心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2012年01月27日(金) 「心の家路」の10年間

このサイト「心の家路」を始めて10年を経過しました。

10年前の自分がどうだったのか、すこし振り返ってみたいと思います。

AAでは「12のステップ」が大事にされており、ステップによって回復することになっています。しかし、12ステップがどんなものなのか説明してくれる人は、当時の僕の周りにはいませんでした。もちろん、僕にもスポンサーがいて、その人には大変世話になりました。彼がいなかったら今の僕はなかったわけで、大変感謝しています。

AAでは当時でも今でも、最初の三つのステップがとりわけ大事だとされています。アルコールに対する無力を認めるステップ1、自分より偉大な何らかの存在が自分を救ってくれると信じるステップ2、その存在に自分の「意志と生き方」をゆだねる決心をするステップ3です。

この三つは「認めて・信じて・お任せ」という言葉でくくられて語られます。それはどういう意味かとスポンサーに尋ねたところ、「あなたは、アルコールに勝てないと感じたからこそAAミーティングに通っている。それは自分が無力だと認めたからだろう。それがステップ1だ」と教えられました。

同様に、AAが助けてくれると信じたからこそミーティングに通っているわけで、それがステップ2である。さらには、自分の生き方をAAにゆだねようとしているからこそ、ミーティングに通っているわけで、これがステップ3である。というわけで、ともかくAAミーティングに通い続けることが、ステップ1・2・3であるという話でした。

これはこれで、かなりシンプルで良い考え方だと今でも思っています。2〜3分の説明で済む利点もあり、ミーティングに通っていないとか、通い出して間もない人にはとりあえずこの説明で十分かもしれません。しかし、その先はどうするのか?

それでも僕は、ステップ4で長いストーリー形式の棚卸しを書き上げ、ステップ5で人にそれを話して聞いてもらいました。でもそこまでだったのです。ステップが階段を上ること(下ることでもいいけど)だとすれば、ステップ5まで行ったところで、次の一段がなく、ずっと長い広い踊り場が続いているようなものでした。ステップ5の時に自分の人生の長い話をして聞いてもらったことで得た開放感や高揚感は素晴らしかったものの、その効果は2〜3ヶ月しか続きませんでした。

12ステップは良いもののはずなのに、自分には効果が不十分だったし、効果を上げる別のやり方も手に入りそうにない・・。そう思うとAAがツマラナイものに思えてきました。かといって、完全にAAを離れると再飲酒が待っていそうで怖い。すぐに飲むわけじゃなくても、何年も離れているとヤバいみたいだ・・・。

そんなジレンマを抱えた状態で始めたのが、この「心の家路」です。しかし、ネットに突破口を求めるとか、そういう発想はなく、ただ単に手詰まりだったので、できることをやってみただけです。

やっぱりネットの中に突破口は見つからなかったのですが、変化のきっかけはネットが作ってくれました。僕のサイトはAAのなかで少しだけ知られるようになり、僕の文章を読んだAAメンバーと知り合いになりました。

当時の雑記を読むと、熱に浮かされたような文章を残しています。
仲間が増えない?
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=19200&pg=20030828

1950年代のアメリカと現在の日本では状況が違い、多分アルコホリズムとされる病気の範囲も異なっているでしょう。でも、その違いを考慮に入れたとしても、今の日本のAAの有効性は低すぎやしないか。そういう話です。

僕が方向付けを得たのはこの頃だったのでしょう。自分は変化を続けていると思います。けれど、あの頃も現在も、目指すものは変わっていません。それは「一人でも多くのアルコホーリックが助かって欲しい」ということです。一人の人間が出来ることは微々たるものですが、AAという集団が成長すれば、より多くの人が助かるはずです。

あれからビッグブックのやり方で12ステップに取り組み、その経験から有効性を確信するようになりました。AAに対する信頼を取り戻したとでも言いましょうか。しかし一方で壁にぶち当たったこともあり、その頃に発達障害概念と出会いました。今では標準的なプログラムを提供することばかりではなく、一人ひとりの特性に合わせた支援が必要だと考えるようになっています。

僕の成長は常に人との出会いによって起きてきました。「心の家路」を始めた頃は、県内のAAメンバーを中心とした限られた人たちばかりでしたが、やがて県外のAAメンバー、そしてアルコール以外のアディクションや隣接分野の人たち、様々な施設の人、いろんな人から機会を与えられてきたと感じています。

慣れないことをすれば必ずつまずきや失敗が待っています。けれどそれを恐れていては成長も回復もありません。前へ進めば以前とは違った風景が見えてくるし、上へ登ればより広い範囲が見えてきます。その時に、以前の自分が持っていた考えは、狭い範囲にしか通用しないものだったことに気づかされます。

最近はなかなか忙しくなってしまって、雑記を毎日更新することも出来ていません。雑記を書けば、なにかしらレスポンスをもらえるのは嬉しいことです。いつまで続けるかなんて何も考えていませんが、続く限りおつきあい頂ければ幸いです。

本で読んだ知識ではなく、アディクションの現場に身を置いて考えること、そしてより多くの人が回復を手にして欲しいという願い。いままでもこのふたつの原則を大事にしてきたのですが、これからもその点は変わらずにありたいと思っています。


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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