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2010年08月02日(月) アルコール依存症者全体の自閉症スペクトラム指数...

アルコール依存症者全体の自閉症スペクトラム指数(AQ)

操作的診断基準の影響回復施設の抱える困難 の続きです。

神戸のアルコール関連問題学会のネタがしばらく続くかも知れません。

ポスターセッションでもう一つ注目したのが、大阪の小杉クリニックの片桐さんというスタッフの方が発表されていた「アルコール依存症における自閉症傾向の検討」というテーマです。

なぜそれに注目したかというと、僕は昨年から発達障害に興味を持つと同時に、各種の依存症のグループの中で「回復が遅い」とか「回復しない」と言われている人たちの特性は依存症由来のものではなく、別の病気なり障害が原因ではないか、というコンセプトを持っているからです。そして、その一つが発達障害、特に自閉症圏なのだろうと考えているのです。

ポスターセッションのこのテーマは、小杉クリニックを半年間の間に新規受診したアルコール依存症者145人のうち、同意が得られ治療導入に至った103人に対して、解毒が終わった時点で自閉症スペクトラム指数(AQ)スクリーニングテストを実施したものです。

AQ指数については過去に取り上げました。
自閉症スペクトラム指数(AQ)日本語版
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=19200&pg=20100218

これは50問の質問に答えるもので、点数は0〜50点の幅をとります。点数が高いほど、自閉症傾向が高まることを意味します。AQ日本語版を作成した若林氏によれば、健常な社会人194人の平均点は18.5点、ρは6.21。またスクリーニングのカットオフ点は33点。

健常群では33点以上となるのは3%弱。高機能自閉症・アスペルガー群では約9割が33点以上となります。

さて、小杉クリニックのデータはどうなっているかというと、アルコール依存症者の平均点は23.9点となり、健常群の18.5に対して明らかに高くなっています(ρは6.8)。また33点以上となったのは全体の12.6%と、健常群の2.6%にくらべて多くなっています。

ここまでがポスターセッションの話。以下は僕の解釈です。

このデータから読み取るとすると、アルコール依存症になる人は、そもそも健常人より自閉症傾向が強いと考えられます。自閉症傾向とは何かというと、AQスクリーニングテストの項目から言うと、社会的スキルが低く、物事の細部へのこだわりが強いかわりに、注意の切り替えがなかなかできず、人とのコミュニケーションが苦手で、想像力に難点があるということです。

高機能自閉症・アスペルガーの人は学童期にイジメの対象になりやすいことが知られています。これはコミュニケーションの能力の低さと、物事への独特のこだわりが、奇異な印象を周囲に与えるからでしょう。実は依存症の人には学童期、成人後を問わずイジメられ体験を持つ人が少なくありません(この傾向は薬物依存の人に顕著です)。

また、自閉症の子供は親による虐待を招きやすいのですが、依存症の人も不適切な養育を受けている人が少なくありません。

おそらく、依存症になる人たちは、もともと普通の人より自閉症傾向を強く持っていて、そのために社会的なスキルが低く、対人関係が苦手になっているのでしょう。それによるストレスによってうつになったり、アルコールの大量使用が依存症の発端になったというわけです。

ワンデーポートの中村さんの
発達障害とアディクションとの共通点、背景の相違点
という文章を載せました(許可もいただかずに載せてすみません)。

同じ症状が出ていたとしても、それがアディクション(依存症)由来のものか、発達障害由来のものか、一見して区別はできません。当人にとっても、どちらも同じ「生きづらさ」としか感じられないはずです。

アディクションのケア(たとえば12ステップとか断酒例会)によって、アディクション由来の部分は(時間はかかるものの)修正されていくでしょう。しかし、発達障害由来の部分はアディクションのケアでは修正がききません。おそらく、依存症の人の症状には、アディクション的な要素と発達障害由来の要素が入り交じっているはずで、その中で発達障害の割合が多い人たちが、グループの中で「回復が遅い」とか「何年経っても回復しない」というレッテルを貼られている、とするならずいぶんとヒドい話です。

仮に、アディクションを扱う側が、発達障害の問題を区別できたとしても、成人の発達障害への取り組みは始まったばかりで使える社会資源が少ない、という問題があります。

ポスターセッションの発表の後に質疑応答の時間があったので尋ねてみました。テストを行った本人に結果は知らせたそうですが、点数が高い人にも発達障害の診断は行っていないというのです。大人の発達障害の診断を行える機関が近くにないこと。診断には育成歴を調査する必要があるのにすでに親が亡くなっている単身者が多いこと。さらには、診断がついても発達障害のケアができる施設が近隣にないというのも、その理由だそうです。

社会全体で発達障害が増えているのか、それは別に書くとして、依存症という人の中に、問題のほとんどが発達障害由来である人がたくさんいるはずです。また、中には依存症ではないのに、発達障害とアディクションの症状の類似性から、依存症と診断されてしまった人もいるはずです。それは、アルコールやギャンブルの乱用を症状だけ見て、操作的診断基準に当てはめて診断した結果でしょう。

とはいうものの、依存症と発達障害の関連については、まだまだ知見が少なく、確定的なことが言えない状況です。


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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