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diary
2009年11月05日(木) 折り紙
「この世界がなにでできてるか、知っている?」
彼女が折り紙を折りながら言った。100円ショップで売っている折り紙は、大きいのも小さいのも、きれいな和紙の千代紙も、なんだってあると言うのに、一番オーソドックスな、赤や黄色の幼稚園で使うような折り紙セットを彼女は選んだ。
「えーと、子犬のしっぽと蝸牛・・・・・・それは男の子か」
僕はマザーグースをそらんじる。金色の折り紙を取ろうとして彼女にぴしゃりと手を叩かれそうになる。勿論、その動きは予想できたから、ぎりぎりのところで回避する。彼女はいたずらな園児を叱る幼稚園の先生の表情で僕を睨みつける。
「お砂糖とスパイスは女の子。そうじゃなくて、この世界は」
「今日はずいぶんと難しいことを聞くね。なにがあったのさ?」
彼女は赤い折り紙を器用に折って、鶴を作り上げた。ひとはこうやって色とりどりの紙でいろんなものを象るけれど、本当にこんな色の鶴がいたら大変だと思う。真っ赤な鶴。フラミンゴだってびっくりして逃げ出すだろう。
「この世界は、きれいなものときたないものとでできていると思うの。だけど、そう思わない人も世の中にはいて、きたないものだけでできているという人がいるの。あなたはどう思うのかしらって」
ふーむと僕は唸ってみる。どうやら彼女は変なテレビ番組かなにかを見て、困ってしまったらしい。
「僕も、きれいなものときたないものとでできていると思うよ」
僕はそう言って、彼女の手が届く前に、金色の折り紙を手に取った。
「なんでそれが欲しいの?」
「きれいだから」
「ほら、ね、きれいなものがある」
目に見える答えを提示して、折り紙を彼女に手渡してあげた。彼女はにっこりと笑ってそれを受け取った。
「女の子がいるってことだけで、きれいよね」
「そうだよ」
「不公平だと思わない?」
「なにが?」
彼女は金色の折り紙を、指紋をつけないようにティッシュできれいにふきとりながらしわを伸ばすと、入っていた袋の中にきれいに入れ直した。
「女の子はお砂糖とスパイスと甘いものだらけでできているのに、男の子は蝸牛と子犬のしっぽでできているんだもの。蝸牛って、ぬめぬめしてるし、子犬はかわいいけれど、しっぽだけって、なんか、魔女の釜で煮られてるみたい」
あぁあ、女の子でよかったわ。と、すっかりご機嫌になって真っ赤な鶴の羽を広げた。
「この鶴には脚がないな」
そしてまた、彼女は困ってしまう。神様どうか、僕の純粋な彼女に、あまり難しい題目を与えられませんように。
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サキ
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