心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2008年06月13日(金) 幸福の追求

十数年前、東京での一人暮らしの中で、酒で行き詰まって自殺未遂をやらかした僕は、長野の実家へと引き取られていきました。精神的にも、肉体的にも、経済的にも失敗して帰ってきた人間が、実家でのびのびと暮らせるわけもなく、肩身の狭い思いをしていました。

当時、兄は(今僕が住んでいる)市内に家を建てて、サラリーマンに専念していました。兄はその生活を続けることを望み、実家の農業を継ぎたがりませんでした。そして、兄は弟である僕に「お前がそのまま家を継げばいいよ」とことあるごとに言っていましたが、僕は「この古い家に住み続けるのも、農業をやるのも嫌だ」と思っていました。

やがて僕が結婚してその家を出て、父が死んだために兄がその家に戻ることになりました。その古い家に住むのは、兄自身も兄の家族も望まなかったため、兄は市内の家を売り、実家で再度家を新築しました。けれど、前の家を売っても金が足りません。そこで、叔父など親戚にも相談の上で、先祖代々の土地がいくつか売り払われて、母と兄一家が住む二世帯住宅の頭金になりました。

その様子を見ていて、僕は兄に羨望や嫉妬を感じました。「お前はいいよな、ずっと働いてこれて経済的信用もあるから借金もできるし、跡取りという理由で土地を売って金も作れる。俺のほうは病気でケチがついてしまったし、この先も安定して仕事ができるとも限らないから住宅ローンなど組めるはずもない」と、そんな理屈です。
僕にもいくらか土地は相続されていましたが、その土地を自分自身のために売ってはマズイと思われました。

そもそも、家付き娘のところに婿入りしてしまったので、自分で家を建てることなど不要でした。だがその道を選んだ動機の一つには、毎月「家賃」を払う生活にうんざりしていたこともあるのです。実際その後の経済生活も不安定でしたしね。

今回離婚を進める中で、母から「お前も家を建てたいなら、あの土地は処分したっていいよ」と言う言葉が出てきました。そうなのか? そうだよな。僕だって、自分の家を建てて、そこに自分の家族と一緒に住み、その生活を守るためにこつこつ働く、という夢を持ってもいいのではないか、と思い始めました。

もちろん、土地は売れるかどうかわかりません(可能性は低いでしょう)。それ以前に、自分自身の稼ぎを安定させなければ主な借金もできません。いやそんな家という箱物の話以前に、一緒に住む家族をどうするのか、ということを決めねばなりませんね。結局50才ぐらいになったときに、「夢は夢にすぎなかったね」と諦めることになるのかもしれません。

それでも、「これが私の幸せである」というイメージを持って、それを実現するために努力をする。その努力そのものがもう「幸せ」なのではないかと思うのです。だから、夢は夢のままで終わっても、それはかまわないのです。

「自分は幸せな夢を見ることなど許されない人間なのではないか」。いろいろと人に迷惑をかけ、期待を裏切ってきたから、贖罪の人生を送らねばならない・・。そんなことを言葉にして考えていたわけではありませんが、それに近い人生を送ってきました。

僕は若い頃の十数年を酒で無駄にしました。酒をやめてから人生経験を積み出したと言っても過言ではないでしょう。二十歳ぐらいで働きだした男が、三十代前半ぐらいで結婚やら仕事やらの人生の大枠を選んでいくとすれば、僕は十数年遅れ、つまり一週遅れのトラックランナーみたいなものかもしれません。
もちろん、スタートが遅かったからと言って、人生の時間がその分延びるわけでもないし、体も心も年を取っている現実は受け入れざるを得ません。

まあ、家を建てるのは一つのたとえ話です。本質は、「自分は幸せになりたい」「幸せになってもいいんだ」「そのために今の努力がある」と思えるかどうか、それは生きる意味とも、人間の存在のスピリチュアルな部分にも深く関わることのような気がします。

昨日東京まで行って1時間カウンセリングを受けながら、そんなことを考えました。通い続けることは時間的にも、体力的にも、経済的にもキツいのですが、今は歯を食いしばっても続ける必要があると感じています。なにしろ「あなたのおかげで、私は幸せになれたわ」と言ってもらえることを目標に頑張っているようでは、自分自身が消えて無くなってしまうわけですから。何が自分の幸せなのかを、誰かに決めてもらうのではなく、自分で決める、という慣れないことを始めているのです。

それができた上で、あらためて自分の子供との関係を考えればいいことだと思っています。


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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