心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2006年10月12日(木) 抗酒剤

3回目の入院の、最初の外泊の時に、すっかり酔っぱらって病院に戻り、次の外泊から抗酒剤を服用させられました。それが初めての抗酒剤でありました。
ナースステーション内でシアナマイドの入ったカップを渡され、それを目の前で飲んで見せ、さらには口を開けて飲み下していることを確認されました。
なんだかなーと思った記憶があります。
精神病院では服薬拒否をする患者は多いです(依存症以外の病気の人が多い)。薬を手渡して本人に飲めといっても、飲まずにゴミ箱に捨ててしまいます。だから、食事後に患者は水の入ったコップを持って一列に並び、看護婦から口の中に薬を投入してもらうのです。そして「飲んだよ〜」と口の中を見てもらう。「おいらは依存症で」と主張しても例外は認めてもらえず、列に並ぶのでありました。
アルコール専門病院に行って、そういうのとは無縁になったと思っていたら、シアナマイドでは同じことでありました。薬好きのアル中でも、抗酒剤は服薬拒否が多いらしく、手順は同じであります。

なぜシアナマイドを服薬拒否するのか。それは酒が飲みたいからだとする話もあります。もちろん酒を飲みたかったら、抗酒剤は飲みたくないのが道理です。
でも、酒はやめたいのだが、抗酒剤も飲みたくないという気持ちも理解できます。酒を飲むのも飲まないのも、自分の自由意志でやってきたんだから、抗酒剤で無理矢理飲めない体にしてもらわなくても、自分の意志で飲まない方を選択していけるはずだ。それをシアナマイドを飲めというのは、信用されていないし、断酒に前向きな気持ちも評価されていない、それが気にくわないという理屈です。
しかし、飲む・飲まないが自分の自由意志の選択だと思うのが間違っています。病気によって、常に「飲む方」にバイアスがかかっているのであって、酒に関しては自由意志はあまり役に立ちません。

自分は抗酒剤を3年飲みました。
シアナマイド(液剤)は背中が痒くなってたまらなかったので、ノックビン(粉剤)に変えました。ところが、地元の開業医にはノックビンの仕入れがなく、わざわざ僕のために仕入れてもらいました。
1年経った時に、「そろそろ抗酒剤を止めたい」と医者に相談したのですが、医者は否定的でした。こちらもわざわざ仕入れてもらった手前、無理押しには断れません。結局3年飲みました。整腸剤と混ぜてもらってたので、抗酒剤を飲んでいるということを普段は意識しませんでしたが。

3年経った時に、医者が「じゃ私からもバースディプレゼント」といって、ノックビンの打ち切りを告げられました。これでいつでも飲める体になったんだと思うと、ちょっと不安でしたが、そのうちそんなことも忘れました。

抗酒剤を飲みながらの断酒は、本物の断酒じゃない、なんていう言葉を聞きます。もちろん、断酒の真正は抗酒剤というモノサシでは計れないと思いますが。


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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