この肌に沁みついた匂いは、いつか消えてゆくだろう。 けれど、きっとこの躰のどこかに必ず記憶されて、私が死ぬまで 保存される。その時、初めてこの気持ちを解放して、私は消えたい。
初めて会った時から、ずっと我慢し続けていたただひとつの事。 初めて、ちゃんと私が、ただの「私」として相手にしてもらえたのは、 今回が最初で、そして最期だな。
何度も繰り返した妄想の中だけの出来事も、今日でやっと最期にして やっと、解放される。
私は、あの人の前ではただ、一枚の絵画の前に立つ者で。
その真意を知る事は決してなく、それでも何かに惹き付けられて躰ごと 動けなくなる程に。現在の自分の指が表面に触れる感触を実感するだけだ。 心と体は全く別に働くけれど、その二つが繋がることを望んで無理言って 困らせた。それでもその方がずっといい。過去も真意も理由も知る事はない。
そんなふうに。
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