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diary
2006年05月19日(金) くちかず
「『なんか言えよ』ってことばなんか言わないオトコがいいわ」
彼女はうたうように言った。
「今のひとも前のひともその前のひとも、ぜったい言うの。ううん、普段は言わないわ。だからわからないのよね。でも、オトコノヒトってぜったい言うの。いつ言うかって?自分が都合悪くなるといつだって!!!」
相変わらずうたうように、でも、心底腹をたてているように、そしてどこか悲しそうに淋しそうに、彼女は言う。
「『なんか言えよ』なんて、変なことば。言うことないから黙っているのに、言うことあれば、いつだって言うのにね。オトコノヒトって、可笑しいわ」
そう、本当に、オトコノヒトっておかしい。
今のひとはおふとんのなかで言った。
「なんか言えよ、なんか話せよ」
そうしてあたしがなんにも言わないと、仕舞いに泣き出した。こわいと言った。
前のひとは新宿駅のホームで言った。
「なんか言えよ、なんでもいいよ」
そうしてあたしが飛行船が飛んでいるねと言うと、それがどうしたと怒り出した。あたしは取り残された。
その前のひとは神社の境内で言った。
「なんか言ってよ、声を聞かせて」
そうしてあたしがあなたの奥さんはと言いかけると、言わないでとそのままあたしの唇をキスで塞いだ。
「矛盾してないのは今のひと。やさしかったのはその前のひと。でも、必要だったのは、前のひと、なんだわ」
「オトコノヒトって嫌ぁねぇ。可笑しなことばかり言うんだわ」
彼女はぽつりと呟いた。
「オンナノコってでも、もっと可笑しいね。そんな可笑しなオトコノコのこと、どうしたって必要なんだもの」
嫌になっちゃうわ。ふぅと大きくため息を吐いて、彼女は下を向く。
「なんにも言いたくないときに限って、ほんとうに。それ以外のときは、あたしが喋らなくても気にしないくせにね。自分が喋っているんだから」
オンナノコって、ほんとうに。
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サキ
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