心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2011年11月24日(木) 「これにしか使えない」の大切さ(その2)

前の雑記は、何らかの治療論・援助論があったとき、それがどの範囲に有効で、逆にどの範囲には有効でないかを示すことが大切であって、「何にでも使える」「これを使えばどんな人でも良くなる」という話ほど怪しいものはない、というお話しでした。

で、今回の話は、じゃあAAはどうよ、ということです。

AAは「どんなアルコホーリクでも回復可能」とは主張していません。AAが効くためには「自分に正直になる能力」が必要だったり、「プログラムに真剣に取り組む」ことが求められており、それができない人の回復率は平均以下だと堂々主張しています。

しかるに一方では「AAではどんな酷いアルコホーリクでも回復できる」という主張もあります。この「どんな酷いアル中でも」がどこから発生してきたのか。元をたどっていくと、日本でAAを始めたミニー神父の言葉にたどり着きます。彼は日本でAAを始めるに当たって、職業も家族もあるアル中は断酒会で助かっているのを見て、援助の手が届いていないドヤ街のアル中を対象とすることに決めました。そこが日本のAAとマック(メリノール・アルコール・センター)の出発点となりました。

さて、依存症者は自らを例外の立場に置きたがる傾向があります。医者に「あなたは依存症で、もうアルコールをコントロールして飲めない」と言われれば、他のアル中はそうかもしれないが、自分は節酒ができる(つまり自分は例外)と考えるのがアル中です。一人では酒はやめられないと聞けば、自分は一人で止められるとか。

そうやってずるずる酒がやめられないまま病気が進行すると、今度は「他のアル中は酒をやめられるかも知れないが、自分はダメだ、飲んで死ぬしかない」という今度は逆の例外化がされ、否定的な自己像がべったり張り付いてしまいます。ミニー神父の「どんな酷いアル中でも12ステップを使えば回復できる」という言葉は、そうしたスティグマや否定的感情を引っぺがして、ドヤ街まで落ちたアル中たちに回復への効力感を与えるのに効果的な言葉だったのでしょう。役に立つ言葉であったと思われます。

後年、AAとマックが分離された後も、この言葉はAAに残り、さらには回復を希望するどんなアルコホーリクも拒まないというAAの指針(12の伝統)によって、この言葉に正当性が与えられました。

「AAはこういう人に向き、こういう人には不向きです」という情報がAAから発せられることはありませんでした。また医療職・援助職の人たちも、ほぼ無批判にAAを勧め、患者を送り込んできました。僕は最初主治医に「あなたは独身だから断酒会よりAAに行きなさい」と言われたのですが、これは乱暴ではあるものの、最低限のアセスメント?に基づいた判断だったと言えなくもありません。それすらも行われずに、なぜこの人がAAに合わないのかを考える人はいませんでした。

AAで「どんな人でも回復できた」わけでなかったのはハッキリしています。AAが合わない人はどんな人か調べれば、どうやればもっと合うようにAAを変えていけるかとか、あるいはAA以外の受け皿を作るとか、対応策が打てたはずです。それが行われずに「AAは実はあんまり効果がないよね」という話になってしまっているのは、残念なことです。

最近では12ステップはアルコール以外の問題にも広く使われるようになってきました。12ステップを理解してくれる人が増えることは喜ばしいことですが、この広がりが本当に良いことなのかどうかは僕には分かりません。12ステップを引用した書籍はたくさん出ていますが、最近NYのGSOから許可を得た書籍には、このような注意書きが掲載されているのをご存じでしょうか。おそらく12ステップの引用許諾の条件として、GSO側から掲載を依頼している文章だと思われます。

A.A. is a program of recovery from alcoholism only -- use of these excerpts in connection with programs and activities which are patterned after A.A., but which address other problems, or in any other non-A.A. context, does not imply otherwise.

「AAはアルコホリズムからの回復にのみ使われるプログラムです。本書における(AA書籍からの)引用が、AAに準じアルコホリズム以外の問題に取り組んでいるプログラム及び活動に関連して使われている場合であっても、あるいはAAとは関係のない文脈のなかで使用されている場合でも、(AAプログラムがアルコホリズム以外の回復プログラムたりうることを)意味するわけではありません」

AAは自分たちが「アルコホリズム」と呼んでいる病気以外の問題解決に12ステップが有効である、という言質を取られないように、ずいぶん気を使うようになりました。

これについては、もう少し話が続くのですが、また別の機会に。


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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