ホーム > 日々雑記 「たったひとつの冴えないやりかた」
たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2009年11月15日(日) OSMのスピーチを聴いて思ったこと ハリー・M・ティーボー博士は、初期のAAに大きな影響を及ぼした人であり、12ステップが回復をもたらすメカニズムを精神医学の立場から解明した人でもあります。彼の文章に、
「内面ではアルコホーリクは、人からであれ神からであれどんなコントロールも我慢できない。彼はみずからの運命の主人であり、そうでなければならない。彼はその位置を守るために最後まで戦うのである」(AA成年に達する, p.470~)
というのがあります。アル中さんは、自分の運命を支配することを望みます。
12ステップには神という言葉が出てくるので、信仰だなんだと難しい話になってしまいがちです。僕は12ステップにおいて大切なことは「神を信じること」ではなく、「自分が神でないことを認めること」だと思っています。
だが、たいていの人は「自分は神だと思っている」とは自覚していませんし、そう言いもしません(神だと言う人がいたら病院に送った方がいいでしょう)。でも、ちゃんと神だと思っているのです。
物事には自分のコントロールの及ぶ範囲と、及ばない範囲があります。宝くじを買う行為は前者、それが当選するかどうかは後者です。自分のコントロールが及ぶ範囲は責任を引き受け、その範囲外は(神様の範疇なので)結果を受け入れるしかありません。そこにきちんと線をひく必要があります。仕事でも、友人関係でも、家庭生活でもそうです。線引きした自分側だけ責任を引き受ければいいのに、アル中さんはそうでないのです。
アル中さんは「がんばる」という言葉が大好きでもあり、大嫌いでもあります。なぜ大嫌いか。いままでも精一杯「がんばって」きたのに、アルコールのせいもあって惨めな状態になってしまった。成功するためにはもっとがんばらねばならないのか。もうがんばることに疲れている、というのが理由です。そしてまたがんばり出すときは、無茶苦茶がんばります。
失敗も成功も自分次第だと思っていれば、自分の運命を自分で支配できるという幻想にしがみついていられます。運命を支配する者=神だと思っているのです。まずその立場から降りなければなりません。
回復を取り上げてみてもそうです。自分が努力しなければ回復はしません(自分の範疇)が、回復には自分の力が及ばない部分もあります(神様の範疇)。これだけ努力したのだから、これぐらい回復していて良いはずだ、と思った時点でもうぶり返しているのでしょう。AC性の強い人ほど神様の立場から降りたがらない(範囲を超えて責任を取りたがる)傾向があるように思います。
僕がビッグブックでステップをやり直したとき、ステップ5の相手に頼んだのはビッグブックのステップの経験が全然ない職業宗教家のAAメンバーでした。彼は何度も「あなたは本当に自分が神様やってるよね」と繰り返してくれました。最初は僕も反発したものの、悔しいけれどステップ4の表はそれを明らかにしてくれました。
自分が神様をやっているうちは、他の神様なんて余計なちょっかいをしてくる邪魔な存在でしかありません。現人神が家庭や職場にいたら、周りの人が困っちゃうのであります。
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