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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2007年04月02日(月) 幸運を誇るのはみっともない 精神病院退院後の断酒継続率は「2割」という定説があります。
この2割という数字はおそらく10年前のある調査からでてきたものでしょうが、実感と良く合っている気がします。退院半年後に、断酒継続率は5割を切り、1年過ぎてもまだそのグラフは下降を続け、2〜3年過ぎたあたりで2割弱で安定し、あとは漸減を続けます。
アメリカでは「3割」と言われていて、逆に言えば残りの7割のアル中さんは「飲みながら死んでいく」わけであります。
何が言いたいかというと、アルコール依存症とは飲んで死んでいく病気であります。現在の日本では、酒の消費量が増えて依存症者が増えていていることがひとつあり。また一方では、医療や行政の取り組みもあって、まだ軽症のうちから治療が始まるケースが増えています。
結果として、死ぬ寸前の重傷者の相対的に減って、依存症が死に至る病気だという姿が見えにくくなっている気がします。けれど、軽症化や死ぬ人の割合の低下は、時代のもたらした一時的な現象に過ぎず、やがて本来のバランス(?)に戻るだろうと、僕は思っています。
何となく嫌なのは、飲んでしまうアル中や、その挙げ句死んでしまう人を、「おなじ依存症でもダメな人たち」と見なす傾向があることです。軽症のうちは酒がやめやすく、重症になるとやめるのは簡単でなくなります。また「ひょんなことから酒が止まる」ことがあるように、断酒には運とかタイミングって要素もあります。
断酒は「優秀の証」ではなく「幸運の証」です。ネットの掲示板などで、自分の幸運を誇り、不運な人に冷たく当たっている人を見かけたりすると、ちょっとげんなりしますね。まあ、無駄にプライドが高いのは、アル中の証ですから仕方ないんですけど。
アメリカのAAメンバーで、20代でAAにつながって離れ、40代でも同じことをくり返し、60代になってしっかりAAにつながって酒が止まった人の話を読んだことがあります。「今の私は幸せだけど、20代の頃にAAを受け入れられていたら、その後の40年も幸せでいられたかと思うと残念ね」とありました。
特別な努力なく10年以上酒が止まった人にも複数お会いしたことがあります。10年も酒がやめられれば、一回の再飲酒はそれほど深刻じゃないと思われるかも知れません。しかし、また鍵のかかる病院の中に戻った人には、過去10年やめられた事実なんて、何の慰めにもならないようです。
AAの第5章には「最初から思い切って徹底してやるように、私たちは心からお願いしたい」とあります。軽症だから真剣にならなくて良いことにはなりません。もっとも、本人が思っているよりは病気が進行していて重症なのが、この病気の常識なんでしょうけど。
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