心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2011年10月31日(月) 嗜癖・依存・中毒(用語の整理)

さらにデパゲンは誤りで、正しくはデパケンでした。重ねてのご指摘ありがとうございます(とほほ)。

まず中毒という言葉から始めましょう。

毒に中(あた)ると書いて「中毒」です。中毒とは、何らかの物質摂取により健康が損なわれた状態を示します。ここでの健康には身体と精神の両方が含まれます。

フグ毒にあたればフグ中毒、ガス自殺未遂はガス中毒、大量のアルコール摂取による意識障害は急性アルコール中毒、慢性的なアルコール摂取で健康が損なわれれば慢性アルコール中毒です。僕は慢性アルコール中毒者、略してアル中です。

次に依存という言葉を取り上げます。

アルコホーリク(アルコール中毒者)やアディクト(薬物中毒者)を観察すると、突然断酒・断薬をすることで様々に不快な症状が現れ、それを避けようと摂取を続けています。これを禁断症状と呼びます。さらに、急に止めるだけでなく、徐々に血中のアルコール濃度や薬物濃度が下がってきた場合にも同じような症状が現れることを離脱(退薬)症状と呼びました。

そしてこの離脱症状が現れる状態を「依存」と呼ぶことにしました。ここでは身体依存にのみ注目しています。その後依存概念は精神依存にまで拡大されますが、依存という言葉が単独で使われる場合はあくまでも身体依存(離脱症状が起きる状態)を示しています。

1956年、WHO(世界保険機構)は、身体依存を伴った慢性的な中毒状態を嗜癖(addiction)、伴わないものを習慣(behavior)と呼ぶことを決めました。つまりアディクションとは中毒と依存の組み合わせです。

しかし、この定義だといろいろと不都合が出てきました。まずコカインや覚醒剤は離脱症状がはっきりしません。にもかかわらずコカインを使いたいという強い欲求がある。それには何らかの生理的変容が伴っているはずで、それを精神依存と呼ぶことにしました。

さらには、アディクト(薬物中毒者)という言葉は蔑視的な意味合いが強かったために嫌われました。

そこで1973年、WHOは嗜癖という言葉を廃し、その後はもっぱら依存(dependence)という言葉を使うことにしました。DSMやIDCという診断基準も変えられていき、それに合わせて日本でも若干蔑視的雰囲気を帯びた(慢性)アルコール中毒というそれまで使われていた病名が嫌われ、アルコール依存症という言葉に徐々に切り替えられていきました。こうしてアディクションという言葉は医学からいったん消え去ることになります。

ところがこの依存という言葉にも不都合が出てきてしまいました。

依存という用語は離脱症状という生理学的・身体的な現象に着目していたわけです。研究が進むに連れて、嗜癖的な薬物に限らず、その他の薬も離脱症状を引き起こすことが分かってきました。例えばSSRIという種類の抗うつ剤では離脱症状がしばしば起こりますが、それをアディクションとするのは不適切です。

そもそもWHOの定義では、依存を病気であるともないとも言っていません。アディクションに対して依存症という名前は与えたけれど、依存と依存症(嗜癖)とは別の概念です。

前述のように身体依存のハッキリしないコカインのような依存症もあります。一方で末期ガンの疼痛にモルヒネを投与すれば身体依存は形成されますが、精神依存にはならず依存症には発展しません。

さらには、依存概念が広がるに連れて、インスリン依存性糖尿病や依存性人格障害のようなアディクションとは関係のない使われ方もされるようになってきました。

そこで2013年から使われるDSM-5では依存症という病名が消え、アディクションで統一されることになりました。いままでのアルコール依存症に相当するのは Alcohol Use Disorder(アルコール使用障害)という名前になります。
http://www.dsm5.org/ProposedRevisions/Pages/proposedrevision.aspx?rid=452

今後、おそらくはDSM-5の変更が国際疾病分類に反映され、日本にも影響してくるでしょう。40年前に、英語で addiction という言葉が捨てられ、日本語では中毒という言葉が捨てられ、依存症という言葉に置き換えられていったように、今度は依存症(dependence)という言葉が廃れ、嗜癖(addiction)という言葉が復活することになると思われます。

ついでに言えば、DSM-5では行動嗜癖が新設されます。とりあえず正式に採用されているのはギャンブルのみですが、インターネット嗜癖やセックス嗜癖も appendix に追加されています。

ここまで書いてきて強調しておきたいことは、依存と依存症(嗜癖)は別である、ということです。

(ただし、依存症でない依存は問題なし、というわけでもありません、それは以降)


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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