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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2011年08月29日(月) 医者は治してくれない(その2) アルコール依存症の薬としては、ベルギーの会社が作ったナルトレキソンや、フランスの会社が作ったアカンプロセートという薬もあります。調べてみると、ナルトレキソンはオピオイド(モルヒネやヘロイン)のアンタゴニスト(阻害薬)をアルコール依存症に転用したもの。アカンプロセートについて詳しい情報は見ていませんが、wikipediaによればこれもアンタゴニスト(阻害薬)のようです。チャンピックスと同じように受容体に先にくっついてしまい、アルコールが受容体にくっつくことを妨げ、酒を飲んでも心地よいと感じさせなくなる効果を狙っています。
ナルトレキソンやアカンプロセートが、チャンピックスのような鮮やかな効果を出せるかどうか・・それははなはだ疑問だと思います。
チャンピックスの成功は、タバコをやめる気がない人(動機付けがされていない人)を対象から外すことで成り立っています。アルコールはそうではありません。ニコチンよりはるかに害が大きいため、本人がやめたくなくても、やめてもらわなくては困る病気とされています。動機付けの薄い人たちに薬を飲ませても、効果はあまり期待できないでしょう。
もう一つはアンタゴニスト(阻害薬)としての限界です。ナルトレキソンやアカンプロセートは日本では治験すら行われていませんが、僕らは別の種類のアンタゴニストをすでに使っています。シアナミド(商品名シアナマイド)やジスルフィラム(商品名ノックビン)は、脳の報酬系に働くわけではなく、肝臓のアセトアルデヒド分解酵素の働きを阻害して、飲酒すると気分が悪く苦しくなる効果を狙っています。
抗酒剤は断酒の三本柱の一つと言われていますが、それは抗酒剤だけでは断酒維持の効果が薄いことを示しています。人間には知能がありますから、飲んで気分が悪くなる原因がシアナマイドだと知っていれば、酒を飲みたければシアナマイドを飲むのをやめてしまうだけの話です。
ナルトレキソンやアカンプロセートでも同じ事が起こると予想されます。こちらは気分が悪くなるわけではありませんが、代わりに酒に酔う陶酔感を奪います。酒を飲んでも気持ちよくなれないのなら、酒は飲まない・・とはアル中は考えません。気持ちよくなれない原因であるところのナルトレキソンの服薬を勝手に中止してしまうだけでしょう。今現在シアナマイドで起きているのと同じ事が起きるだけです。
科学が「それ」をやり遂げるのは、まだまだ先になりそうです。
では、薬物療法が無理なら、他の療法を医者が使えば良いではないか? と思われるかも知れません。しかし、保険診療では医者が薬物療法以外の選択をするのは難しいのです。その理由についてはこちらの雑記に書いておきました。
薬物療法への偏りの原因
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=19200&pg=20110223
日本ではカウンセラーの資格として、専門学校レベルの「心理療法士」と、大学院レベルが要求される「臨床心理士」の二つの資格があります。このうち病院で働く場合やスクールカウンセラーになるには臨床心理士を求められます。その臨床心理士によるカウンセリングであっても、保険診療として認められず、やるだけ病院の持ち出しとなってしまいます(あるいは患者10割負担の自由診療)。医師が治療手段としてカウンセリングを選びにくくなっているわけです。日本の行政が医療をそのようにデザインしているわけです。
日本の精神医療が薬物療法ばっかりになってしまうのは、行政や医療機関側の問題ばかりでなく、患者側の選択によるものでもあると僕は思っています。
僕は社会不安障害や強迫神経症、つまりいわゆる「神経症」の人たちから治療機関を紹介してくれと言われることがあります。日本には森田療法という優れた治療法があり、数は少ないけれどそれを行っている医療機関もあります。今まで薬で治療して治っていないんだったら、森田療法はどうですか? と言うのですが、今まで一人として森田療法をやってみようと出かけていった人はいませんでした。誰もが(今まで薬で治っていないにもかかわらず)「できれば薬で治したい」という希望を持っているのです。
医者が薬で治せないのなら、他の治療法は一切拒否・・というのは、アルコール依存症も同じで、医者が治せないのなら誰にも治せない、と決め込んでしまって、断酒会にもAAにも行かずに再飲酒を繰り返している人はたくさんいるのです。
「医者には治せない」だけでなく、「自分も病気を治したくない」のです。
(一応さらに続くつもり)
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