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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2015年06月13日(土) AAの回復率、まとめ 4ヶ月近く雑記を放置してしまいました(日々雑記どころか、もはや月々雑記ですらないという・・・)。
前回は「翻訳企画:AAの回復率」と名付けて、3人のAAメンバーによる論文?を翻訳して掲載しました。それが10回連載という長文でしたので、全部に目を通した方は少ないだろうと思います。そこで、今回はポイントになるところだけピックアップして、まとめてみようと思います。
まず始めに、「AAの回復率は5%であり、その数字はAA自身が発表したものだ」という主張について、その誤解の元と、正しい解釈についてです。
その元は、1990年にアメリカのAA内部で発行されたメンバー調査の報告書の中にある図です。
この図は、「AAにやってきて1年以内の人たち」が、現在何ヶ月目であるかという分布図になっています。つまり「AAメンバー1年目」の人を100人集めたとすると、その中に「1ヶ月目の人」が19人、「12ヶ月目の人」が5人いる、ということを示しています。
AAミーティングへの参加を続けることができず、途中で来なくなってしまう人はたくさんいます。この図は、100人をAAに送り込むと、1年後にAAを続けているのは5人だけ・・と言っているのではなく、19人中の5人が残っているということです。ですから、1年後の残存率は(元のデータから計算して)26%というわけです。
さらに、「3ヶ月AAを続けられた人」を分母にすると、そのうち56%が1年後もAAを続けている、という数字も出ています。AAに限らず、3ヶ月何かの行動を続けられた人は、その後もそれを継続できることが多い、それは経験的に知られています。
「90日間AAミーティングに出続けよう」というスローガンは、このデータが裏付けと言えるかも知れませんね。
さて僕は、昨冬にインフルエンザに罹患してしまい「イミビル」という治療薬を処方されました。この薬はインフルエンザ・ウィルスの増殖を抑える薬で、たった1回服用すれば十分なのだそうです。しかし、このような1回だけ服用すれば十分という薬は少なく、多くの薬は効果が出るまで継続して服用する必要があります。全治しない病気の場合には、ずっと薬の服用が必要だったりします。
AAのミーティングも1回参加しただけで来なくなってしまう人はたくさんいます。その人たちは、効果が出るまでAAの「服用」を続けられなかった、と考えることもできます。僕は薬の治験には詳しくありませんが、薬の効果を計るとき、期間の途中で服用を止めてしまった人も分母に入れるものでしょうか・・・。
さて、話を変えて、初期のアメリカのAAでは、「50%の人はAAですぐに酒をやめられ、25%の人は再飲酒があってもやがては酒をやめた」という主張をするAAメンバーがいます(僕も以前この数字を使ったことがあります)。これは実はビッグブックのp.xxv(25)の記述が元になっています。その文章はAAの創始者の一人であるビル・Wが書いたものです。
ビル自身が、AAの回復率は50%+25%=75%だと主張しているわけですが、残念なことにその根拠となるデータは示されていません。先の論文?では、AAの記録をあたって、初期のAAで実際に高い回復率を実現できていたことを調べ上げています。アクロン、ニューヨークに次いで3番目にAAグループが誕生した場所、クリーブランドでは実に93%が酒をやめて再飲酒しなかった・・と『ドクター・ボブと素敵な仲間たち』の中でクラレンス・Sが述べています。
けれど、この高い回復率をそのまま鵜呑みにするわけにはいきません。AAメンバー候補者の酔っ払いは、まず入院して酒を切らねばなりませんでしたが、健康保険制度のない当時のアメリカで入院費を払える飲んだくれは多くありませんでした。そこで、AAのメンバーが保証人となり、本人に代わって入院費を負担しました。(文字通り経済的なスポンサーだったわけです)。そしてその金は、本人の回復後に返してもらうという算段でした。
もしあなたが、保証人を引き受ける立場になったら、どうするでしょう? なるべく、ちゃんと酒をやめて、金を返してくれそうな人を選んで助けようとしたのではないでしょうか。酒をやめる気がなさそうなヤツは放っておいたほうが良い。なぜなら退院後すぐに再飲酒してしまい、結局金を返してもらえない、ということが起こりうるからです。
そんなわけで、事前選択(プリスクリーニング)が行われたことは確かでしょう。選び抜いた人を分母におけば、回復率の数字は高く維持できます。今日のAAでは、そのようなプリスクリーニングは行われていません。参加を希望するアルコホーリックは誰でもAAに参加できます。分母が違えば、回復率の数字も変わるのは当然と言えます。
初期の75%という数字と、現在の(誤解に基づくとは言え)5%という数字を比べると、その違いがあまりにも激しい。その大きな違いのせいで、AAがすっかり「役立たず」になってしまったような残念な気持ちになります。しかし、75%という初期の数字は、強力なプリスクリーニングの結果であることがわかりました。また、現在の5%という数字も誤解に寄るものであることが分りました。
つまり回復率というのは、分母に何を置き、分子に何を置くかで、大きく変わってきます。それを無視して回復率の数字を比較してみても意味はありません。
さて最後に、現在のAAはどれほど有用なのでしょうか。
AAによるメンバー調査は、メンバーシップのプロフィールを明らかにするためのもので、回復率を計るためのものではありません。しかし、参考になるデータはあります。先に示したように、
・4ヶ月目にもAAミーティングへの出席を続けている人たちは、その56%が1年経過した後にも出席を続けている。
3ヶ月間AAに出続けた人は、その半数以上が1年後もAAに残っている、というわけです。1年後にAAに残った人が酒をやめているか、飲み続けているかはデータから読み取ることはできません。けれど、「AAミーティングに出続ける人たちは、やがて酒をやめていく(いつまでも飲み続けながらAAに通う人は滅多にいない)」ということを、私たちには経験的に知っています。
そうしたことを踏まえると、「AAに3ヶ月間出席を続けた人の、およそ半数は、1年後にAAで酒をやめている」という予想を立てたとしても、それほど現実から離れていないでしょう。そう考えると、AAは強力な回復ツールに思えてきませんか?
まあ、ダイエットであれ、トレーニングであれ、勉強であれ、何であれ3ヶ月間続けるのが難しいのは確かですけれど・・・。
前回取り上げた、AAメンバー3人による論文?は、こちらに掲載してあります。
アルコホーリクス・アノニマス(AA)の回復率
〜現代における神話と誤解〜
http://wiki.ieji.org/doc:aa_recovery_outcome_rates
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