何かを得るたびに何かを失わなければならないとしたら、 私はこの身体に何を詰めて、夜を越えて行けば良いんだろう。
喜び。
…哀しみ。
私が持てる物の中で、何をどれだけ手放したら、あの人の心に この手が届くんだろう。夜は明けない。
けど、あの人には薄紫の、蒼白い朝焼けが似合うと思う。
その輪郭を境にして、山が逆光に因って陰に支配される瞬間。 …闇を内包しながら、縁を滲ませるように融ける朝焼けの、あの白さが、 あの人には似合うと思う。
喜び。
…哀しみ。
そのどちらを、どれだけ、…取るのか捨てるのか、それすらも 選び取れない程に、胸は絡まって、床に転がり落ちている。
その紐を解くふりをして、余計に絡ませてしまっている。解こうと思えば 、強くそう思う程、その絡まった対極の美しさに毒されて、どちらかを 選ぶことすら出来ずに、朝焼けを想い浮かべるだけで、この手はどちらも 選ばない。
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