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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2011年03月11日(金) 言いっぱなしの聞きっぱなし のどが痰を製造し始めたのは風邪が治ってきた証拠でしょうか。
僕は風邪薬を飲むと、必ずその後軽いうつになります。(精神状態に影響を与えるのは精神科の薬ばかりとは限らないため)。たぶん今回は鎮咳剤のせいなのでしょう。まだ残っている風邪のダルさと、若干のうつのために重く感じる体を引きずって仕事に出てきています。スーパークリーンを維持している人たちは、こんな時にも限られた薬しか使えないので大変だろうな、と思うのです。
さて、AAのミーティングは「言いっぱなしの聞きっぱなし」だと言われます。これはクロストークの禁止を意味しています。同じミーティングでも、例えば仕事の会議は「言いっぱなしの聞きっぱなし」ではなく、相手の発言に対して質問したり、意見を述べるのは自由です。そうやって討論を重ねながら一つの結論を出すのを目的としています。
AAのミーティングはそうではありません。人の発言に対して、質問をしたり、直接的に意見を述べることはしません。クロストーク(話のやりとり)が禁止されているので、順番に自分の話をしていくだけです。アル中というのは「No」と言われるのが大嫌いなので、自分の発言に対して他者から意見をもらうことを嫌います。クロストークありでやっていると、人はAAに来なくなってしまいます。
クロストークなしのミーティングは、往々にして進歩の妨げになってしまいます。なぜなら人は自分にとって耳の痛い話を聞き流し、心地よい言葉ばかりを持って帰りたがるからです。それでは現状維持にしかなりません。そうした問題点を補っているのが「スポンサーシップ」という一対一の関係です。スポンサーシップでは質問もあれば意見されることもあり、提案という名前のかなり強めの指示が与えられることもあります。
自助(相互援助)グループが紹介されるときに、同じ問題を抱えた人が集まる「言いっぱなしの聞きっぱなし」のミーティングばかりが取り上げられることが多く、まるでそれだけで十分な効果が出るかのような誤解を与えています。例えスポンサーシップという形でなかろうとも、何らかの形で個人的に相手をしてくれる人が回復には必要です。ミーティングだけで、ほかには一切付き合いなしというわけにはいきません。
話を元に戻して、では「言いっぱなしの聞きっぱなし」とは、単にクロストーク禁止という意味だけなのでしょうか? いやいや、他の人の話に口を挟まなければ、何をしゃべっても良いというわけではありません。
AAミーティングは経験を共有(シェア)するものです。ミーティングにはテーマ(トピック)が出され、最初の人から順番に自分の話をしていきます。この時に、他の人の話を聞いて、自分の中で想起されたことを話すことが必要です。例えば誰かが「酒で仕事の失敗をして、大変惨めな思いをしたことがあったが、それでも酒はやめられなかった」という話をしたとします。自分も酒で仕事の失敗があったなら、それを話せば良いし、別の例えば酒で友人との約束を破ったという似たような話でもかまわないでしょう。
人はそれぞれ違う人生を生きているので、まったく同じ経験をすることはありません。けれど、経験を重ね合わせようという努力があれば、(先の例で言えば)どのような痛手も反省も飲酒の歯止めにならなかった、という事実が全員で分かち合われます。いわゆる集合知です。これによって、ミーティングの目的が達成されます。
ところが、まったく関係のない話をしたらどうなるでしょうか? 「今朝家族に言われたひと言が気に障って、一日が台無しになってしまった」とか「今日は歯医者に行きました」みたいな話をしたらどうなるでしょう。もし皆がそれをやり、単に集まっててんでんばらばらな話をしてお終いでは、共有するものなしに終わってしまいます。これでは「言いっぱなしの聞きっぱなし」ではなく、「言いっぱなしの言いっぱなし」です。
先ほど、ミーティングだけでは十分な効果が見込めないという話をしましたが、それでもミーティングにはちゃんと効果があり、だからこそAAはミーティングを大事にしているのです。けれど、そのミーティングが「言いっぱなしの言いっぱなし」になってしまって、経験も力も希望も共有されなければ、その効果も期待できません。
クロストーク禁止ですから、自分がしゃべっている間は皆が黙って聞いてくれます。人は誰だって、自分の言いたいことを言えばスッキリします。けれど、そのスッキリ感は回復とは違います。ミーティングの目的に沿わず、自分のしゃべりたいことを一方的にしゃべってしまう人は、会場の外で自分の話を聞いてくれる人間関係を持たない人です。ミーティングはそうした関係の代替物ではありません。
分かち合いができないのなら、なぜできないのか、そのことに焦点を当てていく必要があります。それはゆっくりした作業でもかまわないのかもしれません。
「そういう話じゃなくて、もっとこういう話をしろよ」
そう言ってくれるスポンサーなしに、ミーティングの効果を出すのは意外と難しいことなのかもしれません。
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