の糸だけで

それに縋ろうとしている僕は

明らかに君を

失うことを理解してしまっている




2004年08月27日(金)

午前2時の忘れ物

手遅れとも思える速度で

過去は遠くへと滑り落ちていく


窓は開いているか?

それとも閉じたままか

問題と思えたものは

もう問題ではなくなり

次から次へとやってくる問題に

移ろいがちな瞳の奥で

見えない明日を眺める夜に


次へ

次へ

次へ


向かう僕に幸はあるか




2004年08月26日(木)
向こう側は伝わらない

窓を打ち付ける雨の音が

すすり泣きのように聞こえて

耳をふさいで時を過ごす


ここは宇宙のかなたのはしっこの

小さな島国の四角い箱の中

反射した声が反芻して

ぐわんぐわんとすすり泣く


言葉に意味はない

文字にも意味はない

心だけが意味を持つ

伝わることと伝わらないことに

残酷という名の境界線を引く




2004年08月25日(水)
嗤う

壁に打ち付けられた人形は

僕は悪くないと

言い張る


片手に持ったナイフに

血が滴り落ちる部屋で


切り付けたときの感触なら

今でもまだこの手に残っているんだ

どんよりとした雲のように

鈍い心で彷徨いながら


それでも行くしかない

行くしかないから

壁の人形はしたたかに嗤う



2004年08月24日(火)
衝動

もどれない沈黙のあとに

大きく流れ出た溜息を

慌てて拾い上げようとしたけれど

指の隙間からさらさらと零れ落ちた


もはや取り返しのつかない

まるで路地裏の迷路のように

同じ場所をぐるぐる

ぐるぐるぐるぐる

ぐる回る酔っ払いのおぼつかない足取り


人は期待してしまう生き物だから

どんな生物よりも愚かであり

人は期待してしまう生き物だから

繰り返すという過ちをおかす


呆れ顔の自分に気づいた鏡の前

殴りたくなる衝動を

どうにか押さえつけて

少しだけ口元をあげた




2004年08月23日(月)
儚いカケラ

まだまだ大きな壁のまえで

双眼鏡をのぞいたんだ


宇宙は果てしなく大きいから

僕はもう埃よりももっともっと小さな存在で

双眼鏡でさがしたんだ


足元に散らばった記憶を

拾い集めようとして

ゴミ箱を買ったというのに

箒星が見つからないから

何にもない夜空を眺める


秀逸なる過去の記録

手に届く前に消えてしまった

儚いカケラ



2004年08月01日(日)
1986

夏場に揺れる子供たちは

舞う砂埃すら苦ともせず

セミの鳴き声をただ追いかけて

陽炎に消える


もろもろと揺れる大地の精は

この物語の行く末を案じながら

まだかと嘆いた次の瞬間

陽炎と変わる


ここは見たこともない世界の裏側

私が見たことのないものだから

きっとあの人も見たことのないもの

懐かしさ漂うように思えた

わずかな時間の隙間の裏側


ハリーが来たのはいつだったか

ハリーを見たのはいつだったか


神秘の泉にひざまずいた

僕たちの夏はいつだったか




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