高校生の頃、家路の途中に坂があって、行きは上りで帰りが下りだった。
坂を上る時は、毎日遅刻すれすれの電車で通学だったので、いつも必死で 時間と戦って駆け上がっていた。いつも、駅に着いてから体中からどっと 汗が吹き出るのがとてもイヤだった。
坂道の、一番悲しいのは冬の帰り道。
坂から下には海が広がっている。その向うには何も見えない。 遠くて近い、自分の家の屋根と、その向うには、黒くうごめく波と、 白くくすんで、よどんだ空ばかりで。
坂を降りながら現実に帰るとき、いつもいつも、思っていた。 このままここで行き倒れたら、どんなに楽だろう。 次に目を覚ました時には、自分のベッドの中じゃないだろうか。 ここからトンと足を弾ませたら、自分の家の前まで跳べたらいいのに。 …このまま全てが終わってしまえば楽になるのに。
疲れていたり、だるい気持ちになっていると、それがあの時の気持ちと 重なって、とても冷たくかじかんで、硬くなる。…固くてもろい心になる。 それじゃダメなんだと毎回思うけれど、どこかでそういう自分を甘受して しまう自分がいて、そうして甘やかしているうちに、同じ事を繰り返して しまうのかも知れないと思う。
私はまたいつもの坂道に立っていて、とぼとぼ、下っていく。
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