一橋的雑記所

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2006年03月16日(木)





板張りの道場に響き渡る裂帛の気勢。鋭く行き交う剣戟の音。
この空気は幼い頃から慣れ親しんだそれに比べると少し粗雑ではあるけれども、その場に浸っていて心地良い事には変わりない。
それでも、その中に入り混じることを期待されるのは困りもので。

「何で今年は駄目なのよ」

大きく嘆息しながら肩を竦める連子先輩の言葉も今日だけで何度目か。

「あかん言うたらあきませんて。私らが出たらまた諸々揉めるだけやて、先輩らかて分かってはるでしょ?」
「女子部の方だけで良いのよ? 正真正銘、交流試合として」

正真正銘て、と流石に連子先輩の隣に佇む男子部部長の藤堂先輩が苦笑する。我が清陵学園の剣道部は女子部と男子部の人数差が生徒総数のそれに比例して大きい関係で、稽古は常に合同で行われている。それでも今年の男子部は何とか団体戦を行えるだけの頭数は揃っていた。

「それこそ、レギュラーで活躍してるほかの部員さんに失礼やないですか」
「大丈夫、あなたたちが出てくれるのなら私が控えに回ったって構わないし」
「先輩……」

真顔で冗談を言うからこの人は怖い。引き攣り笑いを浮かべて引いた肩に、ぽす、と誰かの肩が触れた。

「あ……っと、すみません!峰倉先輩!」

タオルを抱えた女子部員が慌てたように頭を下げる。顔を上げても年齢標準サイズよりも小さい自分の視線よりも低い所にその子の目線があって、おや、と目を細める。

「中等部さんやね」
「あ、はい。中等部3年橘です」

ぺこり、とお辞儀した彼女のつむじに二回目の対面。こういう場面には滅多に居合わせないので思わず頬が緩む。

「かいらしなー。頑張ってる?」
「はい」
「ちょっと、何後輩口説いてるのよ」

話を逸らしたつもりが、ぐい、と襟首を引っつかまれる形で連子先輩の方に向き直らされる。

「兎に角、私は諦めてませんからね?」

にっこりと笑う先輩は、真顔で迫る時よりも更に怖い。わはは、と誤魔化し笑いで逸らした視線の先、ええと綾ちゃんは……と背の高い姿を探す。

――おや?

先ほどのちびっこい後輩が同輩たちと共に両手に抱えたタオルを一稽古終えた部員に配りまわっていて、丁度綾ちゃんが彼女からそれを手渡されたところだった。

――電柱に、蝉。

「峰倉さんちの似てない双子」は昔良くそう評されたものだけれども、その光景を客観的に眺めるような錯覚に思わず陥って小さく唸ってしまう。

「あら、こうしてみると河南ちゃんって」

同じ事に思い当たったのか、連子先輩が感心したように呟く。

「髪型のせいかしらねー、良く似てるわ」
「はあ……」

河南ちゃん、というのかと、道場の壁に掛かった名札から彼女の名前を探し出してふむ、と頷く。

「どっちが苗字か分からない名前ですね」
「それ、私に対する皮肉?」
「いえ別に」

再びにっこりと笑う先輩に今度は負けじとにっこりを返した後、なにやら熱心に綾ちゃんに話しかけている小さな後輩の背中に視線を戻す。
綾ちゃんの表情は相変らず、少し長い前髪に隠れて良く分からなかった。






続いてますねえ……(えー)。


一橋@胡乱。 |一言物申す!(メールフォーム)

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