砂漠の図書室
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2001年04月22日(日) |
「砂漠の夕べの祈り」 長田弘 |
空が透きとおってきた。 風が凪いで、遠くから 日の光が透きとおってきた。 砂の色が透きとおってきた。 ひとの影が透きとおってきた。 悲しみが透きとおってきた。 何もかもが透きとおってきた。
昨日も明日もなかった。 まぶしい今しかなかった。 もうすぐ砂漠の一日は終わるのだろう。
何も隠すことができないのだ。 どんな秘密もいらないのだ。 面白さがすべてだ。 砂漠では、何もかもが どこまでも透きとおってゆくだけだ。 世界とは、ひとがそこを横切ってゆく 透きとおったひろがりのことである。 ひとは結局、できることしかできない。 あなたはじぶんにできることをした。 あなたは祈った。
長田弘詩集 『死者の贈り物』みすず書房刊より
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