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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2012年10月15日(月) AAミーティングはバイキング料理? 「AAミーティングはスモーガスボードみたいなもんだと思う」
スポンシーと一緒に公民館の草むしりをしながら、そんな話をしたのですが、当然それだけではまったく理解してもらえなかったので、もうすこし詳しく話をしました。
私たちの身体は、私たちが何を食べるかによって、健康にも不健康にもなります。栄養のバランスが取れた食事を心がければ健康が維持されるし、偏食が激しければ不健康になります。脂の多い、味の濃い料理は美味しいものですが、生活習慣病の元です。炭水化物主体の食事ばかりだと、アミノ酸が不足して鬱になりがちです。
身体を健康にしたければ、好きになれない食品も食べた方が良いわけです。(医食同源というやつね)。
同じ事は、精神についても言えます。
私たちには誰にでも「自分なりの考え」というものがあります。他の人から何かを言われたときに、自分が納得できる考えであれば賛同できるし、納得できなければ退けてしまいます。私たちが食べ物に好き嫌いを持つように、考え方に対しても好き嫌い(偏食)があります。
そして、考え方の偏食がひどくなると、私たちの精神は不健康になってしまいます。「回復の役に立つ」として示された考え方でも、気に入らなければ退けてしまう傾向が私たちにはあります。偏食は自力ではなかなか直せません。
さて、スモーガスボードという料理があります。日本ではバイキング形式とも言います。様々な料理が並べられていて、自分の好みに合わせて選んで食べる形式です。バイキング形式のレストランでは、僕はたいてい食べ過ぎてしまいます。
バイキング形式では、人は自分の好きな料理ばかり取ってくるものです。嫌いな料理をたくさん取ってくる人は滅多にいません。健康に気を使っている人は、栄養のバランスを心がけているでしょうが、それでもやはり手を付けない料理があります。
AAミーティングは、参加するメンバー一人ひとりが自分の考えを話すものです。人間は誰一人として同じではないので、ミーティングでは様々な考え方が提供されます。いわば、考え方のバイキング料理みたいなものです。ミーティングの参加者は、他の人の何らかの考えを取り入れて帰るものですが、誰のどの考え方を取り入れるかは自分次第です。もちろん、私たちには好き嫌いがあるので、気に入らない考えは否定して取り入れることはありません。考え方の偏食の結果、私たちの精神は不健康なままです。
偏食がなかなか修正できないように、自力で回復するのも難しいことなのです。
10年以上前のことですが、日本のAAには「司会者の心得」というリーフレットがありました。ミーティングで読み上げられることもありました。それには、こう書かれていました。
「司会者が話したことも、他のどのメンバーが話したことも、個人の意見であり、AA全体を代表した意見でも、このグループを代表した意見でもありません。持ち帰りたいものを持ち帰り、それ以外は、この場に置いていって下さい。」
持ち帰りたい意見だけ持ち帰り、持ち帰りたくない意見は忘れてしまえ! という、まさに偏食の勧めです。このリーフレットが廃止されたのは良いことだと思いますね。
AAにやって来るアルコホーリックの精神は不健康です。考え方も不健康に偏っているし、なおかつ考え方の偏食も激しいので、気に入らない考え方には腹を立てるだけです。だから、AAミーティングだけで回復するのは実は結構難しいことなのです。
そのために用意されているのがスポンサーシップという一対一の関係です。スポンサーは「このような考え方をしなさい」という提案(という名の指示)をします。バイキング料理のような好き嫌いは許容されません。スポンシーに必要な栄養(考え方)を摂ってもらって、健康を回復してもらうのがスポンサーの役目です。もちろん、ニンジンの嫌いな子どもにニンジンを食べさせようとするようなものですから、反発があるのが普通です。当然そこには工夫が必要だし、一筋縄ではいかないし、失敗もあります。
スポンシーにとってみれば、スポンサーの言うこと(考え方)は間違っているようにしか思えませんが、つきつめれば、それは「嫌いだから食べたくない」ということにすぎません。
偏食で身体が不健康になった人は、自分のことを好きになれないものです。偏った食事のせいで、太って、顔色も肌も不健康になり、おしゃれな服が似合わなくなった自分を好きになるのは難しいものです。その人は例えば野菜は好きじゃないかもしれず、食べたくないと思うかも知れません。しかし、努力して野菜とかミネラルの豊富な食事を摂るようになったとすれば、バランスの取れた食事のおかげで、やがてその人は痩せ始め、顔色や肌が健康になり、服も似合うようになる・・・。つまり以前より自分を好きになるし、自分を変えてくれた野菜を好きになります。
考え方にも同じ事が起こります。最初は反発していたスポンシーも、しぶしぶ新しい考え方を取り入れるにつれ、次第にそれが好きになっていくものです。自分の精神を健康に戻し、人生を立て直してくれた考え方なのですから。これはスポンサーから押しつけられた考え方だ、などという意識は消えてなくなり、最初から自分がそういう考え方を持っていたぐらいの気分になるようです。
ミーティングに出ているのに酒が止まらないとか、酒は飲んでないけれど回復した気がしない、という人もいます。そういう人には、スポンサーを持っているのか聞き、いないなら誰か探せと言います。スポンサーがいるのにうまくいかないなら、提案に従ってみろと言います。
このように、ミーティングとスポンサーシップは両立し、バランスが取れていなければならないのだと思います。どちらかに偏るとロクなことがない。
先日AAのラウンドアップに参加したら、ずいぶん遠方から来られていた人たちと話す機会がありました。彼らの地元のAAでは、スポンサーシップがほとんど存在しないのだそうです。なので、ずいぶん遠くまでスポンサーを求めたという話でした。
1970年代に東京で始まった日本のAAは、全国に広がりました。しかし、広がったのはミーティングという形式だけかもしれません。一対一のスポンサーシップは伝えるのが面倒ですから、全国に広がる過程で軽んじられ省略されてしまったのではないかと心配しています。ミーティングとスポンサーシップというのはAAの両輪なのですから、ミーティングだけだと片輪走行になってしまい、ふらふらと安定しません。
「持ち帰りたいものだけ持ち帰れ」という話だとか、「ミーティングだけで回復する」という話が混じってくるのは、AAのプログラムが他のもので薄められたということかもしれません。
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