心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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2011年08月19日(金) ACのステップについて(その3)

ACについて最後は、では被害者性の治療はどうするのか、ということについて。

こんな例を考えてみます。アディクションを例に取ると混乱しやすいので、すこし距離を取って内臓の病気としましょう。

ある人が内臓の病気になったとします。しかもかなり重病です。そのおかげで働けなくなり、休職しているうちに会社の業績が悪化して、彼はリストラの対象となってしまいました。経済的にも精神的にも負担をかけている家族は、最初こそ気丈に振る舞っていたものの、やがてむっつりと不機嫌な表情をするようになり、家庭から安らぎが失われました。健康だったら実現できたはずの夢や楽しみを、その人も家族も諦めねばなりません。

その人はそうした運命を呪い、しだいにヒガミっぽい恨みがましい人になっていきました。世話をしてくれる家族に当たり散らし、不運な自分に何もしてくれない社会に不平ばかり持つようになりました。なるべく接したくない嫌われ者になっていきました。

時には寂しさのあまり、人の歓心を得ようと妙にへりくだった態度を取り、ご機嫌を取り、褒めそやすのですが、相手が自分の思い通りになってくれないと知るや、手のひらを翻したような悪口三昧になるのでした。

幸い薬石効あって、その人の病気は完治します。しかし元の職場には戻れず、前より条件の悪い会社で働かざるを得ません。周囲の人はそれでも幸運だ良かったと言いますが、その人にはそれが気に入らない。「本当であれば」もっと恵まれていたはずだという気持ちが晴れません。離れていった家族の心は戻らず、一緒に過ごそうともしてくれません。

病気は治ったものの、ヒガミっぽさ、恨みが増しさは取れませんでした。それが原因で周りの人々との軋轢が絶えず、時にはそのせいで退職しなければならなくなります。「どの職場に行っても嫌なヤツが一人はいる」というのがその人の信条です。その人は、自分は何も悪くない、自分がこうなってしまったのはすべて病気のせい、つまり運が悪かったからだと考えています。もし、こんな自分の何かを元に戻す必要があるとするなら、それをするのは自分ではなく、誰かがやってくれなくちゃならない。そうでないと割が合わない、というのがその人の考えです。

この人は病気の被害者です。しかし、すでに病気は治っているのです。なのにこの人の性格は元通りにはなっていません。この人を現在恨みがましくあらしめているのは、すでに治ってしまった病気ではなく、恨みがましくあり続けようとする本人の選択です。つまり自己責任です。この人は、恨みがましくあり続ける選択をすることによって、周囲の人を傷つけ続けているわけで、「被害者が加害者になっている」構図です。

この人の場合、内臓の病気は癒される必要がありました。ACの場合も同じです。親の養育によって心に傷を負い、それがトラウマとして残っているのなら、それは専門の治療を必要とします。12ステップで内臓の病気が治らないように、(軽いものなら知らず)重度のトラウマは12ステップの専門外です。カウンセリングやEMDRとかそういうものが必要でしょう。ACのケアとては「子供としてのプログラム」と呼ばれるものです。

さらに、この人の場合、内臓の病気が癒されても問題は残っています。そして、この残った問題には12ステップが有効であることはまず間違いないでしょう。同じように、ACの場合にトラウマの治療を行うことが、現在抱えている社会性の問題を解決することにつながっていかないのです。やはりその部分は12ステップを使って解決して行かなくてはなりません。これは「大人としてのプログラム」です。

内臓の病気と、それによって生じた性格の問題を混同しないように、ACの場合も虐待的な養育によるトラウマと、それによって生じた性格上の問題を混同しないようにしなければなりません。

そうした混同、被害者性を強調することによって回復の責任を他者に押しつけること、さらには一時的な免責を引き延ばしたい・・・そこらへんが「AAの12ステップとACの12ステップは違う」という誤解が生まれてくる元になったのではないかと考えています。

三回の雑記をまとめれば、ACはパラ・アルコホリック(疑似アルコホーリク)であって、その回復の過程も同じです。個人的に見てもACとアル中本人は基本的に同じです。例えば、なんとかステップ9で謝罪することを避けようと、いろいろ理屈をこね回すあたりは、まさにそっくりなのであります。誰かが言っていましたが、人に頭が下げられない人が、神さまに頭を下げられるわけがないのですから。

(この項おしまい)


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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